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第15話

1階女子トイレを出た後、俺は冴子さんと階段を目指す。深夜に差し掛かっている時間なので警察官は少ないが、さすが警察署、作りが侵入し難い作りになっており見つからずに上に上がることは困難を極めた。なので見つからずに行動するのは諦め、冴子さんに補導されて連行されていることにした。当然手錠など拘束具はなく後ろから大人しく付いて行く格好になる。すれ違う警官は冴子さんには会釈するが俺には疑いの目を向けてくる。上野を殺したことは知られていないのか…?


とその時、冴子さんが

「あ!佳美。田口さんどこにいるかわかる?この子被害者の親族みたいなの。話聞けると思うんだけど」

「田口さんですか?さっき鹿児組の組長さんを連れて第一取調室に入って行きましたよ」

「そう。ありがと。取調室かぁ、どおりで見つからないはずよ」

と田口の居場所を然り気無く聞き出した。第一取調室は2階にあり、同じ階に第2~第5まで取調室はあった。その他には刑事課や生活安全課があり深夜でも数十人の警官がいた。



階段を上がり通路を覗き一番奥の第一取調室を確認する。通路に誰もいないが誰にも見つからずに行動するのはやはり無理がある。しかも刑事課には上野の件が伝わり、見つかれば俺は拘束されるかもしれない。冴子さんもどうするか考えている。冴子さんにどうするか聞こうとしたその時、後ろから川野さんが現れた。

「何してるんだ?」

「わっ!!!ビックリした。何って見たらわかるでしょ、様子を伺ってるんですよ。見つかったら俺拘束されるかもしれないから」

「あぁ、なるほど。でもその心配は無い。田口は自分の関わるヤマについては誰にも言わない。だから尻尾を掴むのに苦労したんだがな。というわけなんで行こうか。田口はどこに?」

「第一取調室です。しかしどんな罠があるかわからないので慎重に行動すべきでは?」

俺も冴子さんの意見に賛成だ。自分に害が及ばないように色々策を講じてきた田口が、自分のホームで何も策を巡らしていないとは考えにくい。何かあると見るべきだろう。冴子さんの忠告や俺が考えていることを無視し一人で第一取調室へ向かって行く川野さん。仕方がないので充分注意して、後を追う形で第一取調室へ向かった、



刑事課や生活安全課の人達は、俺の手で上野が殺されたことを知らないのか見ても何も反応はない。あまりにも署内の行動が何事もなく上手くいきすぎて逆に不安になってしまう。冴子さんも何か考えている様子で眉間に皺がいっている。


第一取調室の前に着き、川野さんが扉に手をかけ開ける 。そこに田口はいなかった。居たのは鹿児組組長、いや、正しくは鹿児組組長だった人だ。ナイフで首筋を切られ大きな血の海に横たわっていた。しかもそのナイフは右目に突き刺され、オブジェのようにそびえ立っていた。

「お、おじさん………」

「……」

「!……」

三人共言葉を失いその場に立ち尽くす。その時、田口の声が!

「動くな!」

声の方向を見ると、階段の踊り場に立ちこちらに銃を向けている田口がいた。その周りには5人の警官。第5取調室の扉を盾代わりして銃を構えている警官2人。刑事課の入り口に3人の警官。全員銃を構えていた。勿論銃口は俺達、いや俺。冴子さんと川野さんは第1取調室の中に避難したが俺はその場に留まった。


「野崎くん川野くん、こっちに来なさい」

「田口!俺の妻はどこだ!!貴様のしたことは全てわかっ……」

「だまれ!!」

俺は川野さんが喋るのを制して田口を睨んだ。川野さんは何か言いたげだったが俺の勢いに負け下がってくれた。

「おまえ死ぬ覚悟出来てんだろーな。つーか死ね」

「最近の中学生は怖いねぇ。…連続殺人犯が偉そうに言うなよ」

「今俺に銃向けてるヤツも死ぬ覚悟出来てんだろーな。そいつは人間以下のカスだぞ?…まぁいいや。邪魔したら殺す。じゃあ行くぞ、田口」

「発砲を許可する。撃て!」



「待て!!!」


今まさに殺し合いが始まろうとしたその時、甲高いしかも威厳のある声が響いた。俺は刀を抜き斬りかかろうとした姿勢のまま固まる。田口をはじめ警官達も銃を構えたまま固まっている。その時誰かが呟いた。

「署長…」


「田口、銃をしまえ。みんなもしまうんだ。桜くんも刀をしまってくれないか」

その言葉は反論させない強さを持っていた。俺も大人しく刀をしまう。


「さて、落ち着いてくれたかな。まずは田口。おまえのしたこと、していることは調べはついている。山下と川野が頑張ってくれたからな。それに川野の奥さんは解放した。そこにいた男達が色々話してくれたぞ」

川野さんは安心してへたりこんでいた。よかった、よかった、と涙を流して喜んでいた。


「そして桜くん、君のしたことも聞いている。君のしたことは犯罪だ。しかも極刑已む無しと言われても反論の余地が無いほどの。今ここで逮捕する、と言ったらどうする?」

「俺は田口を殺すだけ。それを邪魔するなら排除するまでです」

「そうだろうね。きみは以前からマークしてたからそう答えると思っていたよ。しかしそうなると戦わなくてはならなくなる。残念ながら我々ではきみに敵わない。そこで提案だ。田口を好きにしていい。が、その代わり常時警察管理下にいてもらう。殺しは無し。どうだい?」


周りの警官達がざわつく。田口を好きにしていい、つまりは殺していいと警察署のトップが言っているのでそれも無理もないことだろう。田口は田口で下を向き唇を噛み締め拳を握り悔しさを表していた。


「…具体的に警察管理下とはどういうことですか?」

「ん~…今はまだ言えない。1つ言えることは簡単に人殺しが出来なくなる、かな」

「わかりました。田口を殺せるなら従います。こちらからも1つお願いが」

「聞ける範囲であれば」

「鹿児組全員の釈放です」

「あぁ、なるほど。……」

署長は右手を顎に当て何かを考え始めた。暫くすると、時間にして約20秒ってところか、顔を上げ俺を見た、いや俺の後ろにいた冴子さんを見た。 すると冴子さんが

「いいでしょう。組長の命と引き換えることで上に掛け合います」

「そうしてもらえると助かるよ。よろしく」


冴子さんは俺に近付き、状況がイマイチ飲み込めていない俺に説明を始めた。

「桜くん、実は私と山下さんは警察庁の公安の人間なの。田口の悪行の証拠集めとあなたの監視が主な任務。これは署長しか知らないことよ。最終的には、田口逮捕ときみを逮捕か常時監視どちらかにすることになってたの。とりあえず警察庁に行って取り調べを受けてもらって上がどう判断するかになるわ」

どうやら俺の知らないところで大人が沢山動いていたようだ。しかし俺としては田口を殺せるし逮捕されないし悪くはないかな。警察の管理下とは言っても普通に学生出来るんだろうし。

「わかりました。警察管理下というのも飲みます」




こうして田口と上野を主犯とする麻薬売買、売春、恐喝、殺人等幾つもの暴力団を巻き込んだ一連の犯罪事件が解決した。犠牲者は数えることが出来ないほどである。犠牲者遺族、被害者にとっては解決していないと言えるだろう。この日本では犯罪被害者に厳しい 。これからも戦っていかなければいかない。憤りをぶつける相手がおらず悲しみを共有する相手も少ない。やはり犯罪を無くす、犯罪者を無くす必要がある。当時の俺は短絡的にそう思っていた。

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