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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
二章
30/51

30 モテ期到来



 二日酔いのデグリスに別れを告げ、北にあるペクレンクを目指す。丁度そちらへ向かうという行商人が居り、護衛の依頼を受けることになった。


 依頼内容はペクレンクまでの護衛で、馬車に乗車することも、馬を貸し出すこともするという条件。トヒルからペクレンクは徒歩で30日。馬車に乗ればその半分で済む。商人は荷馬車3台と馬車1台の計4台。1台は商人が雇っている護衛兼従業員が乗っている。


 護衛がいながら護衛にアオ達を雇う理由がわからず、いや、わかるせいか、難色を示した。しかし、移動日数が半分に減るという魅力に、結局受けたのだ。護衛がいながら依頼をする理由。そんなもの、Sランク冒険者様とのつながりを作りたい。知り合いになったというステータスが欲しいのだ。


 強欲な商人に相応しい、何とも言えない男。身長はそう高くない。がっしりとした体つき。厳つい顔。アオ達にはにこにこと揉み手擦り手で、自分の部下へは怒鳴り散らし、平然と拳を振り上げる。その上商品は人間。そう。奴隷商人だった。勿論、奴隷商人が悪いとは言わない。言わないが、この男のような店主なら、奴隷がどのような扱いなのか、言うに難くはないだろう。当然大切な商品。わざわざ傷つけるようなことはしないが、服に隠れてしまう場所なら、手を上げる。


 あんな雇い主いやだなぁ、と呟き、アオはギルの背に隠れた。何故だかわからないが、男はやたらとアオに声をかけてくる。


 馬か馬車かでの移動だが、アオは馬に乗れない。乗ったことがない。乗り方がわからない。それを知った男は、是非とも自分と共に馬車に、と言ってきた。当然アオは無言でギルを盾にした。ギルもグズも馬に乗れる。そして、ギルは精悍を通り越した厳つい顔の大男。絶対に勝てない相手だからなのか、男はギルとはあまり話そうとしない。アオがギルの側から離れようとしないので、今度はグズに標的を変える。しかし、コミュニケーション能力が高いグズ。にこにこ笑いながらも、綺麗にかわしていた。


 どうにも胡散臭い男。


 それがギル達の感想。だがアオは微妙に違った。


 アレは危険。


 警戒のレベルが違う。やたらと話しかけてくるのもそうだが、あの男は何故か、値踏みをするような目でアオを見ている。気づかれていないつもりだろうか。纏わりついてくる視線。アオはそれを知っている。日本にいたころ、アオの書いた小説に群がって金儲けをしようとしていた。アオの作品を純粋に気に入ったのではない。ソレは大衆が好んだ。だから、商品にすれば金になる。そう判断した大人たちの視線と同じ。


 アイテムボックス持ちのクレリック


 アオは非常に魅力的な職業とステータス。奴隷として売り出しても、自分で囲っても、最高だろう。


「アイツ、嫌いだ。私の事を商品だと思っている」

「成程。普通は簡単に奴隷落ちさせる事はできないが、様々な方法がある。面と向かってはできない、陰で行われる方法だ。お前は俺の側を離れるなよ」

「おう」


 もとよりそのつもりはない。となると、次の心配はグズ。見た目が子供の彼も、十二分に魅力的なステータスをしている。


 魔法使いというありふれた職業だが、7属性の使い手。


 見た目も子供で、自ら話しかけ、人懐っこい印象を受ける。それがあまりに自然体過ぎて、誰も作っているのだと気づかない。


「とりあえず馬は俺と乗れ。グズは……本人に任せるとしよう」


 どうする、と顔を向ければグズはにやりと笑う。


「俺はレオギルンの馬車に乗るっすよ。あのおっさん、アオ狙いなの間違いないっすからね! いやぁ、近頃アオがモテモテで嬉しいっすよ~」

「これはモテる言わん。こんなモテ方嫌だ」


 口元に右手を当て、へっへ、と楽しそうに笑うグズをじろりと睨む。それにこらえきれず、グズはぶふーっと噴き出した。その姿に口をへの字にし、憮然とした表情を浮かべるアオ。


 やれやれ、と一つ溜息零し、ギルはアオの頭を撫でた。


「アオは俺と馬に。グズは馬車。十分に気を付けつつ、しっかりアオを守れよ」

「りょーかいっす。任せるっすよ。ああいうのは、一番俺と相性がいいんすよ。アオは安心して快適な旅を楽しむといいっす。馬は俺より乗り心地は悪いっすけどね!」


 いい笑顔で、サムズアップして答える。


 その言葉通り、意外に快適な旅となった。


 商人の男――レオギルンは、完全にグズの玩具となり、掌で転がされ、アオはギルの操る馬に乗り、特に何もすることなく、日々が過ぎていく。代わりに訓練が一切できていない。まだギル達相手に5分も戦えるようになっていないのに。


 この依頼、受ける必要なかったのでは、とアオが思うようになった頃、10日が過ぎていた。ペクレンクまであと5日。焦れたのはレオギルン。どうにかアオと接点を持ちたいが、そのチャンスが巡ってこない。グズを取り込もうにも、あまりに子供すぎるのか、丸め込めない。探りを入れても子供特融の無邪気な反応や、突然の話題転換で計算を狂わされ続ける。素直なようでやんちゃ。子供だから仕方がない。こういった御しやすそうで御せない子供が、レオギルンは一番苦手だった。


