第25話「お嬢様、彼らは犯罪者ですね」
(どうしようかなぁ……このままだと、執事クンが危ないよね……)
倉庫に閉じ込められたルパは、傍に立っているルルータとリップを見つめながら、そう考えていた。
かくれんぼをしていただけのはずなのに、突然背後からルルータが襲い掛かってきた。振りほどいて逃げる勇気も出ず、言われるがままにしていたらこの状況というわけだ。
(……? 執事クンが近くにいる?)
ルパは巨大な翼を床に付け、しばらく動かずにいた。
羽が僅かに振動する。足音を感知したのだ。それに加えて耳も良いルパは、執事とフューレが倉庫からさほど遠くない場所を歩いていることを知った。
(執事クンが、ここに気づけば……)
「ところでリップ、この天使はどうします?」
「わしが売りさばいといてやるよ。儲けた金は山分けだ。ヒヒヒッ」
リップがしわがれた声でつぶやいた瞬間――
突然、ルパが翼を乱暴に動かし始めた。
バサバサッと激しい音が鳴り、風さえも生まれる。
「ちょっ――! 暴れるなと言ったでしょう!?」
ルルータが慌てて止めに入る。翼を押さえつけようとしたが、勢いで弾かれてしまった。
「うっ!」
「大丈夫かい、アンタ! おい天使! それ以上音を出すんじゃないよ!」
しかし、ルパがその指示を聞くわけがない。
盛大に音を立てながら、ただ一心に、執事たちが気づくことだけを願っていた。
(執事クン、この場所に気づいて……!)
「……フューレ様、どうします?」
「……」
「どこをさがしても、ルパが見つからないじゃないですか」
俺はもう、だいぶくたびれていた。
城中と外を嫌と言うほど歩き回っている。運動不足にとっては地獄もいいところだ。
ルパ、ひょっとして誰かに連れていかれたりしていないか? 「お菓子をあげるからついておいで」って言われたら、簡単に行っちゃいそうな奴だし。
するとフューレが突然、顔を上げた。
「……聞こえる」
「は? 何が……ですか?」
俺も耳を澄ましてみた。
外に吹く風の音しか聞こえていないと思っていたが……よく聞くと、何かがバサバサと音を立てているのが聞こえてくる。
「これ、何の音ですかね。翼の音?」
「……ルパの音」
「まさか、ルパってこの近くに……!?」
「音、こっちから聞こえる」
フューレが小さな足で走り出したので、俺はその背中を追う。
走り続けると、次第にその音は大きくなっていった。そして、誰かの怒鳴り声のようなものも聞こえてくる。
「この先って……まさか、倉庫!?」
「そうかも」
「マジか、盲点でした……」
でも、なぜルパが倉庫にいるんだ?
城の外には隠れるなと言ったのだから……倉庫には来ないはずなのに。
「……まったくもう! よくも手間をかけさせてくれましたね……!」
ルルータとリップは2人がかりで、ルパの両翼を押さえることに成功していた。
今度こそ身動きが取れなくなったルパを睨み、ルルータが叫ぶ。
「この爪で切り刻まれたかったのですか!?」
「んんっ……!」
ルパは動揺した目つきで首を振り、ルルータの顔を見上げた。
しかし、次の瞬間。
倉庫の扉が勢いよく開き、そこには一人の青年の姿があった。
「うぉっ!?」
急いで倉庫を開けた俺は、目の前の光景に驚いてしまった。
暗い倉庫の中にいたのは、縛られたルパと……見覚えのある2人。
ルルータとリップだ。
なぜ、この2人が一緒にいる?
というか、何をしているんだ?
「……」
俺は一瞬の沈黙をした後――大袈裟に叫んでしまった。
「……うわああああああああっ!! なんでお前らがいるんだあああああ!!」
「チッ、移動する前にバレてしまいましたか……」
「坊や、久しぶりだね。でも今は、のんびり話している暇はないんだよ」
リップは鼻で笑い、ルパの羽根を一本だけ抜いて見せびらかした。
「この天使、坊やが面倒を見ているんだろう? この天使さえいなくなれば、坊やの責任は大きいわけだ」
「そこで私たちは2人で考えたのです。あなたをクビにするために、2人で協力しようとね。天使は返しませんよ!」
嘘だろ、最悪じゃねぇか。魔王の座を狙う野心家と、気狂い商人のコンビとか……
ただ、2人とも戦闘力は俺より高いはず。力づくで勝てる相手じゃない。くそっ、どうするか……!
