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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
一章
14/51

14 死者の階



 40階を過ぎてからアオは微妙にストレスを感じていた。理由は単純。何故か「金糸雀」とかち合う事が増えたのだ。先に行かせても、後に行かせても、何故か先に進んだ「金糸雀」が戦闘しているところにかち合う。先に進むのは構わない。裏道や抜け道があるのは想定済みなのだから。だが、何故毎度戦闘シーンに遭遇し、必ずヘルプ要請を受けるのか。


 ダンジョンでのルールでは、基本、魔物は先に戦闘していた者の獲物である。しかし、ヘルプ要請を出した場合に限り、ドロップアイテムの権利は助けに入ったチームのものとなる。勿論ヘルプ要請は拒否しても構わない。だが、何故かギルが受けるのだ。


 41階の敵はアンデッド。スケルトン、グールが主に出現し、時折ヴァンパイアバットが群れで襲い掛かってくる。レベル的にそう高いモンスターではない。スケルトンがLv6。グールLv9。ヴァンパイアバットLv6。前の階に比べ、随分とレベルは下がるが、それでも前の階に比べ、難易度は格段に上がる。スケルトン、グールは動きは遅いが、体力防御力共に高く、また、普通の武器での攻撃ではダメージが通らない。通るのは聖なる加護を受けた武器か、特殊なスキルのみ。


 「金糸雀」は当然武器もスキルも持っている。この階層の敵への備えは万全だ。にも拘わらずヘルプ要請するのには理由がある。それは、武器と魔力の節約。加護のついた武器は強度が低い。先へ進むことを考えると、この階で使いたくない。そう、できれば、新しく挑戦する51階以降で使うことがある可能性を考えれば、41~49階のアンデッドに使いたくないのだ。


 アオはクレリック。癒しの力はアンデッドには猛毒にも等しく、蘇生の魔法は成功すれば一撃で浄化できる。「金糸雀」にとってアオは仲間ではない。使えるモノとして利用していた。勿論、ギルもそれに気づいている。それでもギルは応援要請を受け入れ、アオに指示をだす。


 ギルが言えばアオはそれに従う。それだけギルを信頼しているから。


 ギルも「金糸雀」を使って、アオにアンデッドとの戦いの経験値を積ませているのだ。それをアオも理解している。だからこそ文句は言わないが、言わない相手はギルだけであって、「金糸雀」には文句を言いたい。いいように使おうとするところもそうだが、わざわざアオ達の下まで魔物を引き連れてきたうえでの要請には、流石に思うところがある。しかし、彼らはモンスタートレインを起こしているわけではない。あくまでも「戦いながら移動していたら、偶々アオ達と出会った」のだ。これに関して文句を言うわけにはいかない。したがって、もやもやしたいら立ちが募り、アオのストレスになっているのだ。


 黙々と従ってはいるが、アンデッドではドロップアイテムがほぼない。レベルが低い相手なので経験値も入らない。うまみが全くない戦闘に、ストレスの限界値が振りきれそうなアオ。


「……そろそろ先へ行くか」


 48階へ到達すると、ぽつりとギルが呟いた。苦笑しながら見守っていたグズもそれに賛同する。


 「金糸雀」の中に、気配探知のスキル持ちがいるのはわかっている。普通に先行しても、すぐに居場所を特定され、回り道をされるだろう。「金糸雀」が敵の押し付けついでにアオ達の手の内を探ろうとしているのも分かっているので、アオ一人で戦わせていたのだが、そろそろ経験も十分積めた。お暇しても問題ない。「金糸雀」がおりてくる前に、床に向かって小瓶を投げつける。瓶が割れると同時に薄緑色の霧が立ち込めた。


「何、あれ」

「マジックアイテムだ。気配探知の効果を遮断する。アオ、こい」


 差し出された手に捕まれば、容易く担ぎ上げられた。肩に俵のように担がれるそれは、けして女の扱いでも、ましてや人間に対する扱いでもない。荷物に対する扱いだが、大人しくする。