 どうにか取り込もうと思って早10日。ペクレンクまで後たったの5日。二度ほどモンスターによる襲撃はあったが、ギルとグズにより瞬殺。その強さから、あの二人は無理矢理手を出してはいけない、と心に刻んだ。ギルにはまるで興味はないが、まぁ、上手く弱みでも握れて、護衛として支配出来たら幸運。その程度には興味があるのだが、基本的にレオギルンの興味はアオ。


 アイテムボックス持ちのクレリックなんて、商品としても最高の価値があり、どれ程の値が付くか、想像するだけで笑いが止まらない。しかし、自分で囲ったときの価値の方が遥かに高い。貴族にも国王にも有効なカードになる。是が非でも欲しい。その為にわざわざ彼らの情報を買い、ペクレンクへ行くと知り、大急ぎで荷物をまとめた。レオギルンから言わせればあんな田舎町、まるっきり用事はないというのに!


 わざわざ奴隷商人にだけ許された奴隷契約書も用意した。旅の途中でアオ達に睡眠薬を飲ませ、無理にでも血判をもらおうと目論むも、こちらで用意した飲食物はことごとく拒否。それらを用意するのだってタダではないというのに。感謝することもなければ、気を遣うこともない。勝手に用意したのはお前だろ。知るか。という態度を貫いている。


 非力なクレリックなら無理にでも、と思うが、アオはギルの側からけして離れない。


 精悍すぎる強面。筋骨隆々の大男。Sランク冒険者の剣士。それがギル。誰が好き好んで喧嘩を売りたいのか。アオがギルの近くにいる以上、荒い手は使えない。


 初めのうちはまだよかった。余裕があった。いずれチャンスは来る、と。しかし、5日を切った今ではその余裕もない。どうしてくれようかと日々焦る。


「……アオ。気を付けるっすよ」

「ん?」

「おっさんが焦れ始めたっす。強行手段を使ってこないとも限らないっすよ」

「げぇ」


 顔をしかめ、逃げるように身をよじる。


「ふむふむ。どうするっすかねぇ~」


 まるで大したことないように笑いながら、顎に手を当て、ギルを見上げる。どうやら何か案があるらしい。視線を向けるも、にやにや笑うばかりで、特に何も言わない。


 軽く肩を竦め、頼んだ、と短く言えば、任せとけと言わんばかりのサムズアップ。グズが自信ありげなので、大丈夫だろうと安心する。


 アオの無条件の信頼ともいえる態度に、グズは照れたように笑った。


「さぁて、そろそろ休憩も終わるっす。俺はまたおっさんの馬車に戻るっすよ」

「グズも気を付けて」


 ひらりと手を振りあい、アオはギルの乗る馬の背に。グズは馬車の中に戻っていく。


 さて、とグズは笑う。目の前には焦りを隠しきれず、微妙な笑みを浮かべたまま話しかけてくるレオギルン。のらりくらりといつもどおり会話をしつつ、一つの話に誘導する。とりあえず、この道中では大人しくしてもらうために。


「そぉいやおっさんはペクレンクでは商売しに行くんすか?」

「む? お、あ、ああ! 勿論だとも!」

「へぇえ、すごいっすねぇ! おっさんの商売はどこでもできるんすか?」

「そうだね。私の商売は都市や街規模であれば、どこでもあるが、労働が必要な鉱山、港などを抱えた場所でも需要があるのだよ」

「すごいっすねぇ! おっさん、すごい商人なんすねぇ!」


 純粋な笑みを浮かべて、尊敬の目で見る。いかに相手が子供とはいえ、こうも尊敬のこもった目。すごいすごいと褒められて、嫌な気分になるわけがない。むしろ、相手が子供だからこそ、有効だったりする。案の定、レオギルンは鼻の穴を膨らませ、気分よく笑った。


 単純バカだなぁ、と内心苦笑しつつも、話を続ける。


「俺らはついたら飯食って、あとは自由行動なんすよ」

「ほぉ!」


 レオギルンの目がきらりと輝く。


 あれだけアオがギルにべったりなのに、そんな事があるわけないだろうが、とは思うが口にはしない。


「近くに、火の国には珍しい森があるってきいたんで、俺とアオはそこに行く予定なんす」

「おお! そうなのかね?!」

「そっすよ~。まぁ薬草採取なんすけどね。だから森に着いたら別行動っす。あそこは魔物も出ないって聞いてるっすから」

「ほほう!」


 いい機会だろう? だから、旅の間は大人しくしとけよ? そう心の中で付け加え、嗤う。


 レオギルンの顔から焦りが消え、余裕のある笑みを浮かべだした。本当に単純バカだと呆れながらも、その後も適当に話し相手をしつつ、残りの5日間、しっかりと監視を続ける。いくら千載一遇の機会があると伝えても、隙を見せればそこで襲ってこないとも限らない。もっとも、アオの護衛はギル。隙なんかあるわけがない。仲間であるグズにさえ見つけられないのだから。


 ギルは眠りも非常に浅く、寝ている時でさえ隙がない。用を足すときくらい、と思うが、分身といつの間にかすり替わり、気が付いた時には何食わぬ顔で戻ってきている。グズでさえ、そのタイミングはつかめない。そんな相手の隙を狙おうと考えているのだから、彼我の差を理解できない小物は面倒だ、と呆れるしかない。


 ペクレンクの街で魚料理を堪能し、宿をとる。


「さて、小物狩りっす」

「そうか」

「安心してほしいっす」

「信頼してる」


 にぃ、と笑いあい、軽く拳を合わせた。


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