第19話
マンション5階の一番奥の部屋の前に冴子さんと2人で立っていた。冴子さんがドアに耳を当て中の様子を伺う。そして先生に渡した盗聴器からの様子も伺う。
「中は盛り上がってる。先生はまだシャワー中よ。玄関に人はいない。さぁ行きましょうか」
と言って俺を見る。俺は持っていた日本刀を構え上段から降り下ろす。刀はドアとドア枠の間に吸い込まれ「ガキッ」という音と共に鍵のみを切断する。
「手前の部屋から調べていくわよ。最初は私から行くから後ろの警戒よろしく」
ドアを開けると中は暗かった。廊下が真っ直ぐあり突き当たりに扉が1つ。扉の隙間から光が漏れ中から男達の声が聞こえる。そして突き当たりの部屋の手前にはドアが3つ。右に1つと左に2つ。冴子さんは右側のドアに耳を当て中を伺う。そしてノブを回し中に入っていく。中には誰もいなかった。そして何もなかった。とその時、突き当たりの部屋の扉が開いた。今いる部屋のドアは完全には閉めておらず10㎝程開いている。奥の部屋から男が1人出てきて左側にあった扉の奥の部屋側にある扉を開け中に入って行った。しばらくすると小便の音が。どうやらそこはトイレのようだ。男はこちらに気付くことなく奥の部屋に帰って行った。あそこがトイレなら捜索する部屋はあと1つ、左側の部屋のみ。早速向かう。冴子さんがドアに耳を当て中を伺う。中から物音がしないからかノブを回し中に入っていく。この部屋にも誰もいなかった。しかし、大きな鞄が3つとアルミ製アタッシュケース5つが床に置いてあった。中を確認すると、鞄には軍用銃と弾丸が大量にあり、アタッシュケースの中には麻薬と思われる大量の白い粉があった。後付けではあるが強制捜査の大義名分を手に入れたに等しい物だろう。本当は押し入れ等も調べたかったが、今は佐々岡確保を最優先にする。
廊下に出て奥の部屋の扉の前に立つ。少々緊張する。中からは先生のシャワーを急かす声が聞こえる。つまり先生はまだこの部屋にはいない。しかし持ってきた覆面をし顔を見られないように万全を期する。
3、2、1の合図で突入する打ち合わせをし冴子さんの合図を待つ。冴子さんは拳銃を取り出す。緊張感が増していくなか冴子さんから合図が。3、2、1!
最初に冴子さんが飛び込み佐々岡の元に近付く。その後ろから俺は冴子さんとは逆方向に走り刀を振るっていく。
中には8人もの男と1人の女性がいた。部屋は両端にベッドが1つずつ、真ん中にテーブルとソファーがあった。左端のベッドに女性と男が3人。右端のベッドに男が3人。ソファーに1人と右側にある扉前に男が1人。恐らくその扉の奥にお風呂があり先生がいるのだろう。
冴子さんは突入と同時に銃を構えながら右端のベッドに腰掛けている男に近付き頭に銃を突き付けようとしている。こいつが佐々岡だと俺に知らせる。俺は左端のベッドに向かい今まさに女性を辱しめている3人の首を斬っていく。血が噴水の様に吹き上がり壁や天井は真っ赤に染まる。当然俺も女性も血塗れだ。女性にとってはトラウマになる光景だろうが今は構っていられない。この時点ではまだ冴子さんは佐々岡の頭に銃を突き付けるに至っていない。なので俺はソファーにいる男に向かい胴体を真っ二つにしてやる。血と共に内臓がソファーと床に散らばる。しかし男は死んだわけではない。なので今度は顔を真っ二つにしてやる。血と脳が飛び散り凄惨な死を迎えた。冴子さんが佐々岡の頭に銃を突き付けたのを確認しつつ次は扉の前に立つ男に斬りかかる。男は俺に反応し抵抗しようとするが遅すぎる。首を斬られ目を見開いたまま床に首だけ転がる。最後に見た光景は血だらけの俺の顔なのか落下していく部屋の光景なのか、はたまた床から見上げる天井なのかは本人しか知らない。しかし確認することは出来ない。ここまでで約2秒。残るは佐々岡を除く2名。ここで少し間を置いてやる。佐々岡の恐怖心を煽る目的である。ただその時も外部に連絡されないためにいつでも斬りかかる準備と警戒は怠らない。冴子さんに佐々岡を尋問するように目で合図する。
