星空
桜吹雪の中で恋心をもらした経験はありませんか?あの雰囲気は……つい告白してしまいますね。
さすがに幸一を信じきれなくなった真理。腹を決めた女は強い。
桜が開花する季節となった。美紀からはこの一ヶ月連絡が無い。幸一はあの時、春雨の中で真理に約束したものの、美紀と中途半端な形で会わなくなることも気になっていた。
何度か美紀に連絡することも考えたが、その都度、真理の不自然なまでの真剣な表情が脳裏に浮かんで実行出来なかった。ところが、寒の戻りがあったある日の夜、美紀の方から電話があった。
「お久しぶりです」
美紀の声を聞くと、一ヶ月の空白など無かったかのような自然な落ち着きが心に広がる。
「久しぶり。元気にしていた?」
「はい。春休みに入った途端に練習試合が続いて大変でした」
久しぶりの会話に美紀のテンションは高く、部活関係の積もる話を一気に話し続けた。その結果、練習尽くめだった美紀のストレスも発散できたのか、ようやくいつもの美紀に戻ってきた。そして更に友人関係などのよもやま話をしているうちに、今度はやや沈みがちな語気に変わってゆき、話の内容も、二人の関係を見直す時期に来ていることを匂わせるものが多くなってきた。そうして、とうとう本題を切り出した。
「明日の日曜は部活が休みなんですけど会って頂けますか?」
静かな彼女の声に何やら覚悟のようなものを感じる。自分が今までの流れを断ち切る覚悟をしているためにそう感じるだけなのかも知れない。幸一は返事に困った。こんなに深刻な口調で誘っているには何か目的があるように感じる。もし、美紀も距離を置こうとしているのなら、顔を見ながらきちんと話しをつけるべきではないかと、半ば自分の欲求も満たしながらの身勝手な結論を出した。
真理には申し訳ないが、本当にこれで終わりに出来ると確信している。美紀とはこれからも良い友だちでいたい。だから、直接会って話したい。真理との約束を守るために会うのだと、半ば自分を誤魔化しながら美紀の誘いを受けた。
「じゃあ、日曜日。君のうちの最寄り駅へ俺が行くよ」
幸一は、いつかのように真理に偶然出会うリスクを軽減するために街中を避けた。
「駅の近くに桜の綺麗な公園がありますから、そこで会いましょう」
美紀の弾んだ声が受話器の向こうで響いている。幸一は受話器を置いた後、真理にひと言断るべきかと悩んだが、余計な不安を与えるのも良くないと考えてやめた。
時折、桜の花びらが風に吹かれて散っていた。駅から十分ほど歩いた所に河川敷があり、そこに小さな公園があった。十数本の桜が満開で、子供用の遊具もある。小さな子供連れの家族が数組、お弁当を広げて花見をしていた。子供たちは声を限りに叫んで走り回っている。
「可愛いですね、子供は」
「時と場合によるけどね」
美紀と幸一は、家族連れから距離を置いてブランコに腰を下ろしている。
「そうか、三浦さんの妹さんはまだ小学生でしたね。可愛いですか?」
「時と場合によるね」
二人の頭上でも、満開の桜が柔らかい陽射しを嬉しそうに浴びている。
「でも最近は生意気になってきてね。彼女は俺を遊んであげていると思っている節がある」
幸一は地面をトンと軽く蹴って少し揺れてみたが、余り気持ちの良いものではない。子供の頃はこんな揺れがどうして楽しかったのだろう。
「私も三浦さんを遊んであげていると思っていますよ」
美紀は春風のように優しく笑った。
「それはご親切に……。どうもありがとう」
軽く微笑んだ幸一は、暖かな春風が吹く度にひらひらと舞い落ちてくる花びらが、美紀の頭に載らないものかと目で追ってみた。
真理にはどこか湿った大人の美しさがあるが、美紀にはさらりとした明るさがある。真理には金木犀の香りと秋の夕暮れが似合うが、美紀には桜と春の陽気がぴったり似合っている。幸一はこんなに可愛い美紀とずっと良い友だちでいたいと実感した。真理に約束してしまったことを若干後悔もした。だが、もうこれ以上真理を傷つけることはしたくない。
「今日は何だか元気が無いですね?」
美紀も軽く地面を蹴る。二人は川に向かって前後に揺れている。
「そんなことないよ」
虚を突かれた幸一が作り笑顔と明るい語調で誤魔化そうとする。
「穂積さんと喧嘩でもしたんですか?」
川面に小波を起こしている暖かな風が幸一の胸をすり抜けて行く。
「いいや。仲良くしてる」
春の陽射しは、川原にぎっしり群生する草の表皮にも反射して、まるで水滴が載っているかのようにきらきらと輝いている。
「それは良かったです」
やっと桜の花びらが美紀の頭に載った。彼女は軽く目を閉じて微風の運ぶ春の香を味わうかのように深く呼吸をする。
「でも……」
幸一は、そろそろ覚悟を決めなければならないと腹の中で自分を叱咤した。
「でも?」
美紀は目を閉じたままで春を楽しんでいる。
「最近、真理に悪いような気がしてきた」
「今頃ですか?最初から気にしてくださいよ」
美紀は目を開けて、青空のキャンパスに白と淡いピンクの花模様が描かれている様を見上げたが、その美しさは心に届いてはいないようだ。
「最初は問題なかった。でも最近は……。このままだと昔の気持ちに戻ってしまいそうで……。だから気が引けてきた」
なぜこんな言葉を吐いてしまったのか自分でも驚いているが、口に出してしまうと、案外これが本心なのかも知れないと、色んな言葉で自分の行動を説明しようとしてきた今までの自分が愚かしくさへ感じる。ややうつむき加減になった美紀の頭から花びらが舞い落ちた。
「またカーブですか……。ずるいですね」
美紀がにらみつけるような表情で、苛立ちの感情を彼にぶつけてきた。一瞬、凍りつくような冷たい驚きが胸中で小爆発した幸一は、相変わらずの青空を見上げて一気に胸中を吐露しようと覚悟を決めた。
「実は、中学時代には自分の気持ちが良くわからなかったけど、今思うと君のことが好きだったのかも知れない。後輩に対する気持ちではなくて……。でも、なぜかそれを認めたくない自分がいて、一度もちゃんと気持ちを伝えられないまま君に嫌われてしまった」
「嫌ってなんかいませんよ」
今度は美紀の左肩に花びらが静かに舞い下りる。
「じゃあ、どうしてあんなに俺のことを無視したの?」
幸一にとってはもうどうでも良いことだが、長い間の疑問でもあったので思い切って尋ねてみた。もっとも、本当のことを言ってくれるかどうかは疑問だ。
「鈍感だから」
そう言った美紀はブランコから飛び降りて、川べりに数歩近寄った所にある、丸太をモチーフにしたベンチに腰を下ろす。肩に載っていた花びらは再び宙を舞って着地した。幸一も同じようにブランコから離れて、桜が枝の下にある丸太に美紀と共に並んだ。
幸一には美紀の言葉の意味が理解出来ずに、もう少し彼女が言葉を発するのを待った。だが美紀はなかなか次の言葉を継がない。気持ちを整理しているのかも知れない。
