ep5
ある日、八乙女真里は人工神の教会の集会に参加するため、もう使われなくなって随分立ったと想像できる、人気の無い廃工場を訪れていた。八乙女の他にも複数人集まっており、その中には顔見知りもおり、1人でいる八乙女に同じ年代の女性が近づいてくる
「おはよう。八乙女さん」
「あ、高橋さん、おはようございます」
高橋とは年齢が近く、人工神の教会の集まりがあるたびに話していうちに仲良くなり、八乙女は友人だ思っていた。高橋が周りを見ながら小声で話す
「今日の集会なんかおかしいよね」
「いつもと違いますよね」
八乙女達が普段参加している集会は、建物の中で行われ、内容も最初に健康診断の様な検査をしてから、人工神についての認識を深める為の話を聞き、たまに人工神な教会から指定された人物を勧誘するため話し合いに赴くと言った内容だった。
しかし今回は集合場所も違い検査も始まらず集合時間から10分ほど経っていた為集まっている全員が何かがおかしいと感じていた
「それに、知らない顔も多いし。何か新しいことでも頼まれるのかな?」
「私たちの頑張りが認められたのかもしれませんね!」
不安そうな高橋とは違い八乙女は楽観的だった。盲目的に人工神の教会を信じている八乙女の様なメンバーも多いが、理念に賛同して打算的なメンバーも多い。前者は頼まれればなんでもする危うさがあるが、後者は人工神の教会の利益よりも自身の保身の方を優先する為警戒心が強い。人工神の教会がどちらのメンバー集まりに呼び出せるのは金銭面の要求や犯罪行為を行わせていないからだった。その信頼がある為おかしいと思っても逃げ出す者はいなかった。
2人が世間話で時間を潰していると、拡声器を持った男が現れ、それに気づいた八乙女が高橋にも伝える
「あ、何かはじまりそうですよ?」
全員が静まり、男の話を聞く準備が整った時。男は拡声器越しに話し始める
「今日はご集まり頂きありがとうございます。招待した全員がいらっしゃいましたので話を始めますね。縺ソ縺ェ縺輔s縺ッ縺薙l縺九i讓ェ豬憺ァ?↓蜷代°縺??∫焚閭ス蜉帙r菴ソ逕ィ縺励※證エ繧後※繧ゅi縺?∪縺吶?よョコ縺吶?∝」翫☆縲∵垓繧後k縲√%縺ョ荳峨▽繧貞多蟆ス縺阪k縺セ縺ァ陦後▲縺ヲ縺上□縺輔>縲よョコ縺吶?∝」翫☆縲∵垓繧後k」
男が話を始めると直ぐに言葉が理解できなくなった。何を言ってるのか、そもそも言葉を発しているのかすら、わからずにしかしそのことを疑問に思わずに意識が朦朧としてくる。
「……え?」
突如、爆発音や悲鳴、怒号が辺りを包み朦朧とした意識がはっきりとしてくる。八乙女は自分が下を向いていることに気がつき顔を上げる。
そこは廃工場ではなく、八乙女はなぜか駅のホームに立っていた
「わたし…なんで?きゃ!」
状況が掴めずにいると直ぐ隣で建物が崩れる音が聞こえ、音が聞こえる反対方向に逃げる
「っ!いたっ!」
走っている最中に頭に鋭い痛みが走り咄嗟に抑えると手に濡れた感触がして、手のひらを見る。手には血がついており八乙女は何かにぶつけて頭を怪我したのだろう。なぜかどうやって怪我をしたのかもわからない八乙女は怖くなり、急いでその場から逃げようと走り始める
(なんなの!何が起きてるの!)
崩れた場所を利用して建物の外に出ると、そこは非現実的な光景が広がっていた。
自分が特別だと思っていた異能力を使って破壊の限りを尽くす顔見知りの人工神の教会のメンバーとそれを容赦なく殺害する見たことがない人たち、八乙女は恐怖を感じて後ずさる
「な、なにこれ…」
「壊す!」
「ひっ!」
その時先ほどまで普通に話していた高橋がまともではない目をして走ってくる、その様子に恐怖を感じた八乙女は自分の存在がバレない様に異能力を使用する。その瞬間光の玉が高橋に触れ爆発が起こる
「ああああああ!」
「っ!……」
八乙女は声を漏らさない様に手で口を塞ぐ、高橋は断末魔の後力無く倒れる。高橋は血塗れでピクリとも動かなく、八乙女は高橋が死んだことを理解した。
目の前で人が死にパニックになりそうだったが死にたくない、その一心で必死に逃げる
(助けて…羽駒くん!)
心の中で何度も市井に助けを求めながらも足を止めずに駅から離れる。
歩道を走っていると、道路の真ん中に警棒を持った女性が2人道を塞いでいるのを発見して、見つからない様に路地裏に走る
(帰らなきゃ!)
