第七話
開店してすぐ、いつもの常連さん達が入ってきました。男性が5人。
「いらっしゃいませ〜」
「おっ、サクラちゃん。元気してるかぁ?」
「はい。今日も元気です」
毎日のように来て、毎回同じ会話をしています。
他の常連さんも同じように声を掛けてくださり、席へと座り注文をする。
これが、いつもの事。
しかし、今日からは違います!
私の作った物が出るのですから!
「ご注文は?」
先ずは、注文を聞かなくてはいけませんね。
「ベィーレと…今日のおすすめくれ」
ベィーレは、多分、元の世界のビールに近いお酒だと思います。見た目での判断ですが。
私、未成年ですからね。飲んだ事、ないんですよ。
飲みたいと思った事もないので、あまり知識もないです。
元の世界の時、テレビで見たぐらいの知識しかありません。
「今日のおすすめは、お肉ですね。柔らかく煮込んであります」
ビーフシチューみたいなものです。
「なら、それをくれ」
「あっ、オレは、ジャピニな!んで、おすすめ!」
ジャピニは、日本酒だと思われます。これも、以下略。
「オレも、ジャピニ。それから、おすすめとティポ」
ティポは、枝豆です。
「オレは、ベィーレとおすすめ。んで、串焼き」
「オレも、串焼きとおすすめ。飲み物は、シラーニヤ水割りで」
シラーニヤは、焼酎だと思いますが…?水割りするお酒は、焼酎ぐらいですよね?
ジャピニと同じ無色ですし、焼酎だと思います。ウイスキーなら、色が付いてますから。…テレビでの知識ですが…。
因みに、ワインは、高級品らしいので店には置いてません。
果汁酒は、あります。
…ワインと、どう違うのかがわかりませんけど。
あれも、果汁酒だと思うんですけどね?違うんですか?
まあ、どちらにしても飲まないので良いんですが。
「サクラちゃん!お通しできたよ!」
サリキス君が呼んでいますよ。
“お通し”とは、店からのサービスの品です。
注文の品が来るまで、これを食べていてください…みたいな感じですね。
元の世界にも、確かあったような気もします。
お通しが出るような店に行った事がないので、これもテレビでの知識ですけどね。
「はい!今、行きます!」
走らないように、でも、早めに移動する。料理は、温かいうちに食べた方が美味しいですから。
あっ、美味しい料理は、冷めても美味しいですよ!
「今日のお通しは、サクラちゃんのパンケーキとコラリュのセルゥ漬け」
“コラリュ”は、きゅうりで、“セルゥ”は塩。
つまり、キュウリの漬け物ですね。
「あれ?一緒に出すのですか?」
「うん。酔って食べられると、味がわからなくなるからね」
なるほど。確かに。
「ドキドキします!」
「大丈夫だよ」
「そう…ですかね…?」
そう言って笑顔で励ましてくれるサリキス君に、苦笑いで答える私。
一応、甘さは控えめにしてありますけど。
この組み合わせ、おかしいような気がしないわけでもないんですが…?
いえ、甘い物と塩は、相性が良いんですけど。元の世界のお菓子が証明(?)してますし!
今更なんなんですが、このパンケーキは、朝食に食べるとか、軽食とか、おやつに食べるとかなんですよね。
つまり、酒の席で出すような物じゃない!
そんな気がしてきたんですが…今更ですよね?
ここは、夕方からしかやらない。と言う事は、朝や昼には食べれない。
イコール、朝食や軽食、おやつには無理。
となると、酒の席で出すしかない…!?
なんて事でしょうか!………って、お酒を飲まない人もいるから、別に心配する必要はないですよね。
「じゃあ、持って行きますね」
トレーにジャムを掛けたパンケーキと漬物を乗せ、落とさないように気をつけて歩く。
「お待たせしました。今日の“お通し”です」
「おっ、ありがとよ」
お客さんの一人がそう言うと、その席にいた全員がこちらを向いた。
視線は、私ではなくてトレーですけど。
うぅ…っ。緊張します。
皆が、珍しい物を見るような目で見てるから。…珍しい物ですけど!
そこまでジロジロと眺めないでください!かなり、恥ずかしいですよ!
「サクラちゃん、これ、なんなんだ?」
「これは、新作です。この丸いのが“パンケーキ”と言う名前で、上に掛かってる赤いのが“ジャム”と言います。ジャムは、トビィリーで作りました」
私の説明を聞いて、興味深い感じでパンケーキを見ています。
「“パンケーキ”?“ジャム”?これ、アルバーさんが作ったの?」
「いえ。私が作りました」
「えっ!?サクラちゃんが作ったの!?」
もしかして、苦情がくるかも知れないので、自分が作ったと答えました。
自信作ですが、口に合わないとか限りませんから。
それで、アルバーさんの料理の腕に文句を言われてしまったら…申し訳ないですし…。
……それにしても、驚き過ぎな気がしますが?
アルバーさんが、職人気質なのは知っていますが、そこまで驚きますか?
サリキス君も、多少は認められて作った物を出してますよ?
それとも、新入りの私が作って出した事に驚いたんですかね?
サリキス君、長い事働いて、やっと仕込みを手伝えるようになったらしいですから。
それまで、皮剥きとか片付けてばかりだったとか。
そう考えると、私が作るのは早すぎます?
だけど、アルバーさんが許可してくれましたし…。
……って、そろそろ、食べてみてくれませんでしょうか?
私、緊張のし過ぎで心臓が心配なんですよ…。
「……んじゃあ、いただきます…」
一人が、恐る恐る口にします。
未知なる物を口にする時は、恐いですから仕方ない事だと思いますし、私も怖いです。
「おっ」
“おっ”?なんですか?
「美味いっ!」
っ!!
やりました!やりましたよ!!
私、思わずガッツポーズを決めてしまいました。
「うめぇ!」
一人を皮切りに、次々と口に納めてくお客さん達。
出だしは、好評。
厨房を見ると、アルバーさんとサリキス君がこちらを見て微笑んでいました。
その笑顔に、私も微笑み返します。
店は、まだまだ始まったばかり。
出だしが良いからと言って、調子に乗ってはいけません。
引き締めないと…と思っても、嬉しさを隠しきれないのは事実。
これも、接客パワーに変えてしまいましょう!
さあ、次のお客さん。
お待ちしてますよ!