表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想省活動記録  作者: 長野原
ファントムプライド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/14

ep1



「先月、東北支部の管轄で発生した幻想生物個体名、「しろしろさん」の騒動で認識の力の恐ろしさを皆様身をもって実感したことだと思います。幸い東北支部のハンターと安倍晴樹氏により事態は収まりました。

しかし、幻想生物が公になるという事のみに注意を払っていては、足元を掬われてしまう。

私が本日皆様にお時間をいただいた理由は、幽霊についてです。

ご存知の通り、幽霊は全人類が共通して遥か昔から認識している存在であり、一個体の幻想生物ではなく、人が命を失った際、強い感情を引き金とし発生する後天的な異能力に近い存在です。

そして幽霊の存在を半数以上の人間が実際に存在していると認識している、つまり幽霊は人目を避けないのです。

確かに霊視という異能力を持っていない人間には幽霊は視認できません。

しかし、幽霊は悪意を持ち生きている人間に害を及ぼす場合がある。

私は幽霊という存在を危険視しております。

そんな幽霊に対抗できる霊能力を持つハンターの育成、そして待遇の改善を要求します」



幻想省、東京本部

スーツを着た一人の男がノートパソコンをテーブルに置き項垂れながら椅子に座っていた。

そんな男の元に場違いな派手な格好をした少女が近づいてくる



「我部さん、屋上なら立ち入り禁止ですよ、おすすめは車っすね、2キル以上狙えるんで」



我部と呼ばれた男はゆっくりと顔を上げ、少女の顔を見てため息を吐く



「菊名さん…私は死ぬ気ないよ。それと積極的に人の死を望まないでくれ」



菊名と呼ばれた少女はつまらなそうな顔をしてわざとパソコンを踏むようにテーブルに座る



「その様子だと、予算と人材の話上層部に却下されたんすね。まあ、あたしは最初っから無理って思ってましたけどね、脳みそが化石になった枯れ枝達が新しい事を承認するわけないっすもん」


「発言に棘しかないよ、少し配慮しないと」



我部はいいながら菊名が尻に敷いているパソコンを引き抜き、菊名はバランスを崩してよろめくが特に気にせずに答える



「あたしなりに配慮しましたよ、老害って言葉使ってないんで、悪口言うなら相手が理解できる言葉を使わないと意味ないっすから」


「悪口に嫌味を重ねないでよ、まだ近くにいるんだから」



菊名の発言に注意しながらパソコンを鞄にしまう我部



「別にいいっすよ、あたし悪口と嫌味は好きですけど、陰口は嫌いなんで、そもそもあたしらみたいな幽霊専門のハンター事務所なんてお利口にしてても目付けられるでしょ」



菊名の発言に言い返せずに黙る我部

幽霊は元が人間であり、よほどの強い後悔や感情が無ければ生者に干渉できない。元々幽霊という存在が知れ渡ってしまっていて、被害も小規模で、特殊な異能力を持つ人間しか幽霊を視認できなく、対応できる人材が限られる為、幻想省は幽霊に関して積極的に動くことは少ない。

そんな中、我部は幽霊に関する依頼や事件を専門とするハンター事務所のリーダーで、上層部からは放置しても問題ないことを引っ掻き回す厄介者として認識されている。



「今回はうまくいくと思ったんだけどなぁ、先月の事件もあったし」



幽霊に関する依頼は緊急性が少ない事が多く、報酬が少ない、その為幽霊を専門にすると事務所の運営もカツカツで、なんとか生活できる程の給料しかない



「ああ、東北支部大爆笑事件すっね、知ってます?あの事件に関わったハンター億単位で貰ったらしいですよ、幽霊以外には金振り撒くんすから言っても無駄っすよ」


「なら、菊名さんはなんで私の事務所に入ってくれたの?」



我部の問いに菊名はテーブルから立ち上がりなんでもないように答える



「だって、大暴れしたら大勢の被害者が出る幻想生物を倒したら勿体ないじゃないっすか、それにあたし幽霊嫌いなんで積極的に殺したいっす」



最低な回答に頭を抱える我部、実際菊名はその性格の悪さから大勢から避けられている。

本人はその性格を直す気がなく、悪気しかない為、我部もよく頭を悩ませている



(ただ極悪人ってわけではないからなぁ)



