第18話
次の日の朝。
部活の朝練を終え教室に戻ると、中井先生から「放課後に話があるから残るように」と言われた。バレたか?いや、そんなずはない。助けて欲しいって頼みか?何故俺に?建前は普通の中学生なはずだ。いくら考えても答えが出ないので一旦棚上げし冴子さんに報告する 。しかし返信は無く放課後を迎えてしまった。
放課後職員室に行くと、
「あぁ、桜くん。こっち来て」
と立ち上がり職員室を出て隣の進路指導室へ入って行った。そして先生が座った対面に座るように言われ従った。
「さて…と。桜くん、この前私が窶れたって言ってたわよね?それと関係があるんだけどいい?」
「あ、はい」
「桜くん、この前怖い保護者が学校に来たとき警察の人と知り合いみたいだったけどそうなの?」
「あぁ、一応知り合いです。1、2度会った程度ですけど」
もう死んでいる、というか殺した、なんてことは言わない。
「そう。その人に相談したいことあるから紹介してくれないかな?あ、別に変な意味じゃないから!先生結婚してるし」
相談かぁ。警察に相談って大分切羽詰まってる様子。田口はいない(殺した)しどうするかなぁ。署長か?冴子さんか?
「田口さんは異動したって聞いたので他の人でもいいですか?」
「そうなの…。じゃあ出来れば女性警察官がいいかな。頼める?」
「多分大丈夫だと思います」
進路指導室を出て先生と別れたあと冴子さんに今の状況をメールした。するとすぐに冴子さんから電話が。
「私が行くわ。地元警察には署長から言ってもらう。明日は土曜だから明日の14時に署で会うのはどう?伝えてくれる?」
先生に明日の14時と伝えるとホッとした顔で「よかった…」と呟いていた。
相談当日、俺がいると不自然なので警察署の前で冴子さんを紹介してから帰った。
その日は連絡なく次の日の朝に冴子さんからメールが来ていた。「12時に署に来て」と。
時間通りに行くと、入り口で冴子さんが待っていた。そして第5取調室に入り昨日の話をしてくれた。
「昨日の話だけど、私が手に入れた情報と少し違ってたわ。必要なことだけ買いつまんで話すわよ。始まりは、木下建設の佐々岡勝…、あ、仕事の出来ないバカね、に拉致されたのが切っ掛けらしいわ。拉致され車の中で薬を嗅がされ眠ってしまった。気が付いたときは、5人に輪姦された後だった。自分が眠っていた間に行われたことをビデオで見せられながらまた輪姦されたそうよ。その時に、麻薬だと思われるものを吸わされながらされたのでほとんど意識が無かった、そしてこれからも言うことを聞く旨を約束させられビデオに撮られてる。そんな状態なので誰にも相談出来ず悩んでいたらしいわ。最初は、佐々岡が連れてくる木下建設の重役達の相手をさせられてたんだけど、ある時から鞄を渡され指定された場所に置いてくるように言われだした。SEXを強要されるより鞄を運ぶだけの方がいいと思い進んで運んでた。ところが、つい最近運んだ時中身を見たらしいの。中には軍用銃が1丁と弾丸が山程入ってたらしい。それで怖くなり形振り構わず相談に踏み切ったってわけ。わかった?」
「……わかりました」
いつも笑顔が素敵な先生をこんなにも痛め付けるなんて…。佐々岡はもちろん木下建設の重役達も殺す。
「あなた相当怒ってるわね…」
「そりゃそうでしょ。人間のすることじゃないですよ。だから俺も人間とは思わない。ただ虫ケラを殺すだけです」
「まぁいいわ。私も同じ女として許せないし。何回も言うけど早まらないでよ。で、銃が軍用であること、弾丸も沢山あることを考えると国家レベルの緊急事態よ。正直私達2人では手に負えない。だから上に掛け合ったの。じゃあ、「こちらも人手が足りてない。もうすぐ1チーム空くが空くのは恐らく早くても2か月後だ」って…。けど相手の装備が整う前に叩きたいから時間が無いの。のんびり相手の出方を計算して作戦立ててる場合じゃない。だから自衛隊に掛け合ってもらったら、隊員3名派遣してくれることになったわ」
「じ、自衛隊!?話が大きくなってきましたね…」
「そりゃそうよ。だって軍用銃なんか戦争 でしか使わないのよ?それが得体の知れない人間の手に大量に渡ってるとしたら大問題よ。大規模テロしか思い浮かばないわ」
「まぁ確かに…。で、自衛隊と合流するまで俺たちは何を?」
「佐々岡の確保。あいつ以外はどうでもいいわ。全員殺しましょう。下手に生かして相手にバレると厄介だし。佐々岡の目の前で全員惨殺すれば口割るでしょ?それと出来れば敵のアジトの究明かな」
「いつになく過激てすね…。けど口を割るかどうかは佐々岡の性格にも依りますよ」
「そこは大丈夫。あいつの性格は調査済み」
例のマンション前に着いたのは夕方4時頃だった。佐々岡がいるかどうかはわからない。もうすでにいるなら突入出来るが、いないなら無駄である。中がどうなっているか知りたいと思っていたら、駅の方から中井先生が歩いてきた。飛び出して行こうとしたら冴子さんが
「あなたが行ってどうするの?先生はあなたの素性知らないんだからここは私に任せなさい」
と言い出て行ってしまった。俺は大人しく隠れていることにする…。先生は冴子さんを見つけると驚いていたが、何やら冴子さんが呟くと頷き笑顔になっていた。別れ際に冴子さんが何かを渡していた。
「先生に盗聴器を渡してきた。今日あなたを助けるから、中の会話を聞かしてくれるよううに頼んできたわ」
先生が5階の一番奥の部屋に入っていく。
「いらっしゃい、せんせ。今日も楽しもうね~」
「おい権田、お前も女拾って来いよ。自分ばっかり楽しやがって」
「平田ちゃんそう怒んないって」
「つーか有里ちゃん呼んだの誰?」
「俺。やっぱ年上の人妻って興奮するんだよね♪」
「佐々岡って変態だもんね~有里ちゃん。もう旦那では満足出来ないんじゃないの?」
「そんなこと…あるわけ…ない…」
「有里ちゃんしどろもどろ~。じゃあ始めよっか」
「き、今日は先にシャワー浴びさせてください」
「何で?いつもはそんなこと言わないのに」
「今日家族で出掛けたから……」
マンション前の車の中。
「佐々岡いるみたいですね?突入しますか?」
「他はわかってる範囲で3人ね。雰囲気からするとまだいそうだけど、仮に5人いたとして、佐々岡以外を外部に連絡されないように殺すのは可能?」
「俺は佐々岡の顔を知らないんで、冴子さんが先に佐々岡に近付いてもらえば遠い人間から斬っていきます。外部に連絡は出来ないはずです」
「そう。他に考えられる状況ってある?」
「女がまだ他にいて男もさらにいる。で、他の部屋にいて連絡されてしまう、とか?」
「最悪パターンね。しっかり考えてるわね。安心したわ。じゃあ鍵壊せる?」
「ドアの隙間から鍵を切断すればいいでしょ。ちょっと音出ますけど中が盛り上がってたら気にならないはずです」
「OK。じゃあ任せるわ。最悪パターンを頭の片隅にでも入れながら突入するわよ。目標は佐々岡の確保。それ以外は始末。見つかるまでは静かに行動。見つかれば速やかに目標達成に努めること。いいわね?」
「了解」
俺たちは車から出てマンション5階へ向かった。