天界にて
気が付くと、俺の目の前には見慣れない世界が広がっていた
目の前には女性がいた
銀髪で長髪、白いドレスのような服装をしている
肌の色も白い
まるで全身が白で覆われているかのようだ
彼女は自らを女神ヒルデと呼んだ
「あなたは死にました」
いきなりそう告げられた
しかし、病院の記憶はあるものの、体からは痛みが全く消えている
「死んだって?じゃあ、ここは天国ってことなのか?」
ヒルデは首を横に振る
「ここは天界と呼ばれています。天国とは別の場所です」
「天界ってなんだ?」
「神々が住む場所」
そうヒルデは答えた
彼女が言うには、天界には神々がおり、それぞれ違う世界を見守っているとのこと
俺が生前にいた世界も別の神によって創られ、見守られていた
そして今、俺の魂がヒルデによってこの場所に呼ばれた
理由は一つ
彼女が見守る世界「ランデスティ」を守るために戦って欲しいということだ
「戦うって?何と戦うんだ?」
俺は当然のように聞いた
「邪神と。いえ、邪神によって生み出された憑依者たちと」
そこからの話は少し長かった
なんでも、かつてランデスティに魔王と呼ばれる存在が現れた
魔王はランデスティの支配を目論んだ
その状況を看過できないかった女神ヒルデは勇者を呼び出し、そして勇者によって魔王は倒された
しかし、魔王は倒されたものの、その後、魔王は邪神リシャドルとして復活した
そして、おそらくこの広い天界のどこかにいる
その居場所を女神ヒルデは他の神々と協力して探し出そうとしている
「なら、俺もそれに協力しろと?」
ヒルデは否定した
「いえ、それは私の役割」
そのあと続けた
「あなたはランデスティに行き、リシャドルが呼び出している邪悪な転生者を探し出して、倒してほしい」
おそらく、それは邪神リシャドルによるヒルデへの復讐
俺から言わせれば逆恨みというやつなんだが
リシャドルは凶悪な魂を選び、ランデスティの人に憑依させている
現に、ランデスティでは不可解な事件がいくつも発生しているそうだ
その種類は土地によって全く違うという
おそらく呼び出された魂の人格によって違うということなのだろう
リシャドルによって呼び出された魂は、まず黒い影となって現れる
その後、その世界の人々の誰かに憑依する
憑依された人間は人格を奪われ、乗っ取られる
「じゃあ、その憑依された人間は、普通の人間と見分けがつかないのか?」
「普段はそう」
ヒルデは肯定したあと付け加えた
「ただし、その気になれば化け物に変貌し、人外の力を発揮できるとも聞いている」
「だったら、どうやって探し出すんだ?見分ける方法は無いのか?」
憑依者と普通の人間との違い
一番の特徴は、憑依者は不死身だということらしい
たとえ全身をバラバラにされても一瞬で再生する
「ちょっと待ってくれ」
俺は思わず反応する
「そんな奴をどうやって倒すってんだ?」
そう言うと、女神はその手に一本の剣を出現させた
「これは神器と呼ばれる武器の一つ。そして神器によって付けられた傷を黒い影は再生することはできない。つまり憑依する前の黒い影の状態の時に直接ダメージを与えるか、憑依している人物ごとダメージを追わせれば倒せる」
「・・・憑依された人間を助けることは?」
「おそらく無理でしょう」
「・・・・・・」
俺は思わず考え込んでしまう
これだけの話で引き受けてもいいものなのだろうか
・・・待てよ
もう一つ聞いておきたいことがある
「もし、俺がランデスティで死んだらどうなる?」
「それはその時になってみないとわからない。でも再びランデスティで蘇ることはできないでしょうね」
つまり、ランデスティで俺が死ねば、また天界に呼び出されて別の世界で転生することができるかもしれないし、そのまま天国に行ってしまうかもしれないということか
返答ができずに考え込んでいる俺に対し、ヒルデは少し辛そうに語り掛けてきた
「・・・おそらく、あなたは引き受けるはず。そう思ってここに呼び出したの」
「え?どういうことなんだ?」
「実は、すでに上梨サラさんが私の話を聞いて引き受けてくれている」
一瞬、頭が真っ白になった
それは、どういう・・・
サラは助かったんじゃなかったのか?
「彼女は、あなたよりも先に、あなたが亡くなるよりも何日も前に亡くなった」
「・・・・・」
「その魂はこの場所に呼ばれ、今は転生者としてランデスティにいる」
俺はショックで何も言えなかった
「最初からあなたも巻き込もうとしていたわけじゃない。でも結果的にあなたまでもが亡くなってしまった。だから私はその魂を呼んだ」
そうか
確かに、俺が断るわけがないよな
俺は覚悟を決めた
「わかった。引き受けるよ」
「ありがとう」
そう言ったあと、女神は神器について説明してくれた
神器はそれぞれ授ける人物によって異なるとのことた
何が出るかはその時までわからない
俺に与えられた神器は大きな弓だった
よく見ると盾のようなものも付いている
矢は自動的に生み出されるとのことだ
つまり弾切れの心配はない
そして、神器には他にも大きな特徴があった
まず収納できるということ
普段は入れ墨のような形で背中にその姿のまま存在しているらしい
それを呼び出すことで背中の入れ墨は消え、武器として出現する
そしてもう一つ大きな特徴は、神器を通して女神と交信ができるということ
ただし、それは神器を出現させている時に限る
「じゃあ、ヒルデはサラと交信できるのか?」
俺が聞くと
「それが、交信できなくなってしまった」
え?
どういうことなんだ?
サラは神器を出現させていない状態を続けているということなのか?
「いえ、そうじゃないの。神器はずっと出現している。でも呼びかけても何の反応もない」
俺は最悪の状況を想像してしまう
もしかしたらサラはもう・・・・
「いえ、サラさんは生きている。所持者が死ぬと神器も消える。つまり彼女は無事だけど、神器を手放している可能性が高い」
少なくとも、何かしらの特別な事態が起こっている可能性が高いな
「では、サラの神器を所持している別の者が交信してくることは無いのか?」
俺は疑問をぶつけてみたが
「いえ、神器での交信は本来の所有者にしかできないの。だから別の誰かが所持していたとしても、私はそれを突きとめることはできない」
なるほどな
しかし、確実そうなのは何者かに神器を奪われたということだろう
「俺はサラを探しにいく。俺をランデスティに送ってくれ。ちなみにランデスティでの姿は転生前のままなのか?」
「ええ、そうよ。あなたもサラさんも」
「わかった」
「最後に一つだけ。ランデスティにいるのはサラさんだけじゃない。他にも何人かの転生者がいる。彼らの居場所は私を介して共有できるはず。だから、彼らとも協力することを忘れないで」
ヒルデはそう言うと、目を閉じて祈った
俺の身体が天界から消え、見慣れる場所へと移動した




