地下研究所
中央階段を、地下へ、さらに地下へと、
ファイサルとアビーは足早に駆け下りていく!
背後からは、漆黒のローブを纏った魔導士たちが、
執拗に魔弾を放ちながら、常に一定の距離を保って空中から襲い来る!
敵の数は、少なくとも七、いや八か!
やはり、この旧魔導研究所の地下室には、
何か重大な秘密が隠されているに違いない。
敵の追跡は切りがない。
ファイサルは踊り場に素早く身を翻すと、
共に駆け下りてきたアビーに、冷静な声で命じた。
「時間を稼いでくれ! やむを得ん!」
「王のフレアを!?
そんな、止めてください!
貴方まで失ったら、ガランは本当に終わりです!」
アビーの悲痛な叫びが、
狭い階段に木霊する。
「ギリギリでコントロールするしかない!
後は……」
アビーは、懐から取り出した魔道具を掲げて、
強烈な閃光を放った。
「ライト!」
その一瞬の隙を突き、
ファイサルは掌に集めた光のエネルギーを解放した。
眩い光球は、無数の光の矢となって、
四方八方に拡散していく。
「ショット!」
光の矢は、闇に紛れていた黒衣の魔導士たちの体を正確に射抜き、
彼らは悲鳴を上げる間もなく、地面へと落ちていった。
「済まない、アビー」
肩で激しく息をするファイサル。
やはり、通常の魔導士との戦闘は、
彼にとって大きな負荷を伴う。
ガランの王族は本来、
強固な防御結界を張ることに特化している。
攻撃的な魔導は、
どうしても消耗してしまうのだ。
王都シャリシャを襲撃した、
あの忌まわしい銀龍を、辛うじて追い払った国王の『フレア』。
彼は魔力をほとんど使い果たし、
再起不能の状態に陥ってしまった。
第一王子ファイサルは、
意識を保てるぎりぎりの線を見極め、
光の矢を拡散させるという苦肉の策を用いた。
その判断力と魔力制御は、
やはり王位継承者。
いや、今は感傷に浸っている場合ではない。
この陰鬱な施設の最深部には、
間違いなく不吉な何かが潜んでいる。
迂闊だったのだ。
『例の壁』の存在など、
王子に報告すべきでなかったのだ。
アビーは、今更ながら自身の迂闊さを深く呪った。
そもそも、いわくつきの「旧・魔導研究所」に、
危険が潜んでいないはずなどなかったのだ。
動乱勃発以降、
意識不明の重体となった国王の全権代理として、
若き第一王子ファイサルは、
その強い責任感から、
今回の突発的な単独行動を開始したのだった。
そして、予想通り、
地下には目を覆いたくなるような、悲しい空間が広がっていた。
無数の牢獄には、
異形な姿をしたキメラたちが閉じ込められている……。
「敵」の真の意図は、
「魔導」の力を使える「動物」を作り出すことだろう。
だが、なぜ?
『魔導は人間にしか習得できない』
その事実は、
百年前に勃発した大戦の最中、
人間と酷似した吸血鬼を判別するための、
凄絶な試みの中で、
既に明らかになったはずなのに。
ふと目をやると、
薄暗い牢獄の中に置かれた、真新しい鏡があった。
その鏡の中には、
どこか見覚えのある幼い子供が、
まるで眠っているかのように、静かに横たわっている。
これは一体……?




