第三話:"境界"
今回はほんのちょっとだけ長めにしてみました。
「二人とも、座っていいよ。」
この少年にここが俺の家だと説明しても無意味そうなので諦めて大人しく椅子に座った。もう一人の”俺”も俺の隣の椅子に座った。その動きは、やはり俺とよく似た動きだった。
向かい合って座った少年は自分たちより幼く見える。大きすぎるコートのせいもあってさらに幼く見えているのかもしれない。
やっと落ち着いて少年の顔を見れたが、やっぱり幼く見えるし、女子らしさすら感じる。数日前のテレビで見た気がする。最近こういうの流行っているのか?そして、少年の左目はきれいな緑の目だった。そして、少年の長めの髪が右目を完全に隠していた。話し方といいなんとなく中n…いや、なんでもない。
そして、時折右手を痛そうに振っている。よく見ると赤い。よほど強くノックしていたらしい。
「うーんと、二人とも相崎翔くんってことで間違いない?」
少年が厚めの本を見ながら聞いてきた。どうやら、メモを確認しているようだ。
「あぁ、間違いない」
「そうだけど…」
「ふーん、なるほどね。でも、紛らわしいしな…どうしよ…うーん…あ、そうだ!ねぇ"ボクッコ"の方の翔くん?」
一人で勝手に納得して、しかも、"ボクッコ”の意味がなんか違う気がする。しかし、いちいちつっこんでいられない。多分つっこんでいったら話が進まない。
「えっ、あ、僕の事…?」
「そうそう、君の方。今さ、君達2人いて呼び分けないと紛らわしいから君の事を"カケル"と呼んでいいかい?」
「あ、うん…いいけど。」
"カケル"も諦めているのは同じらしい…
「よーし、まず君達の関係から話すか。君達はお互いに、もう一つの世界のもう一人の自分にあたる存在だよ。だからどっちも本物。で、そしてここがその2つの世界の…」
「ちょっと待て。もう一つの世界?もう一人の自分?どういう事だ?」
「うーん、パラレルワールドって知ってるかな?自分が住んでいる世界とよく似た世界があってそこにはもう一人の自分がいる。みたいな感じ。」
いきなりそんな事言われても困るのだが、それを受け入れるしかなさそうだ。
「まあいいや。で、ここがその2つの世界の交差した場所。僕らは"境界"と呼んでいる。」
「「きょう、かい…?」」
「そう、"境界”。君達は今そこに飛ばされた。」
「ちょっと待って。2つの世界の交差…?どういう事?」
「ここはまだ想像でしかないんだけど、2つの世界のちょうど中間みたいな感じかな。2人が住んでいる世界が混ざりあってできていて…で、もともと2つの世界が全く同じ訳じゃなくてちょっとずつ違うんだ。2人が全く同じでないようにね。だから、時々ショウの世界にしか無いものもあるし、カケルの世界にしか無いものもあるってこと。」
歯切れが少し悪い。だが、さっきの違和感の理由はそういうことだったらしい。
「あと、これもはっきりしてないんだけど、どうやらこの世界の扉は無理やり開けない限り午前3時にしか開かないらしい。午前3時になって気がついたらここに飛ばされていたっていうケースが多くて…理由はよく分からない。一応僕らの間では夢世界の一種ではないかと思っている。現に、ここには意識しか飛ばされないはずだから。」
「じゃあ、俺らは幽体離脱でもしてるわけ?」
「まあ、それに近い感じかな?確証はないけど。」
「じゃあさ、飛ばされたって言ってたけど戻れるの?」
「そこについては問題ないよ。とりあえずこの世界いたらいつの間にか元の世界に戻れるよ。ただ…」
「「ただ…?」」
「どのくらいこの世界にいたらいいのかは分からない。この世界は時間が止まっているらしいし、日によってどのくらいいれるかも変わったりするから。」
話を聞いてはいるものの理解が追い付かない。
「時計が止まっているってどういう事?」
「例えばなんだけど、そこの時計見てみて」
そう言われて俺らは時計を見た。時計は秒針すら動いておらず、いまだに午前3時ちょうどだった。俺が目覚めたのも午前3時。あれから時間が経っていないようだ。
「多分この"境界”の全ての時計が止まっているはず。後で確認するといいよ。おかげさまでどのくらいとは言えないんだ。」
少しずつだが状況は見えてきた。しかしまだ気になる事はある。
「それにしても君は一体何者なんだ?」
「この世界について詳しいようだが…」
「「そもそも誰…?」」
「あれ?言ってなかったっけ。僕としたことが。僕の名前はイブ。この"境界”を研究している。君達からしたら神にあたる存在かな。」
神様って本当に気まぐれだって分かった。
次回もいつになるか分かりませんが投稿するつもりです。
その際はよろしくお願いします。
今回もありがとうございました。