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苦労と心配

中間テストも終わり気づけば6月中旬。最近になってかなり暑くなってきて毎日がだるい・・・。


ちなみに中間テストの結果は・・・まぁ、平均点ぎりぎりだった。

次の期末テストは正直やばいかもしれない。


「ねぇ、空君。部活入らないの?」


そんな気の滅入るテストのことを考えていると一緒に登校中の姉さんが声をかけてきた。



「部活?今更入るのもなぁ・・・」


部活に入っている1年はたいていが4月に入部をしている。俺は色々と4月からありすぎて部活に入るタイミングを逃していた。

でも正直部活をするのがだるいということも入っていない理由にあるんだけど。



「え~今からでも全然間に合うよ。楽しいしそれに進路決めるときだって役に立つかもよ~」


確かに姉さんの言っていることは正しい。進路の時に所属していた部活を書けることは大きいだろう。

こうやって説得をしている姉さんは「料理部」というその名の通り料理を作る部活に入っている。


「あ!だったらお姉ちゃんと一緒の部活に入っちゃおうか!」

「い、いや・・・それは。まぁ部活のことは考えておくからさ」


さすがに俺があの女性ばかりの部活に入って料理を作ることは考えられなかった。

部活の話題をなんとか終わらせようと逃げるように俺は話題を変えた。








「はぁ・・・部活ねぇ」

「ん、お前部活入るのか?」

机にうつ伏せになりため息を着いているといつの間にか相馬がやってきていた。


「いや、さぁ姉さんが部活に入れみたいなこと言っててさどうしようかと思って」

「そういえばお前部活入ってなかったな」

「ああ。相馬はバスケ部だったよな」

「おう!まぁ行ってないんだけどな」


相馬は4月の入部時期にモテたいからというだけの理由でバスケ部に入部した。

だけどこいつが自分で言っている通りバスケ部事態人が足りないので試合もできなく廃部寸前らしい。


「とりあえず部活見学でもしてみたらどうだ?」

「うん、今日の放課後行ってみるつもりだよ」










ということで放課後。

俺は学校が終わると早速部活を回っていくことにした。


「運動部はパスだな。めんどくさいし・・・」


運動部入ると帰る時間も遅くなるしなにより身体を動かすのがだるい。

やっぱり入るとするなら文化部だろう。


「さてと、行きますか」






―演劇部―

演劇部に来てみたのだが確かに部員と思われる人は多くいる。

けれどその人たちは服が・・・いや、たぶん衣装なのだろうけどかなり奇抜なものだった。

鎧を着た人、ドレス、それにロリータファッションというものだろうか?そういうものを着ている人たちがたくさん居た。


「先輩!」

「美琴?なんでここに」

「私演劇部ですので。先輩こそどうしてここに居るんですか?」

「えーっとそれは・・・」


まさかここに美琴が居るとは思わなかった。というか美琴が演劇部に入っているなんて。

でも演技なのかはわからないけど美琴って上目づかいで見つめてきたりとか演技うまかったよな・・・。


それよりこの場をなんとかしないと。


「それはだなぁ・・・」

「それは?」

「えーっと、あ!美琴に会いに来たんだよ!」


部活見学に来たと言うと美琴に入れ入れと言われそうだったので「美琴に会いに来た」という理由にした。



「ま、まさか先輩がそんな事言ってくれるだなんて・・・嬉しいです!」


そう言うと美琴は俺の腕に抱きついてきた。

いくら、美琴の胸が小さ・・・いやいやそうじゃなくて、これはやばい。

腕にあの柔らかい感触が腕に触れていた


「美琴ちょっと・・・」

「えへへ~先輩ー♪」


美琴は何故か凄い嬉しそうなのだが、周りの視線が痛い。

これは色々とマジでやばい・・・。



「こら、相沢さん!部活中ですよ。早く戻ってきなさい」


上級生と思われる人が俺たちを見て注意をしてきた。部長なのかな?