菊名は口も性格も悪いが、積極的に人を物理的に傷つけることはしない為、我部は見捨てられずに気にかけていた



「あ、殺すって、もう死んでるじゃないっすか、2度殺せるなんて幽霊ってお得っすね、2回死ななきゃいけないって、よほど終わった性格してたんでしょうね」



ケラケラと笑う菊名を見て苦い顔をしながら我部は立ち上がる



「帰ろうか」


「はーい、腹いせに外から石投げて窓割ります?」


「絶対やめて」



不服そうな顔の菊名を連れて我部は本部から出るために歩き出した



我部がリーダーを務めるハンター事務所は自らリノベーションした東京郊外の事故物件の廃ビルを拠点として活動していた、しかし、リノベーションは終わっておらず外観はほとんど廃墟のようだった。

必要最低限、内装のみマシにした事務所の二階へ帰ってきた我部は黙り込んでおり、そんな我部に菊名は声をかける



「石は投げてないっすよ?窓も割ってないし」


「…とりあえず、どこからカラーボールを持ってきたの?」



菊名は本部から出て我部の車に乗るまでの間に幻想省本部の窓にカラーボールを投げつけて外壁を蛍光塗料まみれにしていた。

菊名は自身のバックからカラーボール取り出して答える



「特製っす、これすごいんすよ、マジで落ちない」


「それは、清掃員さんの様子を見てわかったよ」


「あ、あのめっちゃスカーフがダサい人!作業着にスカーフってセンスが終わりすぎてましたよね、出てきた瞬間めっちゃ笑いました、あはは」



先程のことを思い出して笑っている菊名に対して頭を抱えながら何を言おうかと黙っている我部、その様子を見かねて黒髪の穏やかそうな笑顔の女性が話に入ってくる



「沙羅ちゃん?あんまり我部さんに迷惑かけちゃダメだよ?」



彼女は我部の事務所に所属するハンター、日野

日野に対して菊名は嫌そうな顔をして顔も合わせずに答える



「名前で呼ばないでくれません?馴れ馴れしいっす、だから結婚できないんすよ」


「あんまり意地悪なこと言わないでよぉ、それに今の時代結婚することが幸せとは限らないわよ?」


「わあ、すごっ、正論でも結婚願望ある人が言うと負け犬の遠吠えに変わってしまうんすね」



菊名の嫌味で日野は黙ってしまい、我部は機嫌を損ねたと思い、恐る恐る顔を見るが日野の顔から笑顔は消えていなく、胸を撫で下ろす。



「菊名さん、無神経だよ」


「あたし、意見コロコロ変える人嫌いなんですよね、我部さんも耳にタコができるぐらい聞いたでしょ?結婚したーいとか、彼氏ほしーいとか日野さんが喚きまくってるの」



我部の注意も無視してさらに嫌味を続ける菊名に日野は無言で近づき向かい合い、菊名は喧嘩をするつもりで拳を握る。

我部は暴力事件が起きると思いその場から離れようとするがその前に日野が口を開いた



「沙羅ちゃん…つまり私にまだ諦めるなって応援してくれてるのね!口は悪かったけど嬉しいよ!」


「は?」



予想外の発言に理解できずに固まっていると、日野は菊名の手を勝手に掴み縦に振り始める



「沙羅ちゃんは照れ屋さんだよね、ツンデレってやつだ!」


「すみません、オブラートに包み過ぎました。意見をコロコロ変えるやつじゃなくてあなたが嫌いです!」



菊名は手を振り解き、走って日野から距離を取る。日野には嫌味があまり通じない為、菊名は日野のことが嫌いだった。

そんな二人のやりとりを見て我部は逃げるのをやめ、菊名に話しかける



「とりあえず、菊名さん、もうカラーボールは禁止ね」


「はーい、カラーボールはやめまーす」