「俺のスキル隠形を使い、一気に50階に到達する。喋るなよ? 舌をかむからな」


 隠形は気配探知にかからなくなる。初めから気配探知等で見つかっている場合は無効となる。なので、先に気配探知の効果を消すマジックアイテムを使用したのだ。本来は高価なものだが、ここでケチっても仕方がない。


「ん」


 ギルの宣言に短い返事で返せば、次の瞬間には景色が目まぐるしく変わる。といっても、ダンジョン内の壁はほぼ同じで、違いなんてアオにはわからない。ただ、壁が流れていくのが視認できる、という程度。すぐ後ろにはグズがなんてことない表情でついてきている。グズの姿を見れば、アオも走れそうだが、そうでもない。二人は魔族と魔獣。人族でついていくには、特殊な職業の特殊スキルがなければ不可能。当然アオは持っていないので、こうやって担がれることになったのだ。


 「金糸雀」の前では自分で思いついた言葉で詠唱していたが、本来は詠唱する必要のないアオ。無言で二人に能力向上Lv3(速度UP)をかける。体が軽くなる感覚に、いい判断だ、と心中称賛しつつも、ギルもグズも何も言わない。スキル・隠形中は会話が不可能なのだ。会話してしまうと効果が切れる。


 50階ボスモンスター前セーフルームでようやく二人は足を止めた。肩に担いでいたアオを降ろす。


「アオ、魔力の残量はどうだ?」


 ここに来るまでに複数回二人に能力向上Lv3をかけていた。勿論それで簡単にすり減るような魔力量でないことは知っているが、それでも普段とは違う状態で使用したのだ。もしかしたら余計な力が入り、魔力を無駄にしているかもしれないので、確認を含めた問いだ。しかし、アオは親指をたて、突き出す。


「余裕」

「んじゃ、いけるっすか? 相手はスケルトンジェネラルとリッチっすね。リッチはアオに任せるっすよ。アレは俺達じゃ骨がおれるっす」

「蘇生術を連続使用すれば楽に倒せる。しかし、使用頻度は極稀だが、リッチは即死魔法が使えるから気をつけろ」

「いや、即死魔法とかどうしろと?」

「即死魔法は発動前に潰せるっす。こー……リッチがかぱっと口を開けたら思いっきり殴るっすよ。それで潰せるっす」

「わかった……」


 あ、と口を開けて見せるグズに、無茶言うな、という言葉を飲み込み、頷く。無茶でもやらなければ経験にならない。二人がアオに任せるというなら、それは今のアオに命の危険なく、倒せる相手、ということなのだから。


 部屋へ突入する前に全員に能力向上L1~Lv3をかける。中へ入ると同時にグズがライトニングの魔法を放ち、スケルトンジェネラルの足止めをした。


 スケルトンジェネラルは2mほどの巨大なスケルトンで、黄金に輝く全身鎧フルプレートを着ていた。左手に、スケルトンジェネラルの半身ほどはありそうな盾。右手にはロングソード。スケルトンが持っていたようなボロボロに朽ちたものではなく、切れ味の鋭さを象徴するように輝いていた。振り下ろすだけで剣風が起こり、床が裂ける。しかし、ギルもグズもそれを軽々とよけ、グズがファイヤーボールを放つ。盾を構え、防御したスケルトンジェネラル。ファイヤーボールは盾に触れると小爆発を起こした。そして、その爆炎の中からギルが懐へと飛び込む。


 ギルの剣には加護がない。スケルトンジェネラルにダメージを与える事はない。それでも攻撃するのは訳がある。スケルトンジェネラルを覆うフルプレートをはがすのだ。そうしなければグズの魔法が通らない。剣で少しずつ鎧を壊し、剥がしていく。


 その隣ではアオがリッチ相手に戦っていた。飛んでくる魔法を躱し、蘇生魔法をかける。アオの覚えている蘇生魔法では一撃死は不可。蘇生魔法の途中で蘇生魔法を重ねがけして威力を底上げする。既に十回以上連続でかけているが、リッチは悠然と宙に浮いていた。