「はーい。先輩名残惜しいですけどここでお別れです・・・」


なんだろうこれも演技なのだろうか?美琴は涙目でこちらを見ながら言ってきた。


「はは・・・そうだな。それじゃあな美琴」

「はい、さよならです」


美琴に別れを告げて俺は次なる部活へとむかっていった。





―料理部―

他の部活へと行く途中調理室で部活動中の料理部が見えた。

やはり女性ばかりだ。


「ここはスルーっと」


部活には姉さん、それに渚も居るのでこの部活はパスしようと思い調理室を過ぎようと思ったのだが、急に後ろから腕をつかまれた。


「ちょっと~空君!なんで声かけていってくれないの~」


腕をつかんでいたのは姉さんだった。


「部活動中を邪魔するわけにもいかないし・・・」

「そんなの全然大丈夫だよ~」


そんなのって。全く姉さんは・・・。


「それより空君。部活のことどうなったの?」

「今ひとつずつ見学中だよ」

「そうなんだ~。朝も言ったけどさ、空君料理部に入ろうよ!渚ちゃんも居るよ~」

「いや、料理部はちょっと・・・」

「え~なんでなの~!」


やばい、こうなると姉さんって結構しつこいんだよな。

このままじゃ無理やりにでも料理部に入れられるかもしれない。



「瑞穂先輩料理できましたよー。ってあれ?空?なにしてんの?」


姉さんに詰め寄られている時料理部の部室の方から渚が出てきた。


「ねぇ渚ちゃん!空君に料理部入ってほしいよね!」

「え、空がですか?う~ん、でも空が料理してるところ想像できないな。それより空料理できないでしょ?」


料理ができないとまさか渚に言われるとはなかった。


「ちょっと待て渚に料理できないとは言われたくないな。俺は渚よりは料理できるつもりなんだけど」

「なによーだったら料理勝負しようよ!」


料理勝負・・・。これはまためんどくさいことになってしまったな。というか余計なこと言わなかったらよかった。

なんとかここはめんどうなことをせずに切り抜けたいのだが。

ここは・・・。


「あ、ふたりとも!調理室から煙が!!」

「「えっ!?」」


俺は調理室の方に指を指してふたりが調理室の方を振り向いたと同時に全速力で走って逃げた。


この小学生みたいな方法が通用してよかった。

この方法は姉さんと渚だから引っかかるんだろうけど・・・。







姉さんたちから逃げ切り落ち着いたところで再び部活見学を再開した。


この後吹奏楽部、軽音楽部、コンピューター部、映画研究部、放送部、茶道部、新聞部、写真部など様々な部活へと回ってみたがこれといって興味のもてる部活はなかった。


「次が最後の部活か」


そして最後の部活「天文部」の部室前へとやって来ていた。

天文学のことはよくわからないんだけど、まぁ最後だしゆっくり見学させてもらうとするか。

そう思いながら天文部の部室の扉を開けた。


「失礼しまーす」


部室へと入るとそこには誰も居なかった。

天文部に必要な望遠鏡などの備品はあったのだが本当にここに人の気配がひとつもない。

というか挙句の果てに蜘蛛の巣まで張ってるし・・・。


ここは活動をしているのだろうか。



「誰ですか?」


色々と天文部のことを考えていると後ろの方から声がした。

振り返るとそこには茶色実味がかかったセミロングの髪で少々ほっそりとしたひとりの女の子が居た。


「えーっと、部活見学しにきたんですけど・・・」

「え!部活見学ですか!?」

女の子は凄く驚いている様子だ。もしかして彼女は天文部の部員なのだろうか?


