幸せな日常
とある春の日。
私は学校の友達と一緒にアイスを食べていた。
まだ4月の中旬に入ったばかりで、さくらがやっと葉桜になったころだから気温もそこまで高くはない。みんなでさむいさむい、と文句を言いながら食べる。
「さむい、だれよ、こんな寒い日にアイス食べるっていったの」
「わたしー。おいしいじゃん」
「あ、そのアイスおいしそう。一口くれる?」
「プリン味?なにそれ、おいしいの?」
とりとめのない、それこそ一週間後には何を話していたかも忘れるようなことを話した。アイスにプリン味はゆるせない、だの数学の田島先生の機嫌がわるかったのは、あみが目の前で寝ていたから、などといいつつみんな楽しそうに、言い合った。
「幸せだなぁ」
私は思わず、そうつぶやいた。それは心から感じたことで誰に言うっていうよりは思ったことが口からすべりでていく感じだった。
「何、急にどうしたの?」
そう、みんなに笑われて。
私も確かに、って言って笑った。
「あ、ここ」
あれから何年かたって、わたしは一人で母校にきていた。その帰りに偶然みつけた場所。そこからあの頃の笑い声がきこえてきそうで、わたしはふいに泣きそうになった。
あの頃は、みんな何も考えないで、みんな一緒で、幼かった。
幸せな日常が明日も続くと信じていた。いや、信じていたのではない。卒業したらバラバラになると知っていてもその幼さ故に気が付かないふりをしていた。
気が付かないふりをして、見ないふりをしてわたしたちは制限時間のある当たり前の日常をおくっていた。
そうして、卒業してから気が付くのだ。
見ないふりをしていた制限時間は、いつか来てしまってみんなそれぞれバラバラになっていまうのだと。
卒業してからも会おうね!などと言い合っていても、新しい日常がはじまってしまえば前の友達どころではなくなってしまう。それは相手に対して不義理にしているのではなくて生きるのに精いっぱいなだけで誰も悪くはない。
しかしながら、お互いに新しい生活に慣れてきたころには、前の友達と会っても昔のようには会えなくなってしまっている。
それぞれ周りの環境が違う、頑張っていることが違う、となってしまうと、昔の友達とは話すことがあまりなくなってしまう。昔の思い出話だけでは間がもたなくなってしまい、だんだんと昔は同じだった感じることも考えることも変わっていってしまう。
そしていつしか、会わなくなってしまう。連絡を取らなくなってしまうのだ。
気が付きたくなかったけど、まぎれもない事実で。誰も悪くないけれど、とても寂しい。
私はそこまで考えて、わたしはあの頃よく食べていたアイスを久しぶりに食べてみた。
味は変わっていないはずなのに、昔よりあまりおいしくはないような気がした。
読んでくださりありがとうございました。
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誤字・脱字等ありましたら、教えていただけると幸いです。