第1話 始まりは暗黒料理
幸運と引き換えに運命を歪めてしまう厄介な俺の固有スキル【悪運】。
そんなものにも今では感謝している。
今になってようやく思い出せるようになったあの日の出来事から俺の旅路をここに綴ろう――――
「喰うかい?」
そう言って紅い髪の小柄な少女に差し出されたのは、枝に刺さったネズミの丸焼き“らしき”物体。“らしき”という言葉は決して「ネズミ」の方に掛っているわけではない。目の前の悲惨な物体がネズミかどうかなどは些細な問題だ。
これは「丸焼き」なのか?
丸焼きというにはあまりにも……黒い。黒過ぎる。ただ焦げているというだけではない。気のせいか周りに黒い煙、むしろ食材となった命の怨差が纏わり憑いている気がする。そりゃ恨むだろうな。死んだ挙句にゲテモノ料理と化しちゃ報われない。自然の理、命の冒涜だ。だがこれが仮にゲボマズ料理だとしても漢としては美少女3人の手料理を口にしないわけはいかない。
そんな漢としての矜持と、視界に映る惨事の間で葛藤していたが、当の彼女たちは平然と談笑しながら食べており、銀髪の少女と俺にソレを差し出した紅い髪の少女は既に二匹目に齧り付いている。
意外と大丈夫なのかもしれないな。
そう判断してまずは一口、キャラメル一個分くらいの量を口に含んだ。本当に気持ち程度だ。しかしそれでもだ。この量なら大丈夫だと判断した俺の見込みは甘かった。砂糖がきらめくクイニーアマンにアカシアの蜂蜜を瓶ごとぶっ掛けるよりも甘すぎた。
そいつは只のゲテモノ料理なんてものじゃない。
黒炭のようになるまで焦げた苦味、抜けてない血と取れない獣臭さ、明らかに用途を間違っている香草のブレンド、表面の焦げたガチガチ感と、半生ですらなく、生々なままの内側の肉の奏でる不協和音――――解析するほどに精神崩壊を起こしそうなその料理とも呼べない“何か”は 全ての点において破滅的で壊滅的だった。
即座に吐き出せばよかったものの、あまりのショックで吐き出すことはおろか飲みこむことすらできず、気を失う瞬間に目を強制的に覚まされるほどの不味さ。
HPバ―が目に俺の眼に見えるのならば今頃赤く点滅しながら1という絶望的な数値を叩き出しているだろう。しかも毒でも麻痺状態でもなさそうな生殺しである。
文字どおり死にかけの魚のような目で俺は、毒殺を謀ろうとした張本人たちの方を見る。
信じられない。
何で彼女たちはそれを平然と食べていられる? そしてあの金髪は今なんて言った?
「いつもより良くできてるね」……だと。ふざけるな。
この娘等、正気じゃない。一体どういう味覚と食生活をして来ているんだ。
そんなことを考えながら何度もKOと覚醒のループを繰り返し、とうとう俺の意識は――――完全に墜ちた。
そして後に、この日に人生を狂わせた元凶を俺は知ることになる。
固有スキル【暗黒料理】
:どのような食材も調理すると一定の確率で【暗黒料理】が完成する。なおこのスキルによって作成された【暗黒料理】は麻痺・猛毒・火傷・暗闇をはじめとする各種パラメータ異常、HPダメージ、MPダメージ、ステータス増減などを引き起こす。
まさに呪いとも天災とも呼べる凶悪スキルを彼女たち3人全員が取得しているという悪夢のような状態だったのだ。そして俺が食したのは
≪暗黒料理≫ヨーグリアネズミの冥界焼き
:HP小回復。耐毒性が低い者に対しHPダメージと、稀に記憶障害をもたらす。
そうなのだ。俺はこの時に多くの記憶を失ってしまった。あまりにも下らない事の顛末。だがそのおかげで今の俺は新しい仲間たちと新しい人生を歩むことができるようになった。
【主人公補正】持ちの我らが姫の竜騎士をリーダーに、流暢な肉体言語を操るエルフ娘と、異なる理を持つ猫耳ハンター娘という攻撃力過多な美少女3人のパーティ。
そこに旅の料理人として加わることで“新しい俺”の人生は再スタートした。
ネギま二次創作をしている者ですが、完全オリジナルをやってみたくて投稿しました。異世界ファンタジーです。できれば1か月3回ほどの更新ペースで頑張りたいです。初めての完全オリジナルということで、原作のネームバリューなしでの評価はどんなものだろうかとドキドキの私です。本業絵師ですので挿絵をどんどん入れていこうと思います。最初なので短めですが感想お待ちしてます。