ある程度付き合いが長い為菊名がやけに素直に従ったことに違和感を感じた我部はいい直す



「公共のものを、正当な理由がなく破壊や汚す行為を禁止ね」


「約束できませーん」



我部の予想通り、菊名はカラーボール以外の手段を考えていた。

我部が何か言おうとすると日野からフォローが入る



「まあまあ、沙羅ちゃんが何かする前に私たちで止めれば大丈夫ですよ!」


「だから名前で呼ばないで下さいよ」


「だって沙羅ちゃんが意地悪言うから、私も意地悪で沙羅ちゃんって呼んであげる」



菊名は心底嫌そうな顔をして、また日野から距離を取る。

日野の方が菊名の扱いが上手いと判断した我部は、菊名への注意を諦めた



「ありがとう日野さん、二人で菊名さんの暴走を止めよう」


「はい!」


「足腰立たなくなりそうなおじさん、おばさんに止められる訳ないっすよ、あたしまだ10代なんで、アラサーとアラフォーには負けませんよ」



菊名の嫌味に言い返せないアラフォーの我部は黙るが、日野はすぐに言い返した



「私はまだ20代だもん!」


「え⁉︎そうなんすか!全然見えなーい!」



白々しく驚く菊名を見て日野はまた少し黙ってから笑顔を見せる



「えー?そう?10代に見えちゃう?」


「文脈的に下の年齢な訳ないでしょ、10代で止まってるのは頭の方っすよ、我部さーんあたしこの人嫌い!」


「沙羅ちゃん、またツンデレ?」



菊名の嫌味を無効化する日野を尊敬しながら、我部は嫌そうな顔している菊名を見て、菊名へのお仕置きを思いつく



「日野さん、良い機会だ、菊名さんと一緒に温泉にでも行って来たら?ちょうど依頼があってね」


「本当ですか!沙羅ちゃん!一緒に温泉行こ!」



我部の発言を聞いて菊名は信じられないような顔で我部を見つめ、すぐに理由をつけて断る



「すみません、あたしアレルギーあるんで」


「え?温泉の?」


「いえあなたっす」


「またまたー」



菊名の発言を冗談と受け取り笑う日野と本気でそう思い顔が死に始める菊名。



「なら、温泉は問題ないな、菊名さん、頼むね」


「………はい」


「やったー!一緒に温泉!」



日野は嫌いだが、仕事を正当に断る理由もない菊名はタダで温泉に入れるならと自分を納得させた



「これはネットから受けた依頼だから、詳しくは田中くんに聞いてね」


「はい!」



返事をして、その場を離れ部屋から出る日野と近くのソファに座りスマホをいじり始める菊名。

そんな菊名に我部声をかける



「菊名さんも行きなさい」


「はーい、確かに日野さんだけじゃ理解できない可能性ありますもんね」



菊名は立ち上がり部屋を後にした。

一人残った我部はため息を吐きながら、上層部へカラーボールで壁を汚した事の謝罪のメールを書き始める



幻想省は積極的に幽霊に関する依頼を出すことがない、そこで我部達は幻想省からの依頼だけではなく、幻想省から許可を得て一般人からの依頼も主にインターネットで受け付けていて、それを事務所の一階で一人の男が管理している。

菊名が一階の扉を開けて中に入ると、日野がすでにパソコンの前に座る男から話を聞いていた



「場所はわかりました?」


「うん!何が起きてるとかって情報はないかな、田中くん」



田中と呼ばれた、前髪が長く目が隠れている男が話そうとした時、菊名に気がつき目線を向ける



「やあ、菊名さん、今日も可愛いね」


「適当に可愛いって言っておけば女は満足するって思い込んでるみたいっすけど、好意を持ってない、タイプじゃない男に言われたらキモいだけなんで、なるべく話しかけないで下さいインキャさん」


