23 悪巧み1
書き始めて1月以上経過しても終わるめどが立ってない……
早く完結させたい……
今日明日は沢山投稿します……
誤字脱字が多くなるかもです。申し訳ない……
火の国ゲルラ。水の国がやたら川だ湖だと水が多い国だったのに比べ、山が多い印象がある。中央北、海の近くには活火山もあるとのこと。それを聞いたアオからの感想は一つ。噴火したら大変だー。近くに王都があると聞いたので、尚更噴火したときの事を考える。考えたところでどうにかなるわけではないのだが。
山道を歩き、一番近い都市ウェスタを目指す。とりあえずそこで冒険者ギルドに顔を出し、いくらか依頼を受ける予定だ。そうして冒険者としての実績を作り出す算段だ。
Aランクからの依頼は討伐が多くなる。採取もあるが、大変面倒なものが多く、人気はない。アオ達も、魔王に献上する銀貨や金貨を稼ぐために、やり易い討伐を選ぶことにしている。けれども、けして片っ端から、という目立つ行為ではなく、一つのギルドで2~3個くらいを目安にする予定だ。そこに腰を落ち着ける予定はなく、旅をする者、という印象を持たせるため、依頼をこなしたら直ぐに他の町や都市へ移動する。その予定だったはず。
目の前には大声で泣く少女。
剣呑な目つきが更に悪くなっていくのを理解しつつも、止められない。少女の神経に触る言動に、気分がガンガン下降していく。苛立ちが募り、だらりと下げた手が僅かに動く。腰に差した剣に伸びそうになったのを、なんとか(あるかどうかも疑問な程度の)理性で押しとどめた。水の国から移ってきたばかりで、これ以上の騒ぎは不味い。もう十分すぎるほどの騒ぎになっているが。
ああ、何故こうなったんだろうか、と記憶をたどる。
水の国から火の国への国境を越え、山道を歩きながらギルから火の国の特徴を聞きながら、徒歩での移動。基本的に森などが少なく、山も岩肌が多く見晴らしの良い火の国ではグズに乗ることはできない。人の足で10日程かけ、ようやくウェスタに着いた。ステータスの書き換えはウェスタに入る直前でさっと終わらせた。今はダンジョン踏破者に相応しいステータスになっている。
アオ
職業:治癒術師
Lv:23
状態:冷静
技能:道具袋 治癒Lv1,Lv2,Lv3 状態異常治癒Lv1(毒),Lv2(麻痺),Lv3(混乱),Lv4(石化),Lv5(呪い) 蘇生Lv1
ギル
職業:剣士
Lv:30
状態:冷静
技能:気配探知 斬鉄 音速剣 守護乃剣 不退転乃意思 鋼乃盾 全力斬 剣風 剣技
グズ
職業:魔法使い
Lv:27
状態:冷静
技能:ファイヤーボール ウォーターポッド アイスニードル ウインドカッター トルネード テンペスト アースサージ ライトニング フライ マス・フライ ライト
ギルのスキルだけ増えていないが、本来はそれだけ手に入らないものなので、構わないという事だった。
ステータスの偽装を終え、ウェスタに足を踏み込んですぐだった。門兵から門前宿の場所を聞き、いざそこへ、と足を向けた三人。最後尾を歩くアオに、何かが体当たりしてきた。当然気配探知を使い、そのことに気づいていたアオ。避けようと思えば避けられたが、敢えてしなかった。何故か、それをしてはならない、と自分の中の何かが警告を発したのだ。結果、力加減も何もなく、頭から飛んできたソレに押され、突き飛ばされるようにして倒れる。
べっしゃりと倒れたアオの腰辺りに何かが取り付いていた。黒い髪をツインテールにし、白いひらひらした衣装を身に纏った少女だ。ギルに助け起こしてもらいながら、腰に張り付いた相手を見、歪みそうになる顔を何とかこらえた。だが、次の瞬間顔を上げた少女は、耳をつんざくような泣き声をあげたのだ。
「うぁあああああああんっっ顔が怖いいっ」
失礼な話である。
勝手に人の腰にタックルをかけておきながら言うセリフではない。というか、他人の顔を見て、その造形について初対面で言うべきではない。仲が良くて、気心が知れていて、相手が許していて初めてできることだろう。
