第6話
「旭東会」組事務所を出て階段で1階へ降りていくと、階段の脇で光希ちゃんが待っていた。
「大丈夫だった?」
と聞くと、いきなり抱き付いてきて
「大丈夫。けど桜くんが心配だった…」
と涙をこぼしながら言ってきた。こんなことは初めてだったのでどうしていいかわからなかったが、とりあえず抱きしめてあげた。暫くすると落ち着いたみたいで、俺から離れた。顔色をうかがっていると顔を赤らめ下を向いてしまった。そんな状態の時に組長と溝口さんが降りて来た。
「おっ、若い男と女がいい雰囲気になってるなぁ」
と組長が茶化してきた。
「そうですか?まぁこんな可愛い子ならいいですよね〜」
と乗っかってみる。隣では光希ちゃんがさらに俯く。まぁこんなとこだろ。
さっきまでの軽い会話を終え、今後の「旭東会」について聞いてみた。
「旭東会は、いきなりライバルに頭を潰されたんだ、鹿児組に入れと言われて簡単にいくわけがない。だから旭東会内で新しく頭を決めるようになった。とりあえず新しい頭はうちに挨拶に来ることと今回の件での戦争吹っ掛けは無しということを約束させた。他は今までと一緒」
とのことだった。まぁ、俺はマシンガンや拳銃にも立ち向かえることがわかったからいいけどね。
っと、もう日付が変わってしまってる。早く光希ちゃんを家に送らなければ。
「もうこんな時間。早く家に送るよ。てか俺が車運転するわけじゃないけどね」
「ありがとう。でも家に誰もいないから急がないよ」
「親は旅行?」
「ううん。去年事故で死んじゃった。親戚の家に行くことになってたんだけど、嫌いな人達だったから断ったの。幸い家のローンは終わってたし保険金も入って来たから中学3年間はやっていけると思う。だから1人なの」
「そうなんだ。じゃあ家に来る?俺も親いないけど一緒に暮らしてる母親代わりの元気な人いるよ」
「うーん…、…1人寂しいしお邪魔しようかな…」
「じゃあそうしよう。溝口さん、俺ん家までお願いします」
と運転していた溝口さんに言った。
「了解。…とうとう浩志も男になるのか」
「若いっていいなぁ」
と組長と溝口さんは大笑いしている。後部座席で俺達2人は顔を見合わせた後下を向いてしまった。
家に着くと充穂さんが出迎えてくれた。組長が予め連絡してくれてたみたいだ。心配したみたいだが無事であることを喜んでくれたし、女の子を連れて帰ったので驚いてもいた。組長と溝口さんにお礼を言い別れた。
とりあえず、遅いご飯を軽く食べながら充穂さんに光希ちゃんを紹介した。食べ終わる頃には2人は打ち解け冗談を言いながら笑い合っていた。俺は2人を残しお風呂に入った。上がってもまだ盛り上がっていたのでもう寝ることを告げて部屋に向かう。疲れていたのかベッドに横になるとすぐに寝てしまった。
朝起きると違和感を感じたので横を見ると、光希ちゃんが寝ていた。何が何だかわからず慌てていると光希ちゃんも起きて「おはよう」
と一言。
「お、…おはよう。な…何故この布団の中に…?」
「充穂さんが、うち布団無いから浩志と一緒に寝なさい、って…」
(ん〜、普通の親子なら有り得ないとは思うが、普通じゃないからいいのか…?)
「あ…そう…」
何もして無いので堂々としていよう、と自分に言い聞かせ1階に降りて行くと充穂さんが朝ご飯を作ってるところだった。
「おはよう。ご飯もうすぐ出来るよ。昨晩はどうだった?」
「どうって?」
「光希ちゃんとよ」
「俺寝てたから何も」
「残念ね〜」
…何という保護者だ。呆れて言葉も出ない…。
3人で朝ご飯を食べた後、俺達は学校へ向かった。学校の方向が逆なので家の前でお別れになる。
「じゃあまた」
「うん。ありがとう。……あの…、今日も来ていい?」
「いいよ。じゃあまた夜。いってらっしゃい」
「ありがとう。じゃあ夜に。いってらっしゃい」
学校に着くと、いつもの友人達といつもの日常を過ごしていく。