「君ってもしかして天文部の人?」

「はい!そうですよ。天文部で部長してます!」

「部長ってことは2年生?それとも3年生ですか?」

「いえいえ。私高等部1年ですよ」

「1年!?え、でも今さっき部長って・・・」

「部員が私ひとりだから部長ってことになってるんですよ」


部員ひとりって・・・。よく部活として認められているな。


「それより自己紹介が遅れましたね。今さっき言った通り部長で高等部1年の永倉千穂ながくらちほって言います」

「あ、俺は高等部1年の朝倉空です」


軽く自己紹介をしたところで俺は本題の天文部の活動について聞いてみることにした。


「あのさ、天文部ってどんな活動するのかな?俺天文学の事とか全然知らなくて」

「活動ですか・・・。うーん、とりあえず星空望遠鏡で眺めたりとか?」

「とか?ってそんな曖昧な・・・」

「あはは。実は私も天文学の事なんて全然知らないんですよ」


それってダメじゃん。というかなんでこの人は天文学に入ってるんだよ。


「でもでも!朝倉さんが天文部に入ってくれるならもちろん活動するよ!」


さて、どうしようか。これは困ったな・・・。


「それに、天文部にはいつでも来ていいから。凄く勝手がきくよ!」


勝手がきくって、部活動している人間が言うセリフじゃないよな。

でも・・・


「わかったよ。俺天文部に入る」

「本当ですか!?」


めんどくさい事が嫌いな俺にとっては最も適している部活動なのかもしれない。


「それでは早速この入部届に名前と学年書いてください!」


彼女に入部届を渡されて俺は書き込んでいった。

書き込み終わり彼女に渡すと今さっき喜んでいたときよりも笑顔で入部届を受け取った。



「ありがとうございます!これからよろしくお願いしますね朝倉さん!」

「こちらこそよろしく。えーっと・・・なんて呼べばいいかな?」


永倉?いやさすがに同い年とはいえこんな早くから呼び捨てはないだろう。やっぱりここは無難に永倉さんでいいかな。


「私のことは是非部長と呼んでください!」

「部長?わ、わかったよ。それじゃあ改めてよろしく部長」

「はい!!」


まさかこんな呼び方で呼ばされるとは思わなかった。でもこの人が喜んでいるからいいか。




こうして俺は今日天文部の部員となった。










あの後天文部の事を少しだけ教えてもらったがやはり部長も天文学のことを全然知らないということもあり全然頭に入ってこなかった。


「入部してよかったんだろうか・・・」


勝手がきくという理由だけで入ってしまったのだが今になって少しだけこれからのことが心配になったきた。



「あ!空見つけた!!」


とぼとぼと下校をしていると俺の前にいつの間にか渚と姉さんが現れていた。


「どうしたんだよ渚?」

「どうしたじゃないよ!よくも騙してくれたねー!」

「そうだよ。ひどいよ空君!」


料理部であったことをすっかり忘れてた。

しょうがないこういう場合は・・・


「戦略的撤退だ!」


俺は再び全速力で走って逃げていった。


「ちょっと待ちなさいよ空!」

「空君待って~」



なんだか今日は疲れる・・・。













―翌日


結局昨日は家に帰った後姉さんと渚に捕まり説教を食らってしまった。

しかも姉さんと渚は今度の日曜日に買い物に付き合えと命じてきた。どうせ荷物持ちだろう・・・。


「あーだるい・・・」

「フフ、朝倉疲れてるわね」

「昨日姉さんと渚が色々と言ってきてな・・・」

「あれは空がいけないんじゃない!」

「うらやましいぜ朝倉!渚ちゃんに怒られるなんて」


昼休み俺たちは4人で食事をとっていた。相変わらず姉さんが作ってくれる弁当はおいしい。


「そういえば空。昨日部活見学したんだろ?どうなったんだ?」

「ああ、そのことなんだけど・・・」



「朝倉さーん!」


皆に天文部に入ったことを説明しようとしたとき俺のもとに部長がやってきた。


「部長どうしたの?」

「今日早速部活動始めよう思うの!だから朝倉君に伝えに来たんですよ」

「なるほど。ありがとう今日は暇だし行かせてもらうよ」


早速今日から部活動開始か。さてどんな活動になるのやら・・・。


「おい、朝倉。この美女は一体誰なんだ?」

「ああ。この人は天文部の部長、永倉千穂さんだよ」

「初めまして!私高等部1年永倉千穂です。よろしくお願いします!」

「神沢渚です。こちらこそよろしくね」

「フフ、水無月彩音よ」

「私は榎本相馬と申します!どうかよろしくお願い致します!!」


皆はひとりひとり自己紹介をしていった。というか相馬キャラ変わってる・・・。


「でも部長ってことは、もしかして空、天文部に入部したの?」

「うん、昨日部活見学してな」

「でも天文学のこととか知ってるの?」

「いや、まったく」

「じゃあなんで入ったのよー!?」

「それは、そのぉ・・・」


勝手がきいて楽そうだからと言ったら渚が怒るだろうなぁ。


「大丈夫ですよ。私も天文学のこととか全然知らないですから!」

昨日と同じく部長は笑顔で皆にそう答えた。


「ねぇ、それっていいの?」

「なぁ朝倉。この子は天然なのか?それとも不思議ちゃんか?」

「あはは・・・」

渚と相馬が部長に聞こえないよう小声で喋りかけてきたが俺は苦笑いするしかなかった。


「なかなか面白い子じゃない。私はこれからの天文部期待させてもらうわよ」

「ありがとうございます!よかったら水無月さんも天文部入りますか!?」

「私はもう部活に入ってるから断っておくわ。でも気持ちは受け取っておくわね」

「そうですか。それは仕方ないですね」


どうやら水無月と部長は仲良くなったようだ。どこか不思議なところがあるということで共感し合えたのかもしれないな。


「それでは朝倉さん。放課後よろしくお願いしますね」

「うん、こちらこそ」

部長は礼儀よく一礼して教室から出て行った。


「フフ、さすが朝倉ね。ここまでフラグを立てるとは。私が見込んだだけのことはあるわ」

「フラグってなんだよ」

毎回の事だが相変わらず水無月の言っていることはよくわからない。









そして放課後俺は部長が言った通り天文部の部室へと来ていた。


「それでは第1回目の天文部の活動を始めますね」


どうやら本当に活動を始めるらしい。それよりも昨日より教室が綺麗になっているのは気のせいだろうか?

もしかしたら部長がわざわざ掃除をしてくれたのかもしれない。


「部長。活動っていっても一体なにをするんですか?」

「そうですね~?やっぱり1回目は自己紹介なんですけど昨日のうちに私たちの自己紹介は終わってますし顧問の紹介をしたいと思います」

「え?顧問っているんですか?」

「はい、居ますよ!」


部長はイエスという返事をはっきりと答えた。昨日まで1人だった部活にも顧問が居たとは意外だな。


「それでは顧問の先生を呼んできますので朝倉君はここで待っていてくださいね」

そう言うと部長は先生を呼びに職員室へと向かっていった。

さて、顧問の先生とは一体誰なんだろう。できるだけ優しい先生だといいんだけど・・・。








「なんで朝倉が居るんだ?」

「そう言われましても・・・」

部室に来たのは1-Bの担任もとい俺たちの担任の常磐静香先生だった。


「部長、まさか天文部の顧問って・・・」

「はい!常盤先生ですよ」

これは参った。まさか顧問が常盤先生だったなんて。


「朝倉。アンタ天文部に入ったの?」

「そうですけど」

「はぁ・・・。まさかアンタが天文部に入るなんて、疲れそうだわぁ」

こっちも全く同じことを言いたい。入部する前に顧問のことを聞いておけばよかった。


「そういえば朝倉君のクラスの担任って常盤先生でしたよね」

「ああ、残念ながらその通りだよ」

「ほぅ。残念とは言ってくれるね朝倉」

「い、いやそれは言葉の綾みたいなもので・・・」

しまった。どうやら自然と口から本音が出てしまっていたようだ。


「朝倉せっかく私が担っている部活に入ってきたんだ。これからはみっちりとしごいてやるから楽しみにしておけよ」

この人本気だよ!しかも目が笑ってない!!



「そ、それより!常盤先生は天文学の事とか知ってるんですか!?」

「ん?天文学?全く知らんが」

この部活どうなっているんだ。顧問さえも天文学を知らないなんて・・・。


「大丈夫ですよ!天文学についてもこれから知っていけばいいですし」

「そうだな・・・」

なんか頼りないな。でもこういったのんびりした部活が俺には合っているだろう。


「永倉、この後職員会議があるからそろそろいいか?」

「はい。先生ありがとうございました!」

先生は職員会議のために職員室へと戻るようだ。助かった・・・。


「朝倉。私が居ないからといって悪さはしないように」

「しませんよ!それに入学式のときは・・・」

「それじゃあ帰るときはちゃんと鍵を閉めて帰れよ」

先生は俺の話など聞く気もなくそのまま部室から出て行った。



「朝倉さんと先生って仲いいんですね」

「どこがだよ!?明らかに悪い意味で目付けられてるよ・・・」

誤解ということが先生にわかればいいだけどたぶん無理だろうな。


「さてと、顧問の自己紹介だけではアレですし天文部の活動を始めましょうか」

「活動って?」

「その前に朝倉さん。そこの椅子に座っていてください」


俺は部長に言われた通りすぐそばにある椅子、教室にある全く一緒の椅子に座ると部長はそれを確認して部室ん端のロッカーの方に行きなにかごそごそしてから手に2つコップを持ってこちらに戻ってきた。

なにをする気なんだろう?