路地裏に入ると直ぐに背後から声が聞こえる。しかし八乙女は振り返る勇気がなくそのまま走り続けた
その日の夜、市井はアルバイトが終わり着替えをしながら、ふと今日のことを思い出す
(あの、ベロベロに酔っ払った女の人大丈夫だったかな?まあ、友達も一緒だったし大丈夫か)
特に変わったこともなく、いつも通り帰ろうとすると店長に呼び止められる
「あ、市井くん、ちょっと時間いい?」
「大丈夫ですよ」
「ちょっと話があるから着いてきて」
早く帰りたい気持ちはあったが特に用事があるわけでもないので、市井は店長に着いて行き営業後の店内の席に座る
「話ってなんです?」
「実はね、経営が軌道に乗ってきてついに2号店を出すことにしたんだよ」
「おー、すごいですね。念願じゃないですか」
めでたい報告ではあるが、時間をとってまで自分にする話ではないんじゃないかと思ったが、事業拡大は素直にめでたいと祝福する市井
「その2号店の店長、市井くんやってみない?」
「え?それって…」
「うん、君を正社員として雇いたいんだ」
学歴や、年齢、親にも縁を切られ問題だらけで仕事も住む場所も見つからない時、市井を救ってくれたのは店長だった。給料はもちろん家を借りる時も助けてもらい、その恩返しのために市井は必死に働いていた。そんな店長からの誘いは市井にとって涙が出るほど嬉しかった
「俺でいいんですか?」
「君に仕事を仕込んだのは僕だよ?君しかいないんだよ。本当はもっと早く雇いたかったんだけどね」
市井は溢れそうな涙が溜まった目を擦り頷く
「ぜひ、お願いします!」
「こちらこそ、これからもよろしくね」
「はい!」
話を終えると市井は直ぐに店を飛び出した。
早く八乙女に報告しなくてはと小走りで家に向かう
(やった!やった!遂に!)
市井の頭の中には八乙女との結婚生活しか頭になかった。
早く帰りたい気持ちでやたらと帰り道が長く感じる、市井は、はやる気持ちを抑えられずに走るスピードがだんだん早くなる。
息切れしながら家の前に着き、ガキを開けてドアを開ける
「はぁ、はぁ、ただいま!真里!」
市井は直ぐに違和感に気づいた、部屋が真っ暗で人の気配がしなかった。
まだ帰ってないのかと思った瞬間体に衝撃を受けて後ろによろめく、市井が下を向くと八乙女が震えながら抱きついていた
「うわ!真里?…何かあったの?」
「羽駒くん…羽駒くん…」
涙を流す八乙女を見て市井の浮かれた気持ちが吹き飛ぶ、八乙女を抱きしめながら事情を聞くために中に入る。その時窓が割れる音が聞こえ部屋に何かが投げ込まれる。
「なんだ?…っ!」
嫌な予感がした市井は八乙女を抱き抱えて部屋から飛び出す。すると直ぐに爆発音が響き爆風で道路まで吹き飛ばされる
「きゃあ!羽駒くん!」
「真里!無事⁉︎」
背中を道路に擦り激痛が走ったが、腕の中の八乙女を心配する。八乙女には怪我がなく一息つくが見知らぬ声が聞こえて市井は警戒する
「うっわ!死んでない…ん?なんで八乙女真里が生きてるんだ?」
「ラッキーじゃーん、市井羽駒をー奇襲するだけだと思ってたらー。あの場からー逃げ出したやつもー発見できるなーんて」
「さっさと殺そう。出来損ないを殺すだけだ」
アパートの屋根から人が3人の人影が飛び降り道路に着地する。街頭がその人影を照らし市井はその姿をはっきりと視認する。
1人は作業着を着た坊主の男、2人目は間延びした話し方をするピンクの髪の女、最後は目が隠れるほどの前髪の黒マスクの男だった
「誰だあんたら…」
「人工神のー教会でーす!君らをー、ぶっ殺しにきましたー!」
ピンクの髪の女がそう名乗る。八乙女はそれを聞き震え、市井は心の中で舌打ちをする
(やっぱりやばいカルトだったか!)
