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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
一章
12/51

12 お父さん

どなたか存じませんが、ブックマークありがとうございます!

ただ、申し訳ありません。遅執故、次回から更新は月木の予定です。




 短剣片手に歩くクレリックそれはとても異様な光景だろう。その職業なら手に持つのは杖であるべきだ。間違っても刃物をふるい、敵をなぎ倒す職業ではない。にも拘わらず、進んで前へ突出し、短剣をふるっていた。


 仲間である、本来前衛である剣士は、後衛の魔法使いと談笑している。まるで手伝う気配がないが、クレリックの少年は気にしていない。ボアジェネラルと呼ばれる、兜を被った巨大猪を一人、黙々と狩っていた。


 兜と牙という凶器をぶら下げて突進してくるボアジェネラル。ひらりと躱し、すれ違いざまに胴体へ一撃。硬い皮をものともせず、勢いに短剣を持っていかれることもない。


 まるで作業のようにこなす彼の心境はただ一つ。「肉、落とせ」


 ボアジェネラル。Lv9。まさしく猪に似た肉を落とす。そう聞いてから、どうしても猪肉が食べたいと狩り始めた。肉には飽きたが、それはあくまでも鶏肉。そう、彼らが食べた肉はコカトリスのような鶏系の魔物が基本。その他にも蛇やカエルといった、鶏に似た肉ばかりだった。魚が望めないなら、せめて違う種類の肉を、となるのも当然だろう。しかし、今現在、肉のドロップはない。既に30体程狩っているにも関わらず。本来ならば肉のドロップ率が最も高い。だが、現在ドロップされたのは、牙10、兜15、毛皮5。ドロップ率では毛皮が最も低確率。次いで牙だ。この異常なドロップ率は、実は少年の幸運値に由来しているのだが、誰も気づいていない。それどころか、肉がレアだと思っているくらいだ。


「や~落ちないっすね~」

「落ちないな。まぁ、アオのレベルが上がるだろうからいいか」

「そっすねー」


 基本的にレベルが上がる方法は戦闘。敵を倒すことが一番経験値を得る。しかし、アオはクレリック。敵を倒すのではなく、味方を癒す職業。当然、攻撃手段を持たないのが通常。パーティーの後衛に組み込まれ、他の者が倒した時に恩恵でもらえる微々たる経験値を稼ぎ、レベルを上げていくのだ。それが定石だというのに、戦士と魔法使いを待機させ、自ら戦うクレリック。戦いなれたその姿は、誰がどう見てもそんな馬鹿な、という話。


 倒してはドロップ品に舌打ちして、次を探し出しては狩る。


「あー……飽きた!! ギル、グズ! 手伝ってくれ! 三人で狩った方が早そうだ!」

「お前のレベル次第だな。今どこまで上がった?」

「12だ。全然経験値が入っている気配がない」

「ふむ……まぁ、そうだな。レベル差も開いてきたし、20階層でボスを倒し、下でレベル上げする方が効率がいいな。とりあえずスキルはどうなった?」


 言われ、己のステータスを今一度確認する。


 高速剣(一振りに見えるが、実際には10振りもの攻撃を繰り出す剣技)

 治癒Lv3(高位ポーションと同じ)


 増えたスキルを確認し、クレリックに必要ない高速剣を隠蔽してもらう。


「次のレベルから未知なんだよね?」

「ああ。自分のレベルには注意しといて欲しい」

「了解。じゃ、猪狩ろう。猪肉猪肉」


 腕をぐるんぐるんと回し、気合十分なアオ。その姿に苦笑しつつ、とりあえず、先の角から姿を現したジェネラルボアを一閃。容易く倒すと、その後にころりと落ちる肉。思わず時が止まった。レアだと思っていた肉が、一発で出たその事実に、誰もが動きを止める。ふよふよと浮いている肉に、はっとしたようにアオが近寄り、収納した。


 ドロップアイテムは一定時間経過すると消失してしまうのだ。迅速に拾うのが鉄則である。


 何とも言えない空気の中、次に現れたジェネラルボアを、グズが魔法一撃で倒す。と、ドロップアイテムはまたも肉。非常に微妙な空気出しつつ、アオがそれを回収する。その後、ギルとグズで13体ほど倒し、ボスモンスター前のセーフルームに到着したが、ドロップアイテムは全て肉だった。何時間も狩り続けて一度もでなかった肉。ここにきて、三人は確信する。肉はレアドロップではない、と。


「……うん、あれだ。物欲センサーってやつだ」

「ブツヨクセンサー?」

「うん。物欲センサー。欲しいと念じて狩ると、欲しいものがドロップしないことを言うんだ」


 元の世界で一時期一生懸命やっていた、某狩人ゲームを思い出す。装備を造るため、必死に素材を集めた懐かしき日々。いくら指定の部位破壊をしても、ドロップ率もそんなに悪くないのに出なかった。むしろ、もっとレアな、けれども自分の希望装備には要らないレア素材が落ち、それじゃない! そう何度吠えた事か。


