第23話「お嬢様、事件が起きました」
「ねーね、フューレのこと、何て呼べばいいの?」
「適当」
「だったら、フューたんね!」
……嘘だろ? この天使。
化け物みたいなガキと、一瞬で仲良くなってるんだけど?
なぜかルパを俺が世話することになった。
今、それが決まって数時間経ったところなのだが、ルパは人から好かれるのが得意すぎる。
さっきヤミーやフローリアさんにこいつを見せに行ったら、「えっ、翼が生えてるなんてかっこいいな!」とか、「きゃー超可愛いー! 抱きしめたーい!」……だとか、ただ笑顔でいるだけで人気者だ、この天使。
俺もそんな人生を歩みたかったなー! チッ!
そしてルパは、いたって純粋。
「ねぇねぇ、執事クン? 何してるの?」
「見りゃわかるだろ。ヤミーが調教室に用事があっていないから、俺が洗ってんの」
「ルパも手伝うよ~」
俺の手伝いを率先して行ってくれるのは、フューレと違うところだな。
あと、絶対に暴言とか言わない。いや、たぶん暴言を言われたら泣くタイプだな、こっちは。
マジの幼児だと思わないと、接するのが大変だ。
「執事、かくれんぼしよ」
「えっ、かくれんぼですか?」
皿を洗い終わった俺に、フューレが声をかけてきた。
こんな広い城でかくれんぼなんかやったら、誰も見つからない気がするんだけどなぁ。
「執事がさがす」
「しかも俺が鬼役ですか!?」
「逃げるのは、私と、ルパと、あとヤミーたち」
すると俺の背後から、疲れ果てたヤミーと腕を組んだフローリアさんが歩いてきた。
「今、この男をしばいてたところなのだけれど。何、かくれんぼ?」
「フューレ様がやろうだって」
「トホホ……僕はもう疲れているんだけど……」
「ヤミー、弱音を言わないでっ! フューレ様のご要望でしょう!?」
相変わらず性格が鬼畜だな、調教師さんは。
するとルパも飛んできた。満面の笑みを浮かべて、俺の前に降り立つ。
「かくれんぼ? うわぁ、楽しそう! このお城広いしね!」
「じゃあ執事、3分数えろ。執事は30分で全員さがす。できなかったら罰ゲーム」
「……はっ!?」
「城の中から出るのはダメ。じゃあ始める」
フューレの合図と同時に、4人は一斉に逃げ出した。
嘘だろ俺がさがすのかよ! 罰ゲームって、絶対に笑えないやつだから!
仕方ねぇ……何が何でも全員さがさなくては!
「とりあえず最初は、大人組からだな……」
体が小さいフューレとか、翼が生えているルパをさがすのは後回しだ。
まずはヤミーとフローリアさん。
あいつら、城のどこに隠れたんだ?
魔王城に来る前、数々のダンジョンを漁ってきた俺。かくれているものを見つけるのは得意なのだ。
まず初めに、第二調理室の戸棚に隠れていたヤミーを発見した。
「うわっ! 早すぎないかい!?」
「ヤミーが隠れるの下手くそすぎるんだ。戸棚ちゃんと閉めろよ」
ひとまず、料理長は回収完了。
次はフローリアさんかな。あの人、調教室にこもって、城中を移動してそうじゃない? だったら見つかりにくいし。
こうなったらヤミーを使って、何とかおびき出せないかやってみよう。
「なぁヤミー、廊下全力ダッシュできないか?」
「えぇっ!? そんなことしたら、フローリアに怒られちゃうよ」
「それでいいんだ。フローリアさんをさっさと見つけ出したい。大丈夫、調教は食い止める」
「……わかったよ……」
しぶしぶ了解し、廊下を走っていくヤミー。相変わらず身軽な動きをするよなー。
――すると突然、壁に不自然な扉が出現した。
「ヤミー! なぜ廊下を走ってるのっ!」
「ひぃっ!」
「いたぞ、フローリアさん!!」
俺が大きな声で叫ぶと、扉から現れたフローリアさんが顔を赤らめた。
「えっ、エルス!? 待って、いつもの癖で出てきちゃった……」
「まんまと引っかかってくれて助かったぜ!」
いつもの癖が物騒すぎるのは置いておき、簡単に見つかってよかった。
するとフローリアさんは肩を震わしながら、俺とヤミーを睨んでくる。
「あんたたち……2人まとめてボッコボコに……」
「あああああ!! 遠慮しておきます!!」
今それをやられたら、時間が切れちまう!
俺とヤミーは廊下を全速力で走り、残りをさがすことにした。
「残り20分か……」
大人組が早く見つかってくれたおかげで、フューレとルパはゆっくりさがすことができそうだ。
……とか思った俺が馬鹿だった。
残り2人になったとたん、難易度が桁違いに上がった。思い当たる場所をさがしても、2人はどこにもいないのだ。
「くっそー! どこにいるんだよもう!」
「どうしたんだ、勇者。誰をさがしているのだ?」
途中で、魔王デュークにすれ違った俺。
もしかして、2人の場所を知っていたりしないだろうか?
「いや、フューレとルパがいなくなったので、さがしていて……」
「なるほど。ルパの姿は見ていないが……フューレなら、俺の部屋のベッドに潜り込んでいたな」
……マジで? フューレ、魔王様の部屋にいるの?
「ナイスです! 魔王様! ありがとうございましたあああっ!」
「……? お、おぉ」
デュークは戸惑っている様子。そりゃ俺が突然喜び出したら、びっくりするよな。
魔王様、有能すぎる!
魔王様の部屋に入ると、フューレは本当にベッドの下にいた。
「……なんでバレた」
「それは内緒です。もう、魔王様の部屋にいるなんて、普通はわかりませんよ」
「あとで隠れ場所バラした奴燃やす」
その人、あなたのお父さんですよー……
フューレが不機嫌そうな様子で部屋を出て行き、俺もそれに続く。
さて、あとは天使のルパだけだ。残り時間は8分。なんとかいけるかな?
「どこだよおおおお!!」
翼が目立って簡単そうだから、さがすのを後回しにしていたのに……
ルパの姿は全然見当たらない。
1階から6階、あらゆる部屋をさがし尽くしたのに、ルパだけは見つからなかった。
「執事、時間切れ」
「ああああああ最悪だああああ」
フューレから、無慈悲なタイムアウトが告げられた。こりゃ罰ゲーム確定演出だな。
「じゃあそろそろ、ルパを呼んで」
「はぁぁ……。おーい、ルパー! もうかくれんぼは終わったから、出てこーい!」
俺は諦め、大きな声でルパを呼んだ。
――だが、なぜかルパは時間になっても現れない。
「……? どこにいるんだ?」
「仕方ない。お前らもさがせ」
フューレは、そばにいたヤミーとフローリアさんにも指示を出し、城中をさがし始めた。
「おーい、マジで出てこい!」
「天使くーん! もう終わったって!」
「どこにいるのー?」
手分けしてさがした結果、ルパが見つかることはなかった。
……本当にこの城にいるのかも、もはや怪しくなってきている。
「あのさ……ルパが見つからないと、魔王様にぶっ殺される気がするんだけど」
「さすがにここまでいないと不自然ねぇ。嫌な予感がするわ」
フローリアさんが、重々しい口調でつぶやいた。
俺を含む4人の中で、気まずい空気が流れる。
これは……事件なのか?