失礼な子供の手を引きはがし、距離をとる。アナライズで確認し、ギルとグズの服の裾を引く。
メルル
職業:火の巫女
Lv:9
状態:嘘泣き
技能:遠見 鑑定 火の加護 祈り 神託
火の国に到着した途端、厄介なものに絡まれた、としか言えない。何故迷わず自分達の下にやってきたのかわからない。気配探知上、彼女はアオ達が兵士から離れたその時から真っすぐにかけてきていた。まるでタイミングを見計らっていたかのように。この都市に入る前から目をつけられていたとしか思えない。警戒するなというほうが無理な話である。
とりあえず、自分のカンを信じ、少女を避けなかったことは褒めたい。もしもクレリック――非戦闘職――のアオが、あっさりとよけてしまえば、それは不自然だっただろう。
注目されるように大声で騒ぎ立てる少女の手前、ギル達に何か伝えることはできないが、アオのとった行動で、彼らに油断はない。
「うわぁぁんっ不細工が揃ってるぅぅうう」
「なんっすかこのがっっ」
ガキ、と言いかけたところでギルが止める。襟首を引くお得意の首絞めで。グズの言葉はぐぇ、という呻きで消えた。
「お前は口が悪い。黙っとけ。行くぞ」
「うわぁああんっメルルにぶつかっておきながら謝りもしないぃっメルル転んでるのにぃいいいっ」
立ち去ろうとすればその場に転がり、じたばたと手足を動かし、平然と事実を捻じ曲げた言葉を喚き散らす。周りで沢山の人間が見ていたのにもかかわらず。
なんだこいつは、と困惑の表情で辺りを見渡せば、何か痛ましいものを見るように見ていた人々が慌てたように視線をそらし、ささっと立ち去っていく。その不自然な動きに三人は顔を見合わせる。
「え? どういうことっすか?」
「いや、俺にも……」
「おそらく、よくあることなんだろう」
困惑する二人に、冷静に答えるアオ。アオからのメルルの評価は低い。ただの我儘クソガキという評価を下していた。
「かかわる必要はない。行こう」
「大丈夫か?」
鋭い三白眼は既に0度以下の冷たさ。肯定をする声も、相当怒り狂っているのがわかる低さ。顔の造形について言われれば、仕方もないだろう、と思う。ギル達は慣れているが、アオはそうではないに違いない。一応アオは女性だし、と。
一応、とつけるあたり、ギル達も十分失礼なのだが、気づいてはいない。気づいていたとしても、心の中で思っただけなので、セーフだと思うだろう。
「行こう。ギルドは逃げないけど、依頼は早い者勝ちだ」
「そうだな」
ぐいぐいと引っ張る手に、仕方ないと頷く。グズに視線を向け、一つ頷くと踵を返した。未だ喚き散らす少女の事は完全に無視して歩き出す。そんな三人にざわり、と民衆がざわめいた。ひそひそと話声。急いで屋内に入ると扉を閉める者もいる。店が突然閉店になった。
おそらく宿にも泊まれないだろう。すぐにそう判断つく。予定を変え、宿には行かずにギルドを目指した。だが、その後ろを少女が泣きわめきながらついてくる。あまりに煩いのでギルがグズとアオを肩に担ぎ、ほんの少しだけ本気を出して走った。大人と子供の歩幅なら、あっと言う間に差は着く。簡単に置いてきぼりになっていく少女が、まるで悔し紛れのように大声で叫んでいたが、その声もあっという間に遠のいた。
ギルド前に到着するころには姿は勿論、声も聞こえない。安心して中に入る。
水の国のギルドは全て同じ作りだった。右手に食事処、左手が待合スペース。正面にカウンターがあり、三つの窓口。窓口の一番右側には掲示板。二階へ上がる階段に至るまで。それは国境を変えても同じだった。ただし、異常なほど冒険者の数が少ない。ギルド内は閑散としていた。
慣れたように掲示板に移動し、その中からAランクの討伐でよさそうなものを二枚剥がし、カウンターへ。
「これを受けたい」