「ごめん、インキャはいいんだけどさ、ちょっと先輩って呼んでみてくれない?」


「マジで無理」



菊名の発言に表情ひとつ変えない田中に菊名はUターンして部屋から出て外の廊下から話しかける



「本当にキモいんで、アニメや漫画好きなのはいいんすけど、そういうの現実に持ってくるのキモいって自覚しないと一生モテないっすよ」


「別にモテなくてもいいんだけど」


「うわ、出たオタク特有のモテることを狙ってませんスタンス、そう俯瞰することによって自分は本気出してません、本気出したらモテるけどとか思い込んでる1番痛いやつだ。

そんな性格のやつ見た目良くても願い下げっすよ」



菊名はそう言い捨て扉を閉めて二階に戻った。

その様子を黙ってみていた日野は気まずそうに扉を見つめたままの田中に話しかける



「ごめんね?沙羅ちゃんも悪気は…あったと思うけど、気にしなくていいからね田中くん」


「ん?ああ、別に菊名さん顔めっちゃタイプなんで何言われてもご褒美ですよ」


「そ、そう」



真顔で言い放つ田中に引く日野。

田中はパソコンに視線を戻し話を続ける



「それで、情報ですよね?少し待ってくださいね」



田中がパソコンを操作して画面がつくとデスクトップの画像が隠し撮りであろう菊名の顔の写真でそれをみた日野は顔を引き攣らせながら田中の話を聞く



「この温泉旅館の女風呂で入浴をした女性がずっと視線を感じた、女風呂が異様に寒い、部屋で怪奇現象が多発している、と言った具合ですね。」


「うわー、変態幽霊だらけってことかな」


「男が多いんですよ、男は幽霊になったら絶対に女風呂を覗きます。僕だって幽霊になったら菊名さんの風呂覗きに行きますよ」



田中の発言で日野は更に引き、部屋に入って数分で田中に対する好感度が地に落ちた。

日野は一刻も早く田中から離れるために情報の続きを促す



「そ、そう…それで、いつ行けばいいのかな?」


「幽霊騒ぎで客足が遠のいてるから、なるべく早く来てほしいと、まあいつでもいいみたいですね」


「わかったー、ありがとう田中くん」



日野はそれだけ聞きさっさと部屋から出た、それに気が付かず、田中は話を続けていた



「それで、僕なりにこの旅館のことを調べたんですけど、どうやら近くに…あれ、いない」



扉が閉まる音を聞いて振り向くと田中は日野がいないことに気がつき、パソコンを操作し始めた。


日野は2階事務所の扉を開け中に入り、ソファに寝っ転がっていた菊名に話しかける



「沙羅ちゃん…また盗撮されてたっぽいよ、あんまりこういうこと言いたくないんだけど、大丈夫?あのー、ストーカーみたいなこととか」



日野は以前も田中が菊名に許可をとってないであろう写真を持っているところを見たことがあるため、少し心配になってしまった。

しかし菊名の方は特に気にした様子もなくスマホをいじりながら答える



「あのインキャさんのうざいところはあくまで仕事中っていう正当にあたしに関われる場でしか、ちょっかいかけてこないことっす。

家まで着いて来たらささっと豚箱に送ってあげれるのに」



田中は事務所内での盗撮以外、罪に問えるような事をしていない。

そして、この事務所でネットに強い人物は田中しかいない為、いなくなったら困る人材でもある



「何かされたら直ぐに言ってね、私力になるから」


「余計なお世話っす、日野さんに頼むぐらいなら我部さんに頼みますよ」


「ええー、沙羅ちゃんひどい」



二人の会話を聞いていた我部は複雑な気持ちになりながら田中をフォローすることにする



「田中くんはそんなことする子じゃないよ、多分」


「我部さんも少し心配になってるじゃないですか」



フォローしようとしたが、最後の最後で不安が勝ってしまい説得力がなくなってしまう



「まあ、あのインキャさん、あたしを追ってこの事務所に入ったぐらいですからね。でも何かされたら返り討ちにするんで、ただ殺しちゃったら幽霊になってお風呂とか覗きに来そうでキモいっすよね」