「私ね、中学一年生の時から三浦さんのことが好きでした。先輩としてではなくて男として。二年生になる時、三浦さんと初めてお話し出来て。それ以来、三浦さんもどちらかと言うと私に好意的に接してくださっていることは感じていました」
この公園は河口付近にあるので、時折潮の香りが流れて来る。
「三浦さんと初めてお話しした時に見ていた野球の試合を覚えていますか?」
「ああ。俺の友だちが投げていた」
「三浦さんはあのピッチャーみたいに直球を投げてくれませんでした。いつも変化球ばかりでとても疲れました」
人騒がせな疾風が桜吹雪を吹き荒らしてから走り去ってゆく。
「落ちるカーブに曲がらないカーブだったな。でも直球も何も、自分の気持ちがはっきりわからなかったのだから投げようがなかったけどね」
今までにこんな風に言われたことは無かったから、正直なところとても動揺している。もしかしたら真理も同様に感じているのだろうかと不安が走る。
「だから三浦さんと離れてみようと思って……。私も最初は辛かったけど、一ヶ月もすると慣れてきました。そうしたら、男として好きだと思っていたけど、実は先輩として憧れていただけなのかも知れないと思い始めました」
「要は二人とも同じような気持ちで、同じように迷っていたわけか」
幸一には自然に笑みが零れてきたが、美紀は川面の小波に視線を置いたままで微動だにしない。
「と言うのは、自分を誤魔化すためにつけた後付けの理由です。本当は、私が冷たくすれば、三浦さんが焦ってもう一歩進んでくれるかも知れないと期待していたんです。少しだけ賭けをしてみました。でも、三浦さんは進んでくれなかった。ストレートを投げてくれなかった。そうしたら何となく腹が立ってきて、少し嫌いになって。でも拗ねていただけなんです。いつか元に戻ろうと考えていたけど、時間が経てば経つほど戻り難くなってしまって。しかも三浦さんは引越してしまった……。とても後悔しました」
再び疾風が訪れて、地面に積もった花びらをひらりと舞い上げる。美紀は短いスカートの裾を少し直した。
『好きやから一時的に嫌いになることもあるんよ』
幸一は、焚火の前で聞いた真理の言葉を思い出した。真理の言ったとおりだ。彼は心の奥底で真理に感心した。
「君がそんな思いをしていたなんて全く気が付かなかった」
美紀が彼を避けるようにして校舎の階段を無言ですれ違った時の、身も凍りつくような冷たさが心の記憶から蘇ってきた。そして、折角の陽だまりで温まっていた心の底が、背筋の辺りから急激に冷やされてゆく。
「だから、三浦さんは鈍感だって言ったでしょ」
美紀は一瞬自然な笑顔になったが、ふっと灯が消えたような表情に沈んでいった。そして、静かな川の流れをただじっと見つめている。そんな彼女の髪が微風に揺れた。
「もう会うのは止めにしましょう」
その言葉の意味するところとは正反対に、美紀は明るい語気で提案した。そして幸一には一瞥もくれずに、ふいと桜を見上げて大きく深呼吸をする。それから漸く幸一に瞳を向けて、
「実は、私も潮時かなって感じていました。いつまでも三浦さんや穂積さんに甘えていてはいけないと思っていました。思い出話もたくさん出来たし、三浦さんのことも色々教えて頂いたのでもう十分です」
と、あっさりとした口調で胸のうちを吐露した。
「それに、何度か三浦さんに遊んで頂いて、中学時代に失った時間を取り戻せたような気がします。私が変な意地を張って失ったものを少しは取り戻せたような気がします」
彼女の言葉を聞いていると寂しさがこみ上げて来て、ほんの三ヶ月足らずの間の楽しかった思い出が、ただただ寂しい感情の波となって彼の胸の中で飛沫をあげている。
幸一も美紀と同様に、あたかも中学時代に戻って失った二人の時間を取り戻しているかのように感じていた。そしてこの三ヶ月の出来事は、美紀に避けられていた頃の寒い記憶の穴を塞いでくれたように思う。
美紀も同じような感覚でいたと言うことは、幸一が感じたとおり、二人で過去を旅していたことになる。だが、失った空間が埋められた満足感はあるものの、美紀との関係においては中途半端な関係を続けただけで、中学時代から何も変わってはいない。
『またカーブですか』
さっき美紀が口走った言葉の意味が漸く理解出来た。そして気付かされた。過去への旅路の中で二人は本当の気持ちを確認し合っていたことを……。だから真理に申し訳ないと感じる。それを昔の気持ちに戻ってしまうかも知れないなどと表現したから、またカーブなのかと言われたのだ。
「俺も君と同じように過去の空虚な記憶を埋めていた。俺たちは同じことをしていた訳だ」
幸一は今しがたまとめた考えを口にしたが、反省点に関しては何も言わなかった。
「そうですか。でも過去を埋めてみたところで、知る喜びはありましたけど、何も変りませんでしたね」
またしても幸一と同じ感想だ。
「二人で過去を旅していただけか」
「いつからそんなロマンチストになられたのですか?」
「昔から敏感な感受性を備えたロマンチストだと思っているけど」
照れ笑いを零しながら茶化してみる。だが、美紀は悲しくなるほど春らしい長閑な風景をぼんやりと眺めたまま、
「いずれにしても、もうお二人にご迷惑をお掛けすることは出来ません」
と、強い口調で言い切った。幸一の心に氷の棘が刺さる。
「何も迷惑でないし、真理も全然気にしていない」
幸一は暖かい陽射しを受けながら、冷たい春雨の霧に浮かんだ真理の眼差しを脳裏に浮かべている。
「そうですか。でも三浦さんは鈍感ですから。穂積さん、本当は嫌がっていますよ」
自分は鈍いと言うよりは身勝手なだけだと自覚している。真理の本当の気持ちを考えようともせずに、彼女の思いやりの言葉を真に受けて、自分に都合の良いものだけを視界に入れてきた。
「鈍いのかなあ。昔から敏感な感受性を備えたロマンチストだと思っているけど」
幸一は先ほど聞き流された冗談で雰囲気を和らげようと努める。
「鈍感ですよ」
目の前を川が流れているためか、梓川の清い流れと、清々しい清涼感のある気の香りが不意に脳裏に浮かんでくる。
『美紀ちゃんは幸一さんのことを今でも好いてはる』
焚火の前での真理の言葉が一本の火柱のように記憶から蘇ってきた。そして戸惑った。幸一は、今も鈍感だと責められているような気がしてきた。美紀が無理に別れようとしているのに、無理をしていることに全く気付かずにいることを鈍感だと言われているような気がしてきた。
過去の空虚を埋めて満足だと言った、美紀の言葉を鵜呑みにしていることを鈍感だと言われているような気がした。中学時代、幸一に近づいて欲しくて遠ざかった話と同じことを今繰り返しているのだと言われているような気がする。
