第八話
太陽が完全に沈み、夜空に星が輝く時間。
店は、かなりの大盛況になってます。
何が?何故?どうしてでしょうか?
それは、私が作ったパンケーキとジャムのせいですから!
思いの外、皆さんに喜んでいただいたようで嬉しい限りです!
最初は、皆さん、怪訝な顔しますが、一口食べると「美味い!」と言ってくれます。
自分が好きな物を食べて喜ばれるのは、なんて幸せな事なのか。
私の気分も、皆さんと同じように高揚してしまいます。
作って、本当に良かったです。
「サクラちゃん。会計と一緒に、ジャムも頂戴」
そして、お土産として、小瓶に入ったジャムを買っていくお客さんも多い。
……と言うか、全員?
今のところ、帰ったお客さんは、全員が買って帰りました。
明日のパンに塗って食べるそうです。
「はい。ありがとうございます!合計、2500セギになります」
“セギ”は、日本で言うと“円”ですね。
元の世界と数の数え方が同じなので、混乱せず計算ができます。
「これ、本当に美味いよ!明日も、これ出んの?」
「はい。アルバーさんが許可したらですけど」
お客さんの反応を見て、次を出すか出さないかを決めると言ってましたし。
売れ行き好調ですから、次も出るとは思います。
あまりにも好評過ぎるので、シルビィアさんとヒィリファちゃんが追加を作っています。
私が作ろうと思ったのですが、シルビィアさんが覚えたいとの事。そんな理由で、お二人にお任せしました。
ヒィリファちゃんは、もうマスターしたらしいですし、安心です。
それに、シルビィアさんの店が閉店して片付けが終わってから作り始めるなんて…。
もし残ったら、どうするつもりなんでしょうか?
この様子なら、追加するのは良い判断だと思いますけど…。追加を作り始めるの、早いと思います。
これが、客商売と言うやつですか?
「アルさん!これ、明日も出るよね!?」
いきなりお客さんが、厨房にいるアルバーさんに声を掛けました。かなりの大声で。
厨房の中が騒がしいからといって、大声で話し掛けるのはわかりますが、目の前にいる私は心臓が止まりそうでしたよ!
びっくりするじゃないですか!
「あぁ?明日?」
厨房にいるアルバーさんがこちらに顔を向け、眉間に皺を寄せます。
忙しい時に、声を掛けられたからです。
さっき、注文の品を五つ受けましたから。しかも、メインの料理を。
「サクラちゃんが作ったやつだよ!明日、出る!?」
仕事中のアルバーさんの機嫌の悪さはいつもの事なので、目の前の男性は気にせずに話続けます。普段のアルバーさんは、温厚ですけどね。
それにしても、話し掛けるのは構いませんが、かなりうるさいんです。
何度も言いますが、目の前。
そんなに大声を出すよりも、会計を済ませているのですからアルバーさんの前で話せば良いと思うのですが?
近寄るの、恐いんですかね?…恐いですけど…。
「あぁ、出るよ!わかったなら、もう話し掛けんな!帰れ!」
……アルバーさん、お客さんに“帰れ!”って…。
いえ、会計が終わったから帰るだけなんですが、接客態度が凄い事になってますよ?
客商売なのに、良いんですか!?
「おぉ!出るのか!なら、帰るぜ!じゃあ、明日な」
…………良いんですね。
これは、仲が良いからできる事ですよね!?
そうですよね!?
「じゃ、サクラちゃん!また、明日な!」
「はい。気をつけて帰ってくださいね」
お客さんは、聞きたい事が聞けたので帰るみたいです。
アルバーさんは、明日も出すと言っています。
また、頑張らなくてはと思う反面、気になる事があります。
それは、作り方です。
パンケーキもジャムも、元の世界では簡単に作れる物なんです。料理が苦手な人は、もちろん除きますけど。
サリキス君とヒィリファちゃん、すぐに覚えて作れましたし。
つまり、家庭でも簡単に作れると言う事になるんです。
その事について、皆さんと話し合わなくてはいけません。
アルバーさんの作る料理は、どれも簡単に作れるような料理ではないのです。
アルバーさんが、何日も何日も掛けて試行錯誤して作った料理。
そこに、私が作った物を出して本当に良いのでしょうか?
皆さんが喜んでくれるのは、嬉しいと思います。
だけど、パンケーキは、元の世界では家庭でも簡単に作れるようなお手軽なお菓子なんです。
まあ、元の世界では、家庭で作れるような料理は、本に書いてありましたけども…。
この店の料理は、全てアルバーさんのオリジナル料理。
私のは、元の世界にあったモノ。
私が考えて作ったわけではないので、少し後ろめたいような気持ちになるんです。
最初は、皆さんに知ってもらいたいだけでした。
それで、皆さんに喜んでいただいたら嬉しいと思って作っただけで…。
…………って、一人で考えていても答えは出ませんよね。
今日、店が閉店したら、アルバーさん達と話し合いましょう。
で、許可をもらえたら、皆さんにジャムの作り方を広めたいと考えているのです。パンケーキも。
ジャムもパンケーキも簡単なレシピですから、すぐに家庭で作れると思いますが…。
それだと、アルバーさんの店の売り上げにはならないですし…。
シルビィアさんの店は、繁盛しますが。
そこも、考えないといけませんよね?
どうしましょうか…?