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第15話「お嬢様に絵本は危険です」


 毎日、玉座に乗せた虹色の卵に布を巻いている俺。

 少しずつ、その変化に気づいていた。


「おっ?」


 俺が触れた瞬間、卵がぴくっと動いた!

 この頃、よく中身が動くようになっている。中で生命が無事に育ってきているんだな。俺の癒しの要素! よく成長してくれよ。


 すると、城の扉からノックが鳴った。


「ん? 誰が来たんだ……?」


 執事ということで、ある程度の接客は任せると前にフューレから言われたのだ。

 俺は立ち上がり、魔王城の入り口へと歩いて行った。





 城の外に出た俺。

 目前にいたのは、巨大な羽を持つ赤いドラゴンだった。


「……う、わっ、あああああああああああ!!」

「一週間ぶりだな、我がオタクよ。私に会えることがそんなに興奮するのか?」

「……えっ? あ、前のドラゴンさん?」


 よく見ると、前に俺に卵の殻をくれたドラゴンだった。腕に抱えられた小さなドラゴンが、俺を見つめてキャッキャと笑っている。


「土下座した勇者が魔王の執事になったと聞いたものだから、見に来たのだが……まさか、お前だったとはな」

「えっ、その噂って広まってるんですか?」

「何を言っている。魔王様によって、すでに人間と魔族たち、世界中に広まっているビッグニュースだ」


 嘘だろっ……!!

 魔王様、何してんの!?

 俺のこと世間に教えるなああ!! あぁもう、本物の勇者さん、本当にごめんなさいごめんなさい……


 頭を抱えて呆然とする俺を見て、ドラゴンは鼻で笑った。


「しかしお前は勇者ではないだろう」

「なっ……!」

「私は前に一度、今の勇者であるエルスに会ったことがあるのだ。彼はお前のような容姿ではない。それに彼は、剣を構える姿勢から感じられる覚悟がすさまじかった。私もやむを得ず、エルスと戦った時は撤退したぞ」


 今になって、俺は最大のリスクに気づいた。

 ――魔族の中で、このドラゴンのように、エルスに会ったことがある人がいれば……俺の勇者という嘘がばれ、大変なことになるのでは?


 すると俺の心を読んだかのように、ドラゴンが大きな声で笑った。


「ハハハッ。案ずることはない。エルスと会ったことがある魔族や魔物など、ほんの一握りだ。なぜなら、彼に出会って生き延びることができた者など、そうそういないからな。魔王様は、争いがある以上、部下は失っても仕方がないものだとお考えになられてるのだよ」

「……」


 ならまぁ……いっか。

 心配なのは、人間たちや本物のエルスさんにどう思われているかだけになったな。



 次の瞬間、ドラゴンが腕に抱えていた赤子のドラゴンが泣きだした。


「ギャオオオオン」

「おやおや、すまない。落ち着きたまえ。ほら、パパだよー」

「キャフフッ、アハハッ」


 ……魔王とその娘の関係より、こっちのほうがよっぽど健全そうだ。

 こっちの執事になりたかったなぁ……

 俺が頭を押さえていると、ドラゴンが何かを取り出した。


「そうだ、無駄話で本題を忘れかけるところだった。これをあげよう」

「……本?」

「そうだ。かつて魔族の本屋で買った幼児向けの本を、私がこの子に読ませていたのだが……そろそろ飽きられてしまったからな。お前がフューレお嬢を育てるのに役立ててくれると嬉しい」


 渡されたのは、数冊の本だった。表紙にぬいぐるみや動物が描かれており、まさに幼児向け、という印象だ。

 ドラゴンはそれだけを渡すと、翼を大きく広げる。


「ではまた会おうぞ、我がオタクよ」


 楽しそうに手を振る赤ちゃんを抱え、ドラゴンは火山へと去っていった。





「フューレ様ー?」

「なに、執事」

「本を貰いました。よかったら読んでみてください」


 本の内容は、魔法を使える動物たちが悪いオオカミをやっつけるという、いたって平和な物語だった。

 これぞ今のフューレに見せるべきものだ! あいつはまず倫理観や善悪を知らないと、この世界をぶっ壊しかねないからな。


「……」


 フューレは本を渡されると、クッションの上に座り込んで読み始めた。

 おぉっ? 結構真面目に読んでくれているぞ? 俺はてっきり、「おもんな」とか言って、途中で投げ出すとか思っていたが……


 するとフューレは本を読み終え、何度かページを見返している。

 動物たちがオオカミを退治する場面だ。そうかそうか、そこが一番印象的なのか……


「フューレ様、あなたはこの場面、どう思いますか」

「……よい。オオカミぶっ殺すところ、大事。たくさんのどうぶつさん出てくるの、面白い」


 そうそう! この物語の中で、オオカミは仲間を喰らう悪い奴。

 こうやって少しずつ、道徳心を芽生えさせていくのが大事なのさっ!


「よかったです! 物語を気に入ってくれて……」

「じゃあ今からやる」

「……は?」

「本に出てきたどうぶつさんは、犬と、猫と、ウサギと鳥……」


 フューレはそうつぶやきながら、手をサッと振り回した。

 ――現れたのは、炎で出来た猫と、水で出来た犬。さらに、紫のドロドロした毒の塊みたいなウサギと、氷で出来た鳥。

 ……ん? 実際に動物を出して、何をする気なんだフューレは?


「執事がオオカミ」

「はぁ!?」

「どうぶつさん、あいつをフルボッコして」

「ぎゃああああああああああ!!」


 俺が走り出すと、背後から炎や水、さらには毒や氷といった、属性もりもりの魔法が襲い掛かってくる。

 ふざけんなぁ! 俺はオオカミじゃなくてハイエナなんだっ!

 フューレっ! 物語の世界を創り出そうとするなああああああ!!



 本を読ませるのは、ちょっと早すぎたかもしれません。






 魔王城の外。

 険しい岩山を超えて、ローブを纏った青年が現れていた。


 緑の角を持つ、魔族の青年である。


「あの城に、フューレ様に仕える人間の執事がいるのですね……」


 彼はニヤリと笑いながら、心の内にある野心を声に出していた。


「私は魔王の座を狙う者……必ずや執事の立場を奪い、最後には魔王を倒す。私が新たな魔王となるのです」


 彼は独り言をつぶやきながら、一歩ずつ、だが確かに魔王城へと近づいていた。

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