白い月の凱旋
茜色の天空を、
飛空艇の船団がファランクスを組んで突き進んでいく。
飛行機雲が銀白の月をたおやかに撫でれば、
地上では礼砲が我先にと祝意を返した。
空軍の凱旋である。
英雄フォーエンの帰還だ。
その光景を、
地上の誰一人として疑わなかった。
王女ノンは、
バルコニーで天に届けとばかりに手を振った。
美しい黒髪を風になびかせながら、
彼の帰りを待ちわびる。
『イスファの剣士が国を救った』という事実だけでも誇らしいのに、
あの青年剣士のなんと凛々しいことだろうか。
常に祖父王に付き従い、
甲斐甲斐しく民の為に働く姿の健気なこと。
自分の二倍は身の丈がありそうな、
十歳年上の美丈夫。
昨日、十四歳になったばかりの少女が
惹かれるのも無理からぬことであった。
祝賀会の夜は、
目の覚めるような白い満月だった。
王女は英雄を、
そっと波打ち際に連れ出した。
「お慕いしています!
フォーエン様」
鳶色の瞳は、潤んでいる。
だが、心なしか青年の表情が曇った。
「王女様からこのようなお言葉を、いただけるとは。
大変名誉な事……」
「それって――」
「私はあくまで王に仕えるものです。
玉座に興味はありません」
金の長髪を後ろ手に束ね、
涼やかな瞳は決然とした面持ちで、
異を挟む余地などない。
「落ち込まないで下さい。
私の他に、きっと相応しい方がいらっしゃいます」
「きっと見返してあげますわ」
精一杯の強がりを言うと、
彼女は膝から崩れ落ちた。
するとどうだろう。
身体全体に、心地よい浮遊感を感じた。
「特別ですよ?」
フォーエンはノンを抱きかかえた。
透き通るような素肌を紅潮させて、
彼女は静かに俯く。
そうだ。
この時間が、永遠に続けば良かったのだ。




