ep2
15年前
幼い黒髪の少女が父親の膝の上に座り楽しそうに足をぶらぶらさせている。その様子を父親は微笑ましく見守っている
「清美は将来何になりたいんだ?」
「お父さんみたいな正義の味方!」
迷いのないキラキラとした目で見つめてくる娘の清美に父親は少し困ったような顔を浮かべる
「お父さんが正義の味方かぁ」
「違うの?警察官は正義の味方だよ!」
清美は警察官である父親の仕事を知り、誇らしく思い憧れていた。
「お父さんもな、正義の味方に憧れてるんだ」
「そうなの?」
「そうだよ、頑張ってる最中だからまだ正義の味方は名乗れないかなぁ」
清美は父親の発言が理解できないのか首を傾げている。父親は清美の頭を撫でながら答える
「いつか、清美も分かる時が来るよ。ただお父さんは清美の味方だよ」
そう優しく語りかけた父親の言葉を清美はずっと忘れることはなかった。
その数日後、父親は殉職した。
現在 幻想省神奈川支部
松野清美は異能力を発現し幻想省、管理課に所属していた。
管理課といっても松野は特殊な部署に配属しており、その部署には名前がなく記録も残らない。主な仕事はハンターを含めた罪を犯した異能力者の粛清。つまり人殺しだ。
松野は管理課の上司に呼び出され会議室にやってきた
「失礼します」
松野は会議室の扉をノックしてから開き中へ入る。そこには自分を呼び出した上司の他に会ったことがない2人の男女が待っていた。女は髪型が染められた金髪で頭頂部から黒い髪色のロングヘアーの派手な容姿をしていたが何故か手に手錠がかけられていて、男の方は着物を着ていた。2人の風貌が気になりはしたが松野はとりあえず上司からの説明を待った
「時間通りだな。まずは紹介しよう。星6ハンターの安倍晴樹さんだ」
「どうもー」
「初めまして、松野清美と申します」
星6ハンターのことは知っていたが実際にあるのは初めてだったので少し驚くが松野は仕事と割り切って表情には出さなかった。
そして手錠をつけたままの女性が気になり目を向けてしまう。松野の視線に気がついた女性は手錠をつけたまま手を上げる
「今回はこの安倍ハンターから松野に依頼だ」
「私に、ですか?」
安倍とは初対面なのに自分が選ばれたことに驚く、安倍はそのまま説明を始める
「そうや、松野ちゃんにはこの子の監視をしてもらいたいんよ」
「監視ですか」
「そう、笠原紅羽ちゃん、異能力者かどうかわかり触れた相手の異能力を無効化できる。そんな異能力を持ってるんや」
異能力者を相手にすることが多い粛清の仕事にとってかなり有利な能力に松野は驚く、しかしだからこそ笠原の手錠が気になってしまう
「それは…すごいですけど」
「そうなんよ、笠原ちゃんな犯罪者やねん。詐欺罪で実刑判決がでとる。恩赦で働かせるにもちょっと無理あるやん?でもみすみす逃したくない異能力やねん」
笠原は無言のまま手錠がついたままの手を上げる。松野はやっと笠原が手錠をつけている理由を理解した。
「そこで自分は考えたんや、自分ともう1人、忖度せん誰かを監視につけて笠原ちゃんが幻想省に利益をもたらす実績を一か月以内に上げれば正式に恩赦として幻想省にスカウトしようとな」
「質問いいですか?利益をもたらす実績とは具体的にどんなことですか?」
「自分が上に笠原ちゃんを推せる実績やから、最近の厄介者たち人工神の教会は知っとるな?そこに所属してる異能力者を1人粛清してくれたらなんとかしてみるわ」
松野が笠原に目線を向けると手を合わせて懇願しているように見えた。
少し考えるそぶりをしてから松野は安倍に聞く
「私の仕事は監視だけですか?」
「全然手伝ってくれても構わへんで、2人で協力してくれてもええし、笠原ちゃんが逃げへんようにしてくれたらそれで」
「わかりました、期間はいつからでしょうか?」
断られることも考えていた安倍はすんなり了承されて少し驚くが態度には出さずに笑いながら答える
「あっははは!今からや、よろしゅうな。あ、笠原ちゃん?もう喋ってええで」