 朝から晩まで張り付いて、ようやく落ちたときのあの感動。懐かしいなぁ、と思わず現実逃避し、自分の運の悪さから目を背ける。実際は、幸運値が高すぎて、レア素材が落ちていただけなのだが。


 対するギル達は成程、と頷く。確かに肉が欲しいと言ったのはアオ。ギル達は別段欲しいとは思っていなかった。アオの言葉に信憑性が増す。


「相変わらず余裕だね」


 突然かかった声に顔を向ければ一人の青年。綺麗な金髪は、薄暗いダンジョンの中でも相変わらず輝き、瞳も星のように煌めいていた。どこにも乱れがなく、容易くこの場所まで来たのだとわかる。


 エドワード。Aランク冒険者「金糸雀」のチームリーダー、エドワード・クライム。ギル達のすぐ後に入った彼らは、現在のダンジョンマップを持っているため、ギル達より先にここまで到達していた。


「次が20階層。ボス部屋なのに、元気だねぇ」

「まぁ余裕だったっすから~」


 へらへらと笑うグズに、そうだろうとも、とエドワードは納得する。実はエドワードは、19階で戦う三人を見た。というか、一生懸命猪肉狩りをしているアオを見た。クレリックが一人でボアジェネラルを次々狩っているようなチームだ。ここまでの道中、実に雑魚ばかりでつまらなかっただろう、と想像するに易い。同じく後衛であるバードの自分に、同じ事をしろと言われたら即座に断るだろう。例え勝てそうな魔物でもお断りだ。


 エドワードはLv18。メンバーの中では一番低い。他のメンバーは平均24だが、自分が一人でチームのレベルを下げているという自覚はある――だからこそ、リーダーに相応しくあるよう、常に己のスキルを鍛えているのだが――その甲斐もあって、レベルが低くとも、誰よりも的確な戦闘ができる。スキルを使い、味方を強化し、敵を弱体化させ、的確な指示で前衛をサポートする。それがエドワードの役目。そして、だからこそ、戦えなくともメンバーに信頼されているのだ。


「どうした? 先に誰か入っているのか?」

「いや。僕たちは今日はここでキャンプするんだ。もう結構いい時間だからね」


 エドワードの手には不思議な時計。通常の時計の下に、群青色のラインが入っていた。時計の針は9時を示している。


 彼が持っている時計は、外の時間を表す特殊な時計。ラインの色で、今が朝なのか昼なのかを判断する。朱色の時は朝。水色の時が昼。群青色なら夜。つまり、今は夜の9時。


 時計も持っていなければ、何となく、という曖昧な感覚で休憩していたギル達は、自分達の準備の足りなさを改めて知る。思ったよりダンジョン攻略には準備しなければならないものがあるらしい。と反省した。


「俺達も休憩するか……」


 ぐぅ、とアオの腹が鳴った。そういえば今日は、アオが延々猪狩りをしていた為昼の休憩がなく、朝起きた時に一度、パンを食べたきりだった、とその時ようやく思い出す。つられたようにグズの腹も鳴った。だが、揃って顔をしかめた。アオ達の目の前には「金糸雀」がいる。スキル・ストレージを使用して、シズカの料理を取り出すことができない。そうなると、自分達で調理しなくてはならないが、彼らは誰も調理できず、調味料も所持していない。そうなると、ただ焼いただけ、または、煮ただけの肉や野菜を食べるしかない。


 あからさまに食事をしたくなさそうな様子に、思わず首を傾げるエドワード。ダンジョン内では食事はとれるときにとっておくものだ。そうでなければ次、セーフルームを見つけるまで、落ち着いて食事することは不可能なのだから。それは特に深い階層へ行けば行くほど顕著になる。


「また、焼いただけっすか……」

「まずい……」

「いうな。俺達が料理できないのが悪いんだ」

「……良かったら、僕らと食べるかい? ウチの騎士の料理はそこらの料亭に負けないよ」


 苦笑しながら誘えば、瞬時に反応したのはアオ。無言でエドワードの右手を両手でつかみ、上下にぶんぶんと振り回す。熱烈な歓迎っぷりに、今までどんな食事をしてたんだ、とか、年相応に子供っぽくて可愛いじゃないか、とか、色々な思いがよぎり、思わず笑ってしまった。慌てて笑いをひっこめ、失礼な態度だっただろうか、と顔色を伺えば、グズとアオはきらきらと期待に目を輝かせ、エドワードを見ていた。唯一の大人であろうギルはそんな二人に困ったように頭をかいている。


