表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

第26話「お嬢様の辞書に慈悲はありません」


「最悪な状況だ……」

「見つかるっていうリスクを想定し忘れていたのかい! ワシはもう、魔王様たちと取引ができないじゃないか!」

「仕方ないですよ! というか私はすでに、魔王たちに敵対されているでしょうし」

「アンタはいいんだよっ! 問題はワシだっ!」


 魔王城から少し離れた岩陰に隠れ、それぞれの言い争いをしているルルータとリップ。2人は互いに責任転嫁という、見苦しい喧嘩をしていた。


「ワシは執事を食いたかっただけで、魔王軍に逆らう気なんて最初からなかったわ!」

「執事を狙ったらそれくらいのリスクがあることなんて、馬鹿でもわかるでしょう!? 私とあなたが手を組んだ地点で、すでに魔王様には敵対しているんですよ!」

「アンタがそこを考慮しなかったせいで……」



 しかしそこへ、小さな足音が近づいてきた。


「仲間同士が喧嘩、クソワロタ」

「フュ、フューレ様がっ!!」


 ルルータが跳ねた声を上げた。

 フューレの実力を互いに理解している2人。


 即座に判断を出したのは、老獪なリップ・オフの方だった。


「……ワシゃ、ルルータに脅されただけだからねっ!」

「えっ!?」

「そいつがワシに協力しろって、さもなければ命を奪うと迫ってきたんだよ! こんなか弱い老婆にさぁ! ということでおチビ、そいつを成敗しとくれよ!」

「何を言っているのですか!?」


 慌てふためくルルータを置き去りにし、逃げ足の速いリップは急いで逃げ出した。


「フュ、フューレ様っ! あの人、私を裏切って逃げ出しましたよ!? あの人を追うべきではないですか!?」

「……」


 フューレは視線を、姿が小さくなっていくリップに向ける。

 しかしすぐに冷たい眼光でルルータを見つめた。


「リップは商人。いいもの売ってくれるからいい」

「は……?」

「お前はクソ」


 次の瞬間、フューレが片手をあげる。

 光が手に集中し、それぞれが各属性の魔法として生まれようとしていた。


 ルルータは一瞬だけ、呆気に取られた。

 しかし彼は逃げない。フューレを睨みつけると、フッと笑いを浮かべる。


「……あぁはいそうですよ! もう隠しません。私は魔王の座を狙っているんです!」

「あっそ」

「こうなったら実力勝負、まずはフューレ様をやるしかありませんね……。あなたが次期の魔王なのですから!」


 ルルータは爪を長く伸ばし、フューレの前に立ちはだかった。





「フューレ様ーっ! どこですかー!」


 俺は必死になって、どこかに行ったフューレをさがしていた。

 あいつ、この辺りに向かって走ってた気がするけどな……。足場が不安定で、さがすのも大変だ。


 すると少し離れたところから、爆発音が聞こえてきた。


「うわっ!」


 絶対にフューレだろっ!

 なに勝手に戦ってるんだあのガキいいい!!

 お前が本気出したら、ルルータやリップが死ぬどころか、災害が起こるだろっ!!




 案の定、俺がたどり着いた場所では、フューレがルルータの奴を虐げていた。


「ちょっ……フューレ様!」

「なに、執事」

「やりすぎじゃないですか……?」


 今、ルルータは絶叫を上げて逃げ惑っている。

 それも――爪の攻撃が効かない、たくさんの炎のオオカミから。


「さっき言ったでしょ。2人をぶっ飛ばすって」

「リップさんはどこに?」

「どっか逃げた」

「はあああああ!?」


 あのばばっ……ゴホン、あの商人、逃げたって!? なんでフューレはリップを捕まえなかったんだよ!?


 ……まぁいい。

 今はルルータを何とかしないとだな。

 フューレが全力を出したら、あいつ死んじゃうかな。


「フューレ様っ! 私がただ闇雲に逃げているだけとでも!?」


 突然、ルルータが声を出す。

 はぁ……? 逃げていないのなら、何やってるって言うんだよ。


「私は執事が来るのを待っていたのです!」

「は? ちょ――あっ!?」


 ルルータは炎のオオカミの攻撃をかわすと、今度は俺目掛けて走ってきた。

 待って、聞いてない! 俺が巻き込まれるとか聞いてないからっ!