「やっと、喋れるぅ!よろしくね清美ちゃん!」
笠原は同情や余計な情報で松野の判断を邪魔しないように松野と交渉している時は喋らないようにと安倍から釘を刺されており、自身の立場が低いことを理解していた笠原は素直に従っていた。
笠原は立ち上がり、手錠をつけたまま松野に手を伸ばして握手を求める
「よろしくお願いします。笠原さん」
松野は笠原の手を握った。
安倍は松野に向かって小さい鍵を投げ、松野はそれをキャッチした
「それ手錠の鍵な、後困ったらいつでも電話してな、自分はついて回れんけどすぐ行けるようにはするから。そんで笠原ちゃんの宿代とか飯代もろもろ経費で落としといて」
「はい、わかりました。期間が始まっているのであれば早速出発します」
「頼むわぁ」
「失礼します」
松野は素早く笠原の手錠を外し、部屋の扉を開けて頭を下げてから出て行き、笠原も着いていく
「めっちゃいいとこ泊まってもいい?」
「普通のところにしましょう」
扉が閉まり、2人の声が聞こえなくなると松野の上司は安倍に聞く
「安倍さん、本当に松野でよかったんですか?実力なら申し分ないですが彼女はまだ若く、実績も含めるともっと適した人材がいると思いますが」
「いやー、あんなおもろい話聞いたら松野ちゃんしか考えられんくなってしまったんです」
「…そこが1番懸念してる点なのですが」
苦い顔をしている松野の上司と聞いた話を思い出して笑い始める安倍
「あははは!ただ自分の友達をよく言ってくれてる子は信頼したくなるもんですわ」
松野は廊下を歩きながら後ろを付いてくる笠原に話しかける
「改めまして、松野清美です。できる限りサポートいたしますので、共に異能力者を粛清しましょう」
「よろしくね、笠原紅羽だよー」
笠原は文句も言わずにやたらと丁寧な松野に違和感を感じ頭をひねると松野から質問が飛んできた
「笠原さん、幻想省についてはどこまで聞いていますか?」
「んー、ほんとにさっきの陰陽師っぽい人から大体は聞いたよ。幻想生物だっけ?認識されると強くなる化け物?的な?」
「大丈夫そうですね、わからないことがあれば随時聞いていただければ答えますので、では歩きながらこれからのプランについて話しましょうか」
「ちょっと待って」
あまりに淡々と進める松野に笠原は思わず止める。笠原の静止を聞き松野は立ち止まり振り向く
「どうしました?」
「なんかもっと一悶着あるもんだと思ってたから、ほらなんで犯罪者がとか、素人にかまってられないとか、すんなり受け入れられてびっくりしてる」
笠原は軽い態度をとっていたがスムーズにはいかないだろうと身構えていたため、特に文句もなく友好的に接してくる松野に対して疑問があった。そんな笠原を見た松野は少し考えてから話す
「と言われましても、仕事ですからね」
「あ、すごいお金もらえるとか?」
「討伐課は出来高制ですが、私が所属している管理課は固定給ですので特別給与などはありませんよ。強いていうなら星6ハンターから仕事を受けたという実績ですかね」
「ああ、なんかすごいんだっけ星6ハンターって」
「日本に5人しかいない討伐課のトップ戦力です。それに先ほどの安倍晴明さんは幻想省大臣のご子息ですからね」
笠原は安倍に対して怪しい陰陽師という印象しかなかったため立場を聞き驚き納得する
「そんな人の依頼を断るわけにはいかないからすんなり受けたの?」
「別に断っても問題はありませんでしたよ、ただ何事もチャレンジかなと思って受けることにしました」
松野の回答に笠原はますますわからなくなり頭を悩ませる、そんな笠原の様子を見かねて松野は口を開く
「先ほど笠原さんは犯罪者と言ってましたが、私の仕事も粛清、つまり人殺しです。笠原さんと違うのは法律で認められてるから否かの違いだけです」
笠原は粛清という言葉の意味は教わっていたが安倍も明確に人殺しという言葉は使っていなかったため、自分を人殺しと言った松野に少し驚く
「でも、清美ちゃんは仕事なんでしょ?」
