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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
一章
8/51

08 ランクアップ



 半解けの氷漬けになった魔物の素材と提出パーツ。丁寧に裁かれたそれは、専門の職人たちも唸るほど。その塊がカウンターに置かれ、隣のカウンターを横目で見たカウフスマンは、またか、とため息零した。


 ここカメーネでは最近話題のルーキーがいる。登録して僅か10日でCランクへの挑戦権を得たチーム。異例の速さだが、それも仕方ない。


 リーダーは大男の剣士ギル。Lv20という高レベル。そう、本来なら限りなくSランクに近いAランク以上の冒険者レベル。彼は戦士としても大変恵まれた体格をしており、身長も一般戦士より頭一つ分以上高い。そのうえ筋骨隆々とし、前後左右に分厚い。パッと見るとそこに聳え立つ壁があるようにも見える。高レベル者らしく威圧感もあり、精悍を通り越し、厳つすぎるその顔は、大概の女子供は泣き叫ぶだろう。だが、彼は粗野な見た目にそぐわず、物静かで思慮深い。更に本の虫とかつて呼ばれたカウフスマンでさえ驚くほどの知識を有している。見た目とのギャップに、登録してたった10日にもかかわらず、女性冒険者の中にファンクラブがあるほど人気がある。因みにそのファンクラブは冒険者だけではなく、一般人も入っている。カウフスマンの右隣に座る、【依頼】受付カウンターの看板娘、エリザも会員の一人だ。今も目の前の依頼表を持ってきた冒険者を無視して、【換金】カウンターの前にいる彼をうっとりと見つめている。とりあえず咳払いで正気に戻した。


 ギルの隣に立つギルの半分少し程度の少年はグズ。赤茶色の短い髪。そばかすの残る顔。ちょっとやんちゃそうな面影の残る、未だ少年と呼べそうな彼は、見た目で侮ってはいけない。Lv12で7属性の魔法使いだ。正確には風属性なのだろうが、本人の才能と努力の結果だろう。他に6属性もの魔法を操る。初級のみとはいえ、その才能は王室魔法使い筆頭クラスだろう。カウフスマンでも4属性を操る魔法使いしか見たことがない。まだ少年らしく、少々生意気な口が多少気になるが、それがまた年上の女性受けするらしく、こちらもファンクラブがある。このファンクラブはあくまでも小動物を愛でる系だが。荒くれの男たちにも物おじせず、いつの間にか仲良くなり、ギルドの食事処で食事を奢ってもらったりしている。何気にちゃっかりした少年である。


 しかし、このチームで最も目立つのは最後の一人だ。今、【換金】カウンター前にいる青年と少年のはざまの人物こそ、このチームをより異質にしている存在だろう。


 アオ。限りなく白に近い灰色の髪を、後方になでつけるような乱暴な整え方をした人物。鋭い三白眼は、どう見ても人の2人や3人、もしかしたら50人とか殺していそうな剣呑さ。お前、絶対善良な一般市民じゃないだろう? 裏社会で有名なんじゃね? 系の目つきの悪さの彼は、その見た目に大きく反して、クレリックである。百万人に一人とも、一千万に一人とも言われる稀有な職業。人を殺すのではなく、人を癒すのだ。あんな見た目で。カウフスマンから言わせてもらえば、嘘だろ、おい! である。しかし、彼らの登録受付をしたのは他でもないカウフスマン本人。見間違いも勘違いもない。


 稀有な彼を更に稀有にしているのは、今彼が使っているスキルのせいだ。スキル・アイテムボックス。異空間にアイテムを収納できる便利スキル。冒険者なら誰でも欲しいが、フリーにもかかわらず稀有。1万人に一人、とも、百万人に一人ともいわれている。何故なら、このスキル持ちはその事を隠している者が多いからだ。先天性でもなく、ある日突然覚えたりするので、登録時に習得していない限りはギルドでも把握していない。


 稀有な職業の稀有なスキル持ちのアオは、他のチームからは喉から手が出るほど欲しい存在。しかし、その両脇を固めるのがずば抜けた戦士と魔法使いでは、このカメーネの冒険者では手も足も出ないだろう。


 現在この都市にいる冒険者の最高ランクはB。2年前ならAランクがいたのだが、生憎、拠点をダンジョン都市に変えてしまった。こればかりは仕方ない。ダンジョン都市の方が、当然稼ぎが良いのだから、より良い場所を拠点に選ぶのは当然のことだ。