だが、自ら別れを言い出して平然としている美紀の隣にいると、どれも考え過ぎのような気もする。彼女はいつも真理のことに気を置き、迷惑を掛けないようにして過去の失敗を埋めようとしていた。少しの間だけ幸一とデートをして恋人気分を味わいたかっただけ。ただ、それだけなのかも知れない。そう考える方が自然であるように思えた。
幸一はゆっくりと立ち上がる。別れは寂しいが、このまま一生会えない訳でもない。幸一にとっては一番疑問であった過去の経緯も明確になったし、カーブとは言え、当時言えなかった思いも幾ばくかは伝えることが出来た。今更美紀の気持ちを色々推察してみても仕方の無いことだ。
「またOB会でもやろう」
幸一は大きく伸びをして、枝の隙間から青空を覗いた。もしかしたら、中学時代に言えなかったことを言いたくて、この三ヶ月間美紀と接していたのではないか。或いは、美紀が幸一のことを避けていた理由を聞くために接していたのではないか。もうどうでも良いと思いながらもいろんな考えが巡ってゆく。
「そんなの行く訳無いでしょう!どこまで鈍感なんですか!」
突然、激しい言葉を投げつけた美紀は座ったままで幸一をにらみつけている。そして、絞り出すような声で、
「どうして、たったひと言を言ってくれないのですか?たったひと言を……」
と叫んだが、最後は声にならない。美紀の瞳から涙が溢れて、地面に咲いた桜の上に落ちていった。
幸一は立ち尽くしたままで、彼女の震える肩を見つめるよりなす術がない。
「ずっと待っていたのに。ほんの少しでも私のことを好きでいてくださるなら、穂積さんへの愛情の百分の一でも愛してくださるのなら、言葉にして欲しい。どうすればわかって頂けるんですか……」
美紀は俯いて涙を零しながら嗚咽した。幸一は、再び彼女の横に腰を掛けて嗚咽が止まるのをじっと待つしか術が無かった。
『女の涙なんかに動揺しはったらあかんわよ』
真理の言葉が自然と思い出されてくる。だが、この事態を放置することは出来ない。しかし、いくら切望されたとは言え、このタイミングで好きだと言っても白々しいだけで、却って失望させるような気がする。
随分長い時間が経過したような気がする。漸く美紀の嗚咽が止まり、涙も止まったようだ。いつの間にか風が強くなっていた。
「ごめんなさい。三浦さんとお別れすると思うと気持ちが混乱したみたいです。今言ったことは忘れてください。三浦さんに期待するばかりで、自分は何もしていませんでした」
やや鼻に掛かった声で言った美紀は、涙の痕跡が残る瞳で幸一を見つめた。幸一もじっと美紀を見つめ返す。
「最初から私が言えば良かっただけです。三浦さんのことが好きですと。そして今も大好きです。愛しています。だから、穂積さんと幸せになってください」
美紀の瞳に残っていた涙が風に流されて、桜と共に宙を舞ったように彼の心には映った。美紀の一途な表情を堪らなく可愛いと感じた。そして、過去の思い出ごと抱き締めるように美紀の肩を抱き寄せた。美紀は幸一に身を委ねて彼の胸に顔を埋めた。
二人の間に、潮の香りが漂ってはすぐに流れてゆく。幸一の胸の鼓動が大きく響いて、きっと美紀にも聞こえている。その鼓動が百も打っただろうか。美紀は意を決したように、暖かな寝床から抜け出る時のような未練を残して、静かに彼の胸から離れた。
そうして、美紀が幸一を幼い表情で見上げた瞬間、幸一はそっと口づけをした。そのわずかの間に、二人の心は再び過去へと旅立って行った。過去に戻って心を開放しあった。正直に気持ちをぶつけ合った。二人が中学時代に描いたすべての想い出を再び体験したような気がした。そして二人はゆっくりと離れた。
「ありがとう」
旅から戻った美紀がにこりと笑う。
「口下手でごめん」
「やっと思いが叶いました。とても幸せな気持ちです。もう、お別れですけどね。今日のことは一生忘れません」
そう言って美紀はすらりと立ち上がった。
「いろいろお世話になりました。いつか、二人とも大人になって、どこかでまた会えたら良いですね」
彼女は丁寧にお辞儀をした。そうして、桜吹雪に包まれながら公園を抜けてゆくと、舞い乱れる桜に紛れながら美紀の華奢な後姿が少しずつ小さくなっていった。そしてその後姿までもが想い出のひとつとなる瞬間まで、美紀が幸一を振り返ることは無く、幸一が目を離すことも無かった。
美紀と別れた日から数日後の水曜日。いつものように真理の教室を覗いて一緒に帰ろうとしたが彼女は不在だった。真理の姿を目で捜している幸一を見つけた例の親友が、幸一を廊下の隅に追い詰めてから貴重な情報を提供してくれた。
彼女の情報によると、真理は午後から体調が悪いと言って帰ったそうだ。だが、どうやら体調が悪いというのは嘘で、本当は、幸一が美紀と会っていたという噂が流れていたらしく、それを耳にした真理がショックを受けて帰宅したらしい。誰がどこで見ていたのか不思議で仕方がない。中心街ならまだしも、名も知らない海辺の小さな公園なのだ。
親友の話では、幸一が美紀と二人きりで会わないと約束してくれたことを、真理はとても喜んでいたと言う。そして彼女の前でも、もし、幸一が嘘をついたら死んでしまうと言ったそうだ。
幸一は、美紀に会った目的と、予定どおりに別れた旨を親友に説明してみたが、約束を破るのは許せないの一点張りだったので、情報提供についてのお礼だけを述べてさっさと帰宅した。
幸一は、何とはなしに不吉な感覚が脊髄に宿っていた。まさか本当に死んだりはしないと思うが、真理と約束したときの彼女の異様なまでの真剣な眼差しが記憶の中から不安を呼び起こしていた。
幸一の不安は的中した。その日の夜八時過ぎに真理の母親から電話があった。真理が幸一の宅へ来ていないかという問い合わせだ。幸一は母親から状況を聞き出してから慌てて家を飛び出す。父親のバイクを拝借して夜道を疾走した。
四月の夜の空気はまだまだ冷たい。エンジンの苦しそうな唸り声に構いもせず、アクセルを全開にして走る。風の冷たさで目が潤み目尻から涙が飛び散る。真理の家まで電車を使うと一時間ほど掛かるが、バイクだと三十分ほどで到着した。
幸一はメットをハンドルに掛けて少し気持ちを落ち着かせる。ハンカチで鼻水や涙を拭いてから、髪を手櫛で直して、深呼吸をしてからインターフォンを押した。
すぐに返事があって、玄関の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。そのドアを開けてくれた若い女性を見た瞬間、幸一は思わず叫びそうになった。真理にそっくりな少女が立っている。彼が一瞬息を飲んでいると、彼女の背後から母親の声がした。
「ごめんね、三浦君、わざわざ来てもろうて。今夜も主人は東京やさかい、助かるわ。女二人やと不安やさかい」
そして二人は幸一を迎え入れる。
「妹の秋子です」
