ロワイエでの異変①
送り込まれた先、そこは小高い丘だった
そこから見える景色、そこそこ大きな街のようだ
この街の名前はカルダーノというらしい
いろんな人種はいるが、普通に人間が暮らしている
時代は中世のヨーロッパといったところか
人々は知らない言葉を話しているが、俺にはその内容が理解できた
おそらく女神の力によって言語も習得したのだろう
街中に書かれている文字も理解できる
あと、もう一つ気づいたことがある
俺の腰には知らない袋があった
中身を見てみるとコインのようなものがいくつも入っている
おそらくこの世界での通貨のようなものに違いない
俺はさっそく宿のようなところに入って神器を出現させた
「ヒルデ」
俺が呼び出すとヒルデから返答があった
「聞こえているわ」
「まず、いろいろ情報が欲しい。サラの神器はどこにあるんだ?」
「正確な場所はわからない。でもサラは最後にロワイエに行くと言っていた」
なるほど
ヒルデは神器の場所を探知できるのではなく、その持ち主から情報を集めることでおおよその居場所を特定しているということか
仮に今、「俺はカルダーノの特定の宿屋にいます」とヒルデに伝えておけば、他の転生者達をその場所へ呼ぶことも可能ということになる
しかし「カルダーノにいます」と言っただけでは、合流することは困難だ
しかもサラの場合は事情が違う
ヒルデから情報を得られない以上、合流することはできない
しかもロワイエに向かったあと、実際にどこに行ったのかはわからない
サラの神器もロワイエにあるとは限らないし、サラの現在の居場所は全くわからない
しかし、今のところ手がかりはそれしかない
確かなのは、神器が消えていない以上、サラが生きているということだけだ
「憑依者がこの世界のどのあたりにいるのかわかるのか?」
「私が聞いたところによると、今現在、明らかに不可解な事件が起こっているのはロワイエ、ハーシェル、フィッツロイの3ヵ所」
なるほど
となると、もはやロワイエに行かない理由は無いな
「わかった。俺もロワイエに向かう」
しかし、常に神器を出したまま出歩くわけにもいかないだろう
明らかに目立つし、下手をすれば敵に察知される
おそらく憑依者も転生者を警戒しているはずだ
あるいはこの世界から排除しようとしているに違いない
数日かけて、俺はロワイエを訪れた
ロワイエに宿を取り、しばらくの間、情報を集めた
特にこの街で起こっている不可解な事件について聞いてまわった
その中でわかったのは、この街の領主はクレマンという名らしい
そしてこの地では最近、行方不明の人物が多く出ている
領主のクレマンの身内の中にも何人かの行方不明者が出ており、現在、原因を突きとめようと躍起になっている
俺はまずクレマンに会ってみることにした
簡単には会えないだろうと思ったが、行方不明者の件で協力したいと申し出るとあっさりと面会することができた
領主は50歳くらいだろうか
「俺はセイと言います」
まず名乗った
それに応じるかのように
「ロワイエの領主のクレマンだ」
そう名乗った後、尋ねてきた
「まず何者なのか聞いておこう」
「俺は人を探して旅をしているものです。探している人物をこのあたりで見かけたという話を聞いて、この地を訪れました」
「行方不明者の件について協力してくれるとのことだな」
「はい。もしかしたら俺が探している人物も関係しているかもしれません」
領主はしばらく考えた後、傍にいた執事のような人物に問いかけた
「マルコス、どう思う?」
「よろしいのではないでしょうか。ただし、監視は必要かと」
「そうだな。何人かの兵と一緒に行動させよう」
そのようなやり取りのあと、クレマンは俺に正式に告げた
「わかった。協力はあって困ることではない。まずは兵隊長ヴェスパーレのところを訪ねてくれ。彼からの指示を受けると良いだろう」
それを聞いて、俺は兵隊長ヴェスパーレを訪ねた
思っていたよりも若い
30歳前後といったところか
彼は足を負傷していて療養中だった
「領主からそのような事を?」
一瞬、訝しげな表情になる
「それでお前は何が出来るんだ?」
ヴェスパーレは明らかに不快そうだった
「俺はとある人物を探しているほか、この世界で起こっている不可解な事件についても探っています」
そう切り出した
「この国で、例えば突然人が変わったようになった人物などはいないでしょうか」
そう言うと、ヴェスパーレはしばらく沈黙した後
「なるほど。このような事件は他の土地でも起こっていのだな?」
「そう聞いています」
「それらの事件の特徴はなんだ?」
「起きている事件そのものは様々です」
そう言ったあと、俺は一瞬ためらったが
「その犯人は不死身の肉体を持っており、あらゆる傷が一瞬で再生するとのことです」
「・・・・・・・」
「人外の姿に変貌したという話も聞きます」
そう言うと、ヴェスパーレは再び考え込んだ
「なるほど。いろいろ詳しいようだな」
こんな話を信じるのか?
俺は一瞬そう思ったが、ヴェスパーレは続けた
「実は俺もそのような相手を見たのだ。いや、戦った。攫われそうになっていた人を守ろうとしてな。この足の傷はその時のものだ」
衝撃の事実だ
実際に見たというのか?
「それはどこで?」
俺が聞くと
「この屋敷のすぐ近くだ。攫われたのは領主の身内のものだ。俺はその時の事を領主に言えずにいる。そして、この傷は訓練中のものだと伝えてある」
「・・・・・・」
俺が沈黙しているとヴェスパーレが聞いてきた
「しかし、そのような相手、どうやって戦うというのだ?」
「戦うより前に、まずは犯人を探し出すことが重要です。特定できさえすれば対策も講じられるかと」
俺はあえて神器のことは言わなかった
ヴェスパーレはしばらく考えた後、俺の協力を受け入れてくれた
兵も何人か付けてくれるようだ
しかし、これは監視の意味もあるのだろう




