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第11話

あれから3日が経った。ただの中学生に事態を進展させることも推理して物事を解決に向かわせることも出来ずにただ時間が過ぎていった。俺は毎日学校に行きいつもと変わらない生活を送っていた。ただ鹿児組組長からは警戒は怠るな、と言われていたが。

今日も学校に来ていたが、昼休みに担任である英語教師中井有里から呼び出しを受けていた。といっても、恐らくクラスの担任としての雑用を押し付けられるのだろう。俺は学校では鹿児組と関係があるとか人殺しであることは隠し普通の生徒を演じていた。なので呼び出されるといっても怒られたりするわけではない…はずである…。ちなみに担任の中井有里は35歳の既婚である。周りはおじさんおばさんばかりなので若い女性というだけで人気があった。特に男子生徒からは人気が高かった。だからといって女子生徒から嫌われたりはなく女同士仲良く話を聞いたりしてくれる人望の厚い先生である。


職員室に近付くにつれ女性の喚いている声が聞こえてきた。かなり離れているにもかかわらず、聞こえてくるので相当大きな声である。うちの学校は職員室の廊下を挟んで向かいに来客用の玄関がある。その脇には事務員の部屋と警備員の詰所がある。事務員さんは常時3人、警備員は1人か2人いた。学校に用事がある時は、玄関で警備員からチェックを受け事務員さんに職員室に案内されることになっていた。

女性の大声を聞きながら詰所と事務員室を見ると、中は誰もいなかった。玄関前には黒い高級車が止まっており、職員室内の声の主がオーナーであることを推察させる。事務員と警備員は高級車のオーナーに付いて行ったか連れていかれたか止められなかったのだろう。女のヒステリーに関わりたくなかったので職員室に入るのを躊躇っていた。しかし学校生活を穏便に過ごすためには担任の言い付けを守るべきと考え職員室に足を踏み入れる。

「失礼します…。中井先生はいらっしゃいますか…」

と言い終わるところで、女性がハゲ教頭に掴みかかった。周りは止めに入るが、セクハラだなんだと後々面倒になるのを考えて、女の先生が止めに入るので止められない。60歳台の1学年の学年主任山田先生と同じく60歳台であろう用務員のおばちゃんである。しかし俺は気にはなるが関わると面倒なので無視して担任の元へ足を進めることにした。担任はというと教頭たちの状況が気になるのかあちらを凝視し前に来た俺には気付くことは無かった。なので一言、

「先生…」

と言うと、ビックリした様子で、

「あ!桜くん。ごめんなさい、気付かなかった。で、何?」

…この騒動で俺を呼び出したのを忘れている様だ。

「いや、先生に呼ばれたので来たんですが」

「あ!そうだったわね。忘れてたわ。え~…と……、何だったかしら…」

と口元に手をやり目を瞑り俯き加減で悩み始めた。その仕草が気に障ったのかそれまで教頭たちに食って掛かっていた女性が、今度はこちらに目標を変えてきた。

「あなた!何笑ってるのよ!ほんとこの学校にはろくな教師がいないわね!…」

と捲し立てて来た。俺は、職員室に入ったのを後悔しつつ標的にされた担任を見た。かなり慌ててオロオロしパニックになっているのは明らかであった。何だかかわいらしくてほのぼのしてしまった。担任の中井先生は必死で誤解を解こうと弁解しているが、パニックの為か相手の勢いに負けてか声が小さい。そんな声では隣の俺ですら聞き取り不可能である。そんな様子がまた怒りを誘う。