――という心配は、俺が最初から一人だったらしていただろう。
俺の背後に立っていた幼女が、倉庫に佇む2人の前に姿を現した。
「2人とも、何してるの」
「……フュ、フューレ様っ!?」
「魔王のおチビっ!?」
ルルータとリップは、同時に高い声を出した。その拍子に手を放してしまい、ルパが2人から距離を取る。
フューレは相変わらず、現れただけでその場を一変させる力があるな。
ルルータは前日の件で、フューレの力は痛いほど理解しているはずだ。リップだって、ここで魔王様に喧嘩を売って、商売ができなくなると困るんじゃないか?
「……リップさん、どうしますか」
「ワシはあまりおチビと対立したくないのだが……」
「天使を担いで逃げられるかやってみます」
おいおい。聞こえているぞ、ひそひそ話が。
ルルータは床に倒れているルパに近づいたが、案の定、翼で抵抗されて、掴むことすらできていない様子だ。
「この天使っ……!」
「ルパになんかしたらぶっ殺す」
フューレの低い声に震え上がる2人。次の瞬間、ルルータが即座に言い放つ。
「……リップさん、仕方ないです。逃げましょう!」
ルルータは、老婆であるリップの手を掴むと、俺に体当たりをしてきた。
いてぇ!
思わずよろける俺。ルルータとリップはものすごい速さで倉庫を出て行き、逃げていく。あっという間に、2人の背中が小さくなっていった。
「やべぇ、あいつら逃げるつもりだ!」
「執事はルパをなんとかして」
「え?」
「私は2人をぶっ飛ばす」
するとフューレは突然、地面を一蹴り。ルルータたちを追い始めた。
フューレは子どもだけど……強いから、任せて大丈夫だよな、うん。
俺は倉庫に残されたルパに駆け寄り、猿ぐつわを取ってやった。
「ルパ! 大丈夫か?」
「ハァッ……うん、大丈夫」
大丈夫とは言ってるものの、泣きそうな顔をしているルパ。本当に精神が幼くなってるんだな。
俺はさっさと縄を解いて、ルパを立たせてやった。
「今、フューレがさっきの2人をぶっ飛ばしにいったぞ」
「えっ、フューたんが?」
「フューレは強いから、たぶん問題ないはずだ。でも、俺はフューレの執事だからな。何かあったら俺がヤバいから、見に行かないと……」
でも、ここにルパを置いてったら、また誰かに捕まりそうじゃないか?
それだけはマジで避けたい。どうしようかと考えていると――
「執事くーん!」
「エルス! 天使君が見つかったなら、私たちを呼びなさいよ!」
俺とルパのもとへ、ヤミーとフローリアさんがやってきてくれた。
タイミングが神ってる!!
さすがに城の大人が2人いれば、大丈夫だろう。特にフローリアさんは強いし。
「ねぇ、どうして天使君がここに?」
「ルルータとリップの奴に捕まってた。あいつら、俺を城から追い出そうとしていて」
「はぁ? ルルータはともかく、リップさんまで……?」
「みんな俺を嫌ってるからな。とにかく2人は、ルパを見ててくれない? 俺はルルータたちを追っているフューレの場所に行くからさ」
するとフローリアさんは首を傾げた。
「あなたがフューレ様の場所に行って、足手まといにならないかしら」
「なるにしても、俺はフューレの執事なんだ。放っておけない!」
あのロリっ子魔王は、強すぎて手に負えなくなるかもしれないしな。俺が見てなきゃダメだ。
俺はヤミーとフローリアさんにルパを預けると、急いでフューレが走っていった方向へ向かうことにした。
うおおおおおおお、フューレぇぇぇぇぇぇ!!
勝手にルルータとリップを殺すなよおおおおおおお!?