「どうぞ朝倉さん」

「これは?」

「コーヒーですよ」


そう言うと部長は真白く綺麗なコップを俺に差し出してきた。

俺はそれを受け取り中身を確認すると本当にコ-ヒーだった。


「えっと、これは活動になにか意味があるのかな?」

「意味ですか?そうですね~・・・。コーヒー飲みながら活動したらはかどるとか?」

とかって・・・。でも確かに部長の言うことは間違ってないのかも・・・。

それにこんなほのぼのとした活動の仕方嫌いじゃないしね


「それでですね。今回は役割を決めようと思いまして」

「役割?」

「はい。生徒会の方からこの用紙もらったんですけど」

俺は部長から用紙を受け取って見てみると用紙には、部長、副部長、書記、会計、連絡という記入欄があった。


「もしかしてこれって俺たち2人でこれを決めないといけないんだよね?」

「そういうことになりますね!あ、でも朝倉君が大変そうなら私が全部やりますけど」

それはさすがに悪い・・・。というか一人じゃ明らかに無理だろう。特に部長が副部長もやるとかはあり得ないことだ。

ということは必然的に副部長は俺がなることになる。


「いや、俺も手伝うよ。俺だって天文部の部員なんだしそれぐらいはね」

「朝倉さん・・・。あの、ありがとうございます!」

「そんなの全然いいよ。それより決めちゃおうか?」

「はい!」

この後俺たち二人は部長が作ってくれたコーヒーを飲みながらゆっくりと役割を決めていった。





「よし!これで決まりだな」

「そうですね!では発表します!部長と書記、会計が私で副部長と連絡が朝倉さんということで決まりですね」


部長の方が一つ役割が多くなってしまったが部長は自分から受け持つと言ってくれたので俺は悪いと思いならがらも部長に任せた。


「そうだ。連絡係だし部長のメールアドレス聞いてもいいかな?」

「え!メールアドレスですか!?」

部長はどうやら驚いた様子だったがやっぱり出会ってまだ数日なのにメアド聞いたのはまずかったかな?


「あの、嫌なら別に大丈夫だよ」

「そんな!嫌じゃないですよ!むしろ全然オッケーです!!」

すごい迫力で彼女は俺に近づいてきて携帯をずいずいと前へ差し出してきた。


「そ、そうか。それじゃあ赤外線で俺が最初に送信するから」

部長に赤外線でメールアドレスと電話番号をおくりその後部長からも赤外線でメールアドレスと電話番号をおくってもらった。


「えへへ~♪」

メールアドレスを送ったあと部長を見てみるとえらくご機嫌だった。

メールアドレスを交換できたのが嬉しかったのかな?いや、いくらなんでもそれは俺が自意識過剰すぎるな。


「えーっと、部長?」

「は!すいません取り乱してしまって」

「いや、大丈夫だけど」

「そのぅ・・・。あ!用紙記入しましたし生徒会室の方へ行きましょうか!用紙を提出しないと」

「え、生徒会室・・・」







―生徒会室

生徒会室に用紙を提出しに来たのはいいのだがここはやばいだろう・・・。

ここには茜先輩も居るしなにより菜穂先輩も居る。


「朝倉さーんどうしたんですか?入りますよ」

「あ、ちょ・・・ちょっと!」

部長は生徒会室の扉を開けて先に入って行ってしまった。

部長ひとりだけ行かせるわけにもいかないしここは気合をいれて入るしかない!


生徒会室へ入るとそこには生徒会メンバー数人そして茜先輩、菜穂先輩が座っていた。

もしかしたら何かの会議中だったのかもしれない。


「失礼します。天文部なんですけど役割分担の用紙提出しにきたんですけど」

部長は菜穂先輩に用紙を渡しに行こうと部長に渡そうとしていた。



「あれ、朝倉君何でいるの?」

部長が菜穂先輩に用紙を渡す瞬間、菜穂先輩のすぐ傍に座っていた茜先輩が後から生徒会室に入ってきた俺の存在に気付いた。


「いや、あの・・・」

「もしかして生徒会に悪さをしようと!?」

一緒に遊んでいた時の茜先輩とは違い学校での茜先輩を相手にするのはやばい。


「空君!?生徒会に入りに来てくれたのですか!?」

茜先輩よりもやはりこの人がもっとやばいな・・・。


「いや、だからですね・・・」

「会長!朝倉君は水無月さんとグルなんですよ!朝倉君を生徒会になんか入れたりしたらあっという間に生徒会は終わりですよ!」

なにもそこまで言わなくても・・・。


「いえいえ、そんなことありません!空君は私をしっかりとサポートしてくれるはずです!それに空君は水無月さんに利用されてるだけなんです!さぁ空君私たちと一緒に生徒会で働きましょう!!」