「あ、あはは…」



田中の先ほどの発言を聞いていた日野は苦笑いをして、話題を逸らすように質問をする



「田中くんって沙羅ちゃんを追って事務所に入ったの?」


「ああ、そうだね、元々は管理課の職員だったんだけど、たまたま菊名さんを見かけて、一目惚れしたからこの事務所に所属する為に討伐課に移ったんだよ」


「そうっす、だから星1の雑魚ハンターっすよ」



田中はその事を面接で包み隠さずに我部と菊名に伝えた為、二人も最初は警戒したが、仕事はしっかりして、節度はある程度守っていたので我部は信頼して、菊名は放置していた



「へぇー、その後に私が入ったって事なんですね」


「そうっすね、日野さんが1番後輩なんでジュースでも買って来てください」


「仕方ないなぁ、何がいいの?」



渋々、飲み物を買うために外に出ようとする日野を我部が止める



「日野さん、行かなくていいよ、はい」



我部は菊名に向かって缶ジュースを投げると菊名はスマホを見たまま手を伸ばして缶を掴む



「どうも、我部さん、これホームセンターでめっちゃ安く売ってるやつじゃないっすか」


「毎回自販機行ってたら破産するからね」



文句を言いながらもジュースを飲み始める菊名を見て日野が声をかける



「二人って仲良いですよね」


「よくないっす」


「らしいよ」



否定をした菊名とそれを聞いて軽く流す我部、それを見てやはり仲はいいと思う日野。

そして日野は思い出したかのように菊名に声をかける



「そういえば、沙羅ちゃん温泉いつ行く?直ぐにでも来てほしいみたいだけど」


「嫌なことはさっさと終わらせたいんで明日にでも行きます」


「わかった!明日迎えに行くよ!」


「ちっ」



さらっと一人で行こうとしていたが逃げ道を塞がれてしまい、舌打ちをする菊名



「なら、現地集合で、時間はメールしてください」



そういい菊名は立ち上がり帰る準備を始める



「了解!あれ、沙羅ちゃん帰っちゃうの?」


「やることないでしょ?おつかれさまでーす」


「おつかれ」


「じゃあね沙羅ちゃん、メールみてね!」



そう言い捨て菊名は事務所から出て行った

我部の事務所には就業時間は特になく、菊名は自身が飽きたりやることがなければ直ぐに帰る為、残った二人も特に気にすることはなかった



菊名は自宅に着き扉を開けると、菊名の帰りを知っていたかのように猫が飛びついて来た、猫を優しく受け止めて部屋に入る



「ただいま、お腹すいた?」



菊名は先ほどと打って変わって慈愛に満ちた表情で猫を撫で、猫をソファに下ろして餌の準備をする。

餌を与えると猫は直ぐに食べ始め、菊名はそれをみているとスマホが鳴りため息を吐きながら確認すると日野から明日の集合場所と時間が送られて来ていた



「はぁー、めんどくさいなぁ」


「にゃー」



菊名の独り言に答えるように猫は鳴いた




次の日

日野は依頼があった旅館の前で菊名を待っていた。

前日に送った集合時間からは1時間過ぎていて菊名に連絡しても応答はない。

日野はため息を吐きながら仕方ないと一人で旅館に入った



「すみませーん」



扉を開けて声をかける、旅館内には他に客はいなく、駐車場にも車が停まっていなかった。

しばらくして奥から足音が聞こえて来た



「はーい!申し訳ございませんお待たせいたしました!宿泊でしょうか?」



着物を着た女性が嬉しそうにそう聞きて来て、日野は申し訳なさそうに答える



「いえ、宿泊じゃなくて、依頼を受けて来た者です。この旅館でおかしなことが起きてるって」


「ああ!遠路はるばるありがとうございます!霊能力者の方ですね!」


「はい、日野と申します」



日野はそういいながら女性に霊能力者としての名刺を手渡す。

もちろん幻想省については一切書かれていない表向きの名刺だ



「ご丁寧に、私はこの旅館の女将の目走と申します。本当に幽霊騒ぎて困り果てておりまして、今日はよろしくお願いします」


「はい、任せてください、それともしかしたらもう一人来るかもしれないです」


「承知しました、お連れ様がいらっしゃったらご案内しますね」



日野は一応菊名の事を女将さんに伝えてから、除霊にあたっての作戦を伝える



「それでですね、とりあえず私はお客さんとして、旅館内を見て回ります。女将さんも私のことはお客さんってことにしてもらえませんか?」


「わ、わかりました、ではご案内いたしますね」



入り口付近には幽霊の姿は見つけられなかったので女将さんの案内の元、部屋にたどり着く日野、普通の客として一通りの説明を受け、女将さんが部屋を出た瞬間、日野の周りに幽霊が寄って来た



“久しぶりの客か?若い女じゃねーか”


“ラッキーだな、風呂場で待ってるか”



ゲスな会話が聞こえて来たが日野は聞こえないふりをして旅館を見回ることに。

一通り回って部屋に戻る日野は思わずため息を吐く



(思ったよりいっぱいいるな)



さっと見ただけでもこの旅館内に30人以上の幽霊が至る所にいて、日野を見かけるたびについて来て、現在部屋の中には大量の幽霊が集まっていた



“久しぶりの獲物だ”


“どうやって驚かせてやろうか”


“金縛り耐久レースやろうか”



ゲーム感覚で人を驚かせているらしい幽霊を日野は一網打尽にするために見えないふりをしていた。

そして、田中の予想通りほとんどが男の幽霊だった



(死んでまで何やってるんだろこの人たち)



内心呆れながら、危険性はなさそうと判断し日野は温泉を目指す



“お!ついに風呂か!”


