表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

第20話「お嬢様に『俺』が生きる意味を」


 俺はロリっ子魔王のフューレを育てるにあたり、一つだけ心配事が……いや、心配なことは山ほどあるな。

 極めて気にしているのは、魔王デュークの許可だった。

 だって俺が育てたいと思っているのは、無邪気な殺戮をしないフューレ。願わくば、人と魔族が争わない世界を創れる魔王にしたいのだ。


 そんなことを、魔王が許すのだろうか?



「いいって言うわけないんだよなぁ……」


 デュークは前に、人間と魔族が争うのは仕方がないことと言っていた。それはおそらく、魔王としての絶対的な権力と余裕から生まれている考え方だろう。

 そんなこと考えている奴の娘が平和主義者になったら、ブチ切れてもおかしくない!


 今後はこっそりフューレを育てて行こう。

 俺はそう考えながら、周囲を見渡した。

 ――あぁ、話し相手が恋しい。

 もとの世界ではそんなことを思ったことがなかった。虚無のままに生きていたからだ。

 俺は話し相手を求め、第二調理室へと歩いて行った。





「し・つ・じ・君! 聞いてくれ! 料理の案が思いつかな過ぎて暇なんだ!!」

「うるせええええ!! 声がいちいちデカいんだよお前は!!」

「君には言われたくないよ!」


 調理室に入ったとたん、料理長ヤミーと口喧嘩が始まる俺。

 なぜだろうか。自分でも不思議だな。こいつの言葉にはすべて反発したくなる。

 それでも俺は何かあるとヤミーに会いに来てしまうのだ。この、つまみ食い問題児に。もとの世界だったら、絶対に俺は自分から他人に話しかけなかった。

 俺って実はわりと、寂しがりやなのか?


 散々ヤミーと喧嘩したり、喋った末に、俺は廊下へ戻っていった。





「俺が生きたい理由……」


 死んだら何も残らない。

 だから生きたい。生き続けたい。

 俺は何を残したいんだ?


 ふと俺は、もとの世界での生活を頭に浮かべた。

 何も考えていない呆けた顔で、仕事のカバンを持って外に出ていた。周囲は話しかけにくい先輩ばかりで、俺は一人縮こまって作業をしていた。


「あの頃は……残したいものなんて何もなかった……」


 でも生きたいと思ってた。

 意味のない人生を、意味がないまま終わらせたくないと思っていたんだ。



「……そういう、ことなのか?」


 俺は思わず目を開けた。

 曖昧なままの答えを自分に問いかける。

 俺は自分に意味を持ちたいと、そう願っていたのか?


 異世界転移。ステータスは使い物にならないけれど、これには意味があると思った。それまでの生活が虚ろだったから、唐突に訪れた人生の分岐点は輝いて見えた。

 神様が初めて俺に与えてくれたチャンス。

 それを逃したくなくて、俺は必死に縋り付いていた。

 その成れの果ての姿が、ダンジョンの残り物を漁る、ハイエナの俺だったってわけか……。


「……そうだ。俺は生きたいんだ」


 生きたいと、死にたくないと願うのは、生き物なら誰しもが同じ。

 でも俺は、生きたい理由がちょっと違うな。

 俺は俺が生きる意味をこの世に残してから死にてぇ。だから俺は、何が何でも生きて、生き延びて、前代未聞の魔王を育てるという目標を成し遂げる。


 それがこの俺――フューレの執事の生き様だ。





「執事」


 背後から呼ばれ、俺は振り返る。

 この呼び方をする奴はあいつしかいねぇな。

 立っていたのは、いつも通りの小さな体のフューレだった。


「今日、どうした? いつもと違う顔」

「……」


 生きる意味を考えている俺の顔は、フューレの目にどう映ってたんだろうな……。


「フューレ様」

「……」

「私は……いや、俺は。フューレ様に教えたいことがたくさんあります」


 フューレ様は黙っている。

 俺はまっすぐに、彼女の青い瞳を見つめた。


「フューレ様が知らない感情や世界は、きっとこの世界にいっぱいあって、それを知れば、フューレ様の何かが変わると思うんです。……もしかしたら、魔王になった後にやりたいことが、あなたの中で変化するかもしれません」

「……執事」

「俺はあなたを無知のまま、魔王の玉座に乗せません。あなたは人間に興味があるのでしょう? 俺が教えます。世界はあなたのおもちゃ箱ではなく、あなたが支えていくべき居場所なんです」


 だってフューレ様は。


「あなたは魔王だけど……まだ、一人の女の子なんだ」


 俺は自分の気持ちを、精一杯に伝えた。

 本当はただの5歳児なんだ。人と魔族の戦争を許容する父の子なのだ。

 まだ変わることができるはず。

 そう確信しているから、俺はフューレを育てることを決意した。





「……」

「……あの、フューレ様?」


 ――かっこよく決めたつもりの後に、俺は少しずつ恥ずかしさがこみ上げてきた。

 俺、5歳児相手に何を言っていたんだ?

 世界がどうのこうの言われたところで、幼女が理解できるわけないだろ! 馬鹿か!!


「……ちょっと何言ってんのかわかんなかった」

「え……あ、ごめんなさい……」

「でも、なんか楽しそう」

「えっ?」


 俺は驚いた様子で顔を上げる。

 フューレはいつも通りの無表情を浮かべたまま、俺の前を軽いスキップで歩いた。


「人間を教えるなら教えて。つまんなかったら燃やすけど」

「……フューレ様……」

「私、知ってるものが少ないから。執事が出したものなら、何でも見る」


 その短い言葉だけを残し、その場から去っていくフューレ。

 いつも通りの調子だった。でも、俺の中ではフューレの言葉が深く残っていた。


「……なんでも見るって言いましたね、フューレ様」


 フューレがそう言うのなら、俺は執事として全力を出す。

 勇者と誤解されていたり、まだまだ問題は多いけれど。

 ――生き延びると決めた俺は、誰よりも強い。



 魔王城に来て約二週間。

 フューレのほかに出会ったのは、ヤミーやフローリアさん、後は魔王のデューク。

 きっと他にもたくさんの人がいるはずだ。

 ルルータのように、城の外から誰かが来る可能性もあるが……

 この先、何があろうとも、俺はこのハイエナ根性で生き抜いてみせる。



 俺の執事生活は、幕を開けたばかりだ。





 ……って感じで、綺麗に締めたかったのに!!


「執事、今は掃除の時間。なんで廊下にいる?」

「……うわ、待って! 忘れてた! ごめんなさいフューレ様、考え事をしてて……」

「死ね」

「あぎゃあああああああああ!!」


 死ねじゃねぇよ! なんでさっきの会話の流れから、俺を殺す結論に至るんだよ! やっぱりフューレ様、俺の言ったこと理解してないじゃないか!



 俺はこの日も、発狂しながら一日を乗り越えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