あながち菜穂先輩の言ってることは間違っていないんだが生徒会に入るのは勘弁だ。



「俺部活入ってるので忙しいから無理ですよ・・・」

「え!朝倉君が部活に!?」

なにがそんなに驚きなのか分からないが茜先輩は驚いた様子だった。


「でも、空君は一体なんの部活に入ったのですか?」

「天文部ですけど」

「天文部って、もしかしてこの子と一緒のにですか?」

そう言うと菜穂先輩は部長の方へと目線を移した。


「はい、朝倉さんは天文部に入部してくれましたよ」

部長はきっぱりと菜穂先輩に言ってくれた。


「そんな、一体どうやって・・・。あっ!もしかして空君はこの子に脅されて入部したんじゃ!?」

なにやら菜穂先輩はとてつもない勘違いをしているようだ・・・。


「自分から入部しましたよ」

「自分から!?でもなんで天文部に?」

「え~、なんとなく?」

「なんとなく?って・・・。じゃあなんで生徒会には入ってくれないんですか!?」

「いや、生徒会と天文部というより部活は全然違うし・・・」

というより生徒会がめんどくさいのと菜穂先輩と茜先輩が居るからという理由があるのだが絶対にこの理由は二人には言えない。


「そんなの理由になりませんよ!!空君!今から生徒会に入りなさい!」

「そんな無茶な・・・」

「ダメですよ!朝倉さんはもう天文部の一員なんですから!」


菜穂先輩から無理やりにも誘いを受け困っていると横から部長が助けてくれた。


「さぁ!朝倉さん!用紙も出したことですので帰りましょう!」

部長は俺の手をとるとドアの方へと振り返り急いで生徒会室から出て行った。


「待ってください空くーん!!」

「皆朝倉君を追ってください!」


生徒会室を出たすぐあとに教室から先輩ふたりの声が聞こえ更に後ろから何人かの足音が聞こえてきてどうやら俺たちを追ってきたようだがなんとか俺と部長は見つからないように部室へと帰ってきた。


「はぁ・・・疲れた・・・」

「朝倉さんってやっぱり有名なんですね」

「いや、有名っていうか・・・。そういうわけじゃないんだけどな」

「でも、有名な朝倉さんが入ってくれたってことはこの天文部も注目度が上がるということですよ!がんばりましょうね朝倉君!」

それはいいことなんだろうか?ちなみに俺は全くがんばれる気がしないのだが。



この後部活と全く関係ないことを話して今日の部活は終了した。帰るとき部長と途中まで一緒で駅の近くで俺たちはわかれた。

また近々部活をやるらしいがその時は天文学的なことはやるのだろうか?









それからしばらくして6月下旬。

天文学部のほうはあいかわらずなにも部活に関係したことはしてなくいつも部長が入れてくれたコーヒーを飲みながら雑談をしていた。

本当にこれでいいんだろうかと考えてしまうが、こんなだらだらした部活嫌いじゃないからやっぱりこれでいいだろうと思ってしまう。



「ねぇ、空」

休み時間の教室で俺は外を見ながら部活のことを考えているといつの間にか渚が俺の席まで来ており喋りかけてきた。


「どうしたんだよ?」

「勉強してる?」


勉強・・・。いつ聞いても嫌な単語だ。

中間試験の時にはこの勉強に凄く苦しめられたからな・・・。


「その顔。また勉強してないんでしょ!?」

渚が俺を見抜いたような感じで言ってきたが俺そんなにわかりやすい顔していたか?


「いやいや、待てってまだ誰もやってないとか言ってないだろ!?」

「絶対してないよ!この前の中間試験の時だって全然してなくてギリギリだったじゃない!」

渚、痛いところ突いてくるな・・・。でも確かにこの前の中間試験の時はギリギリだった。

でも、ギリギリといっても赤点ギリギリではなく平均点ギリギリのほうだ!


「今回は大丈夫だよ!勉強だってちゃんとするって!・・・たぶん」

「前回だってそう言ってやらなかったんだからやるわけないじゃん!」

こいつどれだけ俺の事見抜いているんだ・・・。いや、付き合い長い幼馴染だからこそわかっているんだろう


「だから、明日からテスト終わるまで空は学校終わった後はすぐに家で勉強ね」

「は?」

「それと休み中もしっかりと勉強すること!ちなみに空が勉強中の時は私が監督するからね。あと瑞穂先輩にも手伝ってもらって」

「ちょっと待て!なんでお前が勝手に決めてるんだよ!?」

「だって、それは空の事を思ってやってあげてるんだから。感謝してほしいぐらいだよ」

俺のことを思ってくれてやってくれるのは確かにありがたいことだけど、そんな勉強だけで俺の生活が縛られるなんてたまったもんじゃない!


「それと瑞穂先輩に空のテストの点のこと言ったら心配してたよ?」


うぅ・・・やっぱり渚痛いところついてくる・・・。まさか姉さんにまで心配させていたなんて。

というか人の中間試験の成績のこと言うなよ。


「ここは正直に勉強した方がいいと思うけどな~?」

「・・・・」


結局この後俺はなにも言えなかった。このまま俺の自由が奪われるんだろうか?











「ということなんだよ・・・」

「へぇ、朝倉さんも大変ですね」

放課後俺は天文部の部室で部長のコーヒーを飲みながら今日あったことを先輩に愚痴っていた。


「いくら俺が悪いとはいえども、さすがに自分の自由な時間が奪われるのは納得がいかないというか・・・」

しつこいようだが俺はまだ渚が提案したことに納得がいってなかった。姉さんをこれ以上心配させるのはダメだと思うがやっぱり俺は俺なりに勉強したいわけで渚に勉強を教えられるとなると逆に集中できないというか・・・。