 カウフスマンが見ている前で、魔物のパーツと素材を次々取り出し、換金を依頼する三人。魔物の素材はそこそこいい装備になるし、物珍しいのが好きな貴族が、アホみたいに高い値段で買い取ったりする。彼らが倒した魔物は素材に無駄な傷も少なく、解体後のパーツも、組み合わせればそのまま綺麗な剥製ができそうな程だ。ギルドとしてもありがたい。依頼達成の報酬と、パーツの代金を支払う【換金】カウンターの顔、ジグルドもほくほく顔をしている。彼らのおかげでここ最近、依頼の回りも良く、また、素材の売買でギルドの財源も潤っているのだから当然だろう。


 不意に三人がカウフスマンに近寄ってきた。しまった、不躾に見すぎた、と慌てるが、残念ながら三人には不躾な視線など無いにも等しい。


「Cランクへの試験を受けようと思う」

「かしこまりました。それでは試験内容をお伝えいたします。試験内容はプラナリア5体、コカトリス3体、ナーガを1体の討伐となっております。討伐確認パーツは、プラナリアが触手1本、コカトリスがトサカ、ナーガが尾の先端の麻痺針となっております」


 全てDランクの魔物だが、ナーガだけは限りなくCランクと言っていいだろう。


 先ずプラナリア。これは青とか群青とかでは言い表せない、何とも言えない毒々しい青色をした触手体。思考はなく、動くものに巻き付き、締め上げる。伸びてくる触手を切り落とし、傷口を焼けば再生はしないので、火属性の魔術師か、たいまつがあれば簡単に倒せる。因みに食べられる肉はなく、素材になる部分もない、通称ゴミモンスターだ。


 コカトリス。これは子供くらいの大きさで、頭と胴体はニワトリ、尾は蛇という尾蛇科の魔物。足の爪に毒があり、けり攻撃をしてくる。一見恐ろしい魔物で、初心者や村人にとっては間違いなく凶悪な敵となるだろうが、実はそうでもない。この魔物は背を見せなければ蹴りかかってこない。毛を逆立て、鳴き声をあげるという威嚇行動をするだけの雑魚である。遠距離から魔法で叩くか、真正面から斬りかかれば無傷で倒せるのだ。肉は完全に鶏肉。尾も食せる。食べられないのは羽、トサカ、足。トサカはパーツで、足は毒の元となる素材。羽は装飾や羽毛として人気がある。骨以外は役に立つ人気のある魔物だ。因みにアオ達は、最初に森に来た時に食べている。


 ナーガ。これは亜人系の魔族と勘違いされやすいが、実際はただの魔物である。人間っぽく見える上半身は、人間を騙すための擬態部分。ナーガの本当の頭は尾の方に隠れている。擬態部分で人間を騙し、近寄ってきたら尾で締め上げ、先にある麻痺針で自由を奪う。そして、生きたまま捕食するのだ。ナーガは基本、遠距離攻撃で倒す。低レベルの近距離タイプ職業には倒しがたい相手。太い尾は意外に俊敏で、一瞬で巻き付き、すぐに麻痺針で刺す。ナーガの拘束を振りほどける力があり、麻痺針が通らない頑丈な装備をしていれば、巻き付かれても助かるが、そうでないなら巻き付かれた時点で死亡確定となる。よって、本当の試験はこのナーガの討伐である。因みにナーガの擬態部分は皮が人の形に膨らんでいるだけなので、傷つけると空気が抜け、その原型をとどめなくなる。


 ナーガの素材は尾部分の皮、麻痺針。頭以外の尾の肉は全て食べられる。


「討伐完了されましたら、此方の札と一緒に【換金】カウンターへとパーツを提出ください」

「わかった。行くぞ、グズ、アオ」

「ういっす~」

「ああ」


 鉄の小さな板を受け取り、ギルはさっさと出ていく。グズとアオもそれに続く。これもいつもどおり。


 グズとアオはリーダーのギルに否を唱えることがない。ギルがやる、と言えば二つ返事で頷き、従う。当然、二人の方が低レベルなのだから、従うのは当然だが、よく見ていると気づく。三人の関係は上下ではない。対等なのだ、と。ではなぜ二人が否を唱えないのかと言えば、理由は単純。ギルへの信頼の表れなのだ。


 バランスも良ければ、仲も良好。いいパーティだなぁ、とカウフスマンはなんだかほっこりとしつつ、口元を引き締めた。彼の仕事は【登録】。年中、毎日、ギルドが開いている限り、ひっきりなしに訪れる登録者や、試験を受けたい冒険者を案内する。休んでいる暇などない。特に、あの三人が現れてからは、伝説級のパーティ出現の予感に、噂に、一目会いたい、あんな風になりたい、と憧れる者たちが増えたのだから。


 噂の三人を見てざわめくギルド内に、カウフスマンの怒号が落ちるのもここ最近では日常となりつつあり、彼の恐怖伝説が今日も又一つ、増えた。しかし、その伝説も、二日後に、試験達成して戻ってきた三人により、かき消えたのだった。


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