それでは魔術を教えます
「はじめまして。
今回講師を務めます、王国制式騎士団所属のシルエラと申します」
王都の冒険者組合総本部。
本日は魔術師を招いて、一般開放魔術の公開講座が行われている。
魔術に明るい人物として、王国制式騎士団の方に来ていただいた。
わたしは冒険者組合側の見届け人として参加している。
公開講座参加者の大半は見習い。つまり未成年が多い。
習得できれば、今後彼らの心強い武器の一つになるかもしれない。
実のところ、魔術は生物ならば誰にでも使えるものらしい。
いや、たとえ生物でなくとも「なんでも」使えるものである。
アンデッドがいい例だが、遺跡などに潜むゴーレムでも使用してくる。
体内魔素を持ち、発動のための魔術構成式を把握しているならば、
無生物にだって使用が可能なのだ。魔道具もその一例。
魔獣やゴブリンなども使用してくるが、あれは厳密には魔術ではない。
体内魔素を無理矢理力技で放出し、炎や氷や雷を顕現させている為、
精度も威力も劣るまがい物でしかない。とは言え充分厄介ではあるが。
ただ、誰にでも使えるからこそ、誰もが使っていいものではない。
大量殺戮が可能な魔術を心無い者が気楽に使うのは危険極まる。
もっとも、使用までこぎつけるのはそう簡単ではないのだが…
今回は、知っていても犯罪行為には使われにくいとされている、
一般開放魔術に分類されるものを教わることになっている。
◆
「まずは、体内魔素が体内を循環する事を自覚していただきます。
血液以外の流れ、感じますか?この流れを『魔脈』と言います。
流れを操り、身体のある一点に集中させるのが第一段階です」
参加者が目をつむり『魔脈』の流れを掴もうと奮闘している。
もう、この時点で難しい。流れは感じるが安定しない。
事前にシルエラ女史に聞いていたが、練習してもまだ上手くいかない。
今回は《付き従う灯り》《集水》《汚れ落とし》《乾燥》という、
冒険者をやっていくにあたり有用なものを覚える予定なのだが…
わたしはまだ《汚れ落とし》が発動しない。
洗濯だけでなく、有害な付着物を払うのに役立つらしいので、
日々戦利品の検査を行う身として是非習得したいのだ。
「では第二段階。
お手元に配りました、魔術構成式を頭に思い描いて下さい。
これを正確に描くことで、発動の準備が整います」
目の前にある紙に書かれた、複雑な幾何学模様。
魔術師の方々は、この複雑な幾何学模様を術の数だけ覚えている。
比較的簡単で実用性の高い《付き従う灯り》ですらこの複雑さ。
王立中央学院では、こんなものを数十も頭の中に叩き込まれ、
王国制式騎士団ではさらに多くの魔術構成式を習得するとか。
ただ剣を振るうのではない、彼らの能力と努力はすさまじい。
「第三段階。これで発動します。
思い描いた魔術構成式に対して、一点集中していたものを接続。
体内魔素が反応し、消費と共に《付き従う灯り》が発動します」
この会場には、おおよそ五十人が参加しているのだが…
おお、数人が発動に成功している。
彼らの胸のすぐ前に、音もなく光球が浮かんでいる。
参加者のざわめきが歓喜の声に変わっていった。
「成功された方が何人かおられますね。素晴らしい。
発動できなかった方々、第一段階から再度やってみましょう。
それから…」
◆
およそ半日の講義が終了した。
今回四つとも発動できた人は、なんと十二人。一部発動は三十四人。
日々練習することで、習得人数も増えていくだろう、との事だ。
わたしも遂に習得できた。シルエラ女史に語り掛ける。
「本日はお忙しい中ありがとうございました。
魔術師って名乗られる方々は、やはりすごい存在ですね。
こんな複雑な事を頭の中で簡単に行えているなんて」
「ああ、簡単ではなかったですよ、さすがに。
王立中央学院で学んだ時は、正直付いていくのもやっとで…。
自分でも、あの場所でよくやっていけたと思ってます」
シルエラ女史は応じた後、声をひそめて耳元でささやいた。
「実は今回教えたものは、旧式なんです」
「旧式?とおっしゃいますと?」
「今、王国制式騎士団ほか主だった騎士団では、
魔術構成式も比較的単純で、体内魔素の消費量も少ない、
新しい方式を習得するよう教えているんです。
そっちは軍事機密になるので、簡単に教えられないんです。
わたしはどちらも覚えているので、講師として選ばれました。
子供達には、出来るなら教えてあげたかったんですけど」
なるほど理由は分かる。
教えてしまって、王国の優位性が損なわれては些か不味かろう。
冒険者組合は、国家間をまたいだ組織だ。他国の人間も存在する。
王国としてはそこから情報を漏らす訳にもいかない。
たとえ軍用の攻撃魔術でなかろうとも。しかし…
「そうすると、なぜこちらからの依頼を受けられたのですか?
軍事機密に類する故教えられない、と即断られそうなものですが」
シルエラ女史は、ああ、という表情をし、答えを言った。
「わたしの同僚と上司に当たる方が、
『魔術に興味を抱く人を増やし、もっとすそ野を拡げたい』
と言うもので。わたしもそれに共感したんです。
実はわたし、男爵家の庶子で。
体内魔素が多かったので、母の家から男爵家に引き取られたんです。
そのおかげで王国制式騎士団にも入団出来ましたからね。
なので、似たような境遇の人達にこの道を見せたいんですよ。
あ、その同僚も平民でしたから。今では男爵にまでなってますけど。
確か冒険者資格も持っていたはずです」
理解できた。
公開講座から、この志を継いでくれる者が出ることを心から願う。
この世界、魔術は無言で発動できますが、術名を出すのが分かりやすいので口に出しています。




