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ありきたり異世界遊戯  作者: 猫田 トド
一章
11/51

11 初ダンジョン



 松明が所々に灯された、人が五人は並んで歩けそうな広さの通路を歩く。壁も床も天井も石造りで、ひんやりとした空気が流れているが、そこかしこを挑戦者たちが歩いていて、人口密度の高さのせいか、あまり涼しくは感じない。


 ここはダンジョン1階。流石に人で溢れ、少し広い室内のそこここで、誰かが魔物と戦っていた。Lv1の魔物とはいえ、大量に沸いてくれば脅威。この一階層は雑魚モンスターが徒党を組んで襲ってくる。しかし所詮一階。ドロップアイテムはたかが知れている。ギル達が欲しいのは下層のドロップアイテム。襲い掛かってくる魔物以外はまるっと無視して先へ進む。人数の多い場所での探索は無意味なので、室内探索等はしない。宝箱があったとしても、とうに誰かが獲りつくしている。


 節約のため、アオ達は地図を買っていない。多少時間はかかるだろうが、このあたりの魔物、ギルにかかれば紙屑。サクサク切り捨てながら先へ進む。因みに、最後尾のアオが、一応ドロップアイテムで肉が出たらそっと回収していた。


 食料はシズカのおかげで大量にあるが、人前で出すとアイテムボックスではない事がばれてしまう恐れがあるので、ここで手に入れた肉をカモフラージュ兼、次シズカに依頼するとき用の食材として回収している。


 歩き回ること1時間。ようやく下階へ続く階段を見つけた。ギルが先を確認し、降りていく。グズとアオはその後に続く。勿論、2階だろうと、余程の不意打ちでない限り、アオ達がどうこうなることはない。しかし、それでも万が一を考え、常にギルが先行していた。そこはギルの方がエキスパートだし、アオとしても問題ない。素直にギルを頼る。


 2階もまだ通路には松明がかけられ、そこここで冒険者達が戦闘している。


 グズがギルドで集めてきた情報によると、1~5までの階層はLv1のモンスターがうじゃうじゃ沸くだけ。レベル上げや、経験を積むための冒険者で溢れている。6~9はLv2のモンスターが大体3~5体の塊で襲ってくる。Cランクになりたての冒険者の修行の聖地と言われている。10階のボスモンスターはクレイゴーレム。身長180㎝程の泥人形10体と、身長3mほどの泥人形1体の11体。180㎝のクレイゴーレムは、3mのクレイゴーレムを倒さない限り、無限沸きをするらしい。


 クレイゴーレムは人間の心臓と同じ位置に核をもっており、核を破壊すれば倒せる。Lv3の雑魚。一体ならDランク冒険者一人でもなんとか倒せるだろう。だが、彼らの恐ろしいところは、複数体いれば陣形を組み、実に合理的な手法で攻撃してくるのだ。それをいかに掻い潜って、3mのクレイゴーレムの核を破壊するかがポイントとなるだろう。


 しかし、正直クレイゴーレムに興味はない。大人しくギルが並んでいるのを横目に、アオは待機列の先頭へと向かう。先頭には若い男女5人のパーティ。


「すまない、ちょっと相談があるんだが……」

「?」


 突然話しかけてきたアオに、警戒する5人。そういえば、無暗に近寄るな、というルールがあったな、と思い出しつつ、アオは提案する。


「君たちが入る時、私たちのパーティも一緒に入らせてくれないか?」


 提案に驚いた5人。しかし、アオの話を聞き、一も二もなく頷いた。すぐにアオはギル達を手招く。


 アオの提案は、5人が入る時一緒にボス部屋に入りたい、というもの。本来なら喧嘩になりそうな提案だが、今回ばかりは違った。


 アオ達は下の階に行きたいだけ。クレイゴーレムのドロップ品には興味がない。クレイゴーレムのドロップ品は丸ごと5人のものとする。そして、アオ達は基本戦いには参加しない。だが、アオは治癒魔法が使える。もしも中に一緒に入れてくれるなら、時折治癒支援をしよう、というもの。


 戦いにおいて回復支援というものは非常に気を遣う。特にこの世界での基本的な回復手段は、薬草、ポーション。5人の中にもヒーラーやクレリックはいない。当然その二種類の回復手段しかない。しかし、薬草やポーションは高価。できるだけ使いたくない。アオの申し出はありがたい話。一応、指先に小さな切り傷をつくり、本当にアオが治癒術を使えるか確認したうえで、諾の答えを返した。


