第17話
非合法の警察官(?)になって10日程経った。特に何も無く普通の中学生の日常を送っていた。
そんなある日、部活も終わり帰宅準備をしていると冴子さんから電話があった。ちなみに、警察から携帯電話が支給されており、通話料・通信料は無料、使い放題となっている。税金を払ってくれている大人の方に感謝。
「もしもし」
「桜くん、あなた浜宮中だったわよね?」
「えぇ。そうですけど」
「中井有里って先生いる?」
「担任ですけど。…それが何か?」
「担任!?ちょうどよかった。今どこにいるかわかる?」
「今は職員室か帰ってしまったかだと思いますよ。うちの担任何かしましたか?」
「ん~…、詳しくは会って話すわ。とりあえず、職員室いれば帰るまで待ってどこに行くか尾行してくれる?職員室にいなければまた連絡頂戴。詳しい話をするわ」
俺は帰る準備を終え職員室へ向かった。中井先生の姿はなくそこにいる先生方も帰る用意をしていた。その中の1人が俺に気付き声を掛けてきた。
「おっ、桜どうした?誰に用事だ?」
「中井先生は帰られましたか?」
「中井先生?先生なら帰ったぞ。急ぐ用事か?」
「いえ、大丈夫です。明日にでも自分で聞きます。ありがとうございました」
「おう。気をつけて帰れよ」
「もしもし、中井先生いませんでした」
「そう。じゃあ今から迎えに行くから校門前で待ってて」
校門前で待っていると、1台の高級車が。運転席を見ると、黒のスーツに黒縁メガネをかけた冴子さんだった。仕事の出来る女社長然としており、その器量の良さとも相まって形容しがたい魅力を放っていた。思わず見とれてしまう……。
「桜くん!ボーッとしてないで早く乗りなさい!」
「あ…は、はい!」
「…今私に見とれてたでしょ?」
からかうように冴子さんが聞いてくるが、俺は下を向いて照れてしまう。
「この反応だけ見てたら大人しい中学生なんだけどねぇ。人って見た目じゃ何にも分からないわ」
とか言いながら車を運転している。たまに横顔を見るがやはり魅力的である。そんなことを思っていると駐車場に着いた。
「さぁ降りて。詳しい話と打ち合わせよ」
「ここって……」
冴子さんに連れられてきたのは鹿児組の屋敷だった。鹿児組との接触は禁止だったのでは?と思ったが、冴子さんの後に付いて組長室へ向かう。
組長室には溝口さんがいた。
「久し振りだな浩志」
「溝口さんお久し振りです。なぜ俺がここに?」
と言いながら溝口さんと冴子さんの顔を交互に見る。すると冴子さんが
「今からする話は誰にも聞かせられないのよ。で思い付いたのがここだったわけ。それ以外の理由はないわ。じゃあ溝口さんいいかしら?」
「わかりました。ではごゆっくり。私は1階にいますので」
「さて、何から話そうかしら。…まず今の私の潜入先なんだけど、とある建設会社なの。黒い噂が絶えない会社でね。で、そこの従業員が中井有里って女と付き合ってるって情報が入ったの。その従業員は27歳と若いのに部長職に付いてるんだけど、成績は良くない、部下からは信頼されていない、そもそも仕事に出る日があんまりないのよ。それでいて社長以下重役たちには人気があってね。で調べたらその男は、自分の女を重役たちに売ってるみたいなの。その中の1人があなたの担任。その行為を撮影し弱みを握って銃器の運び屋もさせているの。本人達は中身は知らないと思うわ。一応運び屋もSEXも多額の報酬を貰ってるけど、そのお金の出所も調べたわ。中井有里の場合、旦那の会社がこの会社の下請けになってるの。で出向と言う形で社員を1人経理課に配属するように迫った。その経理課の人間が横領して会社に金を流し中井有里に支払ってる。つまりうちの会社…めんどくさいわね…、木下建設は痛くも痒くもないの。ここまではいい?」
「…大丈夫」
ただ中井先生にそんな裏事情があったなんて…。全然気が付かなかった。
「続けるわよ。ここまでのことだけなら地元警察で解決なんだけど、問題は銃器がどんなものでどこから来てどこに流れてるのか、よ。相手も相当慎重になってるらしく手掛かりさえ掴めていない。そこで私達の出番。私は木下建設側から、あなたは中井有里側から探って銃器の出所と流れ着く所を解明、場合によっては組織やシステム壊滅が任務よ。いい?」
「いきなり任務?何か訓練とかは無いんですか?俺素人ですよ?」
「そう?片岡組襲撃にしろ自宅を襲ってきた10人の男の制圧にしろ警察署潜入にしろ上出来よ。それに拳銃の弾避けられるんだから大丈夫よ」
と言いながら笑っている。そうなのか?弾が避けられたら万事OKなのか?そんなテキトーでいいのか?そんな疑問が顔に表れていたようだ。
「何よ?何か不満?不確定要素が多過ぎて細かい計画が立てられないのよ。後は自分で考えて行動して。それと何かわかればメールで報告よろしく」
「…わかりました」
「あとわかってると思うけど、先生だけ助けようとして早まっちゃダメよ。今先生を救っても銃器を手に入れてる連中を逃がすといずれ先生家族は殺されるわ。わかったわね?」
「わかりました」
話し合いが終わり俺は鹿児組の屋敷を後にして家に帰った。道中先生の思いを考えると、怒りと助けたいとの思いが強くなった。なるべく早く、なるべく気付かれずに行動しなければならない。この任務、絶対に成功させてやる!絶対に先生家族を助けてやる!
