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ここはなにかが欠けている

それでは魔術を教えます

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/03

「はじめまして。

 今回講師を務めます、王国制式騎士団所属のシルエラと申します」


王都の冒険者組合総本部。

本日は魔術師を招いて、一般開放魔術の公開講座が行われている。

魔術に明るい人物として、王国制式騎士団の方に来ていただいた。

わたしは冒険者組合側の見届け人として参加している。


公開講座参加者の大半は見習い。つまり未成年が多い。

習得できれば、今後彼らの心強い武器の一つになるかもしれない。


実のところ、魔術は生物ならば誰にでも使えるものらしい。

いや、たとえ生物でなくとも「なんでも」使えるものである。

アンデッドがいい例だが、遺跡などに潜むゴーレムでも使用してくる。

体内魔素を持ち、発動のための魔術構成式を把握しているならば、

無生物にだって使用が可能なのだ。魔道具もその一例。


魔獣やゴブリンなども使用してくるが、あれは厳密には魔術ではない。

体内魔素を無理矢理力技で放出し、炎や氷や雷を顕現させている為、

精度も威力も劣るまがい物でしかない。とは言え充分厄介ではあるが。


ただ、誰にでも使えるからこそ、誰もが使っていいものではない。

大量殺戮が可能な魔術を心無い者が気楽に使うのは危険極まる。

もっとも、使用までこぎつけるのはそう簡単ではないのだが…


今回は、知っていても犯罪行為には使われにくいとされている、

一般開放魔術に分類されるものを教わることになっている。



「まずは、体内魔素が体内を循環する事を自覚していただきます。

 血液以外の流れ、感じますか?この流れを『魔脈』と言います。

 流れを操り、身体のある一点に集中させるのが第一段階です」


参加者が目をつむり『魔脈』の流れを掴もうと奮闘している。

もう、この時点で難しい。流れは感じるが安定しない。

事前にシルエラ女史に聞いていたが、練習してもまだ上手くいかない。


今回は《付き従う灯り》《集水》《汚れ落とし》《乾燥》という、

冒険者をやっていくにあたり有用なものを覚える予定なのだが…

わたしはまだ《汚れ落とし》が発動しない。


洗濯だけでなく、有害な付着物を払うのに役立つらしいので、

日々戦利品の検査を行う身として是非習得したいのだ。


「では第二段階。

 お手元に配りました、魔術構成式を頭に思い描いて下さい。

 これを正確に描くことで、発動の準備が整います」


目の前にある紙に書かれた、複雑な幾何学模様。

魔術師の方々は、この複雑な幾何学模様を術の数だけ覚えている。

比較的簡単で実用性の高い《付き従う灯り》ですらこの複雑さ。


王立中央学院では、こんなものを数十も頭の中に叩き込まれ、

王国制式騎士団ではさらに多くの魔術構成式を習得するとか。

ただ剣を振るうのではない、彼らの能力と努力はすさまじい。


「第三段階。これで発動します。

 思い描いた魔術構成式に対して、一点集中していたものを接続。

 体内魔素が反応し、消費と共に《付き従う灯り》が発動します」


この会場には、おおよそ五十人が参加しているのだが…

おお、数人が発動に成功している。

彼らの胸のすぐ前に、音もなく光球が浮かんでいる。

参加者のざわめきが歓喜の声に変わっていった。


「成功された方が何人かおられますね。素晴らしい。

 発動できなかった方々、第一段階から再度やってみましょう。

 それから…」



およそ半日の講義が終了した。

今回四つとも発動できた人は、なんと十二人。一部発動は三十四人。

日々練習することで、習得人数も増えていくだろう、との事だ。

わたしも遂に習得できた。シルエラ女史に語り掛ける。


「本日はお忙しい中ありがとうございました。

 魔術師って名乗られる方々は、やはりすごい存在ですね。

 こんな複雑な事を頭の中で簡単に行えているなんて」


「ああ、簡単ではなかったですよ、さすがに。

 王立中央学院で学んだ時は、正直付いていくのもやっとで…。

 自分でも、あの場所でよくやっていけたと思ってます」


シルエラ女史は応じた後、声をひそめて耳元でささやいた。


「実は今回教えたものは、旧式なんです」


「旧式?とおっしゃいますと?」


「今、王国制式騎士団ほか主だった騎士団では、

 魔術構成式も比較的単純で、体内魔素の消費量も少ない、

 新しい方式を習得するよう教えているんです。


 そっちは軍事機密になるので、簡単に教えられないんです。

 わたしはどちらも覚えているので、講師として選ばれました。

 子供達には、出来るなら教えてあげたかったんですけど」


なるほど理由は分かる。

教えてしまって、王国の優位性が損なわれては些か不味かろう。

冒険者組合は、国家間をまたいだ組織だ。他国の人間も存在する。

王国としてはそこから情報を漏らす訳にもいかない。

たとえ軍用の攻撃魔術でなかろうとも。しかし…


「そうすると、なぜこちらからの依頼を受けられたのですか?

 軍事機密に類する故教えられない、と即断られそうなものですが」


シルエラ女史は、ああ、という表情をし、答えを言った。


「わたしの同僚と上司に当たる方が、

 『魔術に興味を抱く人を増やし、もっとすそ野を拡げたい』

 と言うもので。わたしもそれに共感したんです。


 実はわたし、男爵家の庶子で。

 体内魔素が多かったので、母の家から男爵家に引き取られたんです。

 そのおかげで王国制式騎士団にも入団出来ましたからね。

 なので、似たような境遇の人達にこの道を見せたいんですよ。


 あ、その同僚も平民でしたから。今では男爵にまでなってますけど。

 確か冒険者資格も持っていたはずです」


理解できた。

公開講座から、この志を継いでくれる者が出ることを心から願う。

この世界、魔術は無言で発動できますが、術名を出すのが分かりやすいので口に出しています。

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