第五話
さて、早速、シルビィアさんからもらった大量のトビィリー(イチゴの事)を洗います。
「ヒィリファちゃん。全部のトビィリーを洗って、ヘタを取ってください」
「わかった。全部ね」
「はい、お願いします」
ヒィリファちゃんに下拵えをお願いして、材料の準備をします。
スゥビィ(砂糖)とリミィノ(レモン)を用意し、分量を計って…。
用意してもらった鍋が大きいので、いつもの倍の量が作れそうです。分量も倍にして作りましょう。
「サクラちゃん、できたけど?これ、どうするの?」「この鍋に、500グラム入れて、上からスゥビィをトビィリーの半分の量をまぶしてください。で、暫く放置します」
「放置するの?」
「はい。トビィリーにスゥビィを掛けて放置すると、暫くしたら水分が出てくるんですよ」
「へぇ〜」
おっと!それを待っている間に、他の準備をしないと。
「待っている間、リミィノを絞ってください」
「はい。ここにある分、全部?」
「はい、そうです」
リミィノの皮もジャムに使えますから、後でジャムにしてしまいましょう。
「でも、たくさん作っても数日しか保たないなんて…なんか、もったいないね」
そうですね。でも、仕方ないです。
元の世界なら、数ヶ月は保ちますが、この世界の気候がまだわかりません。
この世界にも乳製品があります。と言う事は、菌があると思うので、いつダメになるのかが不明なんですよね。
だから、早めに食べた方が良いと思うのです。
「冷蔵庫があれば、長持ちするんですけど…」
「“冷蔵庫”?」
あら?呟いてました?
「はい。それがあれば、かなり保ちます」
ありませんよね。いくらなんでも。あれ、電気で動きますし。
「そうなの!?なら、大丈夫だよ!」
へ?なにがです?
「あっ、サクラちゃん、知らなかった?これ、冷蔵庫だよ?」
そう言って、ヒィリファちゃんは、台所の奥にある木の箱を指差しました。
……?
近付いて、冷蔵庫らしき物の扉を開けます。
「うわっ!涼しい!」
思わず、声に出してしまいました。
いやいや、そんな事よりも!
「これ、なんで冷えているんですか?」
この世界に、電気はないはずです。機械も。
「魔石だよ」
「“魔石”?」
「うん。冷蔵庫の横に石があるでしょ?それがそうなの」
冷蔵庫の横…。あっ、ありました。
白い石ですね。
「それは、氷の魔石なの。それで冷えてるんだよ」
へぇ〜。凄いですね!
流石、魔法がある世界です!
「なら、一ヶ月は保ちますよ!」
「本当?なら、売れ残っても安心だね!」
……売れ…残り……ですか。
「あっ!違うよ、違うからね、サクラちゃん!」
いえ、未知の物が誰にでも受け入れられるとは限りませんから…。
売れ残る可能性もあると言う事です。
「売れ残ったら、私がたくさん食べれるから嬉しいと思っただけだから!」
そうですよね!幸い、このジャムは、皆さんに好まれていますし。私も、ジャムは好きですから。
物事は、前向きに考えないと!
「…でも、すぐに売れちゃうと思うけどね…」
まあ、なんて優しい言葉を!
「売れたら売れたらで、それは嬉しいです。皆さんには、皆さんの分を作りたいと思いますので、安心してください」
「本当!?」
「はい。もちろん」
そんな笑顔で言われるなら、色んな種類のジャムを作りますよ!
もちろん、お菓子も!
「あっ。お湯沸いたよ?」
おっと、いけない。忘れてました。
「では、瓶を入れてください。消毒をしたいので」
「消毒?」
「はい。長持ちさせるためです」
そう伝えて、瓶と蓋をお湯の中に入れ込みました。
「全部は入りきらないですから、大きい瓶だけを半分入れましょうね」
「了解です」
次は…そろそろ、水分が出た頃ですかね?
「では、消毒してる間に、ジャムを作りましょう」
大きめの鍋に、浸したトビィリーを入れ、火をつけます。
焦がさないように気をつけて、ヒィリファちゃんに先程の行程をしてもらいます。
「ヒィリファちゃん。スゥビィを掛けたら、瓶を取り出してください。取り出す時、火傷しないように気を付けてくださいね。取り出したら、そこに置いてある布の上に逆さまにして置いてください。拭かなくても良いですからね。で、次の瓶の消毒をお願いします」
「……はい、了解です」
…?なんでしょう?今の間は?
一気に言い過ぎました?
「ヒィリファちゃん?」
大丈夫でしょうか?
覚えきれないような子ではないと思いますが…。
「え?どうしたの?」
ん?気のせいでした?
「いえ、なんでもありません」
「そう?」
ヒィリファちゃんには、何の変化もなかったみたいです。
気のせいだったのでしょう。
トビィリーの仕込みと瓶の消毒を終えたヒィリファちゃんに、ジャムの入った鍋を任せました。
焦がさないように気をつけてもらって、二人で作ります。
そうすると、早く終わりますからね。
案の定、早くに出来上がりました。
私は、完成したと同時にリミィノのジャム作りを始めたんですが…。
「サクラちゃん!?それ、皮だよ!?」
…流石、親子ですね。同じ反応です。
いや、知らないからの反応でしょう。
「昨日のジャムも、リージニアの皮からですよ?」
「えっ!?」
あれ?知りませんでしたか?
「へぇ〜。サクラちゃん、すごいねぇ〜」
いえいえ。凄いのは、元の世界の人達ですよ。
「これは、私達の分にして食べましょうね」
「うんっ!」
こんなにも喜ばれると、本当に嬉しいですね。
私も、笑顔になります。
作業するのも、楽しくなりますね!
さあ、作り終わったら、いよいよお披露目です!