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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
二章
36/51

36 魔力欠乏症

感想ありがとうございました!

今日も頑張って更新します!


ブクマしてくださった方も感謝です!



 火の国の遺跡を踏破して2週間。アオは臥せっていた。


 試練を無事クリアし、装置――押しボタン式のスイッチだった――の前に魔王が創ってくれたスライムを、一体分裂させたが、そこでアオが力尽きた。魔力切れを起こし、そのまま魔力欠乏症になったのだ。


 魔力とは、精神力に直結している。精神が乱れれば魔力も乱れる。冷静状態でない魔法の使用は、より多くの魔力を消費してしまう。回復量もがた落ちしてしまうのだ。あまりに精神が乱れると、魔力が体外へと漏れ出てしまうこともある。一度体外に出た魔力は、もう自分の魔力ではない。体内へ戻すことは不可能。アオはこの状態だった。この状態が続くと、意識が混濁し、臥せってしまう。そのまま回復せずにいると、体が弱り、命の危険性も出てくる。


 宿屋で眠るアオはずっと「イチゴが」と呻き続けている。いったい何のことかわからないギル達は首を傾げるばかり。兎に角、適当な依頼をこなして資金を稼いでは、魔力回復薬を買い、アオに与える。しかし、アオの魔力は回復しない。すぐにすり減っていく。困り果て、魔王に尋ねるが、魔王も首を傾げるばかり。


 試練で見た幻覚が原因だとは誰も気づかない。


 幻覚で見たギルのイチゴ柄のパンツ。それが全ての原因。メイド服やバニー。無駄にグラマラスな体躯も十分に原因だが、一番の原因はイチゴ柄のパンツ。女神も魔王も、まさか勇者への精神攻撃にイチゴ柄のパンツが有効など、思いもしないだろう。アオ自身も思いもしなかった。


 しかし、移動中に、戦闘中に、がっつりと見える可愛らしいイチゴ柄のパンツ。ごつい足と尻を包んだあの布。吐血しそうなほどの恐ろしい攻撃だった。人間、見たくないものを強制的に見せられ続けると精神崩壊をおこしかけるのだと、アオはその時初めて知った。


 がりがりと精神を削られ、魔力も自動回復の恩恵が追い付かないペースで消費されていく。最奥の装置が置かれた部屋へとたどり着くころには、殆ど魔力を必要としない気配探知さえ使用できないほど、魔力は枯渇し、欠乏していた。そこまで行くと、確実に意識を失っているのだが、流石は勇者、といったところだろうか。気力で何とか立ってはいた。だが、スライムを分裂させ、設置した後の記憶はない。


 突然ぶっ倒れたアオを、ギルが担ぎ、連れ帰った。


 帰り道は、グズの魔法で襲ってくる魔物を蹴散らし、遺跡を出た。出迎え兼、遺跡内へ掃除用のスライムを準備していた、アペフチの志願兵隊長オレノグが声をかけてきたが、半分無視する。最下層まで簡単に掃除した事と、アオが魔力切れでダウンした事だけ伝え、住民を全て逃がしたため、宿の営業もしていないアペフチを出て、キャンプしようとした。それを引き留めたのが、アペフチの領主。


 アペフチを救ってくれたSランク冒険者をもてなしたい、と自分の館に来るよう願うが、ギルはこれを拒否した。自由に動けなくなりそうな場所はお断りなのだ。アオの為に金を稼ぐため、アオを1人、もしくはグズと2人にしなければならない。そうすると、フェイクの効果が切れた状態になる。いつでも身軽に逃げ出せるようにしておきたい。


 ギル達の考えなど知りえない領主は、自分の誘いを断るギル達を、名声を求めない、清廉潔白な者達、とギル達にとって都合のいい方へと勘違いをした。その結果、遺跡から溢れた魔物が鎮圧されたことを知った王が、英雄として公表したい、と中央に連れてくるように言ってきたが、断固拒否した。領主達の話を聞き入れず、このような事態を引き起こした以上、王も強く出ることができない。英雄を呼び寄せること自体傲慢だ、と言われては黙るしかない。相手が自由を愛する夢幻王国の民なので、王自ら出向いても良かったが、王命の結果、この事態が引き起こされたのはアペフチでは公然の秘密だが、火の国内では知られてさえいない。結果、そこまですることはできない。知られて民による暴動が起きては困る。


 国王が動けないのを承知したうえで、領主はギル達に国王の動向について赤裸々に語って見せた。ある意味立場が悪くなる可能性のある行為。それでもギル達にとってはありがたい話で、感謝する。領主としては、何か一つでも役に立てたことが嬉しくて、ご機嫌で帰っていった。