真理にそっくりな女性が挨拶をした。真理と同様に小柄で色白だ。特に目元が極似していて母親とも似ている。年齢は美紀と同じはずだが、美紀よりは幼い感じがする。
「どこか真理さんのいらっしゃいそうな場所は?」
幸一は尋ねた途端に恥ずかしくなった。そんなことを殊更確認しなくても、既に手を尽くしているのに決まっている。
「ええ。親戚とか、思い当る所はすべて連絡しました」
だが、母親は丁寧に答えてくれる。
「警察へは届けられたんですか?」
「ええ、ついさっき」
「とにかく捜してみましょう。どこか近くにいるかも知れないし」
幸一は再び玄関を出ようとして、
「十時には一旦戻ってきます」
と告げた後、逃げるように飛び出した。こんな事態に陥っているのはすべて自分の責任だという思いが彼の心を逸らせている。彼は、バイクを使って近所の公園や川の堤防、神社、寺、図書館、喫茶店、彼女の通った小学校や中学校などをひと通り捜したが見つからない。
次に高校周辺の公園や、二人で良く行く喫茶店、ファーストフード店などを覗いて回った。姫路の繁華街まで来たが、夜の繁華街で真理の行きそうな所など無い。ゲームセンターなども覗いてみたが彼女が入るような雰囲気の店ではなかった。
駅前の地下街に下りてみる。暖房の暖かい空気に全身が包まれて、全ての筋肉の緊張がほぐれて身体はひと休み出来たが、心の緊張は全くほぐれない。ぼんやりと遠い耳鳴りがしているような感覚だ。
ほとんどの店がシャッターを下ろしていたが、ちょうど今、シャッターを半分くらい閉じようとしている売店がある。彼はそこで売れ残りのメロンパンを買った。彼はそのパンを革ジャンのポケットに押し込んで地下街をひと回りしたが、真理の姿はない。どう考えても、ほとんどの店が閉店した薄暗い地下街に彼女がいるはずもない。
十時半になろうとする頃、幸一は真理の家に戻った。真理を捜し出せないもどかしさと、真理の母親や秋子の落胆する表情を見るのが辛くて、俯き加減で力なく報告をした。そんな幸一の心根を察してか、
「ご苦労様、寒かったでしょう。ほんまにごめんね」
と言って、母親が暖かく招き入れてくれた。幸一にはその明らかな作り笑顔が却って辛い。彼は、案内された応接間の黒革のソファーにどっかりと腰を沈めた。
暖かな空気にまだ馴染めない冷え切った身体。不安を募らせる家族の重い空気。心休まる空間もない幸一は、微かな疲労感を覚えた。ゆっくり目を閉じると、深い沼底に落ちて行くような、苦痛を伴った快感と、目眩に似た脳内の揺らぎが怒涛のように渦巻いて、そのまま気を失ってしまいそうになる。幸一はすぐに目を開けた。安らぎの時間を得るには早過ぎる。
「ご迷惑をお掛けしています」
秋子が湯気立つコーヒーを運んで来てくれた。少し膝を曲げてカップをしなやかに置く姿を見ていると、今度は美紀よりも大人びて見える。幸一は疲れた瞳でぼんやりと秋子の目元を見つめていると、そこに真理がいるような錯覚を覚えて、
「ごめんな」
と、思わず口にしてしまった。自らの言葉に驚いた幸一は、彼をぽかりと見つめる秋子の瞳がより一層真理に似ているために次の言葉を探し得ない。
「え?」
彼女も軽く驚いた表情を浮かべている。そしてその瞬間のあどけない幼さが幸一の心に特殊な興味を抱かせる。その幼さの上に滲んだ艶やかさは、美紀のからりとした明るい可憐さとは対照的で、真理と同様に潤いがあり、素直に彼の心へ溶け込んで来た。
「コーヒーをありがとう。お姉さんを見つけられなくてごめん」
正気に戻った幸一が静かに語った。
「いえいえ、ご迷惑を掛けているのは私たちですから」
秋子は少し頭を下げてから、
「母が何か作っていますから、楽にしていてください」
と言い残して部屋を出て行った。幸一は、微かに残った秋子の淡い残り香を感じながら、再び先の見えない不安の渦へと迷い込んでゆく。
彼はひとりで温かいコーヒーをすすりながら、不安と罪悪感と自己弁護の言葉が何度も何度も頭の中で繰り返されて、自分の行為を後悔する余裕すら与えられない。
万が一にでも真理が自傷したり事故にあったりしたら……。真理の行動も確かに軽薄に過ぎるが、幸一が約束を破ったのは紛れもない事実だ。
美紀との別れを電話で済まされなかったのは、二人が暗黙の意思疎通で、会って別れの挨拶をしたいと感じ合ったからだが、電話の会話の中で別れ話をする勇気がなかったのも事実だ。互いの考えを確かめ合って、できれば都合の良い友人関係を継続しようと目論んでいた。
要は、二人の女を同時に好きになり、それぞれを都合の良い引き出しに収めようと努めたのだ。どんなに自己弁護をしても、他人に言い訳をしても、彼女の身に何かが起きれば、一生涯、罪を背負って生きていかなければならない。
間もなく、温かそうなうどんをお盆に乗せて、秋子がそよそよと歩いて来た。はんなりとした出汁の香りが応接間に充満する。こんな状況であっても、温かい香りに空腹を思い起こされた幸一が思わず身を乗り出して、白い湯気を立てている鉢を覗いた瞬間、冷たい電話の呼び鈴が廊下に響き渡った。
その刹那、不安と緊張で絶叫したくなるような全員の心の波動が全ての物を凍らせた。出汁の香りまでもが凍りついた。時間も凍りついた。秋子も幸一もその場に固まって息も出来なかった。
だが次の瞬間、秋子は電話機を目指して一心に歩み始める。無限大の重力が彼女の両肩に圧し掛かり、その重圧に震えながら足を進め、今にも泣き出しそうな不安な気持を飲み込んで、何とか震える手で受話器を取り上げた。
幸一も、夢の中で疾走しようとしても足が動かないような歯がゆい感覚に覆われながら、何とか彼女のそばに辿り着いた。そんな極限まで張り詰めた空気の中で、動揺に耐えながらも必死で電話の応対を始めた秋子が、とても凛としていて幸一の胸に熱い波紋が広がった。
『夏に生まれたのに秋子なの』
いつか聞いた真理の言葉がふと思い浮かんでくる。
「はい、穂積です」
母親も走り寄ってきた。二人は秋子の表情を瞬きもせずに凝視する。受話器の向こうにいる相手に回答する毎に、秋子の顔色が青ざめていくようだ。
「はい。警察?事故?」
思わず口にした秋子の言葉に、母はその場で崩れかける。幸一が母の身体を片腕で支えながら、秋子が手にしている受話器を奪おうとして彼女の柔らかな手に触れてしまった。一瞬の躊躇の後、彼は強引に受話器を奪い取り、秋子に母を支えるよう目で促した。
「市民病院ですね、わかりました」
幸一の復唱する言葉に、廊下にしゃがみ込んだ母が哀願するように彼を見上げている。目尻に浮かんだ皺が哀れだ。こうやって真正面から見つめ合うと、やはり真理と秋子の母親だけのことはあって顔立ちは整っている。恐らく大人の世界では十分にもてる容姿だと感じた。
幸一は受話器を置くと、