「確かに私欲で行ってるわけではありませんが道徳的には私の方が犯罪者という言葉に近い存在です。そんな私が笠原さんを責めたり、見下したりできるわけないですよ」
自分の身のために粛清をしようとしている笠原は胸が痛み言葉が出てこなかった。そんな笠原をフォローするように松野は言う
「私は笠原さんのことを知りません、犯罪を犯したとはいえ、その経緯も理由も知りません。正義なのか悪なのかも私は判断できませんので、ただ人として好きか嫌いかで判断しようと思いました」
松野の言葉を聞き笠原はやっと理解した。松野は笠原を犯罪者ではなくただ1人の人として仲良くなろうとしていただけなのだと
「あは!うち、清美ちゃんのこと結構好きかも」
「え?ほんとですか?そう言ってもらえると嬉しいです。私も笠原さんのこと好きになってきました」
「紅羽でいいよ、うちも下の名前で呼んでるし」
「はい、紅羽さん」
笠原は命がかかっているが松野と2人なら楽しそうだと笑みを浮かべ、2人は歩き出す
「では、これからのプランですが、占いに行きましょう」
「占い?」
占いと聞き笠原は不安になるが、松野にふざけている様子はなかった
「紅羽さんは異能力者がわかるんですよね?」
「うん、そういえば清美ちゃんも異能力者なんだね」
「おお、さすがですね。その通りです、私は人体発火の異能力を持っています。簡単ないえば体から火が出せます」
松野は手のひらを上に向けると小さな火が現れ、手を閉じてすぐに消す
「え!すごい!かっこいい!」
「ありがとうございます」
笠原の素直な賞賛に松野は微笑み話を続ける
「それでですね。実際に会っていただければわかると思いますが、これから異能力者が営業している占いの店に行きます」
「占い師って本物がいるんだ!その人にうちらの運命を占ってもらうってわけね」
「そう言うことです。私もよく利用してますが特に情報がない時はこれが1番です」
日本には予知や個人の運命が見えるなどの占いの異能力者が多く存在している。幻想省のことを知らない、一般人に危険がない異能力者に幻想省は基本的に関与しない。
そのため一定の確率で本物の占い師が存在する。松野は独自の調査で本物の占い師を1人突き止め協力関係を築いていた。
2人は建物から出て駅を目指すことに、その道中で笠原は松野に質問する
「ねえ、どこ向かってるの?」
「中華街です。ついでにお昼でも食べますか」
「いいねー、中華街の中華楽しみぃ」
松野が突如何かを思いついたような顔をして手を上げた
「紅羽さん、ここでジョークを一ついいですか?」
「え?ジョーク?いいけど…」
「では、占いの店では流石に食べ物は売らないです」
松野がドヤ顔で言い放ったジョークはただのダジャレだった。一瞬の静寂の後笠原は吹き出した
「ぷっ!あはははは!占いだけにね!」
「あ、え?や、やった!」
大笑いしている笠原を見て松野は少し驚きながら喜んだ。松野が挙手してから言うジョークでここまで笑ったのは笠原が初めてだった
「清美ちゃんめっちゃ面白い!あはは!」
「こんなに笑ってもらえたのは初めてです。みなさん気難しい人ばかりなのであまり笑ってくれないんですよ」
「そうなの?うちめっちゃ好きだから、また思いついたら教えてね!」
「はい!」
気が合うのかすぐに仲が良くなった2人はその後他愛無い話をしながら電車に乗り、目的地である中華街にたどり着く。
人通りが多い道を少し外れたビルの前で立ち止まる松野が笠原に声をかける
「ここです」
「ここ?」
松野が指差した看板を見て笠原は微妙な表情を浮かべる。看板には
【占いの館超新星ベルボンヌマーサ】
と書かれており、かなり怪しかった
「言いたいことはわかりますけど百聞は一見にしかずです」
そう言って松野は店に入って行った、笠原もとりあえず松野を信じることにして後に続く。
店内は薄暗く紫を基調としており、装飾に統一感はないが雰囲気はあった
「すいませーん」
「ようこそ、占いの館超新星へ」
