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詐欺拠点爆破ボタン

作者: 東瓜
掲載日:2026/06/24

 終わらないポチポチ、あるいは世界の終わり

 ピンポーン。焦げ付いた日常に、軽快な電子音が割り込む。「お届け物でーす」


「お、きたきた」


 段ボールの合わせ目を引き裂くと、そこには通販サイトでポチった『詐欺拠点爆破ボタン』がいた。プラスチックの安っぽい赤。おもちゃのようなボタン。


 さっそく、人差し指に全神経を集中させる。


「うおおお正義執行!! 詐欺は滅びろォおお!!」


 躊躇の「ち」の字もない。脳汁がドバドバと分泌されるのを感じながら、狂ったように連打を叩き込む。ポチポチポチポチ。小気味よいプラスチックの摩擦音が部屋に響く。


 もちろん、俺だって暇じゃない。外出する時は、昔ゲームのレベリングを自動化するために自作した「自動連打マシーン(物理)」をセッティングした。俺の代わりに、機械仕掛けのクランクが規則正しく、正義を量産し続ける。


 画面の向こうで、顔も見えない悪が塵に還っていく。その全能感は、控えめに言って麻薬だった。

 別に誰かから感謝されたいわけじゃない。表彰状が欲しいわけでもない。ただ、この世から騙されて泣く人間がひとりでも減ればいい。そんな、歪んだ聖者のような免罪符を胸に、俺は心地よく微睡んでいた。


 翌日。


 ネットのタイムラインを眺めていると、海の向こうで「国家」がいくつか丸ごと消滅したらしい。まぁ、まとめサイトのデマかもしれないし、実感がなさすぎて地球の裏側のファンタジー小説でも読んでいる気分だった。


 視界の端では、俺の可愛いマシーンが、健気に『詐欺拠点爆破ボタン』をハツり続けている。

 カシャ、ポチ。カシャ、ポチ。


 ピンポーン。


 唐突に鳴るインターホン。こんな時間に誰だ?

 ドアを開けると、そこにはやけに顔色の悪い男たちが立っていた。


「警察です。少々、お話を伺いたいのですが」


「お、おれ何も知りません! 違法ダウンロードもしてません!」


 まだ何も聞かれていないのに、防衛本能だけで言葉が溢れ出た。

 警察官が何かを言いかける。だが、その言葉が彼の唇からこぼれ落ちるより早く。


 ――ド。


 世界が、爆音に塗りつぶされた。


 俺の家もろとも、俺という存在が文字通り「お釈迦」になった瞬間だった。

 自分がどうなったのか、その後のことは何も覚えていない。


 ただ、爆風で宙を舞った自動連打マシーンと『詐欺拠点爆破ボタン』だけは、重力に逆らうように回転しながら、いまだに火花を散らして健気に動き続けている。


 カシャ、ポチ。カシャ、ポチ。

 次の標的が、どこかも知らずに。


 めでたし、めでたし。

うそ、だめ、ぜったい

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