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ドラゴンデイズ

竜が飛ぶ月曜日

作者: ねこしお

タイトルとあらすじは後で変更するかもしれません

 上京して早二年。


「向いてないのかな……」


 高校の選択授業でやった演劇が思いの外面白く、俳優を目指して田舎から東京まで来たが。


「またダメだったら、田舎に帰るか……」


 こないだのオーディションで13連敗。

 目下記録更新中だ。


 実家の酒屋を継ぐべきなのかな。

 早朝のスクランブル交差点でアルバイトの待機中、考えることはそんなことばかりだった。

 白んでくる空に前回のオーディションがフラッシュバックする。


『う〜ん、顔はまあまあなんだけど、演技が暑苦しいんだよね、君』


 全力の演技をと言われたはずなのだが、オーバーだっただろうか?

 暑苦しいとは?


「はぁ……」


 ちらほらとスーツ姿の人々が見え始めた頃、それは現れた。


 それは咆哮だった。

 地の底から体を震わせる。

 全身の毛穴という毛穴が総毛立つ。


 誰かが指をさした。

 空高く、ビルの隙間から見えたその巨体は朝日に照らされ、逆光となって影を落とす。


「ドラゴン……」


 ファンタジーで見る翼の生えたデカいトカゲ。

 しかし、今は神々しさすらある。


 翼をはためかせ、地上に降り立つ。

 東京に来たばかりの頃、高いビルを見上げて驚いたものだが、今そのビルに肩を並べる生物がいる。

 着地の衝撃でアスファルトが剥がれ噴煙が上がる。


 足が、いや全身が恐怖で凍りつく。


 その巨体とは裏腹に素早い挙動でこちらに向かってくる。


 は、速い!


 途中、進路上にあった車をなぎ飛ばす。

 空高く舞った車が目の前に落ちて炎上した。


 まるでハリウッド映画でも見ているようで、それまでの恐怖が嘘のようにひいた。

 しかし燃える車の熱でチリチリと焼ける肌が現実へと引き戻す。


「逃げろっ!!」


 誰かが言った。

 いや、自分だったかもしれない。


 とにかく走り出した。

 しかしすでにかなりの人が集まっていて思うようにいかない。


 きゃっ


 近くで小さく悲鳴が聞こえた。

 靴が片方脱げたOL風の女性がつまずいていた。


 今は構ってるときじゃない。

 逃げるんだ。


「クソッ」


 俺は女性に駆けよって手を取る。


「立って! いそいで!」


 ドラゴンはもうそこまで来ていた。

 女性は恐怖に顔がこわばっている。

 世界の全てが止まったような感覚に襲われる。

 まるでスローモーションのように、そうまるで走馬灯のように。


 振り返るとドラゴンの顔が目の前にあった。

 鋭い牙の間からは炎の吐息が漏れていた。


 もうダメだ。


 俺は女性に覆いかぶさった。


 せめて、この人だけでも。


「カットー!」

「はーい、お疲れ様ですー」


 呆然とする俺にカジュアルな格好の男が小走りに近づいてくる。


「いやー、いい演技だったよ。監督も珍しく興奮してたし」

「あ、いや」

「君どこの事務所? あとで連絡先教えて」


「はーい、じゃあ撤収ー」


 男は軽い足取りでドラゴンの方へ駆けよっていった。


 何がどうなってんだ?

 もしかして、エキストラのバイトって……


「あの、ありがとうございました」


 見ると、つまずいた女性がこちらに頭を下げていた。


「撮影してるのにつまづいちゃって、もうどうしようかと焦っちゃいました。一発撮りだって聞いてたから私のせいで撮り直しになったらどうしようって」


「えっ!? いや…… ちょっとくらいならアドリブみたいなもんだし……」


 女性の言葉に混乱しながらも反射的に答えていた。


「そっか、アドリブか」


 まだ混乱から抜け出せない俺は、先ほど駆けよって来た男を探す。

 その男はドラゴンに気さくに話しかけていた。

 さっきまではあれほど恐ろしげだったドラゴンは、大きな体をできるだけ縮こめ邪魔にならないようにだろうか、道路の端に体を寄せていた。


「バルムンクさんお疲れ様です。この後はちょっと休憩を挟んでから工事現場で火を吹くところ別撮りしますね」


『ああ』


「何か食べますか?」


『ではトーフを。できればモメンで頼む』


「はーい。おーいエーディー豆腐買って来てー木綿ねー」


 せわしなく駆け回る男はどこか嬉しそうだった。


「いやー、やっぱ生身はCGより迫力あるわ。しかもギャラが豆腐って予算にも優しい。怪獣映画復活も近いね」


 そう、これが俺のデビュー作。


 竜が飛ぶ日、近日劇場公開。

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