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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
二章
26/51

26 嘘つきは誰



 ゲオルギウスを討伐し、戻ってきたアオ達を出迎えたのは、メルル。そして、沢山の兵士だった。


 門をくぐってすぐの広場。待ち構えていたようにわらわらと湧き出てきた兵士。その中から得意満面の笑みを浮かべて出てくるメルル。絶対的な優位を前に、悦に歪んだ顔は、醜悪だと思う。どんなに美しく、将来美女になることが確約されメルルが浮かべたとしても、到底魅力的とは言い難かった。


 門番の兵士は知らなかったのだろう。戸惑うように顔を見合わせている。しかし、アオ達を囲む兵士も乗り気ではないのだろう。苦虫を嚙み潰したような顔の者。何かを諦めたような顔の者。すまなさそうな顔の者。そんな者達ばかりだった。


 民衆は屋内に逃げ込み、窓を、扉を閉め、息を殺す。


「魔王に連なる者よ! 巫女の名において捕縛なさい!!」


 良く通る声。従うように動き出す兵士達。しかし、アオは慌てることなく、一歩前へと進み出た。


 真っすぐにメルルを見る。


「何をおいて、私達を魔王に連なる、と断じる? まさか、顔が醜い、それだけではなかろうな? 言っておくが、他人の顔の造形をただ否定するなら、それは巫女の行いではないぞ」


 アオの言葉に兵士たちが動きを止める。まさかそんなくだらない理由で自分達は駆り出されたのか、と驚愕に固まっていた。


 確かにアオ達は残念な顔立ちだろう。明らかな悪人面のアオは当然ながら、精悍を通り越した厳つい顔立ちのギル。鼻は低く、そばかすだらけのグズも、とても残念な顔立ちだ。将来大人になっても良くなるとは思えない。それでも、魔族という程ではない。それほど醜悪なのが魔族なのだから。


 しかし、メルルは笑った。


「メルルは巫女なの。巫女にはアナライズっていうスキルがあるの! 貴方達がこの都市に入る前にフェイクというスキルで書き換えるのを、メルルは見てたのよ! ゆ、う、しゃ、さ、ま! メルルは女神様から神託を受けてるの! 召還された勇者様が魔王に洗脳された。この火の国にも来るかもしれないから気を付けるように、とね!」


 ほほぉ、と頷く。思いのほかアナライズの範囲が広い事に驚き、また、素晴らしい情報を得たと笑う。そして、毎日毎日わざわざ外からやってくる冒険者を、そうやって探して待っていたメルルの馬鹿らしさに感心した。


 高らかに笑うメルルの意識を戻すため、アオはぱん、と手を叩く。突然の音に、驚いたようにメルルが笑いを引っ込めた。それに一つ頷き、アオは口を開く。


「巫女、と名乗ったな」

「そうよ、メルルは火の国の巫女なの。本来なら平民ごときが口を利くのも無礼なの! わかったら跪きなさいよ!」


 頭の弱い子供だな、という感想は飲み込む。そんなことよりも言わなければならないことがある。


「宣誓するか?」

「せんせー?」

「巫女として、私達が魔王支配下、と宣誓するか? 私を、勇者と宣誓するか?」

「な、何を言ってるの?」


 戸惑う姿に、メルルが子供すぎてアオの言葉の意味を理解しなかったのだ、と理解する。ちっと思わず舌打ち一つ。自らを巫女と名乗るくせに、あの程度の言葉を理解しないのか、と苛立つ。教養も足りていない子供が偉そうに、と。


「お前は、巫女として、嘘偽りなく、真実として告げるか、と聞いているのだ。私達がその、魔王に洗脳された勇者だと」


 ため息交じりに、まるでゴミでも見るような冷たい視線を向けられ、苛立ちに、顔を真っ赤に染める。


「するわ! メルルは巫女としてセンセイするわ!」

「火の女神様に誓って?」

「火の女神様に誓って! メルルはお前が勇者で、その後ろの二人が魔族とセンセイする!」


 ギルは見た。アオの口元がぐにゃり、とあの笑みを浮かべるのを。それは一瞬で消えたけれど、あの笑みが何を言いたいか知っている。かかった、と言っているのだ。


 普通に考えれば絶体絶命なのはアオ達。正体が完全にバレている。にも拘わらず、アオは獲物がかかったと喜んでいる。だからギル達も慌てたりすることなく、この場をアオに任せた。こういうことに自分達が向いていないのは知っているから。