「だったら私が朝倉さんに勉強を教えましょうか?」

「え、部長が?」

「はい!自慢じゃないですけど前回の中間テスト結構できたんですよ」


部長は俺と同じくらいの頭脳かと思ったんだけど自分で言ってるぐらいだし俺よりは勉強できるんだろう。

それよりも部長が俺に勉強を教えるか・・・。色々と心配なところはあるが渚と比べると優しく教えてくれそうだし、なによりゆっくりと勉強できそうだ。


「是非ともお願いします部長」

「はい、任せてください!」


こうして俺は部長に勉強を教えてもらうことになった。まだ準備ができてないということで明日から早速教えてもらう。まぁこうなると天文学のこともまた先延ばしだな・・・。










―次の日


「ということだから今日から部長に教えてもらうことになったから俺は部活行くよ」

「ちょ、ちょっと!ということだからってまだ私全然納得できてないよ!?」

放課後俺は昨日決まったことを渚に伝えていたがどうやら渚は納得いっていない様子だ。


「いや、だから今さっき言った通りなんだけど」

「だからなんでそうなるの!?先に教えるって言ったのは私でしょー!」

「えっと、そう言われてもなぁ・・・」

さすがに渚に部長に教えてもらう方が楽そうだと言ったら絶対怒られるだろう。



「フフ、面白いことになってるところ悪いけどそこまでにしなさい。周りも注目してるわよ」

水無月が言った通り周りを見てみると教室のほとんどの人がこっちを見ていた。まぁあれだけ大声でしゃべっていたら気になるよなぁ・・・。

渚もやっと自分がかなり大きな声を出していたことに気付いたのか少し俯いて恥ずかしそうにしていた。


「そ、それじゃあなふたりとも!」

俺はその隙に急いで鞄を背負い急いで教室を出て行った。



「ちょっと待ってよ、空ー!」

「フフ、モテる男は辛いわね朝倉」


後ろから声が聞こえた気がしたがそこは聞かなかったことにしてひたすら部室まで走って行った。

でも、明日から渚のことどうしようか・・・。




部室へと入ると先に部長が来ておりコーヒーを入れて机の上には教科書とノートが何冊か用意されていた。


「部長今日はよろしくお願いします」

「いえいえ、私だって試験のための勉強になりますし。こちらこそよろしくお願いします」


一通り部長と会話をすると早速俺と部長は勉強を開始した。

ちなみに部長には俺が最も苦手としている数学と英語を集中的に教えてもらうことにした。



数学はほとんどというか全くできないので教科書の最初からやることになった。

部長に詫びを入れたが部長は笑って数学を最初から教えてくれた。これが渚だったらぐだぐだと何か言われ続けることになっただろう。


それに部長は本当に頭がいいようだ。数学の公式完璧に覚えてるし応用問題についても完璧。英語に至っては単語の発音まで完璧だ。

まさかここまでできる人だとは思ってもみなかった。人は見かけによらないとはこういうことだろう。


今になって本当に渚でなく部長に教えてもらってよかったと思う。






「さてと、今日はこんなところですね」

時計を見ると何時の間にか日が沈む時間帯になっていた。

なんかここ最近で一番勉強がはかどったような気がする。いや、ここまではかどったのは初めてだ。


「部長今日は助かったよ」

「いえいえ、また明日からもがんばりましょうね!」

そう、テストまではまだ1週間弱時間があるこの調子でがんばっていったらなんとかなるだろう。

部長の言っている通り明日からも気合を入れてがんばろう。


だがその前に今日の事のお礼はもちろん含めてこれから部長にはお世話になることだし少し親睦を深めておきたい。


「部長この後少し時間あるかな?」

「この後ですか?時間は全然大丈夫ですけど、なにかあるんですか?」

「それじゃあさ・・・」






俺は時間がまだ余裕があるという部長を連れてファーストフード店へとやってきた。


「朝倉さんこれは・・・?」

「えっと、今回の勉強を教えてくれたお礼とこれからもよろしくということで少しだけど奢らせてよ」

「そんな、奢らせるだなんて!それに勉強の事は私が好きでやってるだけで・・・」

「まぁまぁ。ほら、俺たちが頼む番が来たよ。食べたいの選んで選んで。早く選ばないと後ろの人に迷惑かけるよ」

「えぇ!そんなぁ・・・」


俺は部長に強引に食べたいものを選ばせ先に席に着いててもらうことにした。俺も注文を頼んで少し待つと頼んだ食べ物がトレーにのせて渡された。


席に座っている部長を見つけると俺は部長のところまで行きテーブルにトレーを置き椅子に座った。


「朝倉さんって意外と強引なところがあるんですね」

「あはは・・・。まぁせっかく奢ったんだし食べてよ」

「わかりました。それじゃあいただきます」

部長はやっと納得してくれて俺が持ってきたハンバーガーを食べ始めた。



「おいしいです!」

ハンバーガーを一口食べて目を輝かせながら感想を述べた。


「そう?それはよかったよ」

自分の金の都合で一番安いハンバーガーセットを頼んだのだが部長がここまで喜んでくれてよかった。

部長はこの後もおいしそうにハンバーガーそれにポテトを食べて最後に勢いよくジュースを飲んであっという間にハンバーガーセットを平らげていた。


「ごちそうさまでした。それとありがとうございました朝倉さん」

「おいしく食べてもらえたならこっちも嬉しいよ」

「はい!とってもおいしかったですよ!それに友達と食事をして帰るなんて初めてです!」

「あ、初めてなんだ?」

普通の学生達なら友達と結構食べに行ったりするのだが、部長の家はもしかしたら規則が厳しいのかな?


「はい。私友達とか今まで居ませんでしたから」

「どういうこと?」

「私ってその、ほら少し変わってるじゃないですか?だからそのことでクラスメイトとかに言われてなかなか友達ができなくて・・・」


友達ができないか。今思うとメールアドレスを交換した時あそこまで喜んでいたのは初めて携帯に友達のアドレスを登録できたから喜んでいたんではないか・・・。


それにしても確かに部長が自分で言っている通り部長は変わっている。というよりどこかずれている気がする。


でも、たったそれだけだ。


「でもそれは自分の個性じゃないかな?」

「個性、ですか?」

「うん。誰にだって個性はあると思うよ。それに俺から見たら部長は普通の女の子だけどな」

「え!?」

「俺に毎日コーヒーを入れてくれて話し相手になってくれて、勉強も教えてくれて、今みたいに一緒に食事をとる。これって友達だからこそできることじゃないか」

「それは・・・」

「それに無理して普通になろうとか考えなくていいんだよ。部長は部長らしく居ていいんだ。というより俺は今の部長が一番好きだけどな」

「す、好き!?」


どういうわけか部長は急に顔を赤くしてうろたえ始めた。


「部長、どうしたんですか?」

「あ、あの朝倉さん、す、好きっていうのは、ど、どういうこと・・・」

「え?どういうことって言われてもそのまんま今のままの性格の部長が好きってことだけど?」

「え、あ・・・。そういうことですか」

なんだろう、俺余計なことでも言っただろうか?


