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たつきとかなた  作者: たっくん
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 白色はくしょくの石畳を亀のような足取りで一歩一歩進んで行く。すでに人だかりが出来ており、普段は闇に閉ざされている神社も今宵ばかりは煌々と明かりを灯し、ここに訪れる人々を歓迎しているように感じる。辺りには出店がある。焼きそばにじゃがバター、リンゴ飴に綿あめ。なんだか、去年の夏の花火大会を思い返す。お互いにビールを一本づつ持ち、出店で適当におつまみを買い、花火大会の会場まで夕陽を眺めながら歩いたあの光景。それを寒い冬の日に感じるのも何だか新鮮な気持ちだ。おお、もつ煮込みや年越しそばまで出ている。境内の中に入ると無料で甘酒を振舞っていたので、一つもらって彼女とちびちび飲み、吐く息が白いよ、と初詣する行列に並びながらじゃれ合う。

 あと数十分でいよいよ一年が終わる。そして、新しい一年を迎える。こうやって一つづつ年を取っていく。けれど、その一年一年は大切な人と同じ時間を過ごせている。そのことが何よりも幸せであると心底思う。そんなことを思う自分が何とも年より染みていることに少し笑えてくる。あと何年僕等は生きるのだろう。キスもセックスも生きているうちに何度するのだろう。すでに数えきれないほど重ねてきた唇も体も、まだまだ激しく君を求めるだろう。きっと、更に数えきれないくらい重なり合うのだろう。

 「満月が綺麗だね~」

 彼女の言葉を耳にして空を見上げる。同時に参拝に並ぶたくさんの人たちも一様に空を見上げているのが見えた。今日の夜空は格別に綺麗だ。素直にそう思う。特に星が輝いているわけでもなく、ロマンチックな雰囲気があるわけでもない。おそらく、非日常的なこの空気がそう思わせているのだろう。長く伸びる行列に目線を戻し後ろを振り返る。僕らが並んだときよりも更に行列は長くなっていた。

 「ねえ? 何を願う?」

 彼女が両手に温かな息を吹き込みながら聞いてくる。

 「う~ん。やっぱり健康かな~」

 「それ、願いじゃなくない? そんなの毎日気を付けていればいいことだよ」

 「確かに、言われてみればそうだね。別の願いを考えなきゃな」

 本当は健康を祈願するわけではない。もっと別の、もっと大切なことを祈願するのだ。

 「あっそうだ!」忘れていたことを思い出す。

 「どうしたの?」

 年を越す前に言わなきゃいけないことを忘れていた。

 「奏多、誕生日おめでとう」

 「あー、やっと言ってくれた。少し悲しかったんだからね。言ってくれないから。言わなかったら後でぶっ飛ばそうと思ってたよ」

 「忘れていたわけじゃないよ。本当に」

 ありがとう、彼女が微笑んで耳元でお礼の言葉を言ってくれた直後、突然、どこからか数字をカウントし始める声が聞こえてきた。

 十五・・・・・・十四・・・・・・十三・・・・・・

 「カウントダウンだね」

 彼女が気付き、刹那、僕も気付く。そして、カウントダウンは大勢の声でこだまし始める。

 五・・・・・・四・・・・・・三・・・・・・二・・・・・・一・・・・・・

 『ハッピーニューイヤー!!!』

 この場にいる全員が嬉々として声を上げて新年の祝福をした。例外に漏れず僕と彼女も「ハッピーニューイヤー」と声を上げて微笑みあった。

 「今年もよろしくお願いします」と僕が彼女に頭を下げる。

 「今年もよろしくお願いします」と彼女が僕に頭を下げる。

 そして、また、二人で見つめあい微笑みあい、除夜の鐘を聞きながら新年を祝った。

 行列が一歩、また一歩と賽銭箱に近づいていき、やがて僕と彼女の番になった。「何を願う?」さっきの彼女の声を思い出す。願いは健康じゃない。願うのは・・・・・・

 『いつまでも奏多と幸せでありますように』



 けれど、この願いが叶うことはなかった。

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