「大丈夫です、暴走族の事故だそうです。身元が不明で重体。意識もないようです。年齢が近いので、念のために連絡をくれたそうです。真理さんが暴走族と係わるはずはないですけど、一応確認してきます」
と、出来る限り軽い口調で二人を落ち着かせた。
「申し訳ないけどお願いします。夜道なので気をつけてね」
母はそこまで言うのが精一杯で、秋子に腕を抱えられたまま床に塞ぎ込む。秋子は泣いていた……。
幸一はバイクで夜道を疾走しながら、このままどこかの川にでも突っ込んで死んでしまいたいと言う衝動に駆られた。秋子や母親には暴走族の事故だと言ったが、正確には、暴走族に巻き込まれた少女の事故だ。
十七、八歳の少女が横断歩道を渡っていた。そこへ暴走族のバイク数台が、信号待ちで停車している自動車を高速で追い越して、信号を無視して交差点を突っ切ろうとした。
その瞬間、横断歩道を歩行中の少女を発見し、急停車しようとしたが一台が横転。そのバイクに巻き込まれて少女は重体となった。
その少女はデニムスカートに濃紺のブレザースーツを着ていた。それはいつかの真理と同じコーディネイトだ。幸一が急に大人びた真理の姿に困惑して違和感を覚えた時の衣装と類似している。
家族が不在の時に真理は出て行ったので、今日の真理の装いを誰も知らない。今はただ、重体の少女が真理である蓋然性が決して低くないという事実が、幸一を自暴自棄な行動へと誘っている。
もしもその少女が本当に真理であったなら、幸一も生きていてはならないような気がしている。自殺ではなく例え事故であったとしても、彼女の生命が絶たれたり、生涯に残る傷を負ったりしたら、幸一は生きていく資格が無いと考えている。
十五分ほどで市民病院に到着した。幸一はバイクのエンジンを切るとふと星空を仰いでみる。自分たちの運命を操っている何者かが見下ろしているような気がした。そしてその何者かに、天に、心から叫びたかった。
彼はじっと星空を見上げて心の中で叫んだ。力いっぱい懇願した。真理が無事であることを、被害者が真理でないことを懇願した。自分の寿命を十年縮めてもらっても良いと誓った。
真理と初詣に行った夜、真剣に祈願をする人々を哀れんでいた自分が今の自分を冷笑している。しかし、数多の星たちは幸一に同情する様子もなく、普段どおりの単調な瞬きを続けている。
幸一は夜間専用の通用口から入り、受付で事情を話した。若い女性の看護士がどこかに電話をして確認をとった後幸一を案内してくれた。夜の静まりかえった暗い通路を、まるで見えないロープで繋がれて連行されるような心持で彼女の後に付いて歩く。
看護士がある部屋の前で立ち止まり、その扉に手を掛けた時には、ひたすら祈りの言葉を心の中で繰り返すことしか出来なかった。一歩一歩、看護士が開いた入口に近づきながら、早く確認したい気持ちと、結果に対する恐怖心が入り混じって、下半身の力が半ば抜けかけている。耳鳴りと心臓の鼓動だけが頭に響く中、看護士に示された患者の顔を覗き込んだ。
患者の顔を見た瞬間、違和感と安堵感が同時に幸一の身体を駆け巡り、温かい血流が静かに緊張をほぐしていった。真理ではなかった。しかし次の刹那には、目の前に横たわっている被害者の歴然とした事実を認識して、愕然たる悲哀の感情が押し寄せてきた。
今は身元不明でも、やがてこの少女の親や友人がここを訪れて、幸一が何とか免れ得た悲痛のどん底に、彼らは確実に陥るのだ。幸一はとうとう下半身の力が抜け切って、その場にひざまずいてしまった。
「大丈夫?」
看護士が優しい声を掛けて、膝を曲げて幸一の横に並んでくれた。
「大丈夫です。僕の知り合いではありません」
「そう、良かったですね」
だが、幸一は小さく吐息を吐いてから、
「あまり喜べないですよ。実際に怪我をしている人が目の前にいますから」
と、包帯に包まれて身体中に管を通された患者の姿を見て涙しそうになる。
「良いのよ。心の中では素直に喜べば良いの。後は私たちがしっかり看護しますから、あなたは早く家に帰りなさい」
大人の女性の優しさを感じた分だけ自分の不甲斐無さを痛感する。幸一はゆっくりと立ち上がり、もう一度患者の寝顔を見つめた。何とか助かって欲しいという気持ちが込み上げてくる。
「頑張れ」
小さく呟いてから幸一は部屋を後にする。看護士が幸一の腕を支えながら歩いてくれた。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
幸一は看護士の瞳を見つめる。さっきまでは緊張で何も見えていなかったが、こうして落ち着いて見ると、彼女の年齢は彼と左程変らないような見える。
「あなたは優しい人ね」
看護士が夜間通用口まで送ってくれた。
「看護士さんは強い人ですね」
その言葉に彼女は健康そうに笑ってから、
「一応女性よ。強いと言われても素直に喜べないけど、でもありがとう。気をつけて帰ってね」
と言い残して仕事に戻っていった。
幸一は星空を見上げた。心の中で感謝の言葉を何度も繰り返した。しかし、やはり星たちはいつもと同じ態度で接していた。
柱時計が零時を告げる。控えめな音量で深みのある音色を響かせた。応接間のソファーに幸一と秋子が向かい合って座っている。母親は寝室で横になっているらしい。母親は、幸一が戻った時にはふらふらと部屋を出てきたが、報告を聞いて少しは安堵したもののすぐに寝室に戻った。
「もう零時やのに……。いったい何してはるの」
もう何度も口にしているフレーズを秋子が繰り返す。幸一が病院から戻ってまだ十分程度しか経っていないのに、もう何時間も経っているような気分だ。応接間に置いてあるストーブの温かみで、幸一の冷えた身体が漸く元どおりに活動できるようになってきた。
「お姉さんの部屋を見せて欲しいんやけど、かまへん?」
幸一が手持ち無沙汰を紛らわせるために提案した。秋子は一瞬迷ったようだが、幸一を労わるような優しい笑顔を浮かべて、
「良いですよ」
と、真理にそっくりの声色で幸一を惑わせた。秋子の後について階段を上がる。一段上を歩いていても、彼女は幸一より背丈が低い。
「お正月にもお邪魔したんですよ」
幸一の声に振り返った秋子の肩が彼の胸に触れる。
「ええ」
彼女はやや歩を速めて幸一との距離を空けた。秋子が先に部屋に入って灯りを点ける。主のいない部屋は、寂しく冷たい雰囲気が漂っている。
「お邪魔します」
幸一は部屋に足を踏み入れて周囲を見渡す。新年に訪れた時と変わっていない。彼は、不意に不思議な懐かしさに心を奪われそうになったが、ひと時も緩もうとしない自責の念が、そんな気持ちを一瞬で凍り付けてしまう。
と、更に一歩進んだ彼の視線がある一点に釘付けとなる。得体の知れない衝動に駆られたかのように、彼の鼓動が唐突に激しく唸り始める。秋子はそんな幸一の急変に気づいて、恐る恐る彼の瞳を横から覗き込んだものの、なす術も無くその場に立ち尽くしている。