「佐々岡勝、聞きたいことがあるから答えなさい。それ以外は話さなくていい。他の2人は喋るのも動くのもしないこと。破るとこの男があなた達を殺す。いいわね?」
3人とも首を縦に何度も振る。
「向こうの部屋にあった銃は何?」
すると俺から見て手前の男が答えた。
「銃ならやるから……」
とそこまで言ったところで右腕を切り落とす。恐らく、命だけは助けてくれ、と言いたかったのだろうが、悲鳴で何が言いたかったかはわからない。わかろうとしない。
「喋るな、と言っただろう?殺されなかっただけでも感謝しな」
「で、佐々岡、どうなの?」
「あ、あれは、……俺がバラしたって言わないでくれ!それが知れたら俺は殺される!」
「わかったわ。約束する」
「あれは、中国系のマフィアから流れてきたらしい。詳しくは俺も知らされていないんだ。信じてくれ」
「でどこに届けるの?」
「…知らない。本当に知らないんだ!毎回違うところに届けろと言われるだけで、誰に届いているか全く知らないんだ。ほ、本当だ」
「次はいつ運ぶの?」
「つ、次は明後日…」
「どこに?」
「神野駅北口のロッカー…。その鍵を駅前にいる女に渡すことになってる。その後のことはわからない」
「そう。…今までの話に偽りはない?」
「無い!嘘は言ってない!」
と佐々岡が叫んだところで冴子さんは俺を見て顎をしゃくり右腕を切り落とされた男を見る。俺は言いたいことを理解し頷く。そして男の首を斬った。首が佐々岡の足元に転がり佐々岡は血を頭からかぶる。佐々岡は声すら出ずに泣き出した。その隣にいる男も下を向き体を震わせ泣いていた。
「その運び役は誰がするの?」
「な、中井有里って女が…」
「相手は女が運び役で来ることを知ってるの?」
「女を使うように言ってきたのは向こうだから知っている」
「言ってきた、ということは連絡先を知っているんじゃないの?」
「ちがうっっ!向こうからしか連絡は来ない。俺から連絡はしない、出来ないようになっている。余計な詮索もしてはいけない。破ると殺される!」
「そう、わかったわ。質問は以上よ。佐々岡にはもう少し付き合ってもらうわ」
と言ったら、佐々岡の隣で泣いていた男は顔を上げ目を見開きすがるような顔になった。冴子さんが次に発する言葉がわかっているようだ。
佐々岡から視線を外し隣の男を見ると冴子さんは
「あなたは死になさい。今まで、助けて、と言われても無視してきたんでしょ?そんなヤツの命乞いなんて聞くわけ無いでしょ」
そう言うと冴子さんは俺を見る。俺も頷き男の左肩口から右脇腹辺りまでを一閃。佐々岡の位置故少し斬りにくい形にはなったが男の体は二つに別れ崩れ落ちた。ベッドも床も佐々岡も血塗れになった。冴子さんは出来る限り血をかぶらないように俺が盾になった。冴子さんにはこの後先生と気絶している女性の介抱をしてもらわないといけないからだ。
あとは応援を呼んでここを片付けてもらう。冴子さんが電話して約3分後、片付け部隊が部屋に入ってきた。冴子さんは指示しながら女性2人と共に部屋を後にし俺も佐々岡を連れて付いていく。外にいた警官に佐々岡を任せ、佐々岡と冴子さん達を見送り俺は歩いて家に帰る。ちなみに俺は片付け部隊が到着するまでの3分でシャワーを浴び持ってきた着替えを着ているので血塗れではない。
歩いて帰っている途中、今日のマンション一室での出来事を思い返す。やはり人を殺すのは楽しい。相手が悪党であればあるほど…。クズであればあるほど…。犯罪者を否応なしに斬れる、殺せるまではまだもう少し周りの信頼を得ないと難しいだろう。だが、今日みたいなことを繰り返し結果を残せばいずれは……。自分と自分の家族を守る為に絶対になってやる。究極の人殺しに!