はい、と答えた女は、亜麻色の髪を一つにまとめた30過ぎの女。一瞬ギル達の醜さに顔を歪めたが、そこは受付嬢としてのプライドか、瞬時に微笑みの仮面を張り付けていた。これも初めて訪れたギルドではよくあった。それでもすぐにそういった視線は消える。自分達の実力さえ示せれば、冒険者達の視線はすぐに変わるのだ。冒険者は実力主義故に、実力がある人間は問答無用で尊敬される。
「冒険者カードの提示をお願いいたします」
「ああ」
名が売れ、顔が知られている冒険者ならば必要ないが、そうでないなら依頼を受ける資格を有しているか提示する義務がある。
ギルが金色の冒険者カードを取り出し、それを預かり、確認した女の目がカッと見ひらかれた。
「し、失礼いたしました! 『暁』の方々だったのですね?!」
ざわり、とギルド内がどよめく。
チーム「暁」それは今現在全冒険者ギルドの中で、最も熱い話題のチーム。僅か十日程でCランクになった。アーパスの難関ダンジョンを踏破した。というのが最も有名な話だが、それ以外にも魔物討伐関連で様々な噂が飛び交っている。そんな話題のチームが、まさかこのギルドに現れるとは夢にも思っていなかったのだろう。受付嬢は慌てて起立すると、三人にこの場で待っていてほしいと頭を下げ、直ぐに身をひるがえした。
受付嬢が慌ただしく二階へと消え、暫くすると、別な人物が姿をあらわす。
立派なローブを羽織り、モノクルをかけた50代の男。穏やかな笑みを浮かべているが、隙など微塵も感じない。できる、という表現が何よりも正しいだろう。
男は特に慌てることもなく、いたって普通の速度で階段を下りてきた。
「貴方方が噂の『暁』の方々ですね? 初めまして。私は当ギルドのギルドマスターを務めておりますグロムスと申します」
深々と下げられた頭。礼儀正しい名乗りに、一応ギル達も頭を下げ、名を名乗った。全員の名を確認し、自分の下へ回ってきた書類と一致していることを確認する。
「ディーノから聞いておりますよ。ダンジョンの話を聞きたかったのに逃げられた、と」
くすくすと可笑しそうに零される笑い声。それに、何の話か思い至ったギルが、そっと視線をそらした。その行動に、グロムスの言葉が嫌味で、原因がギルの行動であることに気づいたアオが、ああ、と声を上げた。自分が貧血で寝込んでいる時に訪れてきたアーパスのギルドマスターとの会話を思い出したのだ。アオの体調が良くなったらギルドに顔を出してほしいとかなんとか。そして、それを無視して自分達は出てきたのだ。
あーあれかぁ、と呟き、グロムスを見る。けして怒っているようには見えないが、微笑みの仮面に腹の中が隠され、わからない。
「ああ、別に怒っているわけではないのですよ。アレが少々ねちっこい愚痴を言ってきて鬱陶しかっただけですから」
「おお、怒ってる。これは腹黒認定しなければっ?!」
ごすりと落とされる拳。勿論ギルの。
無言の威圧に口を閉ざす。
「許してほしい」
「かまいませんとも。そんなことより、少しお願いしたいことがあるのです。少々よろしいでしょうか」
二階を示す。それにこの、多数の者がいる場所では話せない内容なのだと理解し、同時に、面倒事の気配を感じた。ギルに睨まれているので口は閉ざしているが、はっきりと顔をしかめ、嫌そうな雰囲気を出す。
「話を聞いて断れるなら構わないが」
「ええ、断ることは可能ですよ」
含みを持たせた言葉。即座に判断できる。聞いたうえで断れば、おそらく冒険者としての資格を剥奪されるのだ、と。現状で断れない、話を聞いても断れない。そういう面倒な状況。思わず全員で睨みつける。
「ああ、落ち着いてください。貴方達にも関係のある話です」
「?」
「……からまれませんでしたか? この都市に入ってすぐに」
それのことです、と言われれば即座に脳裏をよぎる少女の姿。メルルという名の、残念な駄々っ子。アオはずっと気配探知で位置を確認しているが、一度離れ、その場で過ごすこと暫く。今はこちらに向かってきている。