「俺は何て馬鹿なんや!何でもっと早く気が付かんのや!」
小さく叫んだ幸一は秋子に振り向いた。
「お姉さんのいそうな場所がわかったよ。今から行ってくる」
やや興奮気味に告げてから階段を駆け下りた幸一が見つめていたのは、壁に掛かった、襟元にファーの付いた白いコートだった。
幸一は、円教寺に続く書写山の西坂参道を駆け上っている。秋子に手渡された懐中電灯を片手に無言で登り続ける。次第に息が上がり、口と鼻から吐く息が白い軌跡を残して闇に消えてゆく。
若い女性が、こんな人気の少ない山中にひとりでいるとは常識では考えられない。だが幸一には自信がある。秋子に話した時も彼女はすぐに同意してくれた。
『初めて二人で出掛けた所でしょ?わかるような気がします』
秋子は同意して、幸一のために懐中電灯を用意してくれた。二人の心に希望が涌いてきたためか、玄関で懐中電灯と捜索の委託を秋子から受けた時に、今まで全く感じていなかった羞恥を覚えた。
幸一は、時折立ち止まって息を整えながら星の瞬きを見上げる。今度は祈る気持ちはない。自信がある。そして、真理は幸一の到着を待ち侘びているような気がしてならない。
彼は再び走り始めた。徒歩で四十分程度の道のりを二十分ほどで駆け上り妙光院の横を通り過ぎる。湯屋橋を渡り、正月に御神籤を引いた魔尼殿の前を通り過ぎる。そして三つの堂の広い境内に辿り着いた。だが、そこには人影も気配もない。幸一は、月明かりとわずかな電燈の明かり、懐中電灯を頼りに駆け足で辺りを捜し回る。
「幸一さん!」
大講堂と食堂の間から人影が現れた。
「よお。やっぱりここにいたか」
明るく叫んだ幸一は彼女に駆け寄る。真理は嬉しそうに笑っている。月明かりに白く浮かんだ笑顔が妖美だ。
「来てくれはると思うてました」
幸一は真理を抱き締めたい衝動に駆られる。
「こんな人気の少ない場所にひとりでいるなんて、危ないやろ」
月明かりが届きやすい大講堂の石階段に真理を誘ってゆっくり歩む。
「だから隠れてたの。誰も通らはらへんかったわ」
こんな平日の夜中に、寺の関係者以外に人がいるはずもない。
「それはそれで不気味やろう」
「他人がいるほうが怖いって言わはったのは幸一さんよ」
二人は、ゆっくりと大講堂の中心にある石階段を上がり、大講堂の板敷きの縁に腰を下ろした。
「ごめんなさいね。皆心配してはるやろね?」
「当たり前や。秋子さんも心配してたぞ」
なぜか秋子の名前が一番に思い浮かぶ。真理は幸一の身体にぴたりと身を寄せてきた。
「ああ、しんど」
真理の顔を見て安堵したためか、彼は急に疲労感を覚える。
「ほんま。幸一さんの身体は火照ってはるわ。うちは冷め切っているのに」
そんな彼女の言葉が冷たく胸に響く。
「お腹空いたやろ?」
幸一は地下街で買ったパンを取り出した。革ジャンのポケットに埋もれていたメロンパンは押しつぶされて変形している。
「ありがとう。温かいわ、このパン。見場は悪いけど」
反対のポケットにあるもうひとつのメロンパンを取り出す。無意識のうちに同じものを二つ買っていたことに自分で驚いた。そして袋を空けてひとかぶりしてみたが温かくなどない。真理も少しちぎって口に運んで、
「温かくておいしいわ」
と、再び意味深な言葉を吐いた。
「星空って温かいなあ」
真理の元気な姿に心から安心した幸一は心に余裕が出来たのか、病院に入る前の星空を思い浮かべた。あんなに冷ややかな態度だった星たちが、真理を、いや、幸一を救ってくれたような気がする。
「この前は、星空は悲しいて言うたはったやないの」
真理は細かいことを指摘する割には、別にどちらでも良いといった風の口調だ。
「御守りのおかげかな?君を見つけられたのは……」
本当は、最悪の事態を免れ得たことを御守りのおかげだと言いたい。
「私があげた御守り?」
嬉しそうに真理が彼の瞳を覗き込む。
「ああ」
幸一は内ポケットから財布を抜き出して御守りを取り出して見せる。
「持っていてくれはったんやね、ありがとう。とっても嬉しいわ」
しかし、言葉ほどには嬉しそうな表情は見せずに真理は静かに俯いてゆく。
「ごめんな、約束破ってしもて」
彼女は俯いたままで膝を抱えるように身を丸めて、幸一にそっと身体を寄せている。
「でもな、美紀と会ってきちんと話をして、美紀も納得してくれた。実は美紀も潮時やと考えていたようで、お互いに電話では上手く伝えにくいと考えたから会ったんや」
「でも、約束は約束です」
幸一には真理の言葉が意外だった。幸一が美紀と会ったと言う事実だけで真理が腹を立て、無謀な行動に出たと思っていた。だから、決して今までの延長で会ったのではなく、関係を終わりにするために会ったことを説明し、目的が果たせたことを伝えれば誤解は解けると考えていた。
なので、真理の頑固な言葉は幸一には解せない。
「確かに、約束を破ったことは申し訳ないと思うし何度でも謝る。そやけど、美紀に会いたくて会った訳でもないし、君との約束を守るために会ったんや。一度くらい余計に会っても問題無いやろ」
この際多少の嘘は仕方ないと思った。最後に美紀に会いたかったのは事実だ。心のどこかで、友人という形で細く長くつき合いたいという希望もあった。
「そうやね、何度も会うてはるもの。今更、一回ぐらい余分に会わはったかて何かが変わるものでもないわね」
真理の声は快活で、何かが吹っ切れたような気が漂っている。
「幸一さんは大きな約束を守るために小さく約束を破らはった。目的達成のためには少々無茶な手段でも使う。男の人らしい行動やし、私たちがこれから人生を生きていくには必要な考え方やと思う。そやけどね、女は……いえ、私は、嘘を吐かれると、その人そのものが信じられへんようになるの。まして『絶対よって』大袈裟やったかも知れんけど、私が命掛けるとまで言った約束を破られたりしたら……。もう幸一さんが何を言わはっても、何をしはっても、幸一さんのことを疑ってしまう。信じたくても心のどこかで幸一さんを疑ってしまう。そんな自分が嫌やし、そんな葛藤を続けるのは耐えられへんわ」
幸一には真理の理屈が理解出来ない。いや、理解は出来るが納得は出来ない。
「ごめん。もう二度と嘘はつかへんよ」
嘘が許せないと言われてしまえば、謝るより他に術が無い。
「もう遅いわ。何言わはっても幸一さんの言葉が軽く聞こえます。そやさかい、もう今までみたいに親しいお付き合いはやめましょ」
真理はそう言いながらも、先刻より更に身体を寄り添って幸一に密着している。身体はこうしてしっかりと触れ合って温かみを生み出しているのに、心はねじれ方向にすれ違って、真冬に窓を開けた時のように冷たい気が心の空間に流れ込んでいる。