 ルルータが俺に飛び掛かってきた。

 2人でもつれ合い、地面に転がってしまう。


「くっそ! 放しやがれっ!」

「フハハッ! フューレ様、これでもあなたは私に危害を加えられますかね!?」


 ルルータの奴、俺の喉に爪を当ててやがる。

 俺を人質に取るってことか。 どこまでも性根が腐ってる奴だなこいつ!




 おそらく俺一人だったら、泣いて震え上がって、命乞いをしていた場面。

 残念ながら、人質戦法はあのロリっ子魔王には無効だぜ。多分。


「さぁフューレ様! どうするか決断を――」

「うっさい黙れ」

「あ――!?」


 フューレはそうつぶやいた瞬間、今度は動物ではなく、自らの手から激しい炎を生み出す。

 狙いをルルータに定め、炎を放つ準備を整えた。


「執事を殺すより先に、炎を出す」

「……!!」


 ルルータの奴が驚いた顔をしている。

 相変わらずな間抜けヅラだな。俺も死にたくないから、そろそろ暴れるぞ!


「……どけっ!」

「うあっ!? 待ちなさ――」


 注意を逸らしていたルルータを押しのけ、俺はとにかく走って逃げる。

 わかった。ルルータはもう救いようのない奴だ。

 どっちにしろこいつが生きていると、魔王側にも人間側にも危害が及ぶ。

 初めてかもしれないな、こいつの力を頼るだなんて。

 フューレっ! 俺が逃げている隙に、ルルータをぶっ飛ばしてくれっ!!


 その期待に応えるように、フューレは勢いよく炎を噴射した。

 とぐろを巻くヘビのように、炎は渦巻き、俺を追いかけるルルータを呑みこみ……



 炎がおさまったとき、ルルータは地面にうつ伏せで倒れていた。

 顔を確認すると、気絶しているみたいだ。


「あれ、生きてるのかよこいつ。しぶといな……」

「私が本気でやらなかった」

「へ?」


 え? 本気を……出していないだって?

 俺はてっきり、フューレが炎でルルータを燃やし尽くして、殺してしまうのではないかと思ってた。

 だってフューレは、やるときは容赦ない奴だから。それに俺だって一瞬、マジでルルータは死んでいいと思ってしまった。


「なぜ手加減したのですか?」

「……別に、殺すのが面倒だったから」


 面倒なわけがないだろ。殺さない程度に力を抑える方が大変のはずだ。


「こいつ、地下牢に運んどく」

「あぁ……そうですか」


 ルルータを乱暴に引きずって、城の方へ戻っていくフューレ。

 俺はそんな彼女の背後を見つめながら、ふと思った。


 この頃、少しずつフューレの様子が変化している気がする。

 もちろん、俺への態度とかは改良されていないのだが……

 この時初めて、フューレは「無駄に傷つけない」という選択をしたぞ。


(もしかして……俺の教育、少しずつ効果が出ているのかな?)


 フューレから逃げたり、持ってきた卵を死守したり。本を読ませてみたり、必死に気持ちを訴えたり。教育というよりかは、すべて俺が必死に選び取った行動なんだけど。

 冷徹なフューレには、一見すべてが無駄なことのように思えた。だがこれらがもし、見えない変化を起こしているのであれば……


「俺は、フューレを変えられる」


 俺の希望は、もはや確信に変わっていた。





 ……という風に、少しだけ慢心していた俺なのだが。


「ここは……どこです?」


 目覚めた場所がわからず困惑しているルルータに、フューレが鉄格子越しに説明していた。


「ここは魔王城の地下牢。死ぬより辛い場所」

「どういうことですか?」

「食事は残飯か虫。水は泥水」

「はぁっ!? そんなもの口に入れられませんよ!」

「あとはたまに働かされる。エネルギー供給の仕事。あとはよろ」

「待ってください、フューレ様! 私に何をしたのですー!? あと、リップさんも共犯なんで! あの人のことも捕まえるべきです! あぁもう、いつか絶対にここを出てあなたに復讐してやr」


 喚きたてるルルータを完全無視し、スタスタと去っていくフューレを俺は見た。


 どうやら、何か変化したと思ったのは目の錯覚だったらしい。

 フューレは相変わらず、鬼のような性格をしたままだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