第24話「天使泥棒が城にいます」
「罰ゲームより最悪だっ……!!」
俺は頭を抱え、床に突っ伏した。
のほほん天使のルパがどっかに消えやがった。魔王様にとって、めちゃくちゃ大事な存在である天使が! このままだと俺、真面目にデュークに殺される未来が見える。
「フューレ様っ! あなたがかくれんぼしようって言いだしましたよね!?」
「覚えてない。でも、ルパがいないと面倒」
相変わらず無関心な様子のフューレ。責任取ってくれよぉ……
するとヤミーが手を上げた。
「落ち着いてくれよ、執事君。君だけの責任にならないように、僕らもさがすからさ」
「そうね。私もあの可愛い天使君に危険が迫ってると思うと……!」
なんだかんだ言いながら、フローリアさんも協力してくれることになった。
全然違う方向で変な2人。だが、今は猫の手も借りたいところなのだ。
「んじゃあ、さがすの手伝ってくれ」
「僕らは城の外を見てくるよ。君たちは引き続き、城の中をさがしてほしい」
「フューレ様、一緒にさがしましょう?」
「……わかった」
俺たちは立ち上がり、再び手分けしてルパをさがし始めた。
「まだ……バレていない、ですね」
低い声が、ぼそりとつぶやく。
執事たちはまだ――魔王城の外にある、倉庫を確認していなかった。
執事が封印した幼児向けの本を、足が乱暴に蹴り飛ばす。
倉庫の中に潜んでいたのは――前に執事に敗れた青年ルルータと、商人の老婆リップ・オフだった。
ルルータは満足そうな笑みを浮かべて言う。
「あなたとのコンビは最高だ。あなたが持っていた『透過の実』、初めて食べましたよ。まさか、体を一時的に透明にできる代物なんて、存在していたのですね」
「ヒヒヒッ。ワシはかつて世界中を旅して回った商人だよ。数々の珍品を取り扱っているからね」
リップはフードの中から怪しい笑い声を漏らす。
そしてルルータは、倉庫の端でうずくまっているルパを見つめた。
手足を縛りあげ、逃げるのを防止している。騒がれると面倒なので、口には猿ぐつわを噛ませていた。
ルルータは震えているルパに近づくと、爪を長く伸ばし、喉元に近づける。
「んんっ……」
「いいですか? 天使だろうが何だろうが、騒いだら殺しますからね」
「……!」
翼で身を包み、ルパはおとなしくなった。
数日前、執事の罠にまんまとハマり、うんと痛い目を見て逃げ出したルルータ。
執念深い彼は、それでも魔王の座を諦めない。何とかして、執事たちに復讐をしようと考えていた。
そこで彼がたまたま向かった先――「沈没の森」で出会ったのが、同じく執事にやり返したいと思っていたリップだったのだ。
復讐心が意気投合した2人は、協力関係を築くことにした。
先に侵入したリップは、執事たちの会話を盗み聞いた。
その頃ちょうど、執事がルパの世話役に決まったころだった。
名案を思い付いたリップ。
あの天使を行方不明にさせれば、執事の信頼をどん底に落とせるのではないかと考え、ルルータと行動に出ることにしたのだ。
木の実を食べて透明になったルルータは、一人で隠れていたルパを簡単に捕らえた。
リップはルパを見下ろし、しわがれた声で言う。
「ワシも天使をこの目で見たのは初めてだよ……。聞いていた情報によると、最初は堕天使だったらしいねぇ」
「なのに、ちっとも強くありませんでしたよ。こんなあっさりと捕まえられましたし」
ルルータはそう言うと、勝ち誇ったように笑った。
「重大な失敗を犯した執事は、このまま追放となるでしょう。執事がいなくなれば、私は再びこの城の執事になるチャンスを得られる。城から追い出された執事を、人食のあなたが喰らう。これ以上ない、最高の計画です」
(え……!? この人たち、執事クンを狙っているの……!?)
会話を聞いていたルパは青ざめる。
このまま自分が捕まったままでは、執事はもしかしたら、魔王から直々に罰を受けてしまうかもしれない。
(どうしよう……なんとかしないと……!)
「……やべぇ、マジでどこにもいねぇ」
どれほど城中をさがし回っただろうか。
結局、ルパの姿はどこにも見当たらない。
「どこいったんだよあいつぅー!! まさか外に出ちゃったのかぁ!?」
「待って、執事。今から炎のオオカミを出すから」
「……って、その手があったじゃないですか! もっと早く気づいていたらよかったのに……」
「うっさい黙れ」
「あ、ごめんなさい」
そうだ。フューレが俺を追跡していた時、炎のオオカミを使っていたんだった。
あいつは匂いの嗅ぎ分けに関しては万能だ。
フューレは魔法でオオカミを生み出すと、自分の体の匂いを嗅がせた。
「さっきルパに抱っこしてもらった。匂い、わかる?」
「……ワンッ!」
オオカミは短く吠えると、今度は床の匂いを慎重に嗅ぎ出した。
どうだろう。ルパの匂い、ちゃんとさがし出せているだろうか。
「ワンッ!」
「これは……」
1階の廊下にやってきた俺とフューレ。
窓の真下に、白くて小さな何かが落ちているのを見つけた。
「なんだこれ」
「それ、ルパの羽根?」
「……あぁ、そうか!!」
ルパの羽根! 本人をさがすのに集中しすぎていて、羽根が落ちていることに気が付いていなかった。
その窓を確認してみると、なぜか鍵が開いている。
窓の外に顔を出してみると、さらに白い羽根が落ちていた。
そのままどこかに続いている。ルパが歩いて行った道を表しているのかもしれない。
「もしかしてあいつ、ここの窓を開けて城から出て行ったのですかね……?」
「でもルールで、城から出るなって言った」
「……なにか、訳がありそうですね」
外の担当はヤミーとフローリアさんだが、外にいるとわかれば、俺らが動くのは当たり前だ。
俺とフューレは外に出て、散らばった羽根を追ってみることにした。