これが一方的に振られる者の気持ちなのかと、彼は初めての体験を冷静に眺めながらも、何かの検定試験などで不合格を突きつけられて、不甲斐無い自分を目の当たりにした時のように、心細い切なさと、無力感と、惨めさとが入り混じった感性に全身が包まれてゆく。
「あっ、流れ星!」
もう別れ話を打ち切りたいとばかりに真理が声を変調する。幸一は、まだ別れ話を振り出しに戻せないものかと、真理が押しやった会話の流れに未練を残しながらゆっくりと流れ星の去った星空を見上げた。そこには流れるような光の波はなく、普段の単調な輝きの小波が静かに揺れていた。
「あの子が死んだのかな……」
「あの子?」
「俺にとっては君の身代わりかも知れへん」
「身代わり?」
薄い闇にも目が慣れてきたのか、真理のあどけない表情が悲しいくらいに愛らしい。
「歳格好が君と似た少女が交通事故に遭ったと警察から連絡があってね、慌てて病院まで確認に行ったけど君やなかった。正直ほっとしたけど、目の前の少女は現実に重体で、気の毒で、俺が免れた悲惨な思いを誰かが確実に体験すると考えたら辛くて……。何も出来ずに出てきてしもた」
「そうやったの……。幸一さんにも辛い思いをさせてしまったわね、ごめんなさい」
今も十分辛いよと、彼は心で呟きながら星空を見上げて両手を合わせる。 看護士は、他人の幸一に詳しい容態は言わなかったが、警察の最初の情報では、危険な状態だから早く確認に行くように言われた。そして、ベッドに横たわって全身に管を入れられた姿を見た幸一にとっては、彼女と死との間の壁は、そう高くはないと感じられる。
真理も同じように手を合わせてからそっと目を閉じた。 しばらくの間、二人は星の輝きに打たれるように膝を抱いて、互いの身体の温かみを有難く感じていた。
「もう信じてくれへんのか」
溜息を吐くついでに放ったかのような力ない声だ。
「そうね」
真理の声にはどこか力強い響きがある。
「君にとって人を信じるってどういうこと?」
幸一は、美紀とも交わした話題を思い出した。
「難しいわね。その人が私に誠実に接してくれはるかどうかやと思う。誠実に接してくれはる人は信用できるわ」
「誠実ってなに?」
一瞬のしじまが訪れて、真理は足元の石段を足先で撫でた。
「一時的には、自分の我を捨ててでも相手のために行動できる人かな。相手が家族であったり、恋人であったり、仕事であったり。夢であったり、目標であったり」
幸一は真理の言葉に違和感を覚える。
「じゃあ、自分を犠牲にしてでも君に尽くす人が信用出来る人って言うことか?」
「尽くしてもらわなくて結構よ。他の人たちより少しだけ私のことを大事に思ってくれはって、嘘を言うたり、約束を破ったり、私のことを試したりしはらへんかったら簡単に信用するわよ」
「たった一回でも約束を破ったら、もう信用されへんのか?厳しいな」
幸一は、何度も嘘を重ねて来た自分を自嘲するように軽く笑った。真理も笑顔を浮かべると、
「幸一さんが約束を破らはったのは確かにひとつのきっかけやけど、幸一さんを信用出来なくなったのはそれが全てやないの……」
と言って、両手で口元を覆うと息で手を温める。
「じゃあ、なんで?」
幸一は、真理の両手を彼の両手に包みこんで温め始める。
「感じたから……」
幸一は、あ然としてしばらく呼吸をすることさえも忘れてしまった。
「幸一さんは信用できない人やって感じたから。いつも誠実でいてくれはる人やないって感じたから」
真理の手は氷のように冷たい。幸一は、どうにも理解し得ない彼女の説明に絶望的な距離感を覚えながら、心のどこかで修復を望んでいた自分の甘さを嘲笑した。
「非論理的やな」
糸の切れた凧が谷底に舞い落ちて行くような絶望感と、あきらめの決意をしたことによる、ある種の開放感を同時に感じながら彼女の手を温め続ける。
「女の脳はね、男ほど単純やないから、何から何まで論理的に説明出来るものやないのよ」
真理はくすりと笑う。
「なかなか都合のええ理屈やなあ」
幸一も苦笑に近い笑みを浮かべると、
「君は感性で判断するんやね。俺は信じたいと思ったら信じるし、信じたくないと思ったら信じない……。これも非論理的やな」
と小さく笑った。
「幸一さんらしいわ」
真理は幸一の肩に頭を預けてから、
「そうやね。そういう部分もあるわね。もしかしたら私はずっと幸一さんのことを信じたいと思っていただけなのかも知れへんわね」
と、つき合ったと言うには余りに短すぎる数ヶ月を思い起こし、懐かしむような余韻を漂わせる。
「心のどこかで、俺のことを胡散臭い奴やと感じていながら、信じる努力をしてくれていた訳か」
明るく笑いながらも、もしかすると真理は自分の心の動向をずっと把握していたのではないかと言った、妄想に近い推察をしてみた。
幸一は、このままずっと別れの余韻を味わい続けていたいという感覚に捕われている。この山を下りてしまえば、二人はただの友人になってしまう。いや、きっと口も利けない関係になってしまいそうだ。
この数か月、真理のことも美紀のことも美しいと思ったし、愛らしくも感じた。時には熱く込み上げる熱情や欲情に乱されることもあった。離れている時にはいつも側にいたいと欲した。 だが、こうして隣にいても左程幸福感はない。いつものことだ。
真理の心はすっかり離れてしまっているのに、別れの絶望と、自然に蘇ってくる思い出の甘い空気をこうして味わっている時間が自虐的であり、心地良くもあり、このまま二人で死んでしまおうかといった衝動的な波も訪れて、なかなかこの空間からの離脱を決意しかねている。
「そろそろ帰らないと皆が心配しはるわ」
彼女の手がもう少し温まったら帰ろうと決意した幸一の心を真理の言葉が落胆させる。ここでも先に大人の態度を示されてしまった。この三つの堂に来てからと言うもの、常に、真理に先導されているようで嫉妬さへ覚えている。彼女が急に大人になったように感じた。もしかすると、今まで幼い振りをしていただけなのかも知れない。案外、試されていたのは自分なのだろうかと、再び自虐的な思いに足を踏み入れた。
「もう十分心配させてるよ」
皮肉交じりの冗談で嫉妬を晴らしてみた。
「そうやね。ごめんなさい」
そう謝った真理は幸一の膝の辺りを軽くつねると、さっと立ち上がった。その瞬間、彼女のポケットから小さな瓶のような物が零れて、カラカラと石段を転がり落ちてゆく。真理は慌てて石段を駆け下りると小瓶を拾い上げた。
「わあ、危なかった。壊れたら父に叱られるところやったわ」
そう言って小瓶をポケットにしまい込んだ。
「何?それ……」
「父の催眠剤。こっそり持って来たの」
あっさりと告げた真理の、眼底に潜む本物の覚悟が幸一の心に一気に流れ込んで、彼の心を瞬く間に冷却してゆく。幸一はまだ立上がれぬままに凝固している。真理は本当に死ぬ気だったのだろうか。 幸一が真理を捜し出さなかったら、実際に死ぬ積りだったのだろうか……。真理と身体を寄せ合って蓄えた熱などは完全に奪われて、真冬ほどの寒さを感じる書写山の冷気と、真理の頑なな思いに骨の髄まで凍りついてしまった。
