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第19話「しょーもない野望でしたね(笑)」


 ルルータは、自信満々に作り上げた物語を手に、フューレの部屋をノックしていた。


「フューレ様!」

「……ルルータはノックする。執事はしない」


 部屋の中でくつろいでいたフューレが、淡々と言った。

 今のはおそらく誉め言葉だと捉えてよいだろう。

 気分を良くしたルルータは、キザなふるまいで紙を渡す。


「フューレ様、私はある物語を描いてみました。どうでしょう? 気に入ってくださると、大変嬉しいのですが」

「見る」


 フューレは紙を受け取ると、内容をじっくりと見始め、やがてその世界に吸い込まれるように集中し始めた。

 その様子を見たルルータはほくそ笑む。フューレ様は無垢で可愛らしいものだ。今後騙していくのは簡単そうだな。


 すべてを読み終えたフューレは頷いた。


「面白かった」

「ほっ、本当ですか!?」


 ルルータは輝くような笑みを浮かべる。本当に動物が出てくる物語が好きだったとは! あの執事、自分から情報を漏らすなんて本物のマヌケだ!



「面白かったから、やってみる」

「……やってみるとは……どういう意味でしょうか?」

「お前が悪い奴。フューレはどうぶつさんのリーダー」

「ご……ごっこ遊びをするということですか」


 面倒くさっ……

 ルルータは内心舌打ちしたが、それを表に出してはならない。


「……承知いたしました。えぇと、私が悪者で……」

「見て、これがどうぶつさんたち。今から悪者、フルボッコ」


 フューレが両手を広げると、炎や水、氷や毒、さらには草まで、数えきれないほどの属性を持つ魔法が生み出される。

 それらはすべて、フューレが愛する動物の形へと変形し、命を持つ存在のようにルルータを見つめた。


 突然現れた動物軍を前に、ルルータは青ざめた。


「……えっ」

「いけ、どうぶつさん」

「ギャアアアアアアアアアアッ!!」

「シャオオオオオオオオッ!!!」


 尻もちをついて動けなくなっているルルータ目掛け――動物たちは、一斉に襲い掛かった。





「さーて、ルルータのやつはどうなってるかな……」


 俺は廊下をのんびり歩きながら、フューレの部屋へと向かっていた。

 フューレの部屋は俺と同じ2階にある。よく外に遊びに行くから下の階に部屋があって、6階の魔王デュークとは離れている。


 今頃フューレの奴、動物を量産しているんだろうなぁ~

 そろそろ部屋に近づいてきたから、ルルータの悲鳴が聞こえてきても……


「うわああああああああああああああああっ!!」

「おっ!」


 聞き覚えのある声が、断末魔を上げている。

 これはっ……! 痛快だぜ。

 俺は表情をニヤニヤさせながら、声のした方へと歩いて行った。





「な、なんなんですかこの動物たちはっ!!」


 ルルータは城の廊下を全力で逃走していた。

 大勢の魔法でできた動物たちが、容赦なく彼に襲い掛かろうとしているのだ。


「動物たちに禁句の呪いは意味がない……それならっ!」


 ルルータは動物たちに顔を向けると、両手の爪を一瞬にして伸ばした。

 最初に突撃してきた氷の鳥を、鋭い爪でひっかき、粉砕する。


 次々と追いかけてくる動物を、ルルータは蹴散らし始めた。


「フューレ様の生み出した動物ですが……私の身を守るため、破壊をお許しください」


 ルルータがつぶやいた瞬間――

 次に飛び出してきたのは、爪じゃどうにもならない炎のオオカミ。


「うわっ! 熱っ!」


 オオカミがルルータの腕に噛みつき、思わず彼は叫び声をあげた。

 掴むことすらできない炎のオオカミを何とか振り払おうとしている間に、他の動物たちもルルータに飛び掛かる。


「やめてくださいっ!! あぁもう!! あ――っ!!!」





「……」


 俺は床に転がったまま、身動きの取れなくなっているルルータを見下ろしていた。


 炎のオオカミはルルータの右腕に噛みついたまま。あとは巨大なツタのヘビが、彼の体に巻き付いていて動きを封じていた。

 氷の小鳥が頭をつつきまくっている中、ルルータは半泣き状態で叫んでいた。


「エルスさん!! これはどういうことですかっ!!」

「……フューレ様は時々、物語に影響されるからな……それくらいお前が感動的な物語を描いたんだろ?」

「そんなっ……エルスさん! 私を助けてください! 同じ執事でしょう!?」


 ルルータは身じろぎし、俺の顔を見上げてきた。

 あ? 助けろだ??


「助けるわけねーだろばーか!! お前は魔王をうらぎ……ゲホッ、呪いが面倒だぜ。誰がお前みたいな奴を助けるかよ!」

「なんですって……!?」

「しかも、これは事故じゃないぜ。わりとこの城の執事なら、日常茶飯事。お前は俺を追放して、この役職を独占したいんだろ?」


 俺はあえて挑発するような言い方をした。こんな気分が良いのは初めてだ!

 ルルータは青ざめ、慌てて首を振った。


「そっ、そんなわけないです! こんな目に遭うのは御免だ!」

「じゃあ執事になるんじゃなかったな」

「執事を辞めますからぁ! この城を出て行きますからぁ! 今すぐ、私を助け――」

「あ、フューレ様が来た。じゃあまたな」

「エルスさあああああああん!!」


 俺は何もしていない。奴が自爆しただけだ。

 俺は自分の手を下さずして、あいつを倒したわけだった――





 後日。

 ルルータは重傷の体を引きずり、半ば逃げるように城から出て行った。


「はぁ。あいつフューレ様のごっこ遊び1回でダメになるのかよ」

「勇者よ、ルルータはどこに行ったのか?」

「フューレ様に振り回されて、城を逃げて行きました。ちなみに、魔王様たちを騙して、新たな魔王になろうとか企んでいたらしいですよ」

「そうか。どうせできもしないのに、くだらないことを考えるものだ」


 魔王と話していた俺は、静かにため息をつく。

 前日に俺に爪を突き付け、低い声で脅してきたあれは、ただの見せかけだったってわけだ。

 あいつが散々ボコされたのが原因なのか、俺の呪いは気づけば解除されていた。



 今後、あいつが別の手段で城に近づいてこないと願うばかりである。

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