めんどくせぇ、と呟けば、何かを察したようなグロムス。苦笑を浮かべた。
「その面倒な関係なのですが、聞いていただけますか?」
「話を聞こう。だが、我々が何の役に立つのか皆目見当もつかないがな」
溜息。しかし、了承の言葉に、グロムスはすぐに三人を二階へといざなった。
二階には三部屋。そのうちの一部屋に通される。広くはない。6人で囲める程度の机と、椅子。小さな会議室のような部屋。
促されるまま席に着けば、直ぐに職員らしき女性がやってきて、目の前に紅茶の入ったカップを置く。どうぞと促されたそれは、鑑定結果、普通の紅茶。毒も何も入っていない。適温ですぐに口をつけられる。アールグレイのような味。普通、と評価を下しながら置いた。
「で、話は?」
「そうですね。早速お話ししましょう」
グロムスの視線が女に注がれ、女は一礼すると出ていく。女の足音が遠ざかるのを確認し、話し始めた。
内容は矢張り先程の少女の事。
少女の名はメルル。火の巫女。本来ならば誰もが敬い、膝をつく存在。だが、ギルドは違う。
冒険者ギルド、商人ギルド。これらは国とは独立した団体。その国に存在する以上、その国の法律には基本従うが、国が国民として徴兵等してはならないことになっている。ギルドの頂点は国王達と対等に話す権利を有しているのだ。当然、巫女達に頭を下げる必要はない。敬意を示すかどうかは登録者達の意思に任せている。揉め事さえ起こさなければギルドとしても問題視しない方針となっている。だが、メルルはそれが納得いかないのだ。
元は平民の中でも下層の出身。それゆえだろうか。自分に対し膝をつかないギルドを認めないのだ。職業が発現して以来、誰からも大切にされ、膝をつき、頭を下げられるのが当然の生活を手に入れた。巫女は王族でさえ一定の敬意を表する。自分より偉いのは神くらいのようなもの、という生活を手に入れたはず。自分が言えばどんなものでも手に入り、綺麗な服も、美味しい食事も食べられる。着替えも自分でする必要がない。国王だって自分に膝をつき、頭を下げ、お願いごとをする。そんな中、従わない存在。
子供の彼女にはいくらギルドが別枠の存在だと説明しても理解ができない。この世で一番偉いのは神。その次は自分と信じて疑わない。
「え? 馬鹿なのそいつ?」
「馬鹿なんすよ、そいつ」
「アオ、グズ。お前達は黙れ。ウチの馬鹿どもが失礼した」
「いえ、かまいませんとも。私もそう思っておりますから」
正直なアオとグズ。頭を押さえるギル。それににこやかに返すグロムス。
おい、という突っ込みは辛うじて飲み込んだ。
グロムスは更に説明を続ける。
そもそも何故ギルドが独立存在としていられるのかというと、商人ギルドは当然ながら商売の全ての権利を握っており、商人はギルドに登録して初めて商人として商品を売買できる。冒険者も勝手に戦利品を売りさばいてはならない。一度冒険者ギルドか商人ギルドを通して初めて、商品は流せるのだ。そこに手数料はかからない。
商人ギルドを怒らせると王や高位貴族でさえ物が手に入らなくなり、貧困にあえぐことになる。金はあっても物がなくなるのだ。無理矢理搾取する事もできるが、それをしてしまい、全ての商人が国から出て行っては、国そのものが物資不足で潰れてしまうのだ。他国の物資を運んでくれる商人ギルドは、国にとってとても大切な存在。庇護はすれども、けして害をなしてはいけない。
冒険者ギルドは簡単に言えば武力だ。それもかなり優秀な。Aチームも5つ揃えば王国騎士団さえ凌ぐと言われている。Sランクは1チームでそれ以上と言われている。そんな武力集団に何を以てモノが言えるのか。彼らという存在が魔物を狩ってくれているからこそ、騎士団は魔物狩りという余計な仕事に割かれることなく、国は全兵力を好きに動かせるのだ。戦争に冒険者を徴兵したいが、それをして、冒険者全員が他国へと流れたらとんでもないことになる。