 5人は「黒き疾風」というチームで、リーダーが戦士のゼンバス。明るい茶色の髪を短く刈った好青年。その他に狩人のティルス。こちらは細身の青年で、優し気な表情が印象的だ。重騎士のアグリオ。ギルよりはましだが、なかなか精悍な顔立ちのずんぐりむっくりとした体格の青年。そして魔法使いが双子のリルルとミルル。美しい顔立ちと、長い耳に、彼女たちがエルフだとすぐにわかる。


 アオ達も最低限の自己紹介をし、時間になったとき、一緒に部屋に入った。


 部屋の中には11体のクレイゴーレム。まず、ティルスが弓で10体のクレイゴーレムを牽制しつつ、アグリオが最前に立ち、ブロックする。足止めされたクレイゴーレムをリルルとミルルが息の合った魔法で、次々と倒していく。なかなか良いチームワークだが、リルルとミルルがようやく半分を倒す頃に、最初に倒したクレイゴーレム分が復活し、一進一退を繰り返していた。攻撃の殆どをアグリオが受け、そのアグリオを、様子を見ながらアオが癒すので、ゼンバス達には余裕がある。しかし、なかなかゼンバスが3mのクレイゴーレムの下までたどり着けない。


 後ろで見ていたジルとグズ。二人は、リルルとミルルの魔力残量が、クレイゴーレムを倒すよりも早く尽きる事を理解していた。リルルとミルルの魔力が切れてしまえば、形勢は一気にクレイゴーレム側へと傾くだろう。要するに、この5人はまだ、ここに挑戦するほどの力量がない。


「……手伝いはいるか?」

「俺が手前のクレイゴーレム、残りの奴まとめて潰せるっすよ~」


 さっさと下に降りたいので助け船を出すことにする。このままではリルルとミルルの魔力が切れ、全滅の恐れもあり、まさにわたり船。ゼンバスは申し出を即座に受けた。


 一歩前に出たグズが、何か口の中でごにょごにょと呟いた次の瞬間、ごぅ、と音を立てて突風が吹き荒れる。竜巻のような渦を巻いた風は、3mのクレイゴーレムの前に立ちはだかる全てのクレイゴーレムを飲み込み、高々と持ち上げ、その眼前から取り払う。遠くへ吹き飛ばされた姿を見るや否や、ゼンバスはアグリオの後ろから飛び出し、3mのクレイゴーレムへと駆けた。


 手前で一気に跳躍し、心臓のあたりに剣を突き立てる。渾身の一振りは、見事クレイゴーレムの核を貫いた。途端、糸の切れた人形のように崩れ落ち、ついで、手足はバラバラに朽ちていく。そして、カッと光に飲み込まれた。光が消えればそこには木製の宝箱。


 ゴォォン、と響く音に顔を上げれば、先へ続く扉が開いた。扉の先に地上へ戻る魔法陣と、下へ降りる階段がある。


 9階層に戻る方への扉は開かない。ボスモンスターが新しくポップするまで、この部屋へは立ち入れないのだ。しかし、アオ達は進むのだから問題ない。


「では俺達は先に行くぞ」

「ん」

「りょーかいっす」

「あ、あの!」


 さっさと下のフロアへ行こうとするギル達に、慌てて声をかける。まさか声をかけられると思っていなかったギル達は足を止め、怪訝そうにゼンバス達をふりかえった。その顔には何の用だ、とありありと浮かんでいる。しかし、呼び止めたゼンバスの顔に浮かぶのは困惑。


「あ、ありがとう。俺達じゃまだこのボスモンスターは早すぎた……。アンタ達のおかげで生き残れたよ……」

「……。気にするな。挑戦することは良いことだ。だが、己を過信するのも、常に同じ戦術だけをとるのもあまりよくはないな」

「ああ。それは今、思い知ったよ。俺達は一度地上に戻り、もう一度上の階層で色々な戦術を試してみる。今回は本当にありがとう」

「ああ。では、な」


 正直ギル達にとって、ゼンバス達はどうでもよい存在。わざわざ意思表明されたところで、何故こいつらは自分達に言うのだろう、という思いしかわかない。それでも、無用に評価を落としたり、敵対するような真似は避けるべきだろう、と強者らしく、傲りなく対応する。それにゼンバスは神妙な顔で頷き、ギルの忠告を胸に刻んでいた。その姿に、とりあえず及第点はあったのだろうと一人満足するギル。


 軽く手を上げ、ギルたちは下へと続く階段へ。ゼンバス達は地上へ戻る魔法陣へと足を踏み入れた。


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