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第14話「魔王様、それは何の儀式ですか?」


「ふわぁぁ……、めっちゃ疲れたぁ」


 ロリっ子魔王の執事である俺は、蓄積した疲労を抱えたまま、玉座の間に戻ってきていた。

 ゴキの姿に変貌したことで怒り狂ったフローリアさんに散々ボコされ、ついさっき解放されたところだ。


「容赦ねぇよこの城の奴ら……。頭おかしい奴しかいねぇ。あーもうあーもうあー……」


 くそっ。一人で愚痴をほざいている時間がむなしくなる。

 いやほんと、俺は偉いよ。ステータスゴミの転移者なのに、よくこの城で生きているさ。早いことフューレの教育に力を入れないとなのに、毎日が大変だ……。


 俺は立ち上がり、階段の上に設置された玉座を見上げた。一応、許可なく階段をのぼることは許さないとフューレに言われている。

 玉座に置かれた虹色の卵。あれの世話をする時だけ、のぼることが許されているそうだ。

 でも生まれる前の卵なんて、世話なんてすることないよなぁ。せめて温かい毛布を巻いてあげるか、よしよ~しって、撫でてあげるくらいか……



「……って、玉座の主はどこいったんだよ! 主は! 魔王様は!?」


 フューレの執事になってから1週間が経っている。なのに初めて会った依頼、魔王に会っていないとかある!?

 さすがに一度は顔を合わせないと、この城にいるのかすらが不安に思えてくる。よーし、今日は魔王を捜しに行こう。





「おい、ヤミー。魔王様ってどこにいるんだ」

「え、魔王様? 前にも言ったじゃないか。魔王様は自室にいるよーって。あ、ちなみにその部屋は6階ね」


 俺が第二調理室に入れば、サラッと城のことを教えてくれる、気前の良い料理長ヤミー。

 もうこいつはただの情報源だ。あとこいつが作る料理は、普通にうめぇ。




 6階につくと、黒くて大きな扉を見つけた。

 見上げるような高さ。でも横に、「魔王デューク」と豪華なプレートに書かれている。ここであってるのかなぁ……。というか、俺の貧弱な力でこの扉は開けられるのか?


「ふんっ! ぬっ……」


 扉に力を込めてみたが、ビクともしない。

 諦めてノックをしてみると、急に扉が開いた。


「うわっ!?」

「何か用か、脆弱な勇者よ」


 出てきたのは、大きな角の魔王様。名前はデュークであってるんだよな?


「あの……たまには顔を合わせに来ようと思ったのですが……駄目でしたかね?」

「……それならかまわん」

「え?」

「茶でも注ごうか。立っていては疲れるだろう、中に入るがいい」


 そう言うと、マントをひらりと翻して部屋の中に入っていく。

 魔王って……優しいんだか何だか、わからねぇな……



 部屋の中を見て、俺は思わず「うおっ」という声を漏らしてしまった。

 魔王の部屋は大きかった。中心に、紫色の魔法陣みたいのがクルクル回って輝いているのだ。その前に置かれた器らしい置物には、俺が前にリップから買ってきたことのある「闇石」が置かれていた。

 なんだこれ? なんか闇の魔法みたいのでもやってるのか、魔王様!? これがRPGゲームだったら、明らかにヤバいタイプの儀式だぞ!


 そういえば前にフューレが、「闇石は魔王の儀式に使われる」みたいなこと言っていたな……


 魔王デュークは甘い香りのする紅茶を注いでくると、俺を高級感のあるソファーに座らせ、テーブルの前に出した。

 だが、なかなか気分が落ち着かず、俺は紅茶を飲む気になれない。だって魔王様の前だぞ!?

 こうなったら、頑張って会話を試みてみよう。俺はフューレの執事だし、魔王も話せばわかる魔族かも。


「お前はいつもフューレを怒らせているようだな。あの子が怒るとシャレにならんだろう。自己のためにも気をつけるがよいぞ」

「あの……魔王様……」

「なんだ」

「前から気になってたんですけど……なんで俺を執事にしたんですかね……?」


 俺は魔王に、最弱勇者と勘違いされて執事になった。

 でも、あまりに突然すぎるだろう。

 「なるほど、弱い勇者か。じゃあお前は執事だ」……っていう流れ、普通に聞いたことないから!


 すると魔王は肩をすくめ、苦笑した。


「そうか、お前にとっては唐突な出来事だったか」

「そりゃまぁ……驚きましたよ。俺を生かしてくれたことも」

「俺がお前を部下にした理由……その理由の一つには、かつての人間と魔族の争いがかかわってくる」

「え?」


 俺って、そんな大それたことと関係していたの?


「人間と魔族は、互いに争う運命にある。それは俺にも変えられないことだ。魔族には人食などといった人を襲うしかない者もいるし、人間だって魔族の派生である魔物を殺す。対立関係は仕方のないことだろう」

「……」

「遥か昔、代々の魔王を倒すために、特別な剣の才能を持つ勇者の一族、レオンハート家が立ち上がった。それは勇者であるお前なら、十分わかっていることのはずだ。だが未だに決着がつかず、どちらの一族も滅びていないわけだが……お前は勇者の中でも例外だな。弱くて惨めで、俺の部下を倒した後、俺に命乞いをするような奴だった」


 ぴえん、ぼろくそ言うじゃねぇか……

 でも事実だ。俺はハイエナ気質の生存者。勇者ではないけれど、言葉の通り、弱くて惨めなんだ。

 今までの会話から察するに、魔王様は今の本物の勇者――エルスに会ったことがないのかな? 会っていたら誤解しないだろうしな。


「そんなお前には、俺も興味を持った。お前は俺が本気を出せばいつでも消せる。そう判断したうえで、お前を監視下に置くため、俺の部下にした」

「……なら、なぜフューレ様の執事という、大事な役割に俺が?」

「あの子が人間について興味を持っていたからだ」

「だったら違う人間でもよくないですか?」

「それは……」


 魔王は言葉に詰まった。なぜ俺がこんなに問い詰めているかだって?

 だってあんな危険なロリっ子魔王の執事なんて、納得できる理由がないとやっていけねーだろ! ……まぁ、あいつを教育するという目標があるからいいんだけどさ。



 魔王が何かを口に出そうとしたとたん。

 突然、あの紫色の魔法陣が渦を巻いて輝きだした。


「!!」

「えっ!?」


 魔王は即座に立ち上がると、魔法陣に近づいて食いつくように見つめている。

 なんだなんだ? 魔王様が興奮しているぞ?


「それはなんですか? 魔王様……」

「俺の儀式で、堕天使様を呼んでいるのだ。かつてどこかに消えてしまった堕天使様が、近くに来ておられる!」

「堕天使……?」

「こんなに強い反応……まさか、もうこの城に……!?」


 えっ。

 その堕天使ってやつがこの城にいるの?

 堕天使ってたしか、天国から追放された天使だって、俺はもとの世界では学んでいたけどなぁ……



 魔王様といい堕天使様といい、この世界のスケールは大きすぎるようである。

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