“待ってました!”



日野は幽霊を引きつけながら、脱衣室の前にたどり着くと女将が近くにいたので声をかける



「女将さん、お風呂いただいていいですか?」


「ええ、ぜひ、天然温泉ですので、ゆっくりして行ってください」



女将に断りを入れてから脱衣室に入ると、男の幽霊達が固唾を飲んで日野を見ていた。

日野は服を脱ぐふりをし、拳を握りしめ、近くの幽霊に殴りかかる



「やぁ!」


“ぶぁぁ!”


“なに!この女!”



日野の体が一瞬だけ半透明になり、その瞬間に拳が幽霊に当たり、幽霊の顔が吹き飛び体が煙のように消えて無くなる。

その様子を見ていた他の幽霊達がどよめき、逃げ始めるが日野は素早く幽霊達に攻撃をする。



「とお!おりゃ!」


“ぐぁぁ!”


“痛ってぇぇ!”


“うわァァァァ!”



可愛らしい声とは裏腹にキレにいい攻撃で幽霊達の体はバラバラになり消えていく。

日野は霊視と、生きたまま霊体になれる異能力がある。霊体になると幽霊と接触でき、攻撃も通る。

幽霊達は脱衣室から温泉に逃げ始め、日野はそれを追う



「あ、逃げた!」


“やべぇ!あの女!霊能力者だ!”


“逃げろ!勝てねぇ!”



日野は素早く幽霊に近づき、幽霊に殴りかかる



「逃がさないよー!」


“うわぁ!くそっ!くらえ!”



日野は別の方向から突っ込んできた幽霊を避ける、その様子を見た幽霊達はニヤリと笑う



“おい!あの女俺らを避けやがった!”


“つまり、俺らもあいつに触れるのか!”



そういいながら幽霊が逃げずに日野に向かってくる。

普通の幽霊は何か特別な事がない限り人間に干渉できない、しかし日野は攻撃を避けた為、幽霊も日野に干渉できると思い幽霊は攻撃を仕掛ける



“おらー!”


“久しぶりに女に触れるぜぇ!”



日野は焦った様子もなく、その場から動かずにいる。

そして幽霊が日野に触れよう出した時、幽霊達は日野の体をすり抜ける。



「残念、半分正解かな?」


“うわぇ!”



幽霊が全員倒れ込み、日野は全員を踏みつけて消していく。

日野は霊体になると幽霊に触れられる、それは幽霊も一緒で、霊体の日野には触れられる。

しかしこの異能力は長時間霊体になっていると戻れなくなるというデメリットがあり、日野は攻撃を当てる一瞬だけ霊体になっている。そのためその瞬間を狙われた時のみ回避する



「これで終わりかな?」



日野があたりを見渡すと、もう幽霊は残っていなかった。

幽霊を除霊するには、死ぬ前に感じた強い感情、未練を解消させ成仏させるのが1番であるが長い期間幽霊でいると感情や記憶が薄れて、成仏が出来なくなる。その場合の解決策として、多くの霊能力者は幽霊を物理的に破壊して、消滅させる。