「朝倉さん、ありがとうございます。なんだか朝倉さんと話していたらすっきりしました」

「いや、別に俺は大したことは・・・」

「あの、朝倉さん。これからも私の友達として居てくれますか?」

「なに言ってるんだよ。当たり前だろ?それに天文部の部員だしね」

「ありがとうございます。朝倉さん」

そう言うと部長は今さっきの悩んでいた顔から一変してとても可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「それじゃあ帰りましょうか部長」

「はい!」

俺と部長はトレーを片付けて外へと出て行った。外に出ると外は既に真っ暗になっていた。


「私こっちのほうですから。ここでお別れです」

部長は俺の帰り道の逆の方を指をさしていた。どうやら部長はここから家が近いらしい。


「わかった。んじゃあまた明日も勉強よろしくね部長」

「はい!こちらこそまた明日よろしくお願いします、空さん!」

部長は俺に笑顔で手を振った後帰って行った。

それにしても今さっき部長、何気に俺のこと「朝倉さん」じゃなくて「空さん」って呼んだような・・・。

でもそれはそれで嬉しいことだ。これで部長との距離は近づいたって事だからな。


俺は少し気分が良くなり鼻歌を口ずさみながら帰路へと就いた。





ただ、気分が良かったのもそう長くは続かなかった。



「空君、どうして連絡してくれなかったの?」


家へ帰ったころには時間は7時となっていた。リビングへ入ると姉さんがテーブルに座っており俺がリビングへ入ってきたのと同時に質問というより問い詰めてきた。

こうなると姉さんをなかなか止めることはできない・・・。

今回は姉さんに連絡をすっかり忘れていた俺のミスだ・・・。次回からは気をつけよう。



この日の夜、風呂へ入るのも忘れて姉さんの説教はいつも以上に長く続いたのだった。










次の日からも部長は俺に数学と英語を集中的に教えてくれていった。

もちろんその他の科目も少し空いた時間に教えてもらった。

たった一週間の間で部長のおかげで前よりはだいぶ勉強はできるようになった。

後はテストの時その力を生かすだけだ。




―テスト前日―


「空、勉強の方はどうなの?」

昼飯を食べているとき渚がまたしても勉強のことを聞いてきた。

だが、俺はこの前までの俺とは違う!


「完璧さ!なんて言っても部長が教えてくれているんだ。この調子なら余裕だよ」

いつもの俺とは違うというところを渚にわかってもらうためにいつもより強く言ってみた。


「ふーん」

だが、渚は興味なさそうに返事をしただけだった。


「それじゃあそこまで自身があるなら私と勝負しようよ」

「は?勝負?」

「5教科で勝負よ!それとこの勝負で勝ったものは負けたものになんでも1つだけ命令ができるっていうのはどう?」


まさか渚からこんな案を出してくるとは思わなかった。

さて、どうする・・・。渚は意外と学力はあるんだよな。それにこんな勝負提案してくるくらいだから渚の方も相当勝つ自信があるみたいだし・・・。

でも、今回の俺だって相当自身はある。正直な所今の俺になら渚に勝てるかもしれない。

いや、一度渚をぎゃふんと言わせてみたい!!


「いいよ。その勝負受けて立つさ!でも、ちゃんと約束は守れよな!」

「わかってるよ。そっちこそちゃんと約束守ってよね!」


こうして俺と渚との期末テスト勝負が繰り広げられることとなった。

俺としてはなんとか今回だけでも渚に勝ちたい。だからこの勝負は負けるわけにはいかない!







翌日。ついに期末テストが始まった。

テスト週間中は昼までには学校が終わるので意外と楽に思えるがこのテスト週間1週間は俺にとっては地獄だ。

その日のテストが終わると部室へ直行でまた部長に次の日のテストの勉強に付き合ってもらった。

部長の様子を見る限り部長は今回のテストも意外と大丈夫だそうだ。

俺は・・・まぁ、大丈夫だと信じたい。いや、大丈夫じゃないと困る!なんて言っても渚との勝負がかかっているんだから。



地獄と思っていたテストも意外とすんなり終わってくれた。まぁ今回それだけがんばったっていうことかな。前の中間テストの時とかテスト週間が凄く長く感じたからな・・・。

後はテストの結果が出るのを待つだけだ。






そして数日後、夏休みまで突入まで残り2日になってついに全教科のテストが一気に返されてきた。

一人一人名前が呼ばれ先生にテスト用紙を返されて行く中、俺は先生に名前を呼ばれたと同時に急いでテストをもらいに行った。

テストを受け取り自分の机に戻るとまず深呼吸をしてからゆっくりと一つずつ俺はテスト用紙の上に赤ペンで書いてある数字を1枚1枚丁寧に見ていった。


全てを一通り見た後俺は一旦テスト用紙を机に置いて、少し落ち着くことにした。



うん、普通によくできてる・・・。

いや、思ってた以上に今回の期末テストはできている!本当に俺が取った点数なのかと疑ってしまうぐらいに。

特に苦手としていた数学と英語。この2つの科目に限っては満点とまではいかないが90点代だ!