「ほほぉ、巫女メルル様、貴女様は我々夢幻王国の民を、その中でもSランクの冒険者である『暁』の者達に実に酷い言いがかりをつけられましたなぁ」

「ふん! 魔族を冒険者と言い張るお前達も断罪してやるの! メルルに従わないから女神様の裁きがくだったの!」


 兵士達の間から姿を現したグロムスに、しかしメルルはふんぞり返って見せる。明らかに自分の勝利を確信している。その様子に目を細め、アオを見るが、アオが小さく頷くのを見、グロムスも頷く。


「狂言の巫女、メルル様。貴女は国王陛下の前で巫女として宣誓された。逃げ場はございませんよ」

「国王? 何を言って……あら、国王陛下! お久しぶりですの」


 どよめき、割れる兵士達の間からゆっくりと歩いてくる老人。その老人に、メルルは鼻で笑いながら小首を傾げた。けして頭を下げない。あまりに不遜な態度。子供だからではすまされない。対して、兵士、アオ達、グロムス、全員がその場に膝をつき、首(こうべ)を垂れた。その事が更にメルルに癇癪を起させる。自分には膝をつかない相手が、たかだか国王ごときに!


 子供ってこえぇなぁ、という感想を抱きつつ、アオはこっそりと国王を観察した。


 年の頃は60過ぎだろうか? 真っ白な頭部。深い皴の刻まれた顔。背は高く、老人というには随分とがっしりとした厚みのある体躯。腰に下げた剣はけして飾りではないのだろう。アオが首を刎ねた水の国の王より、遙かに覇気のある人物だった。後方に控える騎士数名は護衛だろうが、どう見ても彼らより強いのが雰囲気で解る。



 アグリオス・グリフォード・ランポッサ

 職業:国主

 Lv:41

 状態:冷静

 技能:宣言 為政 統治 断罪 審判 真贋 覇王乃覇気 剣技 剣風 断罪の剣 火の女神の加護



 ステータスを確認したアオは、アグリオスが武王だと理解した。だからこそ、あの覇気なのだ、と。


「巫女メルル。そなたは我が前にて、巫女として火の女神、イグニス様の名において宣誓した。これが嘘偽りであった場合、儂により断罪されることとなる」

「そんな必要ないの! メルルは嘘なんて言ってないの! そんなことより早くあいつらを捕まえなさい! メルルのいう事がきけないの?!」


 まるで頭の足りない子供。


 その通りなのだから仕方がないが、王の御前において、王に許しもなく首(こうべ)を上げ、口を開く愚かさ。王への侮辱。例え巫女だとしても国民の一人である以上、王より偉いという事があるわけない。それを理解できない愚か者。


 アグリオスは己の後方へちらりと視線をよこした。その先には平伏する二人の男女。騎士とは違い、ひらひらとしてローブを身に纏うその姿は、教会等でみかけられる。おそらくその二人がメルルの教育係を担当している神官だろう、と判断した。可哀そうなくらい震えている。


 一つ溜息を零し、アグリオスは正面を向いた。


 グロムス、アオ、ギル、グズは既に立っている。本来この国の国民に数えられない夢幻王国の民ではあるが、礼儀として頭を下げただけなのだ。


「ウェスタのギルドマスターグロムス殿。その者達がSランク冒険者『暁』の者達だろうか?」

「そのとおりでございます。国王陛下。こちらの三名が我が夢幻王国が誇るSランク冒険者『暁』でございます」

「よい。普通に話してくれ。かつてSランク冒険者として、この国で活躍してくれた英雄、『竜の牙』のそなたが、儂に対してそのような話し方をする必要はない。儂とそなたは対等よ。同じくSランクの『暁』の者達もな」


 軽く手をあげ、にやりと笑う。それにグロムスは薄い笑みを浮かべた。


「いかにかつて英雄と言われ、国王陛下に頭を下げていただいた事があるとはいえ、わたくしにも礼儀というものが備わっております。礼を尽くすべき相手には礼をもって接します」


 つまりお前にはその必要がない、と言われているのだが、メルルは気づかない。それよりも自分を無視して話す大人達が気に食わないのか、兵士の一人の頬を張り飛ばしていた。そして早くアオ達を捕らえるよう喚く。


