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第3話 被害者の困惑

お待たせしました。この連載は短めの量で続けていくつもりだったのですが、1つの話が長くなったので3話に区切って連続更新です。

 妙な胸やけと疲労感で眠りから覚める。


 瞼を開く僅かな体力消費と夕飯を食べ損ねた空腹感がせめぎ合うが、結局は惰性に負けて夜食を諦めた。


 しんどい。


 仰向けの体勢から、左半身が下になるように寝がえりを打とうとすると、腰の辺りに痛いような、むず痒いような気持ち悪さを感じる。


 フローリングで寝てたのか俺。せめてソファーで寝とけよ、と自分のだらしなさに呆れつつも、胸元の毛布を頭の天まで被るように引き上げた。毛布を右頬に寄せて柔らかな感触を確かめようとするが、触り心地に違和感を覚える。薄い、そして堅い。それから人肌のように心地よいはずの起毛のしっとり感はどこへやら、僅かに鼻に付くのは自分以外の汗とカビの臭い。


 おかしい。


 左頬に感じるのはガサガサとした木の皮のような触り心地。頬ずりするとめくれた木の皮が1ミリほど刺さった。垂れ下った左手に感じるのは間違いなく木の皮の感触だ。


 フローリングじゃない。俺の部屋でもない。なら、ここはどこだ?


 まどろみへの誘惑を振り払って毛布を取り払い、体を起こす。薄雲を淡く染める紅い光が、木々の間から照らしているのが目に映る。そして下に目を向けると自分が寝ていたのは、巨大な丸太の上だということが分かった。


 寝ぼけているのか俺は? 


「ふぁあああ」


 寝ぼけた頭を再起動するべく両手を伸ばしながらあくびをして、冷たい空気を存分に取り入れてみる。都会暮らしに慣れてきたためか、新鮮な空気を旨いと感じる。肺の中を満たす木々の香りがここは森だと言うことを改めて認識させた。


 明らかに俺の住んでいる街じゃない。夜中にどっかのキャンプ場にでも突撃したとでもいうのか?


「おはよう。よく眠れたかい?」


 ふと、背後で声がして振り向くと、なんとそこには紅い髪のポニーテールに角を付け、ゲームでよくある冒険者の着るようなマント姿のコスプレをした美少女がいた。背は150cmもないであろうその少女は、なんと2mほどもある金属製の槍を左手に携えていた。


「カッコいい」


 思わず心の声を口に出してしまった。ほんの1秒ほどだが見惚れてしまっていた。彼女の瞳の琥珀は自分の心を吸いこんでしまいそうなほど深い色をしていた。


 はっ、ちょっと待てよ俺。知らぬ場所でいきなり出会った見知らぬ少女に対し何を言っているのかと焦る。俺はこんなところで彼女にこんな格好をさせてナニをしていたんだ!!? 


 ここ数年すっかりご無沙汰とはいえ、流石に中学生に手を出すほど人間として落ちぶれてはいない。


 どうするべきだ? まずは携帯で誰かと連絡をとって……


 そう思ってポケットを漁るがそういえば鞄に突っ込んだままだった。代わりに皺くちゃになったスーツの右ポケットから二つ折りの財布の存在を確認してを取り出す。中身を確認すると1万3000円ほど残っていた。中身の無事を確認して安心する。どこまで行ったのかわからないがとりあえず1万ほど渡しておくべきなのかと思い、札を取り出そうとする。


「って何を俺は最低なこと考えてんだぁ!」


 左手で自分の顔を殴りつける。20cm程度の近距離からの一発とはいえ、自分で殴ったことを後悔する程度の鈍い衝撃が頬骨を中心にして伝わる。確かに感じる痛みは喝を入れるとともに、これが夢ではないのだと教えてくれた。


「大丈夫か? 混乱しているのか」


 心配そうな顔をした目の前の少女は背伸びをしながら、ほんのり腫れた頬に向かって右手を伸ばす。目が合う。背丈が30cmほど違うとはいえ近い。こうも年下の少女に触れられると罪悪感に近いドギマギした感情が溢れて来る。


 大丈夫、そう口にしようと思った矢先。







「私のアンナに何するのよ!」


 いきなりドスの利いた女の声がした次の瞬間。



「プリンセス チョークスリーパー!!!」 



 振り返える暇もなく背後から怪力で首を絞められる。期間を圧迫され声を出すことはおろか、息をすることさえできない。必死に右手で絞める手に向かって降伏のサインを必死で連打するが、拘束がますます強くなっている気がする。


 死んだかな、俺。ここまで「助からない」と直感的に感じたのは人生でも2度目かもしれないな。あれ、1度死にかかったことあったっけ?


