第22話「問題児が1人増えたのですが」
「……」
突然、虹色の卵がひび割れたと思えば、出てきたのは純白の天使。
俺は目を丸くして、状況理解が追いつかずにいた。
ルパ……とか言ってたか?
「えっと、天使なのか?」
「うーん……天使って言ったけどぉ、前までは堕天使だったはず……」
「堕天使から天使になるってどういうこと!?」
「あぁあ、頭痛い。やめて、聞かないで……」
弱々しい声を出してうずくまるルパ。
なんなんだこいつ? 語彙力が低すぎて会話が成立していない気が……
フューレがルパを指さし、呆然とした顔をしている。
「卵から変なのでた。執事が言ってた通り。私、いつもこれを食べてる?」
「ちがーう! 普通の卵に天使なんて入ってるわけないですっ!」
「ドロドロの天使を食べてる……」
「この卵がおかしいんだよっ!」
まずい、フューレがあらゆる卵の中身が天使だと思い込んでいる!
問題が多発し、俺が脳内をパンクさせていると――
「堕天使様の気配がっ!!」
突然、高い所から声がした。
驚いて見上げると、魔王デュークが6階から身を乗り出している。
そして急に、6階から玉座の間まで飛び降りてきたのだ。
「は? うわあああああああっ!! 危なっ!!」
「今、魔法陣が強力な気配を察知した。お前たち、何か知らないか……」
デュークがそう言いかけた時。
魔王様の青い瞳が、ぼんやりとした表情のルパと目が合った。
「…………」
互いに沈黙し、世界一気まずい空間が爆誕する。
「天使じゃん……」
そして魔王様まで、思わず現状にツッコんでしまうのだった。
「ボク、長い間卵の中に閉じ込められてて……ちょっと頭がくるくるしてる」
整った顔立ちのまま、口から出てくる言葉は幼稚なものばかりな天使。
一度落ち着くことに決めた俺たちは、魔王様の部屋のソファーに座り、お茶を飲んでいた。
フューレは外で遊んでおり、この場にいるのは3人だけだ。
デュークはお茶をすすりながら、ソファーに座っているルパに質問を投げた。
「あなた様は、本当は堕天使なのですよね」
「うん……。この城もね、見覚えがあるんだ」
「あの、失礼ですが……堕天使と魔王様って、何か関係があるのですか?」
俺が横から割り込んで質問をした。
デュークがなぜそこまで堕天使に執着しているのかも、まだよくわかっていない。多分、理解していないのは人間の俺だけなんだろうけど。
「人間は、神の加護を受けられることを知っているか」
「……あぁ!」
そういえば俺が自分のステータスを見た時、「神の加護」みたいに書かれた項目が存在していた。
俺は何もなかったけれど、あれに何か属性がついていたりする人もいるのだろう。
「天界の神は人間を好いているからな。時々、身を守る加護を与えてくれるのだ」
「なるほど……」
「でも我々魔族は残念ながら、神に嫌われている。そこで我々魔王は遥か昔から、堕天使様に加護をお願いしてきたのだ。堕天使は神によって天界から追放された存在。神から嫌われている我々に、手を貸してくれた」
そういうことか。神の代わりに、堕天使から加護みたいなものを受けてきたんだな。
「だが数十年前、急に堕天使様がこの城にやってこなくなった。おかげで魔王の座が引き継がれるたびに行われる加護の施しも受けられなくなってしまったのだ。ちょうど俺の代から、加護を受けていない。今後のフューレのためにも、堕天使を見つけたいと思って儀式をしてきたんだ」
「ごめんよ! 加護を与えることを忘れてたわけじゃないんだ! あのね……数十年前、城に向かう途中でさ、魔物に変な魔法をかけられちゃって……卵から出られなくなっちゃったんだよね」
えぇっ!? 何十年も卵の中にいたのかよ!? 不死身かこいつ!
――そしてその卵を俺は、城の中に持ち込んでしまったと。
「卵の中から外の様子は聞いてたんだ。執事クン……だっけ? ボクを助けてくれたの」
「いやぁ……それほどでも」
「ありがとう。助けてくれたし、さっそく今の魔王様にも加護を与えたいんだけどさ……」
ルパは自分の姿を見つめ、ため息をついた。
「見てわかる通り、卵の中にいる間に、堕天使としての力を失っちゃったみたいで……ただの天使になっちゃったんだよね」
「あー……」
「あと堕天使様、性格もなんか変わっていませんか? 先代の話によると、堕天使様は威厳が強く、誰もをひれ伏させるような力があると……」
「それはわかんなーい」
そうだろうな。誰がどう見ても、こいつには威厳の欠片もない。
ただ、魔王様が敬語を使うような相手なんだからな。本来は、かなりすごい奴なのだろう。
「どうしたら、元の力を取り戻せるんだろう……」
「堕天使様、その方法を俺が今から探してみますよ」
「本当に!?」
「それまでは、この執事のもとで休んでいてください」
は?
魔王様、なんか今勝手に俺を世話係に任命しなかったか?
「いいの? わーい、執事クン、あそぼーね」
「うわああああ、すり寄るなっ!」
「こら勇者! 堕天使様は敬うべき相手だ!」
知るかそんなこと!!
幼稚園児のガキみたいに甘えてくるルパに、心底鳥肌が立った。
もしかして本当に5歳児なのって、フューレじゃなくてルパなんじゃないか!?
魔王様の部屋から外に出ると、フューレが待っていた。
「話、どうなった?」
「デューク様がルパをもとに戻す方法を考えるって。それまで待っててという感じでした」
「堕天使と遊んでいい?」
「好きにしてください……」
「わーい、フューレ、あそぼ~」
俺より背が高いルパは、フューレの小さな体を持ち上げ、高い高いをしてる。
そして調子に乗りだしたルパは、フューレを抱えて翼を広げ、広い玉座の間を自由に飛び始めた。
「飛ぶの久しぶりだぁー!」
「わ、ちょ――」
俺が止めようとするが、その声は届かない。
大きく動く翼から何本もの羽が抜け落ち、玉座の間に広がってしまった。
掃除しないと怒られるのは、たぶん、俺。
――俺、この問題児2人を見なきゃいけないの?