 骨の顔に僅かばかりの皮膚と、腐った肉が張り付いた、醜悪な顔。そして体を包む漆黒のローブ。いかにも死神然としたその姿は、まさにRPGでよく見かける死神。鎌でももたないかな、と考えつつ、飛んできた氷の魔法をよける。前転してすぐに立ちあがり、また蘇生魔法。


 鎧を剥ぐという作業をこなしながら、ギルはアオを見た。蘇生魔法をかける速度は速く、蘇生魔法の途中で更に蘇生魔法をかける。それは、普通には無理な技。例え魔族のように魔力の流れが見えたとしても、不可能なことをしていた。蘇生魔法とは、魔族でさえ、ごっそりと魔力を持っていかれる。しかも、現在アオが覚えているものは、成功率25%のもの。それを100%成功させながらかけ続けるなんて神業でしかない。


 無理をせず、相手の魔法の軌道を確認して、適切な回避行動をし、またすぐに蘇生魔法の嵐。教え子の素晴らしい動きに満足する。この調子ならすぐにでもリッチを倒せるだろうと判断し、こちらも早々に終わらせることを決める。


 ギルの本来の職業はアサシン。表立った戦いは得意ではない。闇に潜み、対象に気づかれることなく、死に至らしめる。スケルトンジェネラルよりも身長は高く、筋骨隆々。そんな見た目で剣士と名乗るせいか、つい本業を忘れてしまいそうになる。だが忘れてはいけない。彼の職業はアサシン。47階で使った隠形もアサシン固有スキルなのだから。


 すっとスケルトンジェネラルの影に隠れる。これもアサシン固有スキル影渡り。影に潜み、影から影へと移動する技。突然消えたギルに、スケルトンジェネラルが戸惑うように辺りを見渡した。それは隙。あまりに無防備なその姿に、もしもアオが一緒に戦っていたら笑っただろう、馬鹿じゃね、アイツ、と。しかし残念ながらアオはリッチと戦闘中。気づいていない。


 戸惑うスケルトンジェネラルの影から無数の刃が飛び出した。スキル・暗器乱舞。隠し持った暗器を投げるだけだが、無防備で巨大な的には威力は十分。暗器が鎧を次々に壊し、剥がす。丸裸になってしまえばこちらのもの。


「い~っくっすよ~~~、ほいっ!!」


 何とも間抜けな掛け声。しかし、次の瞬間、スケルトンジェネラルの身体が炎に覆われた。燃え盛る炎は先程のファイヤーボールとは異なるもの。纏わりつくようにスケルトンジェネラルの身体を覆い、もがき、振り払っても、消えることはない。


 声帯のないアンデッド。悲鳴を上げるように口を開けても声はない。声なき声で悲鳴を上げ、崩れさった。


 まっくろい消し炭になった、スケルトンジェネラルだったものの影からギルが姿を現す。塵を踏みしめ、投げた暗器を回収していく。


「相変わらずすごい量っすね~ダンナ。どこに普段入れてるんすか?」


 近寄ってきたグズが、大量の暗器を手品のように消していくギルに、不思議そうに問うが、ギルは軽く肩をすくめた。


「……それは言えんな。お前の嘘くさい魔法の威力と一緒でな」

「だーかーら! それは俺が魔獣だからっすよ! 魔獣の特性っす」

「グ。お前が普通の魔獣ではないことぐらい疾うに知ってるぞ。……まぁいい。よくやった」


 ぽん、と頭を撫でる。


 スケルトンジェネラルに復活の気配はない。後はアオが終わればこの階は終了だ。ギルが視線を向ければ、丁度、リッチが苦悶の表情を浮かべながら、光に飲み込まれていくところだった。いつも通りまばゆい光。それがゆっくりと集約し、金色の宝箱へと姿を変えた。


次回更新予定日は2018/08/20(月)です。

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