 あまりに醜悪。


「国王陛下、発言をお許しください」

「無論だとも。普通に話してくれ、『暁』の者よ。儂の名はアグリオス・グリフォード・ランポッサ。気軽にアグリオスと呼んでほしい」

「『暁』のアオと申します。国王陛下」


 胸元に左手を当て、頭を下げる。右手を当てるのは確か攻撃態勢で失礼にあたるはず、などと以前調べた記憶を引っ張り出しながらの礼。


 ほぉ、と感心したような溜息に、間違っていないようだと判断する。


 アグリオスから顔を上げてほしい、と声をかけられるまでしっかりと頭を下げ、顔を上げた。その顔には何の表情も浮かんでいない。


「陛下。巫女は陛下の御前にて、神の名において宣誓されました」


 うむ、と重々しく頷く声。アオは続ける。


 王の前での宣誓。これほど重いことはない。そして、メルルは知らないが、宣誓内容が虚偽でないことを調べなくてはならない。


 アナライズではフェイクを見破ることができない事を説明し、フェイクを見破ることが可能な上位スキル、真贋による鑑定を提案する。この魔法が使えるものは少ないが、国王には必ず備わっている。国を治める為にそのスキルが必ず必要となる。大変、などという軽い言葉では言い表せない程の真偽の中で生きることになるのだから。


 真贋による鑑定結果は、その場にいる者全員が見ることができる。それにより、裁きの結果を誰も文句言えずに受け入れねばならなくなるのだ。


 アグリオスに依頼する。自分達を真贋によって鑑定してほしい、と。


「我々は自らの潔白を証明し、また、身の潔白がなったあかつきには、7女神にその自由を確約された夢幻王国の民として、狂言の巫女への断罪を求めます」

「あいわかった。では、今この場で鑑定しよう」

「な、何を言ってるの?」


 アオ達が何を話しているのか理解できず、戸惑う。どうして誰も自分のいう事を聞かないのか。アオ達を捕らえないのか。


 自分を無視して勝手に進んでいく話。


「早くあの魔族達を捕らえるの!! どうしてメルルの言う事を聞かないの?!」


 必死に声を上げるが、矢張り誰一人として従わない。こんなこと今まで一度もなかった。何故、と癇癪をおこす。そんなメルルに、グロムスは憐れみの視線を向けた。


「宣誓には真偽の確認が必要なのですよ」

「必要ないの!! メルルは巫女なのよ?!」

「貴女が巫女だからこそ、余計に必要なのですよ」

「なんでなの?! メルルは巫女なのよ! メルルの言う事は絶対なの!」

「違います」


 ぴしゃりと切り捨てられ、あまりに強い否定に戸惑う。


 何故という疑問だけがメルルを支配していた。巫女である自分は敬われるべきで、巫女である自分の言葉は絶対で、巫女である自分が黒と言えば白も黒くなる。なってきた。何故、ギルドが逆らうのか理解できない。そしてなにより、鑑定結果に絶対の自信がある。書き換えるその瞬間もずっと鑑定していたのだから。だというのにフェイクが通用しないスキルで自分達を鑑定しろ、とアオが言っているのか理解できなかった。


 アグリオスがスキルを使用した。


 結果が表示される。



 アオ

 職業:治癒術師

 種族:人族


 ギル

 職業:剣士

 種族:人族


 グズ

 職業:魔法使い

 種族:人族



 真贋は対象が宣誓した内容に対しての結果を表示する。今回メルルはアオが勇者であることと、ギル達を魔族と宣誓した。なので、職業と種族が表示されたのだ。


 メルルは愕然とする。


 何度見直しても変わらない。自分が見たときは確かに、アオは勇者と表示され、それからクレリックと書き換えられた。だからこそ、女神の神託を思い出したのだから。


「嘘なの! メルルは間違いなく見たの!」

「しかし、結果は見ての通りですよ、巫女様」

「国王陛下。私達は狂言の巫女の断罪を求めます」


 勝ち誇るグロムス。目もくれず、直談判するアオ。


 アグリオスは重々しく頷いた。


「結果は見てのとおりである! Sランク冒険者『暁』の中に勇者はおらぬ! 魔族などともってのほか! 巫女メルルが狂言を以て混乱を招いたのは明白である! 巫女メルルを捕らえよ!!」