「何ブツブツ言ってるの!!!」

と言いこちらに近付いて来た。とその時、職員室の扉が開き一人の男が現れた。その男の異様な姿に教師一同唖然となった。それもそのはず、全身包帯だらけで松葉杖をついており重傷患者然としていたからである。恐らくヒステリーおばさんの家族であろう。黒い高級車に乗っていたのだろうか。かろうじて右目だけ見えていたがここまで来るのに相当の苦労があったに違いない。さっさと連れて帰ってくれ、と心の中で呟くが、そんな期待は裏切られ、男も松葉杖をつきながらヒステリーおばさんの元に進みながら何やら喚いている。実際は包帯で口元が覆われているせいか怪我のせいか何を言ってるか聞き取れない。俺はこの最悪な状況に肩を落とし頭を垂れて落胆の意思を表さざるをえなかった。中井先生は恐怖で下を向き手を握りしめて微動だにしなかった。そうしているうちにとうとう担任はヒステリーおばさんと包帯男に囲まれてしまった。俺は下を向いたまま教頭や用務員達を見ると、怒りの矛先が自分達から外れたためかホッとしていた。一方同僚教師達は数名が席を立ち仲裁に入ろうか思案しているようだ。というかこうなった原因、こんなにも2人を怒り立たせた問題は何なんだろうか?と、周りを観察していると、俺にもとばっちりが…。

「あなたもボーッと立ってないで用が済んだら教室に戻りなさい」

と言われたので、

「まだ終わってません。あなたの前にいる担任に呼ばれて来てまだ何も言われてないんです」

と、一応丁寧に敬意を持って答えた。後々言い返すにもつけこまれる要因は出来るだけ排除しておくにに限る。案の定、

「口答えするとは何様!?全くこの学校は何なの!?」

と来た。これ以上バカな大人に付き合う気にならないので行動に出ようとしたら、いきなり包帯男に胸ぐらを掴まれ、下を向いていた顔を上に向けられ怒りに満ちた右目で俺の目を睨んできた。凄むために息を吸い言葉を発しようとしたが声は出ず目から怒りは消え恐怖に変わって行くのが見てとれた。そしてボソッと一言、

「うちの組にカチコんだガキ……」

……あ~、片岡組の生き残りか。包帯だらけなんでわからなかった。てことは鹿児組にリンチされた結果がその包帯だらけなわけか。とりあえず、バラされると穏やかな学生生活に支障が出るので、

「だまれ。これ以上騒ぐと殺すぞ。さっさとオバサン連れて帰れ」

と包帯男にしか聞こえないぐらい小さな声で言ってやった。と、その時、職員室の扉が開き2人のスーツ姿の男と4人の制服姿の警察官が入ってきた。教頭が駆け寄り包帯男を指差しながら何か話している。話は途中だろうが切り上げスーツ姿の男がこちらに歩いてきた。スーツ姿の男は包帯男に

「片岡組の佐々木か?」

「だったらどうするんだ?」

「おまえが教育熱心だったとは知らなかったよ。とりあえず今日は帰ったらどうだ?」

「わかった」

と言い、何故か俺の顔を見た。そして出口へ歩き出しスーツ姿の警察官とすれ違いざまに何やら耳元で話したのを俺は見逃さなかった。俺の勘が言っている。こいつが麻薬を流している警官だと。



ヒステリーおばさんと包帯男は制服姿の警察官5人に連れられ職員室を出て行った。スーツ姿の警察官2人が残り、1人は教頭と話をしもう一人(片岡組の佐々木とかいう男と話した方)が俺に近付いて来た。

「大丈夫かい?恐かっただろう?私は田口というものだ。きみ、名前は?」

「桜です」

「桜くんか、あーゆう大人にも立ち向かえるんだね」

「いえ、そんなわけでは…。先生がかわいそうだったので…」

「そっか。まぁ今日は教室に帰りなさい」

と言われたので、それに従うことにした。しかしすれ違いざまに

「また近いうちに会うことになるけどね」

と笑顔で言ってきた。やはりこいつが関係しているのか。この場で切り捨てたい衝動を我慢し

「余裕なんですね。次会うときはあなたの命日になりますよ、田口さん」

「ふふっ、楽しみにしているよ、桜浩志くん」


警察の情報網は凄いね…。名字しか言ってないのに全部バレてる…。ただ武力なら負けないでしょ。自衛隊ならともかく警察の特殊部隊ぐらいなら1人で何とかなるし。しかし敵の姿が見えてきたら人を殺したくなってきた。関係者全員殺してやる。


学校も終わったので鹿児組に今日あったことを報告しに行くことにする。

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