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第11話「調教師に話は通じません」


 俺の執事としての仕事の形が、おおよそわかってきた。

 基本的には、フューレが命令したことを行うだけだ。ヤミーがいなかったりするときは、俺が食事をつくったりもする。

 四六時中働くほどハードなわけじゃないが、時々命じられた内容がぶっ飛んでいることがある。そのせいで俺は毎回、命を落としかねないわけだ。


 ある日の休憩時間、俺は魔王城の中を探検することにした。

 俺は数日間、魔王城にいて唯一気になっていることがあるからだ。

 ……あまりに広くて、人が少なすぎる!! どこにいるんだ、城にいる人たちは!

 ヤミーに聞いたら、「執事君の行動範囲が狭いだけさ。魔王様は玉座じゃなくて自室にいるよ」とか言われた。嫌だよ、俺の知り合い、フューレとヤミーだけっていうのは!


 魔王城は屋上も含めて7階建て。ヤミーによると、1階と2階は、魔王城の出入りぐらいでしか人が来ないらしい。

 俺は初めて、3階へ行ってみた。

 3階は食堂と一部の使用人の部屋があるとのこと。誰かに会えるかな?



「……ん?」


 しばらく3階を歩いていると、廊下の向かい側から、一人の女性が歩いてきた。

 背中まであるふんわりとした黒髪の女性だ。真っ赤な角が2本、左右対称に頭から生えている。

 紅色の瞳。どことなく薔薇を連想させるような、美しい容姿。俺が生きていたもとの世界に、こんな絶世の美女はいないんじゃないか?


「……」

「私をジロジロと見つめているけど、何か用かしら」

「えっ!? あ、いや、なんでも……」


 あかん、初っ端から嫌な印象を与えるところだった。もとの世界でコミュ症だった俺の、相手を見つめる癖が出てしまってるぞ!


 確かに美女だけど、俺の好みのタイプじゃないな。

 彼女は立ち止まると、少しだけ口角を上げて笑った。冷淡な顔立ちだけど、笑顔を見せると美しい。


「あなた、人間よね。魔王様から、あなたは勇者だって聞いたわ」

「あぁ……。一応、そうですね」

「一応って、おかしな男。とても勇者には見えないわね……。私はフローリアよ。魔王城の使用人。機会があったらよろしくね」


 彼女は赤いマニキュアを塗った手を振り、優雅な足取りで去っていく。



 へぇー、ああいう感じの魔族も、魔王城にはいるんだな。

 初めて魔族でまともな人に会ったかもしれない。フューレは性格が化け物だし、ヤミーは脳みそが料理にとらわれてるし。


 本来、魔族と人間は敵対している。だが人間、しかも勇者と思われている俺は、魔王城でいじめに遭ったりはしていない。土下座してフューレの執事になった俺なんて、敵意を向ける対象にすらならないのか。


「それにしても魔族は面倒だよ。俺、フローリアさんみたいに優しそうな人といたいなぁ……」


 今後の魔王城生活を案じ、俺はため息をついた。





「ヤミー、執事はどこ?」

「……さぁ? 僕は知らないですよ。今朝は見ましたけど」


 フューレは城を歩き回り、執事の姿を捜していた。


「あぁでも今日、魔王城を探検しに行くって言ってましたね。上の階にいるのでは?」

「前に執事に、魔王城の雑草抜きを頼んだのに、途中でやめてた。だから燃やす」

「えぇ……。人間相手にあんまり野蛮なことはやめといてくださいよ。まぁ彼は勇者だから、大丈夫だと思いますけど」


 ヤミーは肩をすくめてため息をついた。





「執事、見つけた」

「なんでここにフューレがいるんだよおおおおお!!!」


 俺は3階の廊下を走り、突然追いかけてきたフューレから逃走していた。

 今回はなぜ追いかけられている! 原因を思い出せ……

 思い当たるのは雑草抜きしかない。やべっ、途中で放置してたの思い出した! くっそおお、魔王城が広すぎるのが悪いんだっ!


「執事燃やす」

「これから抜きますからぁ! そのセリフ言うの何回目ですかぁ!!」


 廊下を曲がった俺はとっさに、たまたま開いていた部屋の中に隠れ、扉を閉める。

 心臓が高鳴った。フューレ、俺が隠れたことに気づかないでくれ……!



「どこいった? あの執事……」


 幼稚な足音が、段々と遠のいていく。

 ……よかった、バレなかった! どこか行ったぞ!



「さーて、今のうちに雑草を抜きに行って、なかったことに……」


 暗い部屋の中で立ち上がり、扉を開けて出て行こうとしたとき――





「待って。どこへ行くの?」

「……あぁっ!?」


 突然、片手を強く掴まれた。

 ふと目をやると、赤いマニキュアの指先。まさか……


「……あ、あなたは」

「ここ、『調教室』よ? 自分から入ってくるなんて馬鹿みたいね」


 ろうそくの灯りが音もなくつく。

 そこには――色気を含む笑みを浮かべた、フローリアさんが立っていた。



「……うわああああああああああ!!!」


 何やってんだ俺――!!

 なんで調教室に入ってるんだ! 馬鹿か!

 そして、まさかその調教師が……フローリアさんだとは!


「いや、あの、間違えました。ごめんなさい、出ていきます」

「待って。あなたこの頃うるさすぎ。フューレ様の命令に失敗して、逃げてるんでしょ? ちゃんと謝ればいいのに」

「謝っても何とかならないから、逃げてるんですけどね……?」


 あれ? 廊下ですれ違った時、優しい人だと感じたのは俺の幻覚か?


「とにかく、少しはあなたに魔王城のルールを覚えさせなきゃいけないみたいね。こっち来なさい」

「いやっ! やめろ、俺は痛いのが嫌いなんだ! フューレ様に許可取ったのか!」


 出て行こうとする俺を、暗い部屋の奥へ引きずりこむフローリア。

 何されるんだよ!? とにかく、ろくな目に遭わないのはわかってる。

 ああああ、フューレ様! 頼むから俺の危機に気づいてくれ……!

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