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お兄ちゃんマジイケメン

作者: 猫戸カラス

ただの願望混じりな、ある意味お仕事のお話。

こんな事を言われたらがんばれる、かも?

なので基本恋愛要素はなしなのですが、最後にやっぱり我慢できずほのめかす程度が出てます。

最近笑顔が増えたって?

そうだなぁ、あの日があったからかな。

知りたい?お兄ちゃんマジイケメンって話なんだけど。

え?ブラコン?ちょー褒め言葉だし!

とりあえず聞いてよ私の精神ピークだった時なんだけどね。












静まり返った住宅地。

静かにドアを開ければ明かりがついている。


「おかえり」


迎えてくれる笑顔にほっとする。

コートを預かってくれて、なんだか家に帰ってきたんだなと安心感がある。


「ただいま、お兄ちゃん」


「夕飯はどうする?すぐに用意できるけど」


「んーいいや。お菓子つまんでたから食欲ないし、こんな時間に食べるのも良くないって言うし」


「じゃあ飲み物は用意しておくから早くお風呂いってきちゃいな」


台所に入っていくお兄ちゃんはまるで母親のよう。烏の行水な私を熟知してすぐに準備しに行ったのだろう。


父さんの単身赴任に母さんがついて行って、お兄ちゃんがいなかったら私は生活出来ていなかっただろう。

お兄ちゃんも働いているのに私が仕事終わって帰ってくるの待っていてくれるし、分担制にしているとはいえ家事もやってくれる。


長年の謎は家事も出来て優しくて家族のひいき目を抜きにしてもイケメンなお兄ちゃんに彼女の影がないことだろうか。


まだ学生の頃はいたっぽいんだけど……。


「真琴?どうしたのぼーっとして」


「え、あれ?いつの間にお風呂入ったっけ」


お兄ちゃんのこと考えてたらお風呂入り終わっていたみたいだ。

目の前でものすごい心配されている。

疲れが……とか。


「大丈夫だよ。あ、ホットミルクだ!」


「昔から真琴は好きだもんな。飲んで早く寝るんだぞ?どうせ明日も早いんだろ」


「まぁねー。でも明日は早く帰れそうかなぁ」


「その言葉が現実になる事を願ってるよ」


しみじみ言われると返す言葉がないな。







……あれは予言だったのかな。


むしろ終電に乗って帰ってきたよ、もう明日になってて私はさすがに泣くかと思った。


いや、午前中は順調だったんだよ!!

それが帰り時間が近づくにつれて仕事が増えていきズルズルと遅くなって。


途中で今日も遅いメールをお兄ちゃんにはしたけど。気をつけて帰ってきなさいって言葉もらったよね。


もうただの弱音だけどこの仕事向いてないのかなって考えちゃうよね。


そっと鍵を開けて家に入るけどもう日付かわってるしさすがに寝てる、と思っていたのに。


「おかえり」


「お、にいちゃん。何時だと思ってるの?」


「はぁ、それはこっちのセリフ。女の子が帰ってくる時間じゃないだろ?」


「いや仕事だから」


「こんな遅くまで残る仕事なの?」


そんな事言われたって、私が一番わけわかんないよ。


あ、ダメだ。疲れとか気持ちとか今日はダメな日だったのにそんな事言われたら……。


「私だって早く帰りたいもん!!でも、なんか仕事進まないしやる事増えるし、ミスするし。要領が悪いとかやり方が悪いとか集中力とか自己責任なのはわかってるけどさぁ、もう向いてないかなって逃げの思いを抱いちゃったっていいと思わない!?」


起きて待っていてくれる、朝も見送ってくれる優しいお兄ちゃんにこんなの言いたくないのに堰を切ったように言葉が涙が止まらない。


「……職場が嫌なわけじゃないんだよ。ただ、こんな風に追われるの合ってないのかなって。わかってる、どの仕事も同じだって。この仕事辞めても他の仕事も同じだって」


シーンと私の鼻をすする音だけがする空間。

だんだん恥ずかしくなってきたかも。身内にあんな弱音。


羞恥の意味で顔を上げられなくなっていたら暖かい手が頭を撫でてくる。


「わかってるよ、真琴が頑張ってるの」


頭に置いた手はそのままに抱き寄せられる。


「苦手な早起きだって、休日返上になったって今まで俺の前で弱音吐かなかったもんな。ミスした日とか新人教育とか悩んでたって仕事に出かけて行ってるの知ってるから」


ぎゅっとされた暖かさと頭をポンポンされるのと優しい声に引っ込んでいた涙がまた出てくる。


「い、いつも、お兄ちゃんが支えてくれてるからぁ……お弁当も、朝私が作れないから、持たせてっ」


「俺は滅多に残業ないし、それくらい手間でもないよ。たとえさ、同じ結果になるとしても今が辛いなら辞めてもいいんだよ。心機一転新しい仕事探して働いてみて、あぁやっぱりそれぞれ大変な所があるんだなって気づくのも人生の勉強だろ?」


次の仕事が見つかるまで俺が養ってやるだなんてことを言ってくれちゃうお兄ちゃん、マジイケメンだよ。


翌日お互いが休みなのもあって久々にベッドの上でお話をした。

小さい頃はよく両親の大きなベッドに潜り込んでいろんなお話をしていたものだ。


仕事であった辛いことも楽しいことも、遊びに行った時の話も。珍しくお兄ちゃんの職場の話も聞かせてもらって、気づいたら寝落ちしていたらしい。




下に降りれば台所からは包丁の音。


「おはようお兄ちゃん」


「あぁおはよう。まだ寝ていて良かったのに」


「美味しそーな匂いにつられちゃった」


「もう出来上がるから顔洗って着替えてきな」


背を向けながら話す姿。

なんだかいつもよりも広く見える背中は頼りになる背中。


「……ありがとうお兄ちゃん。私もうちょっとやってみる。でもまたお話聞いて、あの、ぎゅってポンポンしてもらっても良い?」


恥ずかしいことを言ってる自覚はある。


でもそこはやっぱりさすがお兄ちゃんだよ。私の気持ちをわかってくれている。

振り向かずその体勢のまま。


「もちろん。俺は真琴が大事だって言っただろ?真琴の力になれるならお安い御用だよ」










そんな事があったんだよ。

いやーあの日があったからまだ仕事続けてられるんだよね。辞めてもいいんだよって言ってもらえたからこそ心の余裕が生まれてるっていうのかな。

マジイケメンでしょ、お兄ちゃん!!


ん?なにその微妙な顔。

会ったことあるからイケメンなのは知ってるけど?けど、ってなんだし。

あんなに素晴らしい兄はなかなかいないでしょ、ブラコン上等だよ。


そうじゃない?いき過ぎてる?

え、よくわかんないんだけど。







この時の友人の微妙な態度のわけがわかるのは数ヶ月後、ついに仕事を辞めた後のお話。


両親が再婚していて、実はお兄ちゃんと血が繋がってなかったという衝撃的な事実を知らされた後のお話。






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