第7話
授業も部活も終わり光希ちゃんがいるであろう家に帰る途中、いきなり8人組に囲まれてしまった。制服を見るとうちの学校のもの。雰囲気からすると3年生か。
「い、いきなり何ですか!?」
とりあえず、か弱い1年生を演じておく。
「1年の桜だな?ちょっと付いてこい」
とだけ言うと、歩き出した。暫く付いていくと、1台の高級車のところに案内された。すると中から男が3人現れた、先輩達のリーダーらしき人と話をしだした。こちらの都合を無視した一連の出来事にイラッとしながら待っていると、男達3人が近付いて来て左の男が
「お前が桜か?」
ここまできて横柄な態度。嫌いだ。
「そうですが何か?」
ちょっと不機嫌な感じで返事をすると、先輩が、
「何だお前!その態度は!?」
先輩だが一応睨んで牽制すると、真ん中の男が
「いいんだ。俺達は『安生組』の者だ。鹿児組組長から君の話を聞いてね。ちょっと手を貸して欲しくて来たんだ。話だけでも聞いてくれないか?」
またヤクザ関係か。人殺しは大好きだが鹿児組以外のヤクザと付き合いが深くなるとややこしくなるから嫌なんだよなぁ…。けどこの雰囲気は…逃がしてくれない感じだ。
「わかりました。手短によろしく」
「ありがとう。しかし手短か…。…隣町の『片岡組』がうちの組を潰そうとしているんだよ」
「ははは。流石に手短か過ぎますよ。…わかりました。ちゃんと聞きます」
「じゃあちょっと移動しようか」
面白い人だ。一瞬にして和んでしまった。今までの組関係の人とは何か違う。
連れて行かれたのは、なんと「鹿児組」の屋敷だった。溝口さんが出迎えてくれた。俺の知らないところで話が進んでいるのが気になる。ちなみに先輩達とは先の現場でお別れしている。
通されたのは、組長の部屋だった。俺と組長と溝口さん、そして安生組の若頭の4人だ。組長はいつになく険しい顔をしている。張り詰めた空気の中安生組若頭が口を開いた。
「鹿児組組長ありがとうございます。桜くんもありがとう。事態の説明をさせていただきます。…今日のことなんですが、片岡組が旭東会と会っていたようなんです。昨日の旭東会の惨事を知って片岡組が動いた結果なんですが、旭東会の麻薬ルートや売春やポルノDVD販売を乗っ取る思惑のようです。ポルノはともかく麻薬ルートや売春は旭東会の独自のものだったので片岡組はどうしても欲しかったのでしょう。ですが、麻薬ルート、特に販売についてや売春の人材確保と斡旋は東組長が極秘で扱っていたようなんです。以前こちらでも調べたことがあるんですが、いくら調べても一切出て来ませんでした。鹿児組でもそうだったようですね?」
「あぁ。昨日東に聞いたが結局わからずだ」
「しかし、東組長が直接指示して実行していた人間がいたことが先程わかりまして…」
「誰だ?……まさか!?」
「そうです。桜くんと揉めた高校生4人組です。彼等が、麻薬で堕として使える若い男女を見つけていたようなんです」
(だから東組長は俺に4人組が何か喋ったか聞いてきたのか)
「余程信頼していたんでしょう。証拠が残らないような形で進めていました。しかし、桜くんと鹿児組によって消されました。片岡組は、鹿児組や鹿児組と付き合いのある安生組を手に入れることが旭東会のルート乗っ取りの最善の方法と考えてもおかしくない。そんな状態なんです」
「事情はわかりました。で、俺にどうしろと?」
「片岡組に奇襲をかけるのが最善でしょう。今片岡組は数十人程で安生組組事務所を襲撃しているはずです。その時に鹿児組が襲撃すればこちらの被害は少なくて済むはずです。桜くんには先着して偵察と暗殺をお願いしたいんです。」
「今安生組が襲われてる!?行かなくていいんですか?」
「組長がこっちは何とかするから先手を打てるように動け、と」
「なるほど。俺を信用していいんですか?得体の知れないガキですよ?」
「確かにそうだね。しかし勢力の小さい安生組の現状は厳しい。君と鹿児組に頼らざるをえないんだ。よろしく頼む。ちなみに片岡組は今50〜60人ぐらいいると思うから気をつけて。あと無茶をする若い衆が沢山いるから」
「わかりました。暗殺は初めてなんで上手くいくかわかりませんが、何とかやってみます」
片岡組の事務所が入る5階建ての雑居ビルまで鹿児組の若い衆に送ってもらった。さすがに無茶を沢山して大きくなっただけありビルすべてが組の持ち物だった。中には中古雑貨販売店、貸金屋、工務店、人材派遣会社等の事務所が入っているようだ。5階が片岡組の事務所だと聞いている。ゲームみたいなシステムだ。俺は、鹿児組から持ってきた拳銃をベルトに挿し、日本刀を背中のナップサックに入れて拳銃の予備弾倉も入っていた。ほんとは日本刀だけでよかったのだが、片岡組50〜60人全員が銃で武装してるはずだったので拳銃も持ってきた。
1階は中古雑貨販売店だったが時間が遅いのでシャッターが閉まっている。その右手に扉があり奥に階段がある。中に入り確認しても誰もいなかった。中古雑貨販売店に繋がる扉にも施錠されており中に人がいないことを教えている。ここで鹿児組と安生組若頭にメールをする。「今の所1階は無人。2階へ進む」と。
2階へ到着。扉は3つ。通路左側に工務店、通路突き当たりは空き店舗、通路右側は貸金屋になっていた。
工務店からも貸金屋からも声が聞こえない。電気が点灯しているので人はいるのだろうが、お客さんがいないか真面目に仕事をしているかだ。しかし本来誰もいない空き店舗からは怒鳴り声が聞こえている。
「いつになったら金返すんだ!?よく返さずに貸してもらいに来るな?いくら貸してるかわかってんのか?1500万だぞ!?何に使ってんだ?今日は帰さねぇぞ」
「……………」
貸金屋が尋問の部屋として使ってるようだ。雰囲気からして5人ぐらいかな。まずこれから片付けるか。その前にまたメールする。
「2階突き当たり空き店舗にて男数人が1人をリンチしている模様。突入する」