10話
屋敷に着くと安生組の若頭とその隣に50代くらいの紳士が立っていた。若頭は俺を見つけると、
「おはよう。昨日はお疲れさん。助かったよ。噂通りの実力だった。…で、僕の隣にいるのが安生組の組長だ。」
と紹介してくれた。組長は
「君が桜くんか。噂に聞く強者には見えないが、吉原が相当の手練れと評してしたよ。安生組も何とか潰されずに済んだ。ありがとう。」
若頭の名前が吉原ということを今知った…。
「それはどうも。昨日はあれからどうなったんですか?」
失礼かとは思ったが、挨拶も程々に本題について聞いてみた。すると吉原さんが
「片岡組の生きてた2人を締め上げたら中々面白いことを白状したらしいよ。我々もさっき来たばかりで詳しくは聞いてないんだ。組長さんとこに行こうか」
と。
組長の部屋には溝口さんと組長が待っていた 。
「浩志、おつかれさん。安生さんもおつかれです。」
「鹿児組組長さん、ありがとうございました。助かりました。ところで、片岡組の締め上げたら面白いことわかったってなんです?」
「せっかちですな。……片岡組は旭東会の麻薬売買ルートを乗っ取ろうとしてたらしいんだ。仕組みや入手先を調べても何も分からなかったが、高校生4人組が威勢がいい、との情報が入ったわけだ。それが…」
「俺が殺した4人組か」
「そのとおり。ただ鹿児組が関与したことは知らなかったようだな。だから旭東会と繋がりのあった安生組を狙ったわけだ」
「そうだったんですか。しかし、この世界ではよくある話だと思いますが…」
「さすが若頭、まだ先があるんだ。実は、売り捌く麻薬は警察から流れていたみたいなんだ。所轄の刑事と高校生4人組が繋がっていた。これは旭東会の東も知らないことらしい」
「えっ !?警察?国家権力がからんでくるの?話が大きくない!?」
と、俺は大袈裟なリアクションをしてしまった。
「 まぁな。しかし警察がからんでくるなら鹿児組にもなにかしらアプローチがあるだろうな。黒幕さんから」
「鹿児組さんは対策あるんですか?」
「ん~、今のとこはまだわからんなぁ。黒幕が誰か、目的は何かがさっぱりだからな。ただこっちがどれだけの情報を持ってるかわからんはずだから、向こうも強行手段に出られんだろう。暫くは情報収集と腹の探りあいになるだろうな」
「なるほど。これはすんなり片は着きませんね。何でもしますので出来ることがあれば声掛けてください」
こうして先日の出来事と事の真相の話し合いが終わった。俺は、警察がからんでるって話の辺りから怒りを感じていた。本来秩序を守り安全と平和を築くべきものが、その逆に秩序を乱し混乱を引き起こそうとしているのだから。
安生組が引き上げた後、俺も帰ろうとしていたら鹿児組組長に呼ばれた。
「浩志、日本刀好きだろ。しかし日本刀を持ち歩くわけにもいかんしこんなもの作ってもらったんだ。これ使え。業物だからよく切れるぞ。おまえなら首をはねるくらいはわけないだろう」
と言われ、刃渡り40センチぐらいの鞘付きの刃物を渡された。それはよく手になじみ使い易そうでもあり携帯しやすいものですぐに気に入った。
「ありがとうございます。これほんと使い易そうでいい感じです」
「それはよかった。しばらく物騒になるからいつも携帯しておくんだ。何かあれば容赦なく斬るといい」
こうして俺は長い付き合いになる相棒を手に入れることになった。今日のところは試し斬りしたい感情を押し殺し帰宅した。
事態は急変……することなく暫くは普通の毎日が続くことになる。