一通り除霊が終わり日野が脱衣室に戻ろうとすると、扉が開き服を脱いだ菊名が入ってきた



「終わりました?じゃあ私は温泉楽しみますね」


「……沙羅ちゃん?遅刻だよ?」



マイペースに座りシャワーを浴びようとした菊名に日野は少し黙ってから声をかける



「シャンプー忘れちゃって、旅館とかのシャンプーって終わってるの多いじゃないっすか。キューティクルが全滅するタイプの、流石に使いたくないっすからね」


「私一人で幽霊倒したんだけど?」



それを聞くと菊名は唐突に立ち上がり、石鹸を空に投げる、日野が空を見ると幽霊が一人残っており、石鹸がぶつかり消滅した



「詰めが甘いっすね、日野さんもシャンプーに気を使ったほうがいいっすよ?見た感じ…ねえ」



菊名は座り直し、日野の髪を見て鼻で笑う。

日野は少し黙ってから脱衣室に行き一瞬で服を脱いでから温泉に戻ってきて、菊名の隣に座る



「じゃあ、沙羅ちゃんのシャンプー貸してよぉ」


「嫌っすよ!ていうか服脱ぐの早過ぎません?」


「空きあり!」



菊名が日野の早脱ぎに驚いている間に、日野は素早く菊名の持って来たシャンプーを奪う



「あ!泥棒!そのシャンプー高いんすよ!日野さんには勿体無い!」


「ひどいこと言うと、全部使っちゃうよぉー」



日野は自身の頭にシャンプーをつけながら菊名から逃げ回る、菊名も追いかけるが足元を見て途中で止まる



「日野さーん!」


「ん?なにっ!」



菊名の声を聞いて振り返ると、足元にちょうど先ほど菊名が投げた石鹸が落ちていて日野はそれを踏み派手に転び頭を打ってのたうち回る。

菊名は日野が転んだ際に手から離れたシャンプーをキャッチすると日野に目もくれずに椅子に座り直す



「痛った!本当に!絶対頭割れたぁ!」


「少しはマシになったんじゃないですか?」



その後菊名は痛がっている日野を完全に無視して体を洗い、温泉に浸かる。

しばらくすると頭を抑えながら日野も菊名の隣に入った



「もうちょっと心配してくれても良くない?」


「自業自得ですよね?」


「沙羅ちゃんが冷たい、温泉は暖かいのに」


「どうやら頭はマシにならなかったみたいですね」



その後、菊名はゆっくり温泉に浸かりたかったが日野から話しかけられ続けた為早々に温泉を出た。

日野も菊名を追いかけ、結局脱衣室でも日野に絡まれた菊名。

着替え終わり脱衣室を後にしようと暖簾をくぐる二人



「いい湯だったねー」


「やかましいのがいなかったらもっと良かったんですけど」



不服そうな顔をしている日野を無視して歩くと女将さんが現れた



「お湯加減はいかがでした?」


「そこそこですね、今度は一人で来たいです」


「また意地悪なこと言う、女将さん、除霊は完了です」



日野の発言を聞き信じられないような顔をする女将さん、風呂に入って直ぐに除霊完了と言われても信じるのが難しいだろうと、日野も自ら言ってから気がつく、そこに菊名が続いて



