第16話「どうやら新しい執事が来たそうで」
動物たちにフルボッコにされた俺は、ドラゴンからもらった本はいったん封印することにした。
そこで、自分で物語を描いてみるにしたのだ。あの暴君フューレの心を震し、かつ俺には何の危害もない物語の傑作を……!!
「っあ~! 思いつかねぇ!」
物語を作るとか簡単に言うが、すぐにパッとイメージできるものではない。
元の世界での俺……学校でも仕事でも、台所の端で死んだゴキみたいに存在感が薄かった俺の、人生を描いた物語……
……うん、やめよう! 面白くないとか言われたら、涙が止まらなくなっちまうぜ!
「はぁ……大変だ。いつ勇者だってバレるのかはわからないし、フューレの育て方はイマイチわかっていないし……」
机に突っ伏し、俺は盛大なため息をつく。俺が今いるのは、自分用に与えられた、2階にある小さな部屋だ。
ハイエナ人生で1か月。魔王城で1週間。死なないように、常に苦労し続けてきた。死んだら何も残らないから、何が何でも生き続ける。
あれ……俺って、何を残したいんだ……?
執筆が進まずに放り投げ、気分転換に廊下へ出た俺。
その時、魔王城の入口の方で声が聞こえた。
2人くらいの人数で話している? 一人は魔王デュークの声。
もう一人は……誰だ?
疑問に思って、階段を下りて入口へと向かった俺。
そこにいた2人の姿を見て、俺は絶句した。
「……いっ!?」
「おぉ、勇者か。ちょうどよい。新たな使用人を紹介しよう」
話していた一人は、安定の魔王様。
もう一人は――緑色の角を持った、長めのおかっぱに切りそろえられた髪を持つ男だったのだ。
やわらかい笑みを浮かべていて、ローブを纏う長身の青年。
誰だよこいつっ!? 新しい使用人だと!?
「どどど、どういうことですか? 魔王様」
「この者が、自らフューレの執事になりたいと申してきたのだ。まぁ、あの子の執事として働くと言った者は初めてみたからな。試しにフューレの執事として雇うことにした。今後は彼と一緒に仕事をしてくれ」
「初めまして。あなたが元勇者のエルスさんですか?」
男は俺の前に歩いてくると、わかりやすい動作で恭しく礼をしてきた。
「私はルルータという者。魔族の庶民ですが、どうしても魔王様たちに貢献したいという思いから、はるばるこの地まで来させていただきました」
「……あ、あぁ……」
俺は適当に頷いてしまった。
はぁ……? もう一人の執事だなんて、突然すぎるだろうが……
あと、魔王様の執事って、そんな簡単になれるものなのか?
こいつの存在が、俺のフューレ教育作戦の邪魔にならないといいんだけど。
「……」
「こんにちは、フューレ様。私はルルータと申します。今後、ありとあらゆる雑務はすべて、この私にお任せください」
「あっそ」
ルルータとかいう、真面目気取った顔の男。
彼は執事服に着替えた途端、速攻でフューレに声をかけていた。
そのフューレというと、まったく興味を示していない様子で、ルルータの相手すらしてくれない。
「おや、少々冷たい王女様だ。少し距離を詰めすぎてしまいましたかね」
「……」
「私としたことが、反省しなくては。エルスさん、共にフューレ様へのご奉仕、頑張りましょう!」
「……お前も、仕事中にヘマしないでくれよ。大変なことになるから」
俺はちんけなプライドが働いて、思わず素っ気ない返事をしてしまった。
何だろうか……。なぜかこいつとは仲良くしたくねぇ……。
急に城へやってきたせいで、俺の心も動揺しているのだろうか?
「くそっ! 瓶の蓋が外れねぇ!」
「エルスさん、こういうのは知恵を使うんです。湿らせたタオルで蓋を掴んでやれば、ほらっ!」
「……」
俺が全筋力を振り絞っても開けられなかった、小石の入った瓶。
横から割り込んできたルルータが、秒でカポッと開けた。
「わわわ、執事君! 手伝ってくれよ! 料理が大変すぎて、とても一人じゃ!」
「ヤミーさん、よければ私が手を貸しますよ」
「い、いいのかい? ありがとう。ところで見ない顔だね。新入りかい?」
「私はルルータ。今日からフューレ様の直属執事になりました」
「…………」
あれ? おかしいな。ヤミーは俺を呼んだはずなんだけどな。
「もうっ……! エルスの顔を見るだけで嫌っ! あの気持ち悪い虫の姿が蘇るわ……!」
「レディ、どうかいたしましたか」
「あら……あなたは? 初めて見る方ね……」
「私はルルータ。以後、お見知りおきを」
心なしか、フローリアさんの顔が赤くなったように見えた。
……ああもうっ! なんかこう……ムカつく! あああああっ!!
「あいつ、わざと俺の前に出てきて活躍しているよな? 『私の方が、この人間執事よりできます』アピールみたいな。マジそういうのいらないって……」
俺は城の廊下を歩きながら、細々とため息をついていた。
別に、執事が2人に増えることで、俺のデメリットが大きいわけではない。
むしろ得する方が多い可能性もある。
フューレからの命令を、半分くらいルルータに押しつけることができるだろう。そうすればフューレによる俺への被害も半減されるのだ! だとすれば、ストレスは大幅に減る。俺はより深くフューレの教育に専念できるわけだ。
なんだけどっ……! 普通にあの執事、仲良くやっていけるタイプじゃないっ……! あともしあいつがフューレに、教育を妨げる変なこと教えたりしたら、もっと最悪だ!
すると、廊下の向かい側からフューレが歩いてきた。
「あっ、フューレ様……」
「執事、なんかさっき新しい執事っぽいの来てた」
「えぇ、なんか魔王様が許容したそうですね……。フューレ様はどう思います?」
頼む、フューレ! あいつになんか一発言ってやれ!
「……なんでもできそうだから、雑用係」
「えっ?」
「執事の仕事をあいつにやらす。執事は私とどうぶつさんごっこ」
……はっ?
つまり俺が今までやっていた仕事はすべてあいつになって、俺はフューレの地獄のごっこ遊びに付き合えと……!?
「嫌です! 嫌ですフューレ様ああ!!」
「ダメ」
「あああああああああああああ!!」
嘘だろ! ルルータがいるせいで、俺の命がさらに危うくなるなんて!
こうなったら、何が何でもルルータを城から追い出してやる!!
俺は初めて、心の底から強く誓ったのだった。