その他の教科も80点代が結構あり、今回のテストで最低点は70点台という結果だ。

まさか、今回の最低点が前回の俺の中間テストの最高点より上回るとは・・・。


これは本当に部長に感謝しないといけない。あれだけ優しく、それに丁寧にわかりやすく勉強を教えてくれた部長に



「空~テストの結果どうだった?」


俺がひとり余韻に浸っていると渚が俺の席までやってきた。

そう、今回のテストはただいい点数を取るだけじゃなく渚と勝負をしていたのだった。

あまりにも自分の点数が良すぎて忘れてしまうところだった。


「渚。悪いけど今回のテストは勝たせてもらうよ?」

「むっ・・・。なんか凄い自信だね。じゃあ早速5教科の点数の合計に出して発表だよ!」

渚はそう言うと手に持っているテストの点数を見ながら5教科の点数を計算し始めた。

俺も5教科。つまり数学、国語総合、現代社会、理科、英語の合計を出すために計算を始めた。



「よしっ!計算できたよ。空はどう?」

どうやら渚はわざわざ紙に合計点を書いたようだ。俺も渚の真似をしてノートの紙を一枚破りマジックで大きく書いた。

「あぁ、できたよ。後悔するなよ渚、俺に勝負を挑んだことを!」


そう言うと俺と渚は同時に机の上に合計点を書いた紙を置いた。


俺の5教科合計点数は432点。


そして渚の合計点数は・・・。



「そ、そんな馬鹿な・・・」


468点・・・。俺との点差36点。

まさか、渚がここまで点数を取っているとは。

というより渚がここまで頭がよかったなんて。


「ふっふーん。どう空?あれだけ自信があったのに負けた気分は?」


負けた気分か・・・。最悪だ。

あそこまで自身があったのに、部長にあれだけ手伝ってもらったのに負けるなんて・・・。

渚の言葉が俺に痛いほど突き刺さった。


「でもさ、空がここまで頑張ってるなんて思ってなかったよ。私びっくりしちゃったよ」

「同情か?」

「違うよ!私は空もやればできるじゃないって言ってるの!だって、そうでしょ?空今までこんなにいい点数とったことある?」


確かに今まで5教科平均85点なんて俺がとったことがあるだろうか・・・。

今までは300点もいくのも厳しかったのにそれが今回は軽く超えているんだ。


「ないな・・」

「そうでしょ?だから空は今回よくがんばったよ。もちろん永倉さんが手伝ってくれたおかげでもあるけどでもその永倉さんが教えてくれたことをちゃんと生かせたんだから大したもんだよ」


なんだろう。テストの事より今は渚がここまでほめてくれることに驚いているんだけども・・・。

でも、渚がこうやって素直にほめてくれていることが素直に嬉しかった。


「ありがとな、渚」

「えっ・・・ちょっと、私は別にそんなつもりで言ったわけじゃ・・・」


渚は顔を真っ赤にしながらうろたえ始めた。もしかして恥ずかしがっているんだろうか?


「あ!でも、ちゃんと約束は守ってもらうからね!命令ができる権利のこと!」


うッ・・・そのことをすっかり忘れていた。今回はただ競いあっただけじゃなく賭けをしていたんだ。

珍しく渚にほめられたと思ったらこれか・・・。


「わかってるよ。それで命令したいことはあるのか?」

「えっと・・・」

「今はないならまた後日でもいいけど」

「あ、あるよ!あります!」

「決まってたのか。それじゃあなんだよ?」

「私と、その・・・海に・・・」

「ん?なんて言った?」


いつもより渚の声が小さかったのでちゃんと言ったことが聞き取れなかった。


「だから!夏休み一緒に海に行こうって言ってるの!!」

俯いていた顔をはっきり上げて今度ははっきりと渚は言った。


「そんなことでいいのか?」

「うん・・・」

まさかこれだけの事とは思わなかった。渚の事だからてっきり俺のことを一日パシリに使うかと思ってた。

でも、逆に渚は何か企んでいるんじゃないんだろうか?海に一緒に行くだけで終わらすはずがないような気もする。


「あのさ、お前何か企んでる?」

「企んでるって何が?」

「いやさ、海行ってスイカの代わりに俺の頭を割るとか海で俺を溺れさすとか・・・」

「誰がそんなこと考えてるのよーー!!」


渚は怒ったように俺の腹に一発ジャブをいれてきた。意外と痛い。

だけど、まぁ渚はどうやらそういう企みはないようだ。


「わかった、一緒に行こう」

「本当に!?」

「あぁ。とりあえず日にちが決まったら連絡してよ」

「うん!約束だからね!?」

渚はえらくはしゃいでいるがそんなに海に行きたかったのかな?

どのみち俺も泳ぎに行きたかったし丁度いいかもしれない。





終学活も終わり俺は今日のテストの報告、それに部長へのお礼を言うために部室へとむかった。


部室へ入るとすでに部長は来ておりいつも通り机には部長が入れてくれたコーヒーが置かれていた。


「部長!テストの方大丈夫だったよ!」

「本当ですか!?」

部長にそう告げると俺は早速テスト用紙を部長に見せた。


「凄いじゃないですか!まさか空さんがここまでできるなんて思わなかったです」

「あはは。でもテストでいい点がとれたのは部長のおかげだよ。本当にありがとう」

「私はちょっと勉強を教えただけですよ・・・」

「いやいや、本当に部長のおかげだって。あ、そうだ!たまにでいいんだけどさまた勉強とか教えてくれないかな?」

「え?空君は私でいいんですか?」

「部長だから頼んでるんだよ!でも部長が嫌なら断ってくれてもいいだけど。俺のわがままなんだし」

「そんな、滅相もないですよ!是非私に任せてください空さん!」

「本当に!?ありがとう部長。それとこれからもよろしくね」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」




今回のテストいい点で終われて本当によかった。まぁ何もかにも部長のおかげなんだけど・・・。

でも、とりあえずこれで補習や追試のことを考えなくて夏休みを迎えられるから安心した。



1学期も今日と明日で終わりだ。後は夏休みを待つだけ。

高校生初めての夏休みは楽しくなったらいいんだけど・・・。

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