「まあ、いちゃもんつけるならあなたが幽霊いなくなったと思ったら依頼料払ってくれたらいいんで、とりあえずあたしは温泉入ったし帰りまーす」


「あ!沙羅ちゃん!」



菊名はそのまま旅館から出て行った。

日野は困ったように頬を掻き、驚いた顔をした女将さんにフォローを入れる



「えーと、今日は宿泊させてください、もちろん宿泊料は払いますので、今日一晩泊まって幽霊がいないことを確認してから私も帰りますね」


「は、はい、よろしくお願いします」


「さっきの子が言ったように、料金の方は女将さんが除霊に満足していただけたらで大丈夫です」


「わかりました、すみません、その予想よりも早くて驚いてしまって」



そう言って女将さんが頭を下げたので日野は慌てて止める



「いや、全然!信じられないのも当然なので!」



その後、日野は部屋に戻り何事もなく眠った。


次の日

日野は女将さんに見送られ旅館を後にし、報告の為に事務所に戻ると我部が一人座っていた



「おはようございまーす」


「おはよう、菊名さんは?」


「先に帰っちゃいました」



菊名は前日事務所に寄らずに家に帰ったらようだった。

我部はそれを聞いても特に動じずに依頼の報告を聞く



「それで、どうだった?」


「やけにいっぱい居ましたね。30人ぐらい全員物理除霊して来ました」


「了解、依頼料は後払いって感じかな?」


「はい、そんな感じで」



日野はそのまま机に向かい、今回の依頼の報告書を作成し始める。

幻想省を通さない依頼でも、報告をして、依頼料も幻想省に納めないと闇営業になってしまう為、どんな依頼でも報告書が必要になる。

しばらくすると菊名も事務所に入ってくる



「おはよーございます」


「おはよう」


「あ、沙羅ちゃん!おはよー!昨日一緒に泊まりたかったなぁー」


「ああ、あたしも帰ってから泊まればよかったって思いました」



菊名の返答に驚きながら嬉しそうに聞き返そうとする日野、しかし菊名は食い気味に答える



「沙羅ちゃん!ようやく」


「昨日泊まってたら今日から事務所が静かになったのに」


「日野さん、菊名さんの近くで枕を高くして眠れることはないですよ」



菊名の物騒な発言に日野が固まり、我部は慣れたように日野に告げる。

菊名は荷物を置きソファに座り日野に声をかける



「日野さん、昨日の報告書は?」


「今書いてるよ」


「じゃあお願いします、あたしは写真とか書類とか集めてます」


「お願い」



そういいながら菊名も作業を始める。

菊名は勝手に帰ったりするが、仕事をサボることはしない、帰る時は仕事がない時や自分が必要ないと勝手に判断した時だけで、与えられた仕事は真面目にやる。

借りを作りたくないと言う理由もあるが

3人が作業していると時刻は昼になり、我部が声をかける



「お昼だからご飯でも行く?」


「いいですねー!」


「あたし、外出る気ないっす、出前でも頼みません?我部さんの奢りで」


「言うと思ったよ」



自分勝手すぎる菊名の意見に日野は少し引くが我部はいつも通りというように立ち上がり、スマホをいじり始めた菊名の隣に座る



「私は蕎麦がいいな」


「オッケーです、死ぬほど辛いやつにしますね」


「ごめん、ごめん、普通のざるそばで」



スマホで注文を始めた二人に日野も近づきソファの後ろから声をかける



「私はねー」


「あ、日野さん、ここの炒飯死ぬほど不味いらしいですよ、これにします?」


「え?なら嫌だよ!」


「以外、不味いの好きかと思ってました」


「我部さん!また沙羅ちゃんが意地悪です!」



そんなやりとりをしていると、事務所の扉が開き田中も入ってくる



「タダ飯って聞いて来たんですけど」


「誰も呼んでないっすよ、我部さん、この人また盗聴してます」



結局事務所のハンターが全員集まり、昼ごはんを食べることに



「盗聴と言っても、僕がいるのは一階ですからたまたま聞こえてしまっただけですよ。ところで菊名さん今日も美しいですね」


「変にこの前の事を活かしてるのがムカつきますね、今度盗聴器見つけたら大声で叫んでやりますから」


「お、ありがとう」


「ダメだ、このインキャさん無敵だ」



嫌がらせのつもりが田中を喜ばせてしまい、頭を抱える菊名。

日野は慎重に田中に注意する



「田中くん、盗聴はやめたほうが…」


「正確には盗聴ではないです、あらかじめ盗み聞きしますって宣言してますからね」


「やめろって言ってるんすけどね?見つけ次第盗聴機は壊してます、ただキリがないのでこの人の鼓膜を壊そうかなって」


「え!菊名さんに触れてもらえるんですか!」



菊名は何を言っても無駄だとスマホに意識を移し、田中を無視して日野に話しかける



「日野さんは結局何食べます?」


「あ、えーと、うどんかなぁ」


「じゃあ、全員我部さんと同じ店でいいっすね、あたし1番高い海鮮丼にします」



菊名は結局、日野と共にメニューを見ながら昼を決め、田中には何も聞かずに注文を確定した



「あれ、僕の分は?」


「1番人気のないメニューに勝手に決めました」


「ありがとう」



そんなやりとりを見て日野は思わず声をかけてしまう



「沙羅ちゃん、田中くんが食べたいやつにしてあげたほうが」


「あ、僕が食べたいのは菊名さんが選んでくれたやつなんで、全然大丈夫です」


「そ、そう」



田中の回答に引く日野に、菊名はため息を吐きながら答える



「日野さん、そろそろ学んでください、このインキャさんは何をしても喜んでしまうんです。クソキモいんで無視したほうがお互いのためです」



日野は菊名の発言を聞き、田中を見ると少し笑っていた。



「うん、そうする」



日野は田中をフォローすることをやめることにした。

そんな全員のやりとりを我部は穏やかな顔で見ていた



「いやー、いい事務所になって来たね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