 そんな疑問を抱きつつも、意識は遠ざかっていき、もう右手すら動かせない。だが柔らかい何かが肩のあたりにあたっている気がする。酸素を断たれた哀れな脳が最期にいい夢を見せてくれているに違いない。このまま死ねるのならいいや――――



 急に喉仏の圧迫感がなくなり、酸素が戻って来た。膝から崩れ落ち呼吸を整える。振り返るとうつ伏せに崩れ落ちた金髪少女の姿。指先が痙攣した実験台のカエルの足のように痙攣している。そしてその後ろから、左手に麻袋と右手に笛のような筒を携えた銀髪の少女がやってきた。


「こら、何で助けんとね」

「何でって、例の【悪運】を見れるかなって思ったんだけど。ナイスタイミンだな、ミイ」


 まるで他人事のように言う紅い髪の彼女を見上げる。たった3秒ほどの間とはいえ生死の間を彷徨っていた自分を放置プレイしていた彼女に、恨みごとの一言でも言ってやりたかった。しかし「ゴメン」と手を合わせて苦笑いされると何故かそういう気を失くしてしまう。


「いいところで邪魔をしてくれたわね。あと少しでアイツの関節を極めて極めて極め抜いて肉骨粉にしてやったのに」

「また耐性上がったんね、ダボイノシシ3頭分の致死量は使ったとよ?」


 そう言いながら、彼女は倒れている少女の首元に手を伸ばす。その手に握られていたのは手芸用の倍ぐらいのサイズの太めの針だった。会話と手に持っている物から判断して毒を盛った吹き矢で自分を助けてもらったらしいことは理解できた。


 それともう1つ、そのイノシシとやらの致死量の何倍というのは理解できなくとも、弱っているはずの状態でさえも右足首を大の大人の握力で掴んでいる足下の少女は、少なくともプロレスラーよりも凶悪な存在だということは身をもって知った。が、それよりも気になるのは


「ね、猫耳!!?」


 癖っ毛気味の銀の長髪の上部から飛び出ている耳を凝視していたら思わず口に出してしまった。三角形型の耳の中には髪の毛とは違う羽毛のような耳毛、どうみても猫耳としか言いようがない。先ほどの紅髪の少女の角は無機質地味ていて作り物のように思えたが、この耳は本物の動物のように動いている。


 先ほどまでは酒の勢いで間違いを犯した可能性を僅かながら考えていたが、ここまで本物らしき猫耳を見て、考えたくもない可能性に行きあたる。先ほどのチョークスリーパーの痛みは本物だ。夢でもない。まさか、これはファンタジーな世界に飛ばされたという奴なのだろうか。


「ねこみみ?」


 首を傾げる仕草はまるで小動物の愛らしさそのもので、カールした毛先が生き物のように揺れた。そして細かく上下運動する耳が作り物でないことを嫌でも実感させる。


「顔色が悪かよ。これ食べれる?」


 彼女は手のひらに収まるサイズの瓜のような果実を袋から取り出して差し出す。が、どうしてだろうか、何故か歯が震えだし、その受け取りを本能が拒否しているのを理解する。ファンタジーな世界かもしれない食べ物だからだろうか、口の中がカラカラで固唾をのむことさえできない。


「今度は大丈夫だって、ミイの採って来たもんに間違いないから。食べてみなよ」


 紅い髪の少女は出された果実を奪い取り、口元に無理やり押し付けた。仕方なく一口齧ると、ある程度見た目通り、薄皮で堅めの果肉の水っぽいメロンのような味だった。こう表現するとあまりおいしそうではないように聞こえる。しかしメロンとして考えれば甘味に欠けるだけであり、歯ごたえのある触感と芳醇な香りが食欲をそそった。忘れていたようだが、どうやら空腹だったらしく、もう一口齧って応える。


「美味いなコレ」

「だろ?」

「良かった。リリケットの実ならまだあるけんね」


 2人の少女は笑顔を見せた。足元の少女の殺気らしいものと、足首への圧迫感が増した気がするが気にしないことにする。


「随分採れたみたいじゃん。早く朝飯にしようぜ。自己紹介がてら、な?」


 足元の少女に肩を貸すようにして持ちあげた小柄な彼女は、丸太の方へ眼をやり促した。


脳筋エルフ娘の設定で進めていたら、大魔法峠の田中ぷに絵閣下のような状態になってしまったので潔く諦めて技もマンマ使わせて頂かせました。オリジナルとしては問題ありすぎなんですが、どうしてもそのイメージから離れられませんでした。

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