何よりも、全女神がギルドへの手出しを禁止しているのだ。当然その理由は自国の弱体化を防ぐため。しかし、多くの人族は知らない。遥か過去の巫女がその身に神を降ろした時に宣言した。以来、王族たちに語り継がれている。王族たちだけが知り、法律として民に広めた。「両ギルドは国の括りには縛られない」と。それゆえ、両ギルドに所属した者は「土地を持たない王国の民」という意味の「夢幻王国の民」と自らを呼称する事を許可される。
「はぁ……で……我々が役に立つ、というのが解らないのだが」
「うん、話はこれからだ。君たちにはこれから秘密裏にある討伐依頼を受けてもらいたい」
長い前置きに疲れたようにため息を零すギル。アオもグズも既に夢の中に旅立っている。そんな二人に苦笑し、子供だから仕方ない、とグロムスはギルを見た。
「討伐対象はレッドドラゴン。本来ならSランクの討伐対象だけど、君たちならできるだろう?」
尋ねてはいるが、確信に満ちた声。しかし、とギルは眉根を寄せた。ドラゴンは魔族。同族を狩る趣味はない。
「それは、本当にドラゴンだったのか?」
「勿論違うよ。そんな伝説級、人では無理だ。調査の結果はゲオルギウスだった」
「あれか」
ゲオルギウス。朱色の鱗。長い尻尾と巨大な翼をもち、毒のブレスを吐き出す。凶暴なトカゲの魔物。しかし、ギルドでSランク討伐対象のレッドドラゴンはコレを指すらしい。ドラゴンのような見た目だから一緒でいいだろうという、なんともいい加減な話。Lv30という難易度の高さがまた、ドラゴン判定になるらしい。
かつて何度か遭遇し、倒しているギルからすれば脅威でさえない。グズでも一人で狩れる程度。
それを狩ればSランクの依頼を達成したことになり、前回のダンジョン踏破の際に、「暁」はルーキーだからSランクに上げるのは早い、と拒否した者達を黙らせることができる。というか、狩ってこられるのなら、Sランク認定しても良いという許可を取り付けてある。というわけで、ギル達には是が非でもこれを狩ってきてほしい。そして、Sランクに上げる。
Sランクに上がったことを内緒にして街中に放り出せば、あの巫女がからんでくる。そこで、Sランクに喧嘩を売ったことを非難するのだ。稀有な職業の少年が所属するSランク冒険者。それを怒らせた巫女。ギルドも大切なSランク冒険者を害したとなれば強く出られる。この国を出ていってやってもいいんだぞ、と。
非があるのは巫女。怒って国を出ていこうとしているSランク。Aではなく、Sだ。どこの国だって喜んで受け入れる。それにこの国のギルド全てが便乗できる。自分達だけ見捨てられることはない。それでせっかく手に入る予定のSランクにそっぽ向かれても仕方がないのだから。
「まぁ、私達がこの国を出ていくことになる前に、国が動いて巫女がその立場を危うくするでしょうがね」
にこりと笑ってのたまう男に、呆れたような視線を向ける。結局自分達はいいように使われるだけだ。それほどSランクというものに魅力を感じないというのに。受けても受けなくても困ったことになる。さて、どうしたものかと考えるが、良い案は浮かばない。それも仕方がない。本来ギルは交渉事に携わらない仕事をしているのだから。
「いいよ。受けよう」
「アオ?!」
いつの間に起きたのか、顔を上げたアオ。驚くが、じっと見つめられ、暫く無言の時が流れる。やがて沈黙を破ったのはギル。
深い溜息。
軽く上げられた手。
「わかった。お前がそういうのなら何か考えがあるんだろう」
「ん」
こく、と小さく頷く頭を撫で、グロムスへと向き直る。
「聞いての通りだ。その依頼、受けよう」
「助かるよ。それでは、今夜はこちらで宿を用意……」
「いらない。すぐ出る。なんだったら門まで送れ。あのバカに絡まれないような方法で」
リーダーはギルにも拘わらず、答えるのはアオ。困惑しつつもグロムスは承諾した。
「……後で説明しろよ」
席を立ち、グズを担ぎつつ小声で声をかければ、アオがにたり、と凶悪な笑みを浮かべた。