 やんちゃ坊主二人とそれに手を焼く親、と言った姿にまた笑いがこぼれた。


「おいでよ。僕のチームをちゃんと紹介するよ」

「なんだか申し訳ないな」

「かまわないさ。ああ、ただ、もし食材を持っているなら出してほしいな。一応、ダンジョンでの食料は貴重だか……」


 全て言い終える前に目の前に差し出された肉の塊。いつの間に手をほどいたのか、アオが両手で肉を掲げ、どうみてもははーっと言わんばかりの献上ポーズで差し出していた。


「こら、アオ! 流石にその渡し方は……!」

「肉! 猪肉! あと、恨野菜が少しある!」

「う、うん、わかった。とりあえず、ディグルに渡してもらっていいかな? 料理をするのは彼だから……」

「ディグル? 誰だ?」


 きらきらを通り越し、ぎらぎらとした目で見つめるアオに、少々怖い、と引きながら、キャンプの設置をした場所で、かまどに鍋を置いている青年を指さす。と、生肉をもって走り出そうとしたアオの首根っこをギルが捕まえた。首が締まり、ぐぇ、と声を上げるアオ。それでも行きたそうにじたばたと足を動かしている。


「大変ですね、お父さん……」

「い、いや、俺は別にこいつらの親では……」


 そもそも独り身だ、と続け、困惑した表情を浮かべるギルに、何となく安堵する。普通の男だ、と。突然Lv20で冒険者登録をした大男。どんな人物か探るためにダンジョン前で声をかけた。ギルドで噂のルーキー達がこの都市にやってくる、と聞いた時からダンジョンに潜らず待っていた。最低でもあと7日はかかるかと思っていたが、異質なルーキー達は異様な速さでこのアーパスにやってきた。しかし、その後7日間、何故かギルドで依頼をこなしていた。ダンジョンには潜らないのだろうか? と思っていたが、ギルドや酒場で情報を収集するグズに、馬鹿ではないらしい、と評価する。一度グズに接触してみようかとも思ったが、なんだか恰好悪い。それに手間だ、と全員と一度に接触する方針に決めた。


 ダンジョン前では警戒され、大した情報は得られなかったが、あれはきっと人目もあったからだろうと判断する。今得た情報で、やはり子供二人は見た目通り子供で、ギルは子供をメンバーに加えて苦労する保護者的な存在。問題はどういった繋がりがあるのか、というところだろう。


 グズとアオは、まぁそこそこ年も近そうに見える。二人ともに20歳になっていないだろう。それに対しギルは倍以上の年齢に見える。グズとアオがもともと友人同士だったとしても、ギルの存在は謎だ。気にはなるが、冒険者の暗黙のルールで他人への詮索はご法度とされているので、面と向かって聞くことはできない。さて、どうやって聞き出そうか、などと考えつつ、3人をキャンプへ案内する。


 経緯を説明し、3人が一緒に夕食を食べることを伝えるが、特に異論はなかった。チームのメンバーもこの3人に興味があるから当然だ。アオが生肉を差し出し、更にアイテムボックス――本当はストレージ――から少し萎びた人参とジャガイモを4つずつ差し出す。


「足りるか? もっと?」

「いえ、十分ですよ。……そうですね、水とかもありますか?」

「ある。どこにどれだけ出せばいい?」

「この鍋の半分くらいがとりあえず欲しいのですが」

「わかった」


 途端、ざばっと音がし、鍋に水が半分ほど入れられた。随分乱暴にアイテムボックスに突っ込んでいるようだ、と思わずあきれる。


 会話を聞いたり、したりしながら三人の性格を分類すると、ギルが真面目。グズが子供特有の生意気。アオががさつでものぐさ。といったところだろうな、と瞬時に判断できるし、間違っていないだろうという確信がある。


 少々食い意地が張っているらしいアオは、料理が上手な騎士ディグルを、神でも見るような目で見ている。自分の作った料理を嬉しそうに頬張る少年の姿に、ディグルも嬉しそうにアオと会話していた。


 少年らしく物怖じしないグズは他のメンバーにすぐに馴染み、色々と雑談をしている。


 そんな二人を相変わらず困ったように見ているギル。


「アオ、グズ! そろそろキャンプの準備だ。いつまでも他人の邪魔をするな! あとアオはいつまで食べているんだ! あの鍋の余りを全部食い尽くす気か!」

「大丈夫。ディグルの料理は美味しいからまだはいる!」

「入れるな阿呆!!」


 ごん、と鈍い音。ギルの拳がアオの頭に落ちた音だ。しかし、当のアオは気にせず、もりもりと食べている。その姿には一種の感心さえ覚えるが、ギルの苦労も偲ばれ、見つめる目は随分と生暖かいものになってしまった。


「大変ですね、お父さん……」


 思わず口をついて出た言葉に、メンバー全員が同じような目をしながら頷く。それに便乗し、からかうように同じ言葉を笑顔でのたまったアオとグズに、ギルの鉄拳が落ちたのは言うまでもない。


次回更新予定日は2018/08/13(月)です。

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