詐欺拠点爆破ボタン
終わらないポチポチ、あるいは世界の終わり
ピンポーン。焦げ付いた日常に、軽快な電子音が割り込む。「お届け物でーす」
「お、きたきた」
段ボールの合わせ目を引き裂くと、そこには通販サイトでポチった『詐欺拠点爆破ボタン』がいた。プラスチックの安っぽい赤。おもちゃのようなボタン。
さっそく、人差し指に全神経を集中させる。
「うおおお正義執行!! 詐欺は滅びろォおお!!」
躊躇の「ち」の字もない。脳汁がドバドバと分泌されるのを感じながら、狂ったように連打を叩き込む。ポチポチポチポチ。小気味よいプラスチックの摩擦音が部屋に響く。
もちろん、俺だって暇じゃない。外出する時は、昔ゲームのレベリングを自動化するために自作した「自動連打マシーン(物理)」をセッティングした。俺の代わりに、機械仕掛けのクランクが規則正しく、正義を量産し続ける。
画面の向こうで、顔も見えない悪が塵に還っていく。その全能感は、控えめに言って麻薬だった。
別に誰かから感謝されたいわけじゃない。表彰状が欲しいわけでもない。ただ、この世から騙されて泣く人間がひとりでも減ればいい。そんな、歪んだ聖者のような免罪符を胸に、俺は心地よく微睡んでいた。
翌日。
ネットのタイムラインを眺めていると、海の向こうで「国家」がいくつか丸ごと消滅したらしい。まぁ、まとめサイトのデマかもしれないし、実感がなさすぎて地球の裏側のファンタジー小説でも読んでいる気分だった。
視界の端では、俺の可愛いマシーンが、健気に『詐欺拠点爆破ボタン』をハツり続けている。
カシャ、ポチ。カシャ、ポチ。
ピンポーン。
唐突に鳴るインターホン。こんな時間に誰だ?
ドアを開けると、そこにはやけに顔色の悪い男たちが立っていた。
「警察です。少々、お話を伺いたいのですが」
「お、おれ何も知りません! 違法ダウンロードもしてません!」
まだ何も聞かれていないのに、防衛本能だけで言葉が溢れ出た。
警察官が何かを言いかける。だが、その言葉が彼の唇からこぼれ落ちるより早く。
――ド。
世界が、爆音に塗りつぶされた。
俺の家もろとも、俺という存在が文字通り「お釈迦」になった瞬間だった。
自分がどうなったのか、その後のことは何も覚えていない。
ただ、爆風で宙を舞った自動連打マシーンと『詐欺拠点爆破ボタン』だけは、重力に逆らうように回転しながら、いまだに火花を散らして健気に動き続けている。
カシャ、ポチ。カシャ、ポチ。
次の標的が、どこかも知らずに。
めでたし、めでたし。
うそ、だめ、ぜったい




