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第10話「お嬢様、謎の卵を拾ったのですが」


 ある日、俺はついに腹をくくった。


「キメラはここに住んでるんだな……」


 魔王城の南にある、紫の木が生えているというジャングル。

 ここに、めったにいないが群れをつくらずに暮らしていることがあるらしい。


「……まぁとりあえず、捕獲はしなくても……ね。見に行ってみるだけ……」


 俺はフューレに、魔王城の雑草抜きの仕事を任された。そのついでに少しだけ、ジャングルへ向かってみる。





 そして、ジャングルから返ってきた俺。

 ちなみにキメラは見つけられなかった。

 代わりにあったのは……両手で抱えられるほどの、虹色の模様がある卵。

 崖っぷちで転がり落ちそうになっていたから、慌てて掴み、気になったから持って帰ってきてしまった。


「元の場所に返すべきだったのだろうか……」


 だが、親らしい生き物はいなかった。放置したら、誰がこの卵の面倒を見るというんだ。

 それにしても、何の卵だろう。虹色なんていう派手な色をしている。せっかくだから俺が面倒をみてやろうかな。魔王城で死ぬほど振り回されてる俺、そろそろ癒しが欲しかったのだ。


「ふぁ~、なんだか鼓動が聞こえる……気がする」


 卵の表面に耳を当てると、内側に宿る生命を感じられる気がして、暖かくなる。

 そうして俺は、城の中に卵を持ち込んだのだが……





「執事君っ!! その変な色をした卵はなんだっ!」

「は!?」

「もしや、新手の天才テイストを発明する気か!? 一人だけはズルいぞ、僕にも見せてくれっ!」


 第二調理室の前を通った瞬間、欲にまみれた顔をしたヤミーが飛び掛かってきた。

 はぁ? こいつ卵を調理する気なのかよ!

 俺は苛立った表情を隠さず、卵をヤミーから離す。


「ふざけんな! この卵は食用じゃない、俺が育てるんだ!」

「なんだよ、つまらない。じゃあその卵じゃなくてもいいから、天才的な調理法と味覚を発見してくれ! 僕は君を心から尊敬してるんだっ!」

「しなくていいわ! どっか行け!」


 縋り寄ってくるヤミーを振りほどき、俺は自分の部屋へ行こうとする。執事になった時から用意されている小部屋だ。そこで卵を育てれば邪魔されないだろう。




 しかし次の瞬間、背後から別の声が聞こえた。


「執事、それおいしい?」

「ぎゃあああああああああああ!!」


 俺は反射的に走り出した。

 フューレだ! フューレの奴が卵に興味示してるうううう!! バレたくなかった!!

 思わず後ろを振り返ると、フューレが走ってきている。それに続いて追いかけてこようとしたヤミーの顔面を、ちんちくりんの足で蹴り飛ばした。怖いって、フューレ様!


「卵、私が食べる」

「ダメですー!! フューレ様、これは私が育てると決めた卵です!」

「育てる……? 卵、生き物じゃない……」

「もしかして卵が何か、今までよくわかってなかったの!?」


 卵は赤ちゃんが生まれる前の姿だぞっ!?

 するとフューレは走りながら言った。


「卵、どうぶつさんが体から出す、硬くて中身が甘い変なやつ……」

「そうだけど違う! 卵は生命の重みがあるんです。もっと大事に!!」

「知らなーい。どうぶつさん、出てこい」


 フューレが両手を大きく広げると――指先が光り、植物のツタのようなものが大量に出てくる。

 ツタは何度も複雑に絡み合い、やがてヘビのような形へとなった。


「あの卵を取れ」

「シャアアアアアアアアッ!」


 ヘビは植物まみれの顔で鳴き声を上げると、俺に向かって廊下を進んできた。

 やべぇぇぇ!! オオカミとクジラの次は、植物のヘビか!


「シャアアッ」

「痛っ……!!!」


 突然、ツタが鞭のように飛んできて、俺の腰に直撃した。

 あまりの痛さに俺は床へと倒れこんでしまう。でも、卵はしっかり抱えたままだ。

 もう嫌だ!! 死んじゃう。死にたくないなら渡すべきだ。でもこの卵は、俺の精神を今後癒すために必要不可欠なんだっ……!


 すると次の瞬間、ツタが足に絡まり、俺は全力で転倒してしまった。


「あぎゃっ!!」


 その拍子に、持っていた卵が腕からすっぽ抜ける。

 卵は空中で回転し――開いていた窓から外へ!


「ああああああ、卵おおおおおお!!」

 

 やばい、ここ2階なのに!!





 次の瞬間、フューレが窓から飛び出した。

 地面に落ちる前に卵をキャッチすると、そのまま体を丸めて地面へ落下。

 砂埃が舞った。


「フューレ様!!?」


 いくら魔王の娘でも、今のは大丈夫なのか!?

 何か怪我してたら、最悪俺の責任に……!!



 しかし砂埃が消えたその場には、無傷のフューレが卵を抱えて立っていた。


「……これが卵……」


 フューレは虹色の卵をジロジロと眺めている。

 よかった……。卵もフューレも無事で……

 俺はため息をつき、その場に座り込んでしまった。





「執事、この卵を私に渡せ」


 フューレは俺に、そんな命令をしてきた。

 ……うわぁ、ヤミーに調理させて食べてしまうのかな。でも卵を救ったのはフューレであって、俺は文句を言えない……(落とすきっかけを作ったのもフューレな気がするけどね)


「……わかりました。それ、食べるんですか?」

「いや、見てる」

「え?」


 俺が目を丸くすると、フューレは卵を玉座に置きながら言った。


「卵は生き物って執事が言ってた。何が出てくるのか、気になる」

「……」


 俺は正直、心から驚いてしまった。

 あの頭がおかしい暴君フューレが、卵を自分で育てるとか言い出すなんて……

 なぜだろう。フューレに対する想いは微塵もないつもりなのに、感涙が溢れそうになるのは。


「フューレ様……」

「でも、世話するのは執事」

「……はい?」


 え……フューレが育てたいのに、俺が世話するの?


「あと、私から逃げたから、燃やす」

「それは駄目えええええええええええ!!!」


 俺はもう一度、廊下を走って逃げ出した。

 くそっ! 今回の件は誰も怪我せず無事に終わると思ったのに! フューレが再び炎の犬を出している。地獄のループがもう一度始まる気がして、俺は涙が出てしまった。




 ちなみに、誰も怪我をしていないと思っていたが……

 顔面をフューレに全力で蹴られたヤミーは、軽傷じゃ済まなかった……だとか。

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