二人が帰宅すると、玄関で秋子が出迎えてくれた。山を下りてすぐに公衆電話から連絡を入れておいたから、出迎えた秋子も落ち着いている。
「さようなら」
真理の言葉は至極自然で、明日には再び爽やかに挨拶をしてくれそうな感じすら覚える。だが彼女は一度も振り返ることなく二階にある自分の部屋へと姿を消して行った。ふと、桜吹雪に紛れて消え去った美紀の後姿がそこに重なった。彼も玄関で暇を告げてバイクに向かうと、秋子が見送りに出てくれた。
「本当にありがとうございました」
バイクにまたがった幸一に秋子が深く頭を下げた。幸一は健気な秋子に新鮮な魅力を感じる。秋子はまだ、他人を傷つけたり、他人に傷つけられたりしていないと感じた。だがそれは、何の根拠もない幸一の虚しい切望に過ぎない。
「秋子さんは家族に心配かけるようなことしたらあかんよ」
「はい」
幸一の言葉に彼女は清潔に笑った。その笑顔は、後輩であった頃の美紀が幸一に対する好意を含んだ瞳で、歯切れ良く返事を返してくれた頃のことを思い起こさせた。
「じゃあ元気でね、おやすみ」
幸一はエンジンを掛けてクラッチを握る。
「おやすみなさい。三浦さんもお元気で」
はっとした幸一は思わず振り向く。初めて名前を呼ばれた時の小さな興奮だ。秋子は肩をすぼめ、やや羞恥を含んだ瞳で上目使いに彼の瞳を伺っている。そして不意に手を伸ばして、革ジャンの肩に付いていた真理の髪の毛を取り除いてくれた。その瞬間、なぜだか全てが吹っ切れたような爽快な感覚が彼の胸に広がった。
幸一が発進する寸前に秋子が軽く会釈する。と、夜風が彼女の前髪を揺らして、彼はそこに真理と美紀とを同時に見たような錯覚を覚えた。とても美しい瞬間だった。
「さようなら」
幸一は心の中で呟いてみる。もう二度と会うことは無いだろう。例え会う機会があったにせよ、もうこの清純さは失われているに違いない。それは秋子の問題ではなく、今のこの状況が特殊であり、幸一が身勝手に清純さを創り上げているからだ。
そんなことを考えながら寒い夜風の中を疾走する。幸一は寒さに震えながら時々星空を見上げて、どんなに走ってもこの星たちの囲いを抜けることなど出来ない虚しさと、美しい輝きに抱かれている安堵感とを覚えながら、過去から逃げ出すようにバイクのスロットルを開いた。
幸一は京都賀茂川の河原に立っている。時折強い風が吹くと、堤防沿いに植えられた桜の吹雪が華やかに舞い散って、あの日、花吹雪に巻かれて消え去った美紀の後姿が目に浮かんでくる。
幸一は大学生になっていた。真理や美紀と別れて一年超。結局、真理とは同じ学校にいながら、あの夜以来一度も言葉を交わすことは無かった。挨拶すら、会釈すらすることは無かった。当然、幸一の心は空気の抜けたゴム風船のように萎みこんだ。
半年くらいは真理への想いが立消えず、あの焚火の前の妖艶な素顔や上高地での清らかな笑顔、春雨に浮かんだ切ない表情、星空に流れ星を探した澄んだ瞳などが、切ない心の痛みを伴って幾度となく思い出されていた。
だが半年も経つ頃には、懐かしい思い出の絵画的風景として湧き上ってくる以外は特別に悲しい感情も沸き上がらなくなり、幾分心も落ち着いてきた。
二人は隣あった教室に在席しているだけに、階段や廊下ですれ違うことは何度かあった。幸一は中学時代に、美紀にとことん無視された経験があるので、他人に無視される痛みには慣れていた。逆に、そこまで徹底して無視する努力が可笑しくさえあった。
卒業を前にしたある日のこと、幸一が階段を下りていると下の階から真理が上がってきた。その頃の幸一にとって、真理はもう懐かしく大切な思い出だけの人となり、現実の彼女は別世界の人間のように感じていたから、無視されようと何をされようと全く拘泥しなかった。
彼はふと、真理はいったいどんな表情で自分を無視しているのか一度じっくり見てやろうと思い立った。数メートル手前になると、真理は俯いて頑固なまでの硬い表情を作っていた。そこまで頑なになる彼女の様子が可笑しくて、幸一はふっと笑いを漏らした。と、ほぼ同時に真理も笑顔を漏らした。彼女が笑った理由はわからなかったが、そのまま口を利くことは無く離れていった。
結局、幸一はテニス部も辞めた。三年生になって間もなく、一度は復活したもののやはり熱意は戻らず、最後の大会に向けて真剣に取り組んでいる仲間たちとの温度差を実感した。やる気が無いのなら辞めろと顧問に言われて辞めた。全く後悔は無い。
部活を辞めてからは受験勉強に没頭した。親の経済的負担を軽くしようと国公立大学を目指して多科目の勉強をした。だが努力のかいもなく、地方の国立大学を受験して不合格となり、結局は第二志望の私立大学に入学した。
最初から私立に絞っていれば、三科目の勉強に時間を集中してもっと効率よく受験勉強が出来たものを、結果的には時間を無駄にしてしまった。
幸一の通う大学は京都市の北部にあり、住まいは上賀茂神社から徒歩で五分位の賀茂川沿いにある学生アパートだ。こちらに住み始めてしばらくしてから上賀茂神社が近くにあることに気付いた。いつか、真理が御守りを買って来てくれた神社だ。
幸一は賀茂川の流れを眺めながら、自分の高校生活とは何だったのだろうかと振り返ってみた。ひたすらテニスの練習に励んだ結果、本番の大切な時に靭帯の疲労断絶で目標を達成出来なかった。部活を三年間全うすることすら出来なかった。
幸一流に言うと、真理を選ぶために美紀を悲しませてまで別れたのに、その真理に嫌われてしまった。親の負担を軽くしようと努力したものの、結局は私立大学に入学して重い負担を強いることになった。何もかもが中途半端で、何ひとつ成し得なかった。だが今となってはもうどうでも良いことだ。
大学生活を始めてから数週間。受験勉強や、失恋や、自己嫌悪や、家庭での役割や、色々なものから解放されて心が軽やかになった。今まで鎧兜を着て生きていたのではないかと思うほど軽くなった。
桜吹雪に抱かれて大きく深呼吸をしてみる。甘酸っぱい空気で肺を満たすと、焚火の前で真理と美紀が姉妹のように仲良く話している様子が脳裏に浮かんで来た。そして真理と最後の挨拶をして、秋子に別れを告げて、バイクでひとり疾走した寒空の体感を肌が思い出した。
「やっと春になったか……」
春風に舞った一片の桜の花びらが、青空のキャンパスにほんの一瞬張り付いた後、ひらひらと賀茂川に舞い落ちてから、真理と美紀の思い出と一緒に姿を消して行った。
最後までお読みいただいて本当にありがとうございます。
「焚火のあと」では少しだけ大人になった幸一と真理が小さな事件に遭遇し、乗り越えてゆきます。よろしければ引続きお付き合いください。