「おい!隠密にって言われてただろ!」
作業着の男がピンク髪に注意する。その時騒ぎを聞いた近所の住人が続々と表に顔を出す
「爆発の時点で隠密は無理がある…証拠は残さなければいい」
「おい!警察呼ぶぞ!近所迷惑だ!」
表に出てきた近所の住人がそう叫ぶと黒マスクは何かを近所の男性に向かって投げる。その瞬間爆発が起き、近所の住人が吹き飛んだ
「あ、き、ぎゃぁぁ!」
「なんだあいつら!警察!」
「うわァァァァ!」
周囲に悲鳴が響き渡り、パニックに包まれる。笑っているピンク髪と平然としている黒マスクを見て作業着が頭を抱える
「これ怒られるだろ…まあさっさと仕事を済ませよう」
「ねー、あいつらー、もういないけどー?」
作業着が市井達に向き直ると、その場には誰もいなかった。市井は爆発が起き3人の注意がそれた時すでに逃げ出していた
「マジかよ!直ぐに追うぞ!」
「命令するな」
「ピンクちゃん走りたくなーい」
「マジお前らめんどくせぇ!」
作業着は動かないピンクを背負い走り始め、黒マスクはその後に続いた。
市井は八乙女を抱えたまま走り少し離れたところで立ち止まり、八乙女を下ろすと八乙女は地面にへたり込んだ
「なんだよあいつら…真里さっさと警察に行こう」
「…け、警察はダメ!」
警察に保護してもらおうとしていた市井はなぜ八乙女が止めるのか分からずに話を聞く
「なんで、警察はダメなんだ?」
「警察は…ダメ…幻想省に見つかっちゃう…」
「幻想省?」
幻想省の存在を知らない市井は名前から行政機関だとは思ったが名前すら聞いたことがないので疑問に思う
「幻想省に見つかったら…殺される」
人工神の教会はメンバーに幻想省は日本の闇の行政機関で異能力者が見つかると殺されると教えていた。八乙女も半信半疑だったが駅で実際に何者かに殺された高橋を見たせいで、高橋は幻想省に殺されたと思い恐怖していた。
八乙女を含めほとんどの人工神の教会のメンバーは日本の政治や在り方に不信感を持った若者が多く、国を信用していない。そのことも八乙女が警察に行きたくない理由にもつながっていた
「……わかった。二人で逃げよう」
「羽駒くん…」
ここまで怯えているのに無理に警察に連れて行きたくないし、市井は八乙女を信じている。警察に行かない理由はそれだけで十分だった
(しかし、そうなるとどうするか…)
逃げると言ってもどこへいつまで逃げればいいのかか不明瞭だ。悩んでいると足音が聞こえてきた
「はっけーん、おとなしくーしんでー」
「追いついたぞ!ピンク!さっさと降りろ!」
作業着とピンクが追いついてきた。市井は八乙女の手を取り逃げようとする
「真里!」
「逃がさねーよ」
しかし行く手に黒マスクがポケットに手を突っ込んだまま立ち塞がり追い詰められてしまう
「逃げ場はないぞ?」
「かんねんしろー」
「ちっ!真里走れる?」
「うん…」
市井は八乙女にそう聞くと足元の石を3個手に取る、そして黒マスクがポケットから手を出した瞬間市井は石を投げつける
「な!クソ!」
「今、真里走れ!」
石は正確に黒マスクの体に当たり体がよろける、その隙に八乙女は走り黒マスクの横を抜ける、市井もそれに続いて走りすれ違いざま黒マスクに蹴りを入れる
「ぐっ!」
「おい逃すな!」
市井は振り向いて作業着と黒マスクを視界に入れ、適当に石を投げる。すると石はあらぬ方向に飛び空中で軌道を変えて作業着の胴体に黒マスクの顔面に当たる
「がぁ!」
「いっ!ちっ!ピンク!」
「あー、行っちゃったー」
市井たちは直ぐに曲がり3人は市井たちを視認できなくなった。
市井の異能力は的となるものを視認した後に自分から射出される物体がその的に必ず当たると言う能力だ。当たる際に物理法則は無視され射出された速度でぶつかる。ただ弱点として的は大まかなものとか指定できない。今回の場合は人であり、人体の狙った場所に当てることはできずに人体のどこかに当たる。
今回顔面に当たった黒マスクは倒れ、作業着はピンクを連れて追いかけた。
市井は曲がった先で飲み物を買うために車から降りて自販機の前に立つ男を発見した。車のエンジンがかかったままなのを確認してから、自販機の前の男に飛び蹴りを入れる
「らぁ!」
「うおっ!なんだテメェ!」
「借ります!」
地面に倒れた男にそう言って運転席に乗り込む。八乙女も少し躊躇ってから助手席に乗る。市井は車でその場から逃げた
「おい!待てクソ野郎!テメェ誰の車盗んでると思ってんだ!殺してやるぞ!」
「ちっ!逃げられたか…」
車の持ち主が走り去った市井に怒号を飛ばしていると作業着たちが追いつき走り去った市井を確認した。車の持ち主が振り向き作業着たちに気がつくと怒りそのままで話しかけてくる
「おい!テメェらもあのクソ野郎の仲間か⁉︎誰の車盗んだか教えてやろうか⁉︎あぁ?」
「はあ、ピンク」
「はーい、はいーおにーさーんはいチーズ」
「あ?」
ピンクが両手でカメラのレンズに収めるようなポーズをして、車の持ち主の全身を収める
「なに、、げほっ!ごほっ!げほっ!おい!ゲホッゴホッ!何しやがった…げぇっ」
車の持ち主が急に咳き込み始め、道端に嘔吐した。咳が止まらずに地面に転がる
「やあ!」
「がっ!」
ピンクはやたらそこが厚いブーツで車の持ち主の顔に蹴りを入れると車の持ち主は意識を失い倒れた
「俺たちも足を用意するぞ」
「チッ!痛ってえ。覚えとけよクソっ」
黒マスクは顔を抑え市井たちが走り去った方向を睨みつける