 国王が動けないうちに火の国を出てしまいたいのだが、アオの体調が戻らない。


「さて、どうしたものか」

「担いで行っちゃえばいいんじゃないっすか?」

「魔力欠乏症が長く続いている。耐えられると思うか?」

「うぅん……それは、ちょっとわかんないっすねぇ…………」


 困ったように顔を見合わせ、溜息を零す。


「イチゴてなんすかねぇ?」

「うむ……魔王様でもわからないとなると……そうだ。シズカやコウスケに聞いてみるというのは?」

「それっす!」


 すぐにグズが通信魔法をつかう。魔王に頼み、2人を呼んでもらった。しかし残念かな。コウスケは普通のサラリーマン。学生時代は友達と話すために、たしなみ程度に漫画やゲームに手を出していたが、その程度。シズカは見た目どおりお嬢様。漫画やゲームは殆どわからない。精々少女漫画を少々読んだことがあるくらい。イチゴ、と言われてもなんのことやら。いや、イチゴだけでは、どんなに「どこへ出しても恥ずかしい自慢のオタク」であっても、アオが何に魘されているのか、想像するのは無理だろう。


 2人は揃って首を傾げ、それからコウスケがあ、と手を打った。


「最近、人の記憶を覗くという魔法を覚えたんです。それで覗いてみましょうか? 今回は緊急事態ともいえますし」


 本来は他人の頭の中を直接覗くような、プライベートの侵害は宜しくない行為だ。一般的な常識を持っているコウスケとしても多用はしない。しかし、魔力欠乏症が長く続くと命の危険性もあるため、今回はやむを得ないと判断した。


 グズが魔法の鏡の位置を調整し、コウスケにアオが見えるようにする。


「…………う、うん」


 魔法を行使したらしいコウスケが微妙な声をあげた。それからそっと視線を逸らす。


 困ったようにしばし黙り込み、魔王とシズカと共に何かをこそこそ話し合う。コウスケから話を聞いた2人もまた、困ったような声を上げ、どうしたものかと首を傾げた。


 精悍すぎる強面。身長2m越え。筋骨隆々な体躯。その身を包むメイド服。色んな意味で魅力的なグラマラスメイド。惜しげもなく晒されるイチゴ柄のパンツや絶対領域。そして、その周りにちらちら見える残念バニー。悪夢のような光景。


 これは心の傷(トラウマ)になっても仕方ない。そう言える酷い光景だった。


 アオが何に苦しんでいるかは理解できたが、それの対処法が解らない。さてさて困った、と頭を抱える。


「コウスケ。アオはどうしたんすか?」

「う、うん……そうだね……ちょっと心が疲れてるみたいだから……何か、癒しがあればいいんだけどね……」


 見たことをそのまま伝えて良いのかわからず、言葉を濁す。


 成程、とギルとグズは頷くが、アオの癒しがわからない。人間嫌いなアオ。山奥にでも連れて行けばよいのだろうか、と首を傾げ、ふと、ギルの気配探知にひっかかる気配。真っすぐにこの部屋に向かっている。ギルは魔王達に口早に謝罪し、グズに通信魔法をきらせた。


 こんこん、と軽くノックされるドア。


「おぉい、ギルさん達いるかい? トヒルのデグリスなんだけどよ」

「デグリス? どうした?」


 突然の、予想外の訪問者に瞬き、扉を開ける。


 可もなく不可もない、至って普通の、人のよさそうな笑みを浮かべた青年。トヒルの猛獣使い、ではなく、トヒルのAランク冒険者。スライム1体とチームを組む変わり者。そして、アオを女だと見抜き、可愛いと言い、好きだという、頭の中身がちょっと残念な青年。


 自宅に沢山の獣を保護しているため、トヒルから離れたりはしない、はずだったのに、なぜここにいるのか。警戒するように上から下までを見れば、デグリスは苦笑し、肩を竦めた。


「ギルドからの命令で、遺跡の魔物退治に来たんだ。俺達は基本自由だが、ギルドから命令されたら従わないわけにはいかんからな」

「ああ……なるほど」

「ま、ギルドに言われてきたけどさ、遺跡に潜ってもそこまで魔物はいないし。俺がやったことはほぼ、こいつにその辺に転がってる魔物の死骸を食わせただけなんだけどな」


 デグリスの腰にぶら下がる布袋から、ひょっこり顔を出す子供の掌大のスライム。緑色の身体をぷるぷると揺らす姿は挨拶をしているようにも見える。


「で、聞いてた話と違ったんで、ギルドに確認したら、アンタ達が終わらせた後だって聞いたからよ。帰る前に挨拶しとこうと思ってな」

「なるほど~~……あ!!!」

「うお?!」


 突然のグズの大声に驚き、びくりと肩を跳ねさせる。何事か、と見れば、グズがデグリスにしがみついてきた。


「デグリスさん! アオが大変なんすよ! なんだっけ? あの、もふもふでアオを助けてくださいっす!」

「は? え?」


 腰のあたりに縋り付き、懇願する様子にデグリスは困惑する。


「現在アオが魔力欠乏症でな。どうも心の癒しがあれば治るらしいんだが……」

「そりゃ大変だ! ウチでよければ連れてこい! ああ、でも今は馬車がないのか……」

「馬車ならここの領主が出してくれるっすよ! 褒美はなんでも言えって言ってたっす!」


 それなら、と動き出す。


 褒美はいらないと言っていたギル達の、突然の頼みだったが、領主は快く承諾し、トヒルまで急遽送ってもらうことになった。病人がいるという事で、揺れが少なく、大きめの馬車を用意してくれたことに感謝し、全員で乗り込んだ。


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