松野の声に反応して店の奥から薄いベールで顔を隠した中年の女性がゆっくりと現れ、椅子に座る
「わたくしがベルボンヌマーサよ。お掛けになって」
「失礼します」
「しまーす」
2人はテーブルを挟んだマーサの向かい側に腰を下ろす。
笠原は最初は名前や雰囲気で疑っていたが現れたマーサを見て疑うことをやめた
(ほんとに異能力?があるわ)
笠原は人にまとわりつく特有のオーラのようなものが見える、そのオーラは様々な色や形をしており、マーサは水色の薄いもやのようなオーラで、松野には赤い炎のようなオーラが見えている。そのオーラは持っている人物と持っていない人物がおり安倍に出会う前はオーラの意味はわからなかったが、今はオーラを持つ人物には異能力があると理解した為マーサが異能力者ということがわかった
「お久しぶりね松野さん、そちらのお嬢さんは初めましてね」
「初めましてー、笠原紅羽でーす」
「お久しぶりです、今日は私たちの運勢を占ってほしくて。目的があるんですがどうすればいいかが知りたいです」
「わかったわ」
松野は詳しい話はせずにふわっとした運勢だけと伝えるとマーサはすんなりと受け入れて水晶に手をかざし始める。
数分が経ちマーサは顔を上げる
「見えたわ、旅路は決して簡単ではないわ。でも何があっても進むのをやめなければ目的だけではなく、これから必要なものが手に入るわ。ネズミが答えに導いてくれる。見逃さないように」
「ありがとうございます」
松野はそれを聞くと立ち上がり、財布を取り出し会計を始めた。そのやりとりを見ながら笠原はどういうことなのかわからずに頭を捻っていた
「あ、領収書ください」
「ないわよ、そんなもの。占いが経費で落ちる会社を紹介して欲しいわ」
「ではレシートで」
「手書きでもいい?」
会計に少し手間取ったが、問題なく店から出る
「今度はもう少しゆっくりしていきなさい」
「はい、ではまたお願いします」
「お邪魔しましたー」
外に出て笠原は松野に疑問をぶつける
「ねえー、今のどういうこと?何にかわかったの?」
「特別なことはしなくていいってわかったんです。まず進むのをやめなければで頑張ればなんとかなるかなと、ネズミについては干支の方角ですかね。多分北に向かえばいいんじゃないかと、ただネズミがいたらついて行ってみるのもいいかもしれませんね」
「ほんとにー?」
異能力者の占い師ということで笠原はもっと具体的にどこに向かうべきや、何をするべきかがわかると思っていたため拍子抜けした。実際はなんとなく方角やヒントかもわからない情報しか得られなかった。そんな不満げな笠原に松野は言う
「マーサさんの占いは詳しいことは分かりませんが外れることはありません。あの人がなんとかなると言ってくれたならきっと大丈夫ですよ。無理かもしれないと思って進めるよりも大体でもなんとかなるとわかってから進む方がモチベーションも保てますし」
「んー、まあ清美ちゃんを信じるよ」
松野の話に一理あるかなと思った笠原は他に当てがあるわけでもないので占いを信じ、やれるだけやってみようと決心した。
「とりあえず、何か食べましょうか。何がいいですか?」
「流石に中華だよねー」
「いい店を知ってますよ。あ、ちょっと待ってくださいね」
話していると携帯が鳴り松野は電話に出る
「はい、松野です。お疲れ様です。はい……え、駅ですか?はい…分かりました。ありがとうございます。すぐに向かいます」
淡々と電話を終えた松野は笠原を見て伝える
「お昼は後回しです。今駅の方で人工神の教会を名乗る異能力者たちがテロ行為を働いているようです。安倍さん含めたハンターが事態の鎮圧に向かっていますので私たちも行きましょう」
「え!大チャンスじゃん!」
「不謹慎ですが、運がいいですね。ただ星6ハンターが安倍さん含めて2人も出動しているので急がないとすぐに鎮圧されてしまいます」
目的地の駅は車で15分ほどの場所にあり、2人は急いでタクシーを捕まえて駅へと向かった