次の日学校に着くなり中井先生に呼び止められた。
「桜くん、昨日何か用事があったみたいね。何?」
「あぁ、いや何でもありません。プリント1枚無くしたので欲しかったんですが教科書に挟まってただけでしたので」
「あらそう。よかった。じゃあホームルームでね」
「あ、先生!」
「ん?何?」
「いや…最近痩せたというか窶れた感じなので体の方大丈夫なのかな、と思いまして…」
「そ、そう?だ、大丈夫よ。じゃあ行くわね」
目が泳いで挙動不審、か。冴子さん情報は本当みたいだ。今日の帰りに尾行してみるか。
放課後。
先生が帰るのを待ち、少し遅れて俺も学校を後にした。
先生は後ろを警戒するわけでもなく普通に駅まで歩き電車に乗り3駅目で降りた。俺は同じ車両に乗ってはいるものの不自然ではない程度に変装しているので恐らくバレていないだろう。気をつけなければならないのは先生を監視しているかもしれない、俺から見れば敵である者。周りの人間に不自然なところが無いか注意を配る。意識としては先生3割、周り7割ってとこだ。駅から北に15分程歩いたところで5階建てのマンションに入って行った。俺はそのまま通り過ぎ角を曲がり塀の影から先生がどの部屋に入るか見届ける。その間も周りへの警戒を怠らない。先生は5階の一番奥の部屋に入って行った。チャイムを押して鍵が開き扉が開いて中の人が招き入れてから入って行った。中にいた人の見えた部分は腕だけだったので男か女かはわからなかった。恐らくだが、ここは先生の家じゃない。チャイムを押して鍵が開いてから入るのはともかく、招き入れてから入るのは不自然だ。木下建設関係か銃器関係の部屋だろう。今押し入って全員殺して先生を助けるのは簡単だが、今は我慢して先生と家族の安全を優先する。とりあえずこれからしばらく張り込み。そして現状を冴子さんに報告と部屋の所有者を調べてもらう。。
しばらくすると返信があった。
「今から行く」
と。
だいたい1時間が経った頃、冴子さんが歩いてやってきた。
「何か変わったことは?」
「動き無し」
「そう。…桜くん尾行も完璧ね」
「わかんないですよ。敵の監視に見つかって今見張られてるかもしれないですし」
「それは無いわ。一応確認したから」
「確認?」
「そう。あなたが学校を出たところから私があなたを尾行してたの♪」
「えっ!言ってくれればいいのに。ていうか気付かなかった…」
「ちょっとしたテストだと思えばいいわ。そして合格よ。よろしくね、相棒」
「相棒…ですか。よろしくお願いします。…でこれからどうします?」
冴子さんに認められ嬉しい顔を隠すのに必死だ。年頃の中学生、年上の綺麗なお姉さんにはみんな弱いものだ。
「中井有里が出てくるまで張り込み。出てきたら尾行。誰かが部屋に入って行けば、そいつの写真を撮り身元照会。誰かが出てくればそいつを尾行。この時は二手に別れることになるわ」
「数人で出てきて車で移動の時は?」
「それも大丈夫。近くに車止めてるから」
さらに2時間が過ぎた頃、マンションの例の部屋の玄関が開いた。出てきたのは先生。現在の時間は22時過ぎ。約4時間はあの部屋にいたことになる。何をしていたかは想像の域を出ないが、良からぬことが行われていたに違いない。
さて出てきたのが先生1人なので2人で尾行する。冴子さんはカップルを装うようだ。親子の方が…なんてことは言わない。
来た道を戻る形で駅に向かって歩いていく先生。その後ろ約60mで付いていく俺たち。冴子さんは先生を、俺は周りを警戒して付いていく。駅に着き電車に乗り2駅戻って降りる。そこから東に10分歩きある一軒家に入って行った。表札には「中井」とあった。ここが先生の家。
「ここが先生の家のようね。今日の尾行はこれで終わり。桜くんは先生の家の電気が消えるまで張り込んでて。で明日も放課後尾行して。私は署に帰ってマンションの部屋の所有者を調べるわ。じゃあね」
と足早に行ってしまった。俺は先生の家の電気が消えるまで待った。
約2時間後何事もなく中井家は消灯した。