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第2話「お嬢様、鬼畜な要望はご勘弁を」


「ねぇ、執事。炎と水、どっちが好き?」


 俺がこの世で初めて受けた、哲学的な質問。


 炎と水、どちらが怖いと言われたら、人はどう選択するのだろうか。

 ちなみに俺は炎の方が恐ろしいと思う。水は普段から飲んだり入ったりしているので体への親近感があるが、炎は単に熱くて火傷するという印象しかない。


 だが、炎と水という選択肢を、魔王の娘に出された時点で、俺は終わっていた。


「えぇ、炎と水……? 炎は痛そうですから、水ですかねぇ」


 俺は深く考えず、適当に答えてしまう。

 するとロリっ子魔王――フューレは、コクリと頷いた。


「わかった。じゃあまずは水のやつからやる」

「え、ちょ、具体的には何するんですか?」

「ついてこい」


 てくてくと短い足で、玉座の間から出ていくフューレ。

 俺は首を傾げながら、彼女の後をついていった。





 たどり着いたのは、魔王城の中庭にあった巨大なプール。

 水深3メートルくらいはあるんじゃないか? どう考えても、俺の足はつかないような深さだった。


 そして俺はなぜか、足に重い鉄球を嵌められたのだが。


「えっと、今から私で何するんですか?」

「人間が溺れるとどうなるか、気になるからやってみるだけ」

「うわあああああ待ってください、何言ってるんですかああ!?」


 このロリっ子魔王やべええええ!! 淡々と、死刑みたいなこと言い出してやがる! 何が楽しいんだ、人間を溺れさせて!

 こんなの突き落とされたら死ぬに決まってんだろ!

 嫌だ。俺は死にたくないんだ。たとえハイエナでも、魔王の執事でも、生きていたい。異世界から消さないでくれ!



 パパの魔王様も見ておらず、助け舟は誰も出してくれない。

 どうにかして、回避方法を……!

 そうだ!


「うぅ……フューレ様、この鉄球の枷、キツすぎて痛いです。うっ血してしまいます」

「うっけつ……?」

「とにかく、少しだけ緩めて!」

「うーん、わかった」


 警戒心もなく、ゆっくりと近づいてきたフューレ。

 彼女が俺の足の枷を外した瞬間――俺は彼女を蹴飛ばして、その場から逃げ出した。

 ハッ、純粋な子どもめ! 嘘を信じちゃうところはガキなんだな!


「許してくださいねー! 溺死とか無理なんでー!!」

「……」


 フューレは廊下へ去っていく俺の背中を、沈黙したまま見つめていた。





「とりあえず、城から逃げたらさすがにヤバいかもな。ひとまずフューレの奴から隠れるぞ……」


 廊下を走ってきた俺は、再び玉座の間へと戻ってくる。

 広々とした空間には、誰もいない。俺は静かに階段の裏へと隠れた。


 あ、フューレがやってきた。


 あいつ、俺を探してやがる。歩きながら、玉座の間へと入ろうとしてきてるぞ。

 だがしかし、俺の陰キャスキル舐めるな。

 息を潜めれば虫同然の存在感となる俺。このままやり過ごしてやろう。本気で死んじまうからな……


 するとフューレが、静かに片手を上げた。

 ん? 何やってんだあのガキっ――



(うわああああああああああああ!!!??)


 俺は思わず、心の中で発狂してしまった。

 ――玉座の間に突然、激しい熱風が吹いたのだ。

 気のせいなんかじゃない。フューレの手のひらに、空気中から生み出された炎が集まっていく!


 するとその炎は――オオカミの形へと変形し、床へと降り立った。

 ……え、なにあれ。

 フューレって、炎で生き物生み出せるのかよおおお!?


「執事、この部屋にいる」

「……」

「捜し出せ。これが匂い」


 フューレは腹の部分を、炎で出来たオオカミに嗅がせた。

 ――あ、あそこ、俺が反射的に蹴っちまった部分だ。

 するとオオカミは牙をむき出しにし、グルルと唸った。床を執拗に嗅ぎ始め、そのまま俺のいる階段付近まで近づいてくる。


 やべぇ、バレる! こうなったら捕まる前に逃げるんだ!


「くそっ」

「グルルアアアアア!!」


 階段の陰から飛び出した俺。オオカミは雄叫びを上げて追いかけてきた。


 とにかく必死に廊下を走る。

 そうだ、プールの場所に戻れば、オオカミを水で消化できないかな……?

 でもここ、どこだっけ!? 適当に迷走したら、迷っちまったじゃん!



 そして俺は、最悪な場面に直撃した。


「行き止まり!?」

「グルルルル……」


 しまった。廊下の先が行き止まりだ。

 すでにオオカミに追い詰められてしまっており、逃げ場がない。


 すると、フューレが歩いてきて、腕を組みながら淡々を言った。


「執事、ばーか。私は魔法でどうぶつさん作れる」

「や、やめっ……」

「やっぱり、水より先に炎のやる。人間を燃やすと、どうなるの?」

「やめてくださいっ! 逃げた私が悪かったです! 燃やすのだけは本当に!」


 俺はみじめに後ずさりながら、壁にくっついた。

 オオカミはそんな俺の足に今にも飛び掛かろうと、激しい炎の瞳を光らせている。やめて! 痛いと熱いのダブルは死んじゃう!

 俺がとっさに目を瞑ったとき――




 突然、城内に鐘の音が響き渡った。

 頭の仲間で揺らぐような音。ゴーン、ゴーン、ゴーンと……


 するとフューレは、ピクリと動きを止めた。

 ぼーっとした様子で宙を見つめ、何かを考え込んでいる。


「あの、どうしました?」

「……お昼の時間」


 あぁ、今のもしかして……正午の鐘の音?

 フューレお嬢、昼食の時間がちゃんと決まってるのか。


「……いいや。お昼食べたいから、水と炎はまたいつか」

「えぇ、本当ですか! どうぞどうぞ、永遠のいつかでよろしくお願いします」


 よっしゃあああ!! 死の拷問回避!

 やっと食事の時間という、最も安泰な時間がやってきた。

 地獄を這い出たような気分だ。フューレが何を言い出しても、俺は上機嫌でいられるだろう。


「執事がお昼を作れ」

「おぉ、その程度なら私でも余裕ですよ!」


 フッ……。やっと執事らしい仕事が回ってきた。

 さすがに料理くらいはできる。適当に、フューレのメシを作ってやろう。


「で、私は何を作ればいいんですか?」

「食材が尽きてるから、とってこい」

「えぇ……と、食材をとってこい……? あぁ、外からですか? なるほど、具体的には何をでしょうか?」

「卵焼きがいい。ドラゴンの卵を取ってきて」


 ……ん?

 ドラゴンの卵って……なんですか?


「火山に、でっかいドラゴン住んでる。その卵がめっちゃおいしい。面倒くさいから執事がとってこい。1時間で」

「……1、時間ですか」

「遅かったら執事を燃やす」




 ……火山に行って、ドラゴンの卵を取ってこいとの無茶ぶり。

 俺、無事に帰ってこれるのか、これ。

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