 王の言葉に迅速に動く兵士達。幼いメルルは取り囲まれ、あっと言う間に拘束され、抑え込まれた。


「無礼なの!! メルルは巫女なのよ!! 離しなさい!!」


 喚くが地面に押さえつける手は緩まない。それどころかますます強くなる。それでも喚くのをやめないメルルを、呆れたように見ていたアグリオスがアオに向き直った。


 さて、と声をかける。メルルの断罪を求めたのはアオ。どういう断罪を求めるのか。問われたアオは答える。


「奴隷落ちさせ、一生巫女の下女として働かせることを希望します」

「命は奪わぬのか?」

「はい。ただし、奴隷の刻印は顔に、お願いいたします」


 無表情のまま、淡々と答えるアオに、何とも言えない表情を浮かべた。何故、と視線だけで問う。


「人の顔を否定できる程ご自慢の綺麗な顔に、一生消えない奴隷の刻印。巫女という職業を持ちながら、死ぬまで巫女の下女。他人の顔を平然と卑下し、随分巫女であることを誇っていた彼女には最も相応しい罰だと思います。顔を見れば今回の一件で断罪された巫女だとわかりますしね」

「なんとまぁ……容赦のない」

「私達は夢幻王国の民。女神達に自由を約束された民。女神の巫女でありながら、女神に逆らうような愚か者に煩わされた……こんなの当然なことです」


 さぁ、処罰をくだせ、と視線で迫る。


「残念ながら、処罰を今すぐ下すのは無理だ。刻印を刻む魔法使いを呼び、後日知らせを出し、民衆の前で行う。それまで広場に罪人として晒しておけ」


 宣言。動き出す兵士達。


 断罪を求めたアオ達はその日までウェスタに滞在する事を求められた。当然、拒否はない。グロムスの用意した宿で、その日までとどまることとなった。アグリオスは一度戻り、処刑日に再び戻るとのこと。


 ご機嫌なグロムスが夕食を奢るといったが丁重に断り、ゲオルギウスのパーツとAランクの冒険者カードを渡す。Sランクのカードは事前に貰っていた。それでアオ達が逃げたらどうするつもりだったのだろうかとは思うが、どうせ全都市に通達し、お尋ね者にされただけだろう。


 宿までは案内でついてきたグロムスだったが、ゆっくり休んでください、とすぐに帰っていく。それを見送り、室内に入るとグズが防音の結界を施し、通信魔法を使った。


「久しぶりだな。どうした?」


 すぐに顔を出す魔王。沢山の書類の山に埋もれながら、不思議そうに首を傾げている。どうやら国政の執務中だったようだ。


「礼を言おうかと」

「礼?」

「これ、役に立った」


 アオの指、人差し指と親指の間に挟まれた小さな珠。2mm程度の、落としたら一瞬で見失いそうなそれ。ああ、と魔王は手を打つ。


「いきなり必要になったのか、それ」

「なった」


 それは魔王作の特殊なもの。効果はフェイクの内容を、たとえ女神の力で確かめたとしても真実として表示させるというもの。流石に女神全員で力を合わせられたらどうかわからないが、そうでない限りは魔王の方が力は上。看破できない。


 万が一を想定し、水の国を出る前に、アオが半ば脅すようにして魔王に作らせた物。


 良心をガンガンに責められるというやり方で脅された魔王は、血反吐を吐きそうになりながら、アオの要望通りになるように、己の全力を以て作り出した。そしてそれはシズカによって、丁寧に全ての洋服に縫い付けられて渡された。ついでに予備に、といくつか箱につめられ、渡された。これがあったからこそ、アオは真贋の使用を求めたのだ。


 珠の存在をすっかり忘れていたギルとグズが、あれかーとか、成程、とかしきりにアオに感心している。


「万が一が思いのほか早く来たな」

「気が抜けない。これからも気を付ける」

「今後も何かありそうなら言ってくれ。お前の望みはできるだけ叶える」

「ありがとう。ジンギルフ。シズカにも礼を伝えてくれ」

「ああ。では、気をつけろよ」

「ん」


 通信を終え、手にしていた珠はストレージへ。


 今後フェイクの使用は人のいる近くは止め、細心の注意を払いながら行う事を話し合う。といっても、ここから先はなかなかレベルが上がらない。ギルの側さえ離れなければ効果が切れることもないのだから、今後なかなか使う事はないのだろうが。念には念を、だ。


 気が抜けない、